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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2023/07/10

オールナイトで楽しむ、アートな街歩き 「六本木アートナイト2023」

六本木ヒルズや東京ミッドタウンなどの大型複合施設や美術館をはじめとする文化施設が集積する六本木。この街全体を美術館に見立てたアートの祭典「六本木アートナイト2023」が5月27日(土)~28日(日)に開催されました。

今年のテーマは「都市のいきもの図鑑」。4年ぶりにオールナイト開催が復活し、メインプログラム・アーティストの栗林隆氏+Cinema Caravanと鴻池朋子氏を含めた約45組の気鋭アーティストらによる約70のプログラムが六本木の街を華やかに彩りました。現代アートやデザイン、音楽、映像、パフォーマンスなど実に多様。取材チームが体験したプログラムをお伝えします。

街なかに広がるアートと出会う

撮影:二瓶剛(SETENV)

18時からのコアタイム(※)を前に、街なかに点在するアートプログラムをいくつか堪能しました。各作品の魅力もさることながら、「え? 何あれ」「Contemporary art?」など外国の方も含めて行き交う人々がアートとの“偶然の出会い”に驚き、楽しんでいる様子が印象的でした。
(※)メインのインスタレーションやイベントが集積する時間帯

佐藤圭一 《nutty nutty》|オープンコール・プロジェクト採択作品
撮影:二瓶剛(SETENV)
■オープンコール・プロジェクト採択作品|佐藤圭一 《nutty nutty》
六本木6丁目麻布消防署仮庁舎予定地(元麻布警察署跡地)に、「イー顔」の彫刻5体が出現! 人の身長ほどあるインパクトのある大きさや、とぼけたような怪しいようななんとも言えない表情の「イー顔」たちに思わず足を止めて、近くに寄って見たり、写真を撮ったりする人が後を絶ちませんでした。

西尾美也+東京藝術大学学生 《もうひとつの3拠点:カーテンをゆく》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■西尾美也+東京藝術大学学生 《もうひとつの3拠点:三河台公園/カーテンをゆく》
麻布警察署の近くにある三河台公園で展示されていたのは、装いとコミュニケーションをテーマにした西尾美也氏と東京藝術大学学生によるプログラム《もうひとつの3拠点:三河台公園/カーテンをゆく》。カーテンでつくられた衣環境に誘われます。さまざまな色や柄のカーテンの中では、プログラムの一環として東京藝術大学大学院生・岡田結実氏によるワークショップ「見カーテン」が実施されていました。簡単な動作を通して、新たな視点を発掘するというもので、参加者それぞれが自由に、自分だけの作品の見方をつくっていました。

原倫太郎 + 原游 《六本木双六》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■原倫太郎 + 原游 《六本木双六》
六本木西公園内いっぱいに広がる巨大双六(すごろく)場。ユニークな双六体験ができる参加型作品です。マス目には、「芋洗坂でブイブイ言わせる最新ファッション。ブイを肩にかけてゴールを目指せ!」「ラッキー!いつでもどこでも『きびだんご』を持ち歩いているてんとう虫を発見。もう1回サイコロを振って進む。」など、六本木という都市やいきものをテーマにしたお題が。プレイヤーは大きなサイコロを振り、マス目の指示に従ってバスケットや卓球をするなど、コミュニケーションしながらゴールを目指します。子供たちが夢中になって遊んでいました。

長谷川仁《六本木のカタガタ》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■長谷川仁《六本木のカタガタ》
長谷川氏が六本木の街を視察した際に、交差点のプランターの花の植え替えをする小学生を目にし、ステレオタイプな六本木のイメージとは異なる“家族や商店街、生活”といった六本木の姿に思い至ったことが作品のきっかけになったといいます。昔からそこに居たかのように街に溶け込んでいて、アートを身近に感じられる作品でもありました。

驚きと感動が待っていた!

