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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/08/11

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(6)米澤一平氏(タップダンサー)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

米澤一平氏(よねざわ いっぺい/タップダンサー)


15歳の時から、熊谷和徳というタップダンサーのもとでタップを始め、そのまま自然とカンパニーの一員となって、プロのタップダンサーとして活動するようになりました。カンパニー以外の自分の活動を始めたのは2012年からです。


©bozzo

「集客を考えないでやらせてもらえませんか」とオーナーに

2014年から2016年の3年間は、年に4回ほど主催企画を行いました。1年ごとにコンセプトを決めて、今はもうなくなってしまったキッド・アイラック・ホールのような劇場から、アサヒ・アートスクエア、アート系のギャラリー、オルタナティブスペース、本物の美容室まで、かなり色々な会場を使って公演をしていました。でも正直に言うと、だんだんそれに疲れてきてしまって。知り合いもあまりいなかったので、ダンサーやミュージシャンのキャスティングから制作業務から広報から、全てひとりでやっていたのですが、これでは続けられないなと。でもやめたいわけではなかったので、何かしら続けられる方法を探していました。その時に、会場のひとつとして使っていた「喫茶茶会記」という四谷三丁目にあったカフェバー併設のオルタナティブスペースでソロをやらせてもらおうと思いつきました。
それまで色々な作品や公演をやるなかで、何かを形作って、集客して、見てもらって終わっていくという舞台の形式に疲れてきていて、もう少し気負わずにやったことを受け入れてくれる場があったらいいなと思っていました。そこで喫茶茶会記のオーナーに「本当に申し訳ないのですが、集客を考えないでやらせてもらえませんか」と提案したら、オーケーをいただけて、2017年に月1回の公演をやれることが決まりました。その瞬間、ひとつ心が楽になると同時に、周りにもそういう場を求めて困っている人がいるのではないかと思い始めて。これまでに出会ったパフォーマーに声をかけて一対一で何かやっていこうというアイデアが浮かびました。
2017年は、今までに知り合った中でこの人と一緒にやってみたいと思った方にお声がけさせていただいて、月1回でセッションをやっていきました。それで終わりのはずだったのですが、1年間やったことで少し認知していただいて、そこに出たいと言ってくださるダンサーの方も増えてきたので、場を残すことに決めて、2020年12月の喫茶茶会記の閉店まで続けました。2019年からは月1回以上の頻度でしたね。お相手の方はアーティストだったりダンサーだったりミュージシャンだったりと様々で、僕はタップダンスを使いつつ、音楽や照明といったダンス以外の要素も取り入れながら、一対一の60分のセッションを行うのがベースでした。

何が起こるかわからない空間を一緒に楽しんでつくっていく

2017年の企画趣旨の冒頭で、僕は「観客に向けた表現でない」と書きました。演者がパフォーマンスするのを観客に見てもらうという対立の関係ではなく、この何が起こるかわからない空間を一緒に楽しんでつくっていくという対等な関係にしたかったのです。
同じように宣伝するにしても、これだけの数を絶対に集客しないといけないというプレッシャーがなくなったことで、自分にとってもセッションの相手側にとっても、一緒にやれるこの本番がモチベーションになって、自然と宣伝したいという方向に気持ちが向かいました。
また年間単位で企画を組むことで、単発の公演としてではなく、キャスティング含め1年間シリーズを通して見てもらいたいという意図が伝わって、それだけでも集客効果に繋がりました。毎回違うお客さんが来るのは結構面白くて、「この人のことは知らないけど見てみようかな」とリピーターになってくださった方もいて。他にも、カフェバーの常連さんや、展示目当てのお客さん、たまたま初めて喫茶茶会記を訪れた人などが、僕らのイベントにふらりと来てくれることもありました。お客さんにとっても、今まで見たことのないジャンルのパフォーマンスとの出会いに繋がったかなと思います。演者側も、色々な客層と言いますか、面白いと思うポイントが違うお客さんが多ければ多いほど、色々な幅でパフォーマンスができるようになりました。そして終わった後にカフェバーで、残った人と話せるのも良かったですね。色々な感想をもらうなかで、お客さんとの関係についての気づきもありました。


