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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2017/04/11

境界線を編み直す―6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業 [2]―

*本記事は『都政新報』の連載「6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業」(2017年4月4日掲載 第2回/全3回)の転載記事です。


出身地が「被災地」と呼ばれるようになるとは、想像したこともなかった。宮城県で生まれ、大学進学を機に上京し、東日本大震災を東京で経験した。それから数ヵ月後、ひょんなことから同年7月に立ち上がった「東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業(Art Support Tohoku-Tokyo、以下ASTT)」の担当となった。

既存の文化事業を持ち込むのではなく、現地の団体やコーディネーターの人々とともに事業を立ち上げ、実施する。この態度は都内のアートNPO等と共催で事業を実施する「東京アートポイント計画」の仕組みに由来する。伴走型の中間支援事業の担当として、いまも東京から「支援」の立場で東北へ通い続けている。

「写真では街の復興が見えづらくなってきたけれど、本当は、今も色んなことが大きく変わっている」。2015年末に岩手県釜石市で聞いた言葉だ。がれきや被災した建物が撤去され、道路や信号も復旧した。新たな建物も立ち始めた。震災直後から比べれば、街中の風景は落ち着いてきたように見えた。

その一方で沿岸部は大規模な土地のかさ上げが進行し、応急仮設住宅から復興公営住宅へと人々の生活は、もう一度、震災以来の大きな変化を迎えていた。

特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター(以下@リアス)は、震災直後から釜石市や隣の大槌町の風景を写真に残してきた。「復興カメラ」という名前で撮りためた写真の総数は10万点を超える。各地で写真展を開催し、震災の経験を語ってきた。

先の言葉を聞いたのは、この「復興カメラ」の今後を話していたときだった。3年、5年を節目とした外部支援の減少。「震災」への関心の低下。そこには震災の経験を継承することの切実さと忘却への危機感があった。写真を撮り続けることの必然性は感じつつも、それをどう続け、使うのか。しばらく議論は続いた。

転換点は「復興カメラ」のFacebookページの話題で訪れた。現在の風景を写真や動画で掲載すると「いいね!」やコメントは、地域外の人々に多いのだという。国内外のボランティアや支援団体の人々、行政の応援職員、そして地域の出身者たち。今はいない、けれども、その土地に関係をもち、気にかけている人たちが大勢いることに気が付いた。

2017年3月。@リアスはお世話になった人々へ1枚のはがきを送った。送付は例年のことなのだが、今年は「復興カメラ」の定点観測写真を使った動画のQRコードを掲載した。現地の風景とその変化を共有することから、次の会話のきっかけづくりを目指した。こうして手紙を送り合うような日常的な関係づくりが今後は必要となるのだろう。

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大槌町城山からの定点観測写真(2017年3月30日)(提供:特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター)

震災直後に「境界線」という言葉をよく聞いた。地震、津波、原発による被害の差、住まいの違いなど、震災は人々の間に微細な、けれども決定的な分断を生んだ。

ある現場では、数年ぶりに再会した「近所」の人々がいた。震災後の境遇の確認は、必ずしもいい話だけではない。互いを思いやるがゆえに生まれた分断もあった。

6年間のASTTでは、その境界線を越え、編み直すような場面にいくつも遭遇した。芸術や文化は人々が出会うための「もうひとつ」の回路を拓く。そして、今、震災直後とは違った意味で地域内外の人々の関係を紡ぎ直すことが必要となっている。

そこでは「与える/受ける」という支援ではなく、互いに持ちうるものを交換しあうような関係づくりが、より求められる。それによって、私たちの平時の実践や伴走の真価が、改めて問われることだろう。先日、震災以降、現地に通い続けるアーティストが語っていた言葉を思い出す。「やっと、これからが本番だ」と。

― 次回は2015年度からASTT事業を担当するPO嘉原妙が、現場の取り組みを紹介する。

*参考情報

ASTTでは、これまでの6年間の活動の中で生まれた事例や言葉を記録したドキュメントを刊行している。
http://asttr.jp/book/

▼芸術文化を活用した被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo」公式サイト
http://asttr.jp/

*連載「6年目のASTT」

[1] 文化で社会をつなぎなおす(森隆一郎)
[2] 境界線を編み直す(佐藤李青)
[3] 地域文化と出会い直す(嘉原妙)

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