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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」報告会

東京都とアーツカウンシル東京では、将来アーティストと社会をつなぐ役割を担う若手アートマネジメント人材を短期で芸術フェスティバル等に派遣し、国際的な活動の第一歩となるよう、海外の芸術文化関係者のネットワークを作る機会を提供する「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」を実施しています。
ここでは、派遣後の報告会をレポートします。

2024/05/24

2023年度 アートマネジメント人材等海外派遣プログラム報告会[前編:第1部 活動報告]

2023年度に新たに開始されたアートマネジメント人材等海外派遣プログラムの内容や成果を広く共有する場として、2024年2月28日に、第1回となる派遣対象者全員が参加する派遣後の報告会が開催されました。

本事業では、若手アートマネジメント人材を短期で海外の芸術フェスティバル等に派遣し、先駆的な作品や創作現場に直に触れ、グローバルな視点から創造的な活動を推進、海外セクターとネットワーク構築・強化する機会を提供します。世界に通用する作品を生み出しその価値や芸術性を発信し、東京と世界をつなぐ役割を担う若手の、国際的な活動の第一歩となるよう後押しすることを目指しています。(事業詳細についてはこちら

報告会では、第1回公募でスコットランド・エディンバラに派遣された4名、第2回公募でタイランド・ビエンナーレ(チェンライ)、バンコクに派遣された2名、ニューヨーク・ブロードウェイに派遣された4名が発表を行いました。派遣先では、約1週間の滞在の間、主催者側で設定し必ず実施するベーシック・プログラムと、被派遣者自身がそれぞれの興味関心に応じてリサーチを行い、視察・関係者へのヒアリングなどの交渉・調整を行って実施するオリジナル・プログラムの2つに取り組みます。

本レポートでは、各々がプログラムに参加した目的や、各派遣地でのベーシック・プログラム/オリジナル・プログラムの内容、派遣の成果を中心に行った報告の内容をお届けします。


スコットランド・エディンバラ報告

エディンバラ国際フェスティバル(英:Edinburgh International Festival)は、スコットランドのエディンバラで開かれる世界最大のパフォーミングアーツの祭典です。8月から9月の3週間にわたって開催され、オペラ、演劇、音楽(特にクラシック音楽)、ダンスなどの分野の世界一流のアーティストが公演を行います。

報告者

野村善文(のむら よしふみ) 舞台美術等(左上)
岡田勇人(おかだ はやと) フリンジ・オーガナイザー(右上)
高本彩恵(たかもと さえ) 制作、アートマネージャー(左下)
松波春奈(まつなみ はるな) 公益法人職員、NPO 法人職員(右下)

はじめに、全員で参加したベーシック・プログラムの内容が紹介されました。エディンバラ・フェスティバルと周辺の文化状況について体系的な知識を得る機会となるよう、ブリティッシュ・カウンシル・スコットランドのアート部門の責任者や、エディンバラ・フェスティバル・フリンジ・ソサエティの副事務局長へのヒアリングを実施。さらに、舞台公演2作品を視察しました。

ブリティッシュ・カウンシル・スコットランドのオフィスにて

特にヒアリングでは、インフルエンサーを巻き込んだ宣伝方法や国内外から訪れる観客への具体的なサポートに関する話などを通じて、創造性は作品だけでなく運営側にも必要と考え、常に時代に応じた創造的なアプローチを模索し、実践している点が印象深かったとのこと。また、フェスティバルに携わる担当者の視野の広さ、明確なビジョンやそれを的確に伝える能力の高さなどが刺激となったそうです。続いて、各自がオリジナル・プログラムの内容や最も印象に残ったことを発表しました。

野村さん:フェスティバルのコンテンツの数やプログラムの多様さに圧倒されつつも、都市という一つの舞台における、演劇の持つ役割の多様さに気づかされました。例えば、社会課題に鋭く切り込んだり、その場を共有するコミュニティを重視したイベントだったり、それぞれを制作するプレーヤーが自由にそのコンテンツの位置づけやコンテクストを作り出す場が整備されていることが印象的でした。

