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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京芸術文化創造発信助成[長期助成プログラム]活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成プログラム】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/04/05

第11回「多様性の演劇を実現するために」(後編)

第二部:深堀インタビュー
共につくり、共に進化するために

第二部は、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサー、梅室良子の司会による、大橋ひろえと『真夏の夜の夢』に出演した俳優たちへのインタビュー。視聴者からの質問も交えたやりとりは、事業の成果や課題にとどまらず、多文化共生の時代における教育にまで至る広がりを見せました。

第11回「多様性の演劇を実現するために」(前編)はこちら


−第一部での大橋さんのお話では、今回の長期助成は、人材の育成において、非常に効果があったとのことでした。今回は2年間の支援をさせていただきましたが、あらためて振り返って、長期の事業だからこその効果や作品への影響を感じられたことがありましたら教えていただけますでしょうか。

大橋 長期助成がなかったらここまでの人材の育成は難しかっただろうなと思っています。ただ、今考えると、もっと人材の質に力を入れたかったなという思いはあります。ワークショップの内容も深めたいですし、そのための時間ももっと取りたかったです。また、アクセス・コーディネーターの配置については、メンバーの入れ替わりもあり、バタバタしたところがありました。あらかじめ固定のメンバーを決めて進められるとよかったです。それには、やはり話し合いの時間を持たなければなりません。演劇のプロの方々のこともよく知っているからこそ、私自身がアクセス・コーディネーター・チームと関わる時間をもっと増やして、ゆっくり、十分にやりたかったと思います。

−この事業は、2016年から17年の2年間行われました。2017年にはこれまでの「文化芸術振興基本法」が改正され、「文化芸術基本法」となり、その後、多様な人たちが芸術に関われるような取組みが増えてきました。ただ、その一方でさきほど檀さんからもご指摘があったように、音声ガイドの育成ですとか、まだまだ足りていない部分はあると思います。
視聴者の方からのご質問もあります。「この事業で活躍されたアクセス・コーディネーターや演劇専門の手話通訳の方々は、今でも活動を続けていますか」とのことです。こちらについてはいかがですか。

大橋 この2年間の助成をいただいて、アクセス・コーディネーター、そして手話専門の通訳チームもつくることができました。中には今も活躍している方もいます。手話通訳の方もいますし、パラリンピックに関わっている方もいます。またこうした活動をする人たちは増えています。ただ、「パラリンピックが終わった後どうなるのかな」と思うんです。そこが問題で、本当だったら障害を持った演者がもっと増えてもいいと思います。その上で、アクセス・コーディネーターや手話の専門チームも増やしていきたい。それが理想ですね。
人材育成については、個人のレベルでは限界があります。ですから演劇界の人たちのお力をもっと借りるべきかもしれません。劇場や演劇学校で俳優を目指す人たちのプログラムに、音声ガイドや手話通訳の勉強も付け加えてもらえるといいなと思います。

−こちらもいただいたご質問です。「さきほど河合さんは、リーダーがろう者だからついていけた、とおっしゃっていました。企画力を持った当事者のリーダーの育成も急務だと思います。大橋さんは、今回、当事者がリーダーであることの意味、その大切さや困難について、どんなふうに感じていらっしゃいましたか」

大橋 当事者が演劇創作にかかわるのは特別なことではないと思います。聴こえる演出家の中にも、聴こえない人と関わるのは難しいと感じる方もいるでしょう。それは、逆もそうなんですね。聴こえる人と関わるのは難しいと感じるろう者もいる。ですから、当事者が関わることで、お互いに分かり合える、理解し合う者同士ということでのよい面が生まれると思います。ただ、障害を持っている方の中にもいろいろな人がいます。今年(2021年)の6月に『テンペスト』を上演した時の経験をお話ししますね。シェイクスピアの有名な作品を、イギリス、バングラディシュ、日本の3カ国の人たちで一緒に上演しました。お互い障害を持つ者同士でしたから、「分かり合えるだろう」と思っていたのですが、意外にもそうでもなく、難しいことも起きました。どういうメンバーであっても、丁寧にコミュニケーションをとって、物事をきちんと進めていかないと、いい作品はできないのだなと思いました。つまり、当事者がリーダーだからできることもありますが、かえって難しいこともあるということです。

−ありがとうございます。もうひとつ、いただいた質問に回答いただければと思います。「演劇ワークショップや演劇を学ぶ学校に、当事者、特にろう者や視覚障害者は入りづらい現状があると思います。どうしたらいいでしょうか」。ウォルフィーさん、河合さん、いかがでしょうか。

ウォルフィー どうしたらいいんでしょう。演劇に限らず、障害を持った人たちは、教育の機会を自分たち当事者の努力で獲得してきた歴史があるんです。たとえば視覚障害の人が大学の一般入試を受けるのがとても大変だった時代があります。なんで変わってきたかというと、それは当事者の熱意と支援者の努力があってのことなんです。ですからまずは、役者になりたい、それも、一般の人たちと勝負したいという熱意を持って演劇を志す障害当事者が増えてこないと、現状は変わらないと思います。