街なかの散策を一旦引き上げて、六本木ヒルズアリーナへ。到着すると、驚くほど大勢のギャラリーで埋め尽くされていました。しばらくすると「コアタイム・キックオフセレモニー」がスタート。関係者の挨拶が続いたあと、ステージにメインプログラム・アーティストをはじめ、全員が登場。司会者の「六本木アートナイト2023」という言葉のあとに、拳をあげて「キックオフ!」と宣言し、コアタイムが盛大に幕を開けました。

撮影:二瓶剛(SETENV)

ランダを拠点に世界中で活躍するカンパニー Close-Act Theatre(クロースアクトシアター)によるインタラクティブパフォーマンス《White Wings(ホワイトウイングス)》
■海外招聘パフォーマンス|Close-Act Theatre《White Wings》
セレモニーが終了すると、頭上から妖艶な歌声が響き渡りました。オランダを拠点に世界中で活躍するカンパニー Close-Act Theatre(クロースアクトシアター)によるインタラクティブパフォーマンス《White Wings(ホワイトウイングス)》の始まりです。アリーナには、スティルツを身に着けたドラム隊が登場し、迫力ある演奏を披露。それが終わると、同じくスティルツを身に着け、巨大な白い翼を纏ったキャラクターが、音楽と光の演出とともに優雅にウォーキングしながら次々と現れました。
オランダを拠点に世界中で活躍するカンパニー Close-Act Theatre(クロースアクトシアター)によるインタラクティブパフォーマンス《White Wings(ホワイトウイングス)》
巨大な翼は、フワッと魔法をかけるように頭上を漂い、観客を異次元の世界へと誘います。幻想的でダイナミックなパフォーマンスは息を呑むのも忘れてしまうほど。やがて壮大なクライマックスを迎えて、名残惜しくもパフォーマンスが終了しました。

栗林隆+Cinema Caravan《Tanker Project》|メインプログラム
撮影:二瓶剛(SETENV)
■メインプログラム|栗林隆+Cinema Caravan《Tanker Project》
辺りがすっかり暗くなると一層存在感を増していたのが、アリーナに展示された木材と蚊帳などでつくられた大型タンカー。メインプログラム・アーティストの栗林隆氏+Cinema Caravanが手がける《Tanker Project》の一作品で、アリーナに集うあらゆる人たちのエネルギーをのせて世界へ届けるという作品コンセプトが素敵でした。また、アリーナの柱にそびえる巨大な昆虫写真を撮影したのは栗林隆氏の父であり、昆虫写真家の栗林慧氏。作品を通した親子共演も見応えがありました。
アイヌの伝統歌「ウポポ」の再⽣と伝承をテーマに活動する⼥性ヴォーカルグループMAREWREWによるライブ
撮影:二瓶剛(SETENV)
「境界」をテーマに大がかりなインスタレーションを中心に多様な作品を発表し続ける栗林隆氏。その栗林氏と2009年から共に活動するのが、写真家、大工、音楽家、画家、料理人など多様なメンバーによって構成されるCinema Caravan。彼らは、栗林隆+Cinema Caravanとして、ドイツのカッセルで5年に1度開催される世界最大級の現代美術展「ドクメンタ15」(2022)にも参加して話題になりました。

アイヌの伝統歌「ウポポ」の再⽣と伝承をテーマに活動する⼥性ヴォーカルグループMAREWREWによるライブ
撮影:二瓶剛(SETENV)
■メインプログラム|志津野雷+Play with the Earth Orchestra《Play with the Earth》
大型タンカーが野外映画館に変わり、Cinema Caravanの代表・志津野雷氏が世界を旅して切り取った記録を紡いだ映像作品《Play with the Earth》の上映がオーケストラの演奏とともに始まりました。アイヌの伝統歌「ウポポ」の再⽣と伝承をテーマに活動するMAREWREWによるライブもあり、無伴奏のなか、手拍子を取りつつ、多彩なリズムパターンの輪唱(ウコウク)が展開されて、観客は心地よさそうに聞き入っていました。

