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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/09/22

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(9)小林勇輝氏(現代美術家・パフォーマンスアーティスト)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

小林勇輝氏(こばやし ゆうき/現代美術家・パフォーマンスアーティスト)


2019年から、パフォーマンス・アート・プラットフォーム〈Stilllive〉を主宰しています。身体という共通のコンセプト、共通言語があることを軸に、コンテンポラリーダンス、現代美術、演劇、映像など、様々なバックグラウンドのアーティストが集っています。


「Chromosome」 
Photography: Yulia Skogoreva

実験的なパフォーマンスをアカデミックな感覚で発展させていく場所が日本にはないなら、つくるしかない

立ち上げの発端は、2018年に「Dance New Air」というフェスティバルに参加したときに、ゲーテ・インスティトゥート東京所長のペーター・アンダースさんにお会いして「もし良かったら何かやりませんか」と言っていただいたことでした。何をしようかと色々考えたときに、実験的なパフォーマンスをアカデミックな感覚で発展させていく場所が日本にはないなと気づいて。ないならつくるしかないと思って、プラットフォームをやりたいとペーターさんにお話ししてみたところ、ご快諾いただいて。
当時は日本に知り合いが全然いなかったので、本当に周りの方の伝手を辿っていった感じです。はじめにゲーテの方に遠藤麻衣さんを紹介していただき、麻衣さんからどんどん色々な方を紹介していただきました。自分の志に賛同してくれた人たちがいたことはすごく嬉しかったですね。これは絶対にやれるなと確信できました。
1回目となる2019年は、僕が1週間ずっとゲーテでワークショップする形でした。そして2回目の2020年は、参加するアーティストが各々ワークショップをオーガナイズしてそれぞれのやり方を共有したうえで、最後に観客を入れたショーイングの場を設けるという流れにしました。
同じような目的を持つ人と研鑽を積んだり共有したりすることで、各々がやりたいことを向上させていくことを目的にしています。たとえば新しいワークショップを試すなど、実験台みたいに使ってもらえれば良いと思って。一般的に、学校を出て自主的に活動を始めてから、正式に展覧会やフェスティバルに呼んでいただくまでの間が大変です。だからこの場を学校とフェスティバルの「中間地点」として、パフォーマンスをアーティスト同士で試していけるフレキシブルな場にできたら良いなという想いがあります。
Stillliveには、まだ自分が何をやりたいかわからず右往左往している学生も参加しています。
この形式には、僕の大学院時代の経験が反映されています。先生やスタッフ、見に来る方の誰もが、学生をひとりのアーティストとして扱い、尊重して、一緒に試行錯誤してくれて。自分も学生に対してそうありたいと思いました。継続的に一緒にやることで、自分の方向性を見つける参考にしてもらいつつ、何かつくって誰かの前で発表するという意識を高めていってもらえたら嬉しいです。


「Stilllive 2020 Contact Contradiction」 
Photography: Yulia Skogoreva

パフォーマンスはやって終わりではなく、やった後にどのように昇華し次につなげていくかが大事

勉強をしていく中で、パフォーマンスはやって終わりではなく、やった後にどのように昇華し次につなげていくかが大事だということをすごく学びました。だから話す場所をどんどん増やして、プラットフォームとして発展させていきたくて。パフォーマンスを批評的にアカデミックに考察する時間は、特につくりたいと思っています。1回目のときは、キュレーターや大学教授、ライターの方にも来ていただいて、パフォーマンス後に皆で話すというフィードバックの時間を設けました。
日本で活動するようになり、海外との「パフォーマンス」の位置づけの違いに直面しました。海外では、美術館やギャラリー、公共機関などでのパフォーマンスの展示が当たり前のようにあって、それをキュレーションする立場の人もいます。でも日本ではアンダーグラウンドになりがちというか、何かよくわからない前衛的なものみたいな扱いになりがちで、裸になるだけで問題にされてしまうこともあって、考えさせられます。美術館でも展示され、アーカイヴもちゃんとされているという事実が世界には既にあるのに、そこに追いついていない。かつて日本にも具体のようなパフォーマンスがあったにもかかわらず、それが受け継がれていないのです。