河合 以前と違ってきたところもあります。たとえば、以前は聴こえない人たちは、聴こえる人たちの演劇を観に行くこともできなかったわけです。でも、今は、出かけていって勉強になることがたくさんあります。また、コミュニケーションのための情報保障も進んできました。引き受けてくれる場がない、少ないという問題についても、例えば同じろうの人でも、中には、もしかしたら、少し話ができる人もいるかもしれません。「聴こえない人だから、コミュニケーションが難しい」というのではなく、まず、やってみる。それで、「ここが難しいのか。じゃあ手話を入れよう」とか、そういうふうに環境を整える場も増えてきつつあると思います。まず、やってみる、会ってみる、対応してみる。そこからスタートするのが大事です。もちろん現状はまだまだかなと思うところはあります。初めはよくても、途中で問題が起きることもあります。参加する人、受け入れる人、それぞれが、乗り越えていかなければいけない。障害者だから頑張って、というのは、私は嫌なんです。「これは聴こえないね、じゃあどうしようか」と考えていくことが当たり前であって、そういうことを考える環境が幼少時代からあることが大事だと思います。聴こえないとはどういうことか、障害とはどういうものか、そういう教育がきちっとあれば、子供たちは、そのように育っていくと思います。

−大橋さんは、留学の経験をお持ちですが、当事者が芸術活動をするにあたって、ワークショップや学校に入りにくいという現状に対してどのように考えますか。

大橋 私がアメリカに留学した当時と今とでは環境もずいぶん変わりました。私の場合、芸術活動の準備についてはスタートすることができましたが、問題はその後なんですよね。学校を卒業した後、どうしたらいいのか、(受け入れる側も)どう対応していいのかというところで時間がかかりすぎるんです。そういう場合にはむしろ、当事者自ら入っていって交わって、体験することが、物事をスムーズにすると思います。そのことによって、自分自身も周囲もどう対応できるかを学んでいける。障害を持つ人とそうでない人が一緒にやっていくことで、課題解決につなげるのが大事なことだと思います。

−ありがとうございます。非常に中身の濃い、興味深い活動の報告をいただきました。この長期助成活動報告会は、シリーズになっておりまして、さまざまな分野の活動を紹介しております。次回以降に関しては、アーツカウンシル東京のウェブサイトなどで詳細を発表いたしますので、ぜひチェックしてください。また、大橋さんのように、新しいチャレンジをしたいという方で、長期助成の支援が欲しいと考えていらっしゃる方は、毎年1回、公募を設けております。こちらもウェブサイトで情報を公開いたしますので、ぜひご確認ください。

(構成・文:鈴木理映子)


大橋ひろえ
高校卒業後、手話演劇やダンス、自主映画製作を開始。1999年、俳優座劇場プロデューズ『小さき神のつくりし子ら』で第七回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。その後、米国で演劇やダンスを学ぶ。2006年、サイン アートプロジェクト .アジアンの初作品『Call Me Hero!』で構成、演出を手掛ける。以降も俳優、演出家として活動を続ける。

河合祐三子
俳優活動の他、手話・身体表現や子供向け演劇ワークショップの講師としても活動を行う。2018年よりサインポエット(手話)と声の朗読、ダンスなどゆるやかに繋がり合うユニット「でんちゅう組」のメンバーとしても活動中。

ウォルフィー佐野
ジャズボーカルやサックス奏者として活動する傍ら、認定特定非営利活動法人メイあさかセンター「みんな集合音楽会」実行委員を務める。ほか、筑波大学附属視覚特別支援学校音楽科講師、川崎ファンスプリング音楽学院生涯音楽科主任講師を歴任。2017年、ロックミュージカル『夏の夜の夢』で俳優デビューを飾る。

渡辺英雄
俳優として舞台を中心に活動する他、声優やナレーターとしても活躍。サイン アート プロジェクト .アジアン作品には『残夏-1945-』(2015)から参加。ロックミュージカル『夏の夜の夢』ではオーベロンを演じた。

檀鼓太郎
映画や演劇、プロレス、動画配信、忘年会など、バリアフリー実況解説のスペシャリストとしてさまざまな分野でライブの音声ガイドを行う。

サイン アート プロジェクト .アジアン(Sign Art Project.AZN)
手話を芸術的なパフォーマンスとして発展させることを目的に2005年、大橋ひろえを中心に設立。以降、音楽やダンス、演劇等と手話を融合させた舞台芸術を創作する。民族や国境を乗り越え、多様な人々と交流をするコミュニケーション手段のひとつとして手話を広め新たな文化を生み出すとともに、誰もが持つ「心の壁」を壊し、自身を解放することで、世界中にいる他者の心に近づくきっかけ作りとなるよう活動を続けた。2020年、次のステージに進むため15年の活動に終止符を打つ。

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