岡田さん:本当に自由な作品が自発的に集まっていて、そもそも「フリンジ」とは何か、パフォーマンスとは何か、を改めて考えさせられました。一方で、ただ自由で自発的なだけでなく、フェスティバルでは各国の芸術文化関係者やアーティストが交流し、多方面から国際的な活動をサポートしていく運営上の仕組みがしっかり成り立っていることを実感する機会になりました。

高本さん:劇場やフェスティバル主催者のサポートやアプローチが充実しているのが印象的でした。例えば、私が参加した舞台美術関係のトークでは、本当に色々な国の人がジャンルを超えて各々の問題意識などをディスカッションしていて、それを通じて自分の表現や仕事の輪郭が見えてきて、そういう機会や経験は日本ではあまりないと感じます。色々なビジョンを持った人たちに開かれていて、そこからアーティストが育って、世界を目指すことを可能にするプラットフォームであると改めて思いました。

松波さん:劇場によるアーティストの紹介プログラムが印象に残りました。地元の劇場が若手アーティストの発表する場を作っていること、かつそれが国際的なマーケットとして、お客さんの中にプロデューサーやカンパニーのディレクターがいる場所で、ジャンルやスタイルなどバラエティに富んだ作品をどんどん発表できる、そういう場所を用意しているところに感銘を受けました。

タイランド・ビエンナーレ(チェンライ・バンコク)報告

タイランド・ビエンナーレは、タイ各地を移動しながら隔年で開催され、多様な文化と豊かな歴史を持つ地方都市を舞台にした国際的な現代アートの芸術祭です。政府主導で行われ、第3回となる今回は最北部のチェンライで2023年12月から開催されました。

報告者

丹治夏希(たんじ なつき) プロジェクトコーディネーター、 ディレクター(左)
韓成南(はん そんなん) ディレクター、キュレーター、映像作家、演出家(右)

はじめに、2人とも参加したベーシック・プログラムの紹介がありました。タイランド・ビエンナーレのオープニングデイから数日間、主催者オーガナイズのレセプションや関係者向けのツアーに参加し、アート関係者とのネットワーキングを実施。また、国際交流基金バンコク事務所にて、タイ(主にバンコク)のアートシーンについてや、その他のアートフェスティバルに関するヒアリングなどが行われました。

Thailand Biennale2023 会場 MAP

特に、チェンライは文化的にも歴史的にも見所が多く、ツアーで会場を巡ることで元々チェンライにある、アーティストがデザインしたお寺を舞台にした作品など、アート作品と地域の文化遺産を万遍無く見ることができた点を面白いと感じたそうです。その後は各自のオリジナル・プログラムや、印象に残ったことの報告がありました。

丹治さん:ベーシック・プログラムの一つで参加した、チェンセーンのゴールデントライアングルの川岸に設置されたナウィン・ラワンチャイクンによる作品のオープニングセレモニーに驚かされました。屋台が並び、巨大な作品を背景にパフォーマンスをしたり、ビエンナーレに関係のない観光客や地元の人々が入り混じってお祭り騒ぎしたりと、日本だったらセキュリティの関係上身分チェックなどが発生してしまいがちですが、タイランド・ビエンナーレの、誰もが楽しめるおおらかさや間口の広さは、日本でも必要な柔軟性ではないかと考えさせられました。

韓さん:オリジナル・プログラムとして、バンコクで多くのアーティストやギャラリストと交流しました。タイの若手のアーティストは、アーティストインレジデンスで日本に来て制作・発表したいと願っている方が結構多いことも分かり、私がオーガナイズしている芸術祭にも是非招待したいと思える良い出会いがありました。色々な意味で、日本が国内だけで閉じず、海外とつながることの意義を改めて感じ、私自身今回得たご縁を様々な形でつないでいきたいと思いました。