オープンコール・プロジェクト採択作品|櫛田祥光《歓喜》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■オープンコール・プロジェクト採択作品|櫛田祥光《歓喜》
アリーナでは、交響曲第9番/第4楽章:歓喜の歌にのせて、総勢20名以上の若手舞踊家が踊るコンテンポラリーダンスが披露されていました。理想と現実の間で翻弄されながらも必死に生き、前に進んでいく人々を表現したダンスは、美しく、熱く、力強く、圧倒されました。

好奇心が刺激されるアート体験

終演後、時計を見ると23時を回っていました。夜が更けていくなか、六本木ヒルズ内外のアート鑑賞に再び繰り出します。

江頭誠氏《DXもふもふ毛布ドリームハウス》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■江頭誠《DXもふもふ毛布ドリームハウス》
六本木ヒルズウエストウォークに展示された花柄毛布でつくられた江頭氏の作品。リカちゃんハウスをモチーフにしたという花柄毛布のドリームハウスは、周囲のハイブランドショップに引けを取らない異彩を放っていました。

大小島真木 + Maquis 《SHUKU》|先行展示プログラム
撮影:二瓶剛(SETENV)
■大小島真木 + Maquis 《SHUKU》
正十二面体オブジェに、ガラス造形や鉄工、植物、LED照明、音響などを交えたインスタレーションで、「サイボーグとしての御神体」が表現されています。前から、横から、上からと多くの人が不思議そうに見つめていました。

エマニュエル・ムホー氏の《100 colors no.43「100色の記憶」》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■エマニュエル・ムホー《100 colors no.43「100色の記憶」》
66プラザでは、エマニュエル・ムホー氏の作品が夜闇に浮かび、人気を集めていました。西暦が刻まれた100色で彩られた層が織りなす、記憶を辿るインスタレーションは、現在(2023年)の新たな記憶を一番手前の「白」の層で表現し、100色のグラデーションが過去の時の流れを演出しています。

特定非営利活動法人 虹色の風《Passion-内在する情熱》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■特定非営利活動法人 虹色の風《Passion-内在する情熱》
ヒルズカフェ/スペースに展示された虹色の風の作家たちの作品群。写真手前は、行き場のない想いを吐き出すために絵を描き始めたという藤井晋也氏の作品です。描く線は、研ぎ澄まされた聴覚が拾う音楽の波動から生まれるといいます。

ジャン・シュウ・ジャン(張徐展)《熱帶複眼 -動物故事系列-》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■ジャン・シュウ・ジャン(張徐展)《熱帶複眼 -動物故事系列-》
ノースタワー前で流れる映像作品は、台湾で注目される現代アーティスト、ジャン・シュウ・ジャン(張徐展)氏の作品。魅力的な映像と臨場感あふれるサウンドに引き寄せられて、深夜にも関わらず大勢の人だかりができていました。

さまざまな“いきもの”が勢揃い

六本木ヒルズを後にして向かったのは国立新美術館。“深夜の国立新美術館訪問”という非日常体験ができるのもこのイベントならではの醍醐味です。ここでは、絵画や彫刻、パフォーマンスなど多様なメディアと、旅によるサイトスペシフィックな表現で「芸術の根源的な問い直し」を続ける鴻池朋子氏の作品を鑑賞。さまざまな“いきもの”が勢揃いしていました。

鴻池朋子《狼ベンチ》|メインプログラム
撮影:二瓶剛(SETENV)
■メインプログラム|鴻池朋子《狼ベンチ》
早速目に飛び込んできたのは、《狼ベンチ》。深夜の美術館をバックに見ると神々しく、今にも遠吠えが聞こえてきそうです。野生動物に深い関心をもつ鴻池氏にとって、狼は特別なモチーフのひとつです。狼はかつて日本の山間部の生態系の重要な要素だったにもかかわらず、人間によって絶滅させられたいきもの。《狼ベンチ》やその他の展示作品を通して、人間と動物、自然との関係性を問いかけます。