アーティストも一緒になって場所をつくっていくことが必要なのかもしれない

それぞれがバラバラにやるよりも、ひとつのムーブメント、集合体のような感覚で、それぞれがバラバラにやるよりも、ひとつのムーブメント、集合体のような感覚で、これまで曖昧なままに捉えられてきた日本のパフォーマンス・アートを見つめ直し、新たなアクションが生み出される原動力となるような働きかけが必要なのかなと思っています。そしてその時に、公共の場所でやるということがすごく大事です。公共の場で、ヌード性含めどこまで自分の体を扱っていけるのか。このあたりの場所性や許容範囲は、ヨーロッパとかなり異なるので、作品を通してどんどんその部分を扱っていけたら良いなと思っています。
ヨーロッパとの比較でいえば、日本の場合ショーイングというと、完成しているものや答えがあるものを見にくる人が多いと思うのですが、まだ全くの途中段階のものを見せていく機会、オープンスタジオのような感覚でそれを共有する機会がもう少し増えて根付いていくと、教育の観点からも良いのではないでしょうか。また、アーティストが妥協せずにやれる場所というのが増えていくこともすごく大事かなと考えています。アーティストとの信頼関係ができていて、「何でもどうぞ」と言ってくれる場所が結構少ないのかなとは思います。アーティストも一緒になって場所をつくっていくということが必要なのかもしれません。

自分の体は唯一無二で、この体でしか体現できないものがあるからこそ、作品化する意味がある

ダンスのフェスティバルに呼んでいただけることは、ビジュアルアートとしてのパフォーマンスが、ひとつの「身体表現」としてジャンルを超えて受け入れていただけたという点で、とても嬉しいです。
Stillliveでも、様々なジャンルの表現者が集まり、それぞれが周りの人たちや観客を連れてくることで、その間に何か関わりが生まれると良いのかなと考えています。そして、ダンスやビジュアルアートといったジャンルの垣根を超えて、パフォーマンス全体が向上していくような効果が生まれていけば良いなと感じています。
自分の体は唯一無二で、この体でしか体現できないものがあるからこそ、作品化する意味があると思ってずっとやってきました。なぜパフォーマンスをやるかというと、僕の個人の意見かもしれませんが、社会に対する違和感や普段抑圧されているものを自分の生きている体を使って表現するためです。ですから自分にとっては、パフォーマンスすることはそのまま、コンセプトとして社会性が内包されているということでもありました。
日本には、自分のバックグラウンドやトラウマといったプライベートなことを前面に出す作品が多くある印象があります。ただ自分は、あまりにプライベートすぎてしまうと作品の社会性が消えていってしまうのではないかと思っていて。プライベートな要素があっても社会性を含んでいるという認識を持って発信していくことが重要だと思います。


「Stranger in the fruit」

スクリーンのこちら側とあちら側の距離感をどれだけ近づけたり離したりできるか

新型コロナウイルスが蔓延し、人前で何かを発することや人と人との距離が近くなることに制約ができました。パフォーマンスにとって厳しい状況となったことを痛感すると同時に、そのなかでの存在意義をものすごく考えさせられた2020年でした。
2021年1月に「Embodied Interface」というオンラインイベントに招聘いただいて、初めてオンラインでの発表を行いました。人と離れなければならないこの状況をコンセプトとしてどう掘り下げ、パフォーマンスを根底から考え直せるかを模索していたのですが、ようやく自分のやり方を見つけられたような気がします。パフォーマンス・アートは、自分の身体とそのコンセプトを通して様々な境界線を崩していくものですが、今の時代であれば、スクリーンのこちら側とあちら側の距離感をどれだけ近づけたり離したりできるかにどんどん挑戦していけば良いのではないか。そう思えるようになったことは、大きな気づきかもしれません。

Stillliveの方はこれからも年に1回続けていこうと思いますが、その一方でもう少しフレキシブルな場でありたい気持ちもあります。たとえばトークやディスカッション、批評といったことが、単発的に違う場所で起きていっても良いかなと考えているところです。また、今後渡航ができるようになったら、海外のアーティストやフェスティバルと交流する機会もつくっていけたら理想ですね。そして自分自身も、プロジェクトや作品に応じて、また日本や海外を自由に行ったりきたりできるようになりたいというのが一番の願いです。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の活動予定

小林勇輝(こばやし ゆうき/現代美術家・パフォーマンスアーティスト)
1990年東京生まれ。高校卒業と同時にハワイに留学しテニスとアートを学んだ後、2010年に渡英。2014年ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ学士課程卒業後、日本人として初めてロイヤル・カレッジ・オブ・アートのパフォーマンス科に入学、2016年修士課程修了。自身の身体を中性的な立体物として用い、性や障害、人種的な固定観念に問いかけ、自由と平等の不確かな社会コードを疑い人間の存在意義を探るパフォーマンス作品を中心に、国内外の美術展、舞台、フェスティバルにて多数発表。2019年よりパフォーマンス・アートを主体としたプラットフォーム〈Stilllive(スティルライブ)〉を設立、主宰する。
https://www.yukikoba.com/

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