ニューヨーク・ブロードウェイ報告

世界で最も熱いエンターテインメントの中心地ニューヨークでの滞在は、「エンターテインメントビジネス」の魅力を、人々の生活・文化やブロードウェイ最先端のミュージカル等様々な観点から感じとり学ぶ機会でした。

報告者

春日希(かすが まれ) 俳優(左上)
遠藤七海(えんどう ななみ) 制作者、アーティスト、ダンサー(右上)
髙田郁実(たかだ いくみ) 事業戦略・マーケティング(左下)
目澤芙裕子(めざわ ふゆこ) プロデューサー、マネージャー、制作(右下)

まずは、ベーシック・プログラムの説明がありました。世界的な劇場街であるニューヨーク・ブロードウェイの全体像についての理解促進を目的として、現地の第一線で活躍する多方面の業界関係者との面会が実施されました。制作プロセスに関わる関係者はもちろんのこと、各被派遣者の興味関心に沿って、ブロードウェイの労働環境や制度、チケッティングのビジネス面・システム面での運用から広報・マーケティングまで、多角的なヒアリングが行われました。

発表スライドより

ブロードウェイでは、プロデューサー、プロダクション、劇場、マーケティングなど各々の役割が細分化されている一方で、チケット販売員や清掃スタッフに至るまで舞台に関わる全ての人々の労働を守るユニオンや業界団体が存在、機能しているため、一人ひとりが誇りをもって携わり、業界が一体となって連帯し、価値の形成・底上げと訴求を行っている点が4名全員の印象に残ったそうです。続いて、各々のオリジナル・プログラムの発表がありました。

春日さん:舞台業界の労働環境や持続可能性への取り組みについてリサーチを行い、日本とアメリカそれぞれの良い点と課題があることを学びました。それと共に、ブロードウェイが単なるエンターテインメントに留まらず、社会と密接にかかわりあっていることを再認識する機会となりました。環境問題については、ハードルをできるだけ低くして、舞台に関わる身近な所で誰もが気軽に関わることができるよう意識されている点が印象的でした。

遠藤さん:私は日本人アーティストのNY進出についてリサーチするため、現地の日本人芸術監督に話を聞きました。まずは海外から日本への視察が消極的になってしまう理由として、英語での情報発信が少なかったり、チケットへのアクセスが難しかったりすることがあるそうです。ブロードウェイが全体で価値形成に取り組んでいるのに対し、日本では劇場やプロデューサーなどがどちらかというとライバル関係にあり、業界内で情報発信などについての連帯が不足しているという課題が見えてきました。

髙田さん:Broadway.comを訪問し、ブロードウェイ最大手となっているチケッティングサイトの仕組みやダイナミックプライシングによるビジネスへの影響についてヒアリングを実施できたのが有意義でした。アメリカでの状況を理解した上で、日本に当てはめた時にどういうチケットの売り方をしていくことがお客様にとっていいことなのかを今後考えていきたいなと思いました。

目澤さん:ブロードウェイは多様な人々がそれぞれの得意分野を活かしながら、社会との接点をつなげていくことをワンチームとして取り組んでいることが刺激になりました。今回派遣されたメンバーもそれぞれポジションも視点も全然違う4人だったので、プログラムを通して色々な視点を持って向き合えたことが大きかったです。多様な視点を持っているからこそ、チームとして刺激しあい、連帯することでより大きな力を得られたのだと実感できました。これからもこのメンバーで次につながるプロジェクトをやっていきたいという話をしています。


以上、報告会第1部では、各々の派遣先での活動内容を発表して貰いました。若手が海外に触れる機会を提供したいという事業主旨に対し、それぞれにしっかりと様々な経験をし、多くの知見や刺激を得ることができたことが伝わりました。後半では、第2部のラウンドテーブルの模様をお伝えします。

(取材・執筆 アーツカウンシル東京 結城直子)

後編:第2部ラウンドテーブルに続く

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