鴻池朋子《武蔵野皮トンビ》|メインプログラム
撮影:二瓶剛(SETENV)
■メインプログラム|鴻池朋子《武蔵野皮トンビ》
館内エントランスロビーのアトリウムに羽ばたくのは《武蔵野皮トンビ》。切れ端として捨てられる運命の牛革を縫い合わせた本作は幅24mにも及び、トンビの身体には水性塗料で多様な生きものや景色、現象が描かれています。じっと見ていると、羽ばたいていきそうに見えるから不思議です。
鴻池朋子《武蔵野皮トンビ》|メインプログラム
撮影:二瓶剛(SETENV)
■メインプログラム|鴻池朋子《大島皮トンビ》《高松→越前→静岡→六本木皮トンビ》
日本を横断しながら東京ミッドタウンのガレリアにも2体の皮トンビが降り立ち、人々を魅了していました。

オールナイトでアート散策

深夜の街なかへ戻り、アート散策を再開!

Keeenue《SEEK and FIND》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■Keeenue《SEEK and FIND》
「作品前を通るたびに新たな気づきや、探していたものに出会えるきっかけを与えたい」という想いが込められたKeeenue氏の作品。ロアビル仮囲いの約40メートルの壁面に鮮やかに描かれ、夜の街を明るく照らしていました。

Mrs. Yuki《ひとつのかたち》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■Mrs. Yuki《ひとつのかたち》
アーティストユニット Mrs. Yuki の作品がイグノポール2階に展示されていました。ボールパイソンの飼育・繁殖を行う彼らは、動物や植物など生命の固有性に分け入り造形の実践を試みています。ボールパイソンが這う痕跡をとどめた躍動感溢れる絵画は、目を見張るものがありました。

岩崎貴宏氏《雨の鏡》
撮影:二瓶剛(SETENV)
■岩崎貴宏《雨の鏡》
第1レーヌビルの空き地につくられた岩崎氏の作品。日中は行列ができていましたが、深夜はスッと入れてじっくり鑑賞。六本木の街の移ろいゆく時を映し出した儚い光景に引き込まれる作品でした。

原嶋剛慎《DINOSAUR XING》|オープンコール・プロジェクト採択作品
撮影:二瓶剛(SETENV)
■オープンコール・プロジェクト採択作品|原嶋剛慎《DINOSAUR XING》
ドシン、ドシン。深夜のラピロス六本木に、巨大な恐竜が! 現れた瞬間、テンションが上がったのは私だけではないはずです。原嶋剛慎氏が製作した恐竜着ぐるみのパフォーマンスが始まりました。スペースを自由に歩き回り、インフォメーションカウンターのチラシに興味を持ったり、観客を威嚇したり、ときには飼育員にかみついたりする場面も。続々と集まってくるギャラリーを巻き込みながらの楽しいパフォーマンスでした。

日中から深夜まで、数々のアートを見て・感じて・触れて、刺激的で充実した週末に。街のあちこちで気軽にアート体験ができたことはもちろん、人間によるパフォーマンスや動物をモチーフにした作品、昆虫を題材にした作品など、さまざまな“都市のいきもの”に出会い、共存することや多様な繋がりを考える貴重な時間にもなったイベントでした。


  • 日程:5月27日(土)10:00~5月28日(日)18:00
    ※コアタイム:5月27日(土)18:00~5月28日(日)6:00
  • 会場:六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館、六本木商店街、その他六本木地区の協力施設や公共スペース
  • 主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、港区 、六本木アートナイト実行委員会【国立新美術館、サントリー美術館、東京ミッドタウン、21_21 DESIGN SIGHT、森美術館、森ビル、六本木商店街振興組合(五十音順)】
  • イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/57698/

撮影:二瓶剛(SETENV)
取材・文:横山史絵(鐵五郎企画)

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