Art Support Tohoku-Tokyo
Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。
2017/04/11
文化で社会をつなぎなおす―6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業 [1]―
*本記事は『都政新報』の連載「6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業」(2017年3月31日掲載 第1回/全3回)の転載記事です。
東日本大震災から6年。復興の踊り場とも言われる今年、東京都とアーツカウンシル東京が震災直後から続けてきた芸術文化を活用した被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo」(以下ASTT)も6年目を迎えた。
6年目で生まれてきた新たな課題
震災そのものによる被害と同時に、東京電力福島第一原子力発電所の事故による避難をめぐる状況も年々変化してきている。長い避難生活によるコミュニティーの分断、消滅、避難先のコミュニティーへの参加のハードルなど、新たな課題も浮き彫りになってきた。
福島県いわき市は、人口約35万人に対し、市外(主に原発立地周辺自治体)からの避難者が約2万人居住している。現在は県営の復興公営住宅や市営の災害公営住宅が完成し、仮設住宅からの移住も進む。2種類の住宅の違いは、前者が市外からの避難者のためのもので、後者が主に市内沿岸部において被災した方々のためのものだ。
このように、いわき市では市民と市民ではない方がモザイクのように入り組んで生活しており、特に原子力損害賠償の有無による生活態度の違いなどから、さまざまなすれ違いも生じてきている。
アーツカウンシル東京の連載で、なぜこの現状をお知らせするのか?
効率化を優先してきたツケのように、社会では、様々な場で個別化、専門化(タコツボ化、サイロ化)が進んだ。「芸術文化」には、細分化した社会を創造的に繋ぎ直していく力がある。医療、福祉、教育、心のケア、まちづくり、観光などの多様な課題に対して、様々な領域を芸術文化で接続する取り組みが成果を上げている。
芸術文化そのものの振興にとどまらず、この視点で多領域をつなぐ時、総合政策としての文化政策の強みを発揮できるはずだ。そして、公的な芸術文化機関としての私たち(アーツカウンシル東京)は、芸術文化の持つこの力を社会に還元しなければ、その役割を果たしているとはいえないだろう、と私は考えている。
「市民と共に文化政策を考える公開ミーティング『マナビバ。』文化政策にかかる部署以外からも職員が集まった」=2016年11月、いわき市で(写真提供:NPO法人Wunder ground)
芸術文化機関の専門性を活かした支援
ASTTは、アーツカウンシル東京の事業の一つ「東京アートポイント計画」の事業スキームを、東北に「転用」したものだ。
東京アートポイント計画とは、地域社会を担うNPOとともにアートプロジェクトを展開することで、アートによる無数のポイント(拠点や人材)を都内各所に生み出していく事業。アーツカウンシル東京には、地域のNPOに伴走する「プログラムオフィサー」(以下PO)と呼ばれる専門職がいる。
POは、アーティストや地域に様々なつながりを持ち、行政と市民の間に立ち、プロジェクトを進めていく役割を担っている。
イベント型の復興支援の時期は過ぎ、今は、土地の文化に寄り添った「文化の復興」に掛かる取り組みが求められる段階だ。冒頭で紹介した支援先のひとつである、福島県いわき市では、本年度新たに「文化政策」を構想するという話が持ち上がった。先に説明した、一筋縄ではいかない住民同士のすれ違いを、文化政策の課題と捉える意欲的な取り組みだ。
この動きは、ASTTが復興支援を息の長い取り組みとして捉え、現地のNPOと伴走しながら進めてきた成果の一つだと考えている。一過性のイベントを出前的に届けるのではなく、地元で活動する団体を、芸術文化の力と、私たちの持つノウハウやネットワークを掛け合わせて支援し続けるのがASTTの特徴である。
―次回は、宮城県塩竈市出身でASTT事業の立ち上げから関わってきたPO佐藤李青が、ASTTの現場での取り組みを紹介する。
*参考情報
ASTTでは、これまでの6年間の活動の中で生まれた事例や言葉を記録したドキュメントを刊行している。
http://asttr.jp/book/
アーツカウンシル東京のブログでは、3回シリーズで福島県いわき市での文化政策立案のプロセスを共にしたASTT事業『マナビバ。』のレポートを掲載中。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/blog/17837/
*連載「6年目のASTT」
[1] 文化で社会をつなぎなおす(森隆一郎)
[2] 境界線を編み直す(佐藤李青)
[3] 地域文化と出会い直す(嘉原妙)