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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2024/11/01

活動の継続や、未知数の挑戦。様々な岐路に立つアーティストが、一歩踏み出すきっかけをつくる「Tokyo Artist Accelerator Program(TAAP)」の取り組み

「アクセラレーター・プログラム」という取り組みを知っていますか?様々な事例がありますが、起業家やベンチャー企業など、新しい挑戦をしようとする人に対し、既存企業や自治体、専門家などの「アクセラレーター」と呼ばれる支援者が、さまざまなリソースやノウハウを提供し、伴走しながらその挑戦をサポートする取り組みです。

この「アクセラレーター・プログラム」の考え方を、アートの現場で実践しようとするプログラムが始まっています。公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と東京都は、美術・映像分野の若手アーティストを支援する新たなプログラム、「Tokyo Artist Accelerator Program(TAAP:タープ)」を開始しました。4月から始まった第1期支援プログラムには、10名のアーティストが参加中です。

TAAPのプログラムの特徴や、実際にプログラムを実施・参加して感じたことなどを、事業担当者と3名の支援アーティストに伺いました。

プレゼン重視の選考と、3つの支援

TAAPの軸は、「アーティスト自身によって作品を語るプレゼンテーションに焦点をあて、作品を語る力の向上とコンセプト強化の両面からサポート」すること。具体的には、「プレゼン発表による選考」を経た後、支援アーティストは「制作支援金の支給」、「多様な現代アートのスペシャリストによる継続的なメンタリング」、「国内外のアート関係者へ向けたスピーチの場(TAAP Live)」という3つの支援を受けることができます。

それら「選考方法」と「支援内容」それぞれにTAAPの特徴があると、担当の徳本宏子(アーツカウンシル東京 企画部企画課連携係)さんは話します。まず、選考においては、学歴や受賞歴、個別の作品内容よりも、プレゼンテーションから感じる「可能性」を重視。

徳本:選考委員の方々はすでにキャリアを積んでいる方や、プレゼンのスキルを十分持っている方よりも、未挑戦のアイデアを秘めていたり、何か未知の可能性を感じたりする方、という視点を重視して選考されていました。「夢を語ってほしい」というフレーズもあがりましたね。
プレゼンテーションの内容には「未発表のアートワーク」について盛り込んでもらうようにしています。本選考では、今までの経歴やその未発表作品のアイデアについて、スライドを用いて選考委員の前で10分間のプレゼンをしていただきました。

そして支援内容も、「未知の挑戦や可能性」に踏み出しやすいようなものになっています。

徳本:制作支援金として「49万5000円」を満額支給するのですが、特に用途については定めないことにしています。それぞれがアートワークを実現するのに必要なことに、自由に使ってくださいということでお渡ししています。リサーチ費用に使われた方もいますし、機材を購入した方、個展の費用にあてた方など、様々です。

徳本:それから、8か月間にわたる「メンタリング・プログラム」も特徴です。各アーティストは、月2~3回、メンターと1回30分程度のメンタリングを継続して行うほか、3か月に1回の中間報告会で、選考委員やメンターの前でプレゼンテーションを行います。「プレゼンテーション⇒アドバイス⇒メンタリング⇒プレゼンテーション…」を繰り返すことで、自分の制作活動について見つめなおし、言語化に取り組んでいきます。

選考委員やメンターは、ギャラリストやアーティスト、コレクター、キュレーター、編集者と多様な背景を持つ現代アートのスペシャリストにより構成されています。メンタリングでは、ギャラリストの方とはアートマーケットへのアプローチの仕方を相談したり、編集者の方からは資料の見せ方や言葉の選び方のアドバイスを受けたり、アーティストの方とは制作を続けるうえでの悩みを共有したり…と、それぞれの視点から対話を重ねているそうです。

さらに、プログラムのひとつの成果発表の場として、支援アーティストが一般来場者の前でプレゼンテーション発表を行い、活動等について展示する場「TAAP Live 2024」が開催されます。作品の完成までに至る必要はなく、「ワーク・イン・プログレス」として、このプログラムを経たそれぞれの活動の進捗が紹介されます。

誰が、どんなサポートを必要としているか? 実践者とともにプログラムを検討

なお、募集対象の条件にも特徴があります。

(公募ガイドラインより引用)
対象は対象分野(美術・映像)において、都内で作品を公開(個展等)する活動を初めて実施してから3年以上10年未満であること。または、都内で作品を公開(個展等)する活動実績が5回以上10回以内であること。

大学等に在籍していると、教員など周囲からアドバイスをもらったり、相談しあったりする機会もあるでしょう。しかし、そういった環境から離れ、活動が軌道に乗っていくまでには、なかなかそういう機会がない方もいるかもしれません。TAAPは、まさにその層を主なターゲットに定めています。