撮影:宮川舞子

歴史を伝えることで今やっていることを深めていくことができる

タップダンサーとして、「生で今起こす」という場を多く経験してきました。全即興ということはあまりないのですが、音楽のジャズのようにテーマの後に即興的に見せていくというのが、僕の所属していたカンパニーのスタイルで。僕の中にある即興ベースのパフォーマンスの感覚は、そこで養われたように感じます。
ただ、日本国内ではタップの活動の場が非常に少ないうえに、自己表現としてのタップをやる場はあまりありません。全体的にも、ミュージカルで求められるようなクラシックなタップをやっている人が大半で、それ以外のものはあまり理解されない感じがあります。
タップの本場はニューヨークで、世界中から人が集まっています。自由な表現もありますが、それでもやっぱりまだ狭くて。コミュニティのあり方としては先人に直接教わったことや一緒にタップを踏んだ経験を口伝で受け継いでいくような面があります。そのなかで近年、現代的なクリエーションでタップ文化に新風を吹き込んでいるのが、ミシェル・ドランスというアメリカのタップダンサーです。僕は、17歳のときに奨学金をもらってシカゴのタップフェスティバルに行かせていただいた際に初めて彼女のソロを見たのですが、今まで見たタップダンサーとは全然違う表現で、面白かった。ドランスはその後、ソロで表現する僕の師匠の熊谷とは対照的に、色々な国籍の人がいるカンパニーを率いてコンテンポラリーなアプローチに挑んでいます。

僕のロールモデルは、タップダンサーではなく、19歳のときに見た康本雅子さんです。それが初めて見たコンテンポラリーダンスだったのですが、これが表現なんだなと、こういうタップダンスをやりたいなと感覚的に思いました。それで、タップダンサーとしてどうやったらこの人たちと一緒に表現活動ができるようになるかが、自分の目標になりました。
タップの歴史はまだ浅くて、ひとつのダンスの形になってからは100年くらいです。でもその歴史はやる人の中で割と共有されていますね。歴史を伝えることで今やっていることを深めていくことができるので、僕もレッスンのときに生徒さんに話すことがあります。自分の表現をするときも、「あっ、そういうことあるよね」とか「すごいわかる」とか、やろうとしていることと歴史を照らし合わせて確認することができます。
その点コンテンポラリーダンスは、すごく広いのかもしれないですね。コンテンポラリーダンスに関しては、僕はもともとお客さんで、常に観客の目線です。色々なものを見に行って、演者としてやるときに参考にしています。

音楽や身体の基礎に立ち返りながら、自分のタップを再構築したい

創作の際に具体的に困っていることとしては、練習や創作の場です。特にタップダンスは音を鳴らすので、どこも住宅街の東京ではなかなか難しくて。都内では以前よりも音を鳴らせる場所が減ってきた印象があります。少しでも問題になりそうなことがあると最初から断られてしまって、周りの理解を得られればクリアできることであっても、その関係性を築く前にアウトになってしまうんです。
タップの舞台の場合は、音響の問題があります。コンテンポラリーダンスのコンペティションにも興味があるのですが、タップって音なので、音響づくりをする時間がないと難しくて、そもそもコンペに出せないです。この問題は、自分の舞台であればクリアできます。
これからの数年間で、ソロの作品をつくってみたいと思っています。これまではタップを解体するようなパフォーマンスをやってきたのですが、ここで一度、音楽や身体の基礎に立ち返りながらこれまで広げてきたものを固めていく作業をして、自分のタップを再構築することに取り組みたいです。それを作品という形でアウトプットできれば、この先もう一段違う展開ができるんじゃないかという予感があります。
師匠であれ、他のジャンルのアーティストであれ、先人の方々からもらったものがあって今の自分の活動スタイルができているので、自分も下の世代から見て面白いなと思ってもらえるような存在を目指すことで、恩返しをしていきたいと思います。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の活動予定

撮影:平松麻

米澤一平(よねざわ いっぺい)
タップダンサー
1989年東京出身。熊谷和徳に師事。タップダンスの持つプリミティブでミニマムな打楽器的音楽の性質や、高い親和性から異業種とのコミュニケーションの可能性を感じ、タップダンスによる現代アートとして他分野とのセッションを中心に活動。音楽、ダンス、美術、演劇、映像、メディアアート、空間、照明等、これまでに300以上のコラボレーションによる共同制作の発表や即興セッションを行い、国内外で活躍する。

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