TAAPの立ち上げにあたっては、選考委員やメンターの方々と意見を交わしながら支援内容を検討し、深めていったそうです。そのなかで出た課題感のひとつとして、「自身の作品の技術や技法について語るより、コンセプトや、美術史・アートシーンでの位置づけなどを言語化すること」、「作品を売っていくことやマーケットに出ていくこと」、といった点が弱いという指摘がありました。「『どうしてこの作品を作るに至ったのか』や、作家本人の心の動き、その背景が知りたいんだ」という選考委員・メンターの声も受け、「言語化」や「可能性重視」がプログラムと選考の軸となっていきました。

TAAPは「アート市場での活躍を希望する美術・映像分野の若手アーティストを支援」と謳っていますが、それは決して「マーケットで売れる作家を生み出していく」ことだけが目的ではない、といいます。広く「アーティストが活動や制作を続けるために、いつ、どんなことが必要なのか」を考え、活動継続に直接つながるようなリソースの提供だけではなく、新しい一歩を踏み出すための後押しや、ネットワーク構築など、精神面や長期的な視点でアーティストを支えることも大切にしたいと考えています。

旅をするように、自分を見つめなおすきっかけに

徳本さんは、プログラム開始からこの半年を経て、支援アーティストの皆さんが10人の選考委員やメンター、そして同期のアーティストと交流しながら、柔軟に変化していく様子を感じたそうです。

徳本:まるで「旅をしている」というか、色々な人の視点に触れることで、自分と向き合う良い機会になっているのかな、と思います。
今後募集を検討しているアーティストの方には、“変わりたい”という思いを持って来ていただきたいですね。自分がこう変わりたいという気持ちとか、自分はここを問題に思っているから変化していきたいとか、あるいは、ちょっとしたアイデアを持っているのだけど、どう形にしたらいいか分からないとか、そういった、ちょっと光るようなものを隠し持っているような方々と出会っていきたいです。

参加してみてどうだった? 支援アーティストからひとこと

TAAPのプログラムに応募したきっかけや、参加してみた感想について、支援アーティストのうち、3人にお話を伺いました。

天草ミオさん

「観る側/観られる側」との関係性や、他者との境界などのテーマで制作をする天草ミオさん。TAAPに応募したきっかけは、募集条件が年齢制限というかたちではなかったこと、コンセプトを強化するというユニークさに興味を抱いたことが大きかったそうです。

天草:活動をしてきて、ちょうどもうひと押しサポートが欲しいタイミングでした。TAAPの募集対象に当てはまるアーティストは、キャリアやライフスタイルなどの関係で、制作を続けることができるかどうかの狭間にいるのではないかと思います。

プログラムで選考委員やメンター、アーティストの方と対話して色々な視点をもらう中で、最終的には「自分自身はどう考えるのか」というところに還ってきて、自分を見つめなおすことができたといいます。

天草:プログラムに参加して、TAAPでの企画の軸にしているもの以外の作品・活動にも影響がありました。自分がどういう作家になりたいか、考えていくための力強いサポートになるプログラムだと思います。

高野徹さん

映画監督の高野徹さんは、一つのプロジェクトがいったん落ち着き、次の活動を考えているタイミングで応募を決めたそうです。

高野:次に何をしようか、と新たに考え始める時期でした。金銭面ではないサポートも受けられるということに惹かれて応募しました。メンターの方には、自分の活動に関連する書籍等を紹介してもらったり、同じ制作者という立場で寄り添ってもらったり、時には批評的な視点で意見をもらったりすることができます。
月2回ほどのメンタリングが、大学のゼミのようなかたちで、自分の中で良いリズムになっていると思います。

臼井仁美さん

工芸の手法で制作を行ってきた臼井仁美さん。苦手意識を感じていた「言語化」の力を強めたいという気持ちと、様々な現代アートの関係者やアーティストと出会うことで、工芸と現代アートの接続について考えたいという気持ちで応募したといいます。

臼井:メンターの方々から、自分の活動をどう編集していくかという視点をもらえたり、プログラムに参加している、違う分野のアーティストからフィードバックをもらえたりするのが良いですね。たくさんの言葉を受け取る中で、「自分として腑に落ちる言葉」に出会うことがあり、少しずつ自分を説明する言葉が見つかっている気がします。


支援アーティストと選考委員、メンター(10月の中間報告会終了後)

現在TAAPでは、2025年4月からプログラムに参加するアーティストを募集中です。
これから制作活動を続けていくにあたって、何か新しい視点がほしい方、背中を押してもらいたい方、一歩踏み出したい方。ぜひ、ご応募をご検討ください。


TAAP Live 2024
・日程:2024年11月9日(土)~12日(火) ※11日(月)は招待者のみ
・会場:TODA HALL & CONFERENCE TOKYOホールA
・入場料:無料
・詳細はこちら


Tokyo Artist Accelerator Program(TAAP)第2期支援アーティスト 募集
・応募受付期間:2024年10月16日(水)10:00~2024年11月27日(水)17:00
・支援期間:2025年4月~2025年11月(予定)
・詳細はこちら


撮影:冨田望
取材・文:岡野恵未子

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