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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2017/04/11

地域文化と出会い直す―6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業 [3]―

*本記事は『都政新報』の連載「6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業」(2017年4月7日掲載 第3回/全3回)の転載記事です。


2015年5月にアーツカウンシル東京の研修として、「東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業(Art Support Tohoku-Tokyo、以下ASTT)」の事業打ち合わせに同行し、福島県を訪れたのが東北へ通う始まりだった。今では岩手県、宮城県、福島県を定期的に訪れ、事業の進行状況や現地の様子を確認し、パートナーのNPOと対話を重ねながらサポートを続けている。

16年には、5年間の活動の成果として、現地のパートナー7人にインタビューを行い、彼らの声と移りゆく東北の今を冊子『6年目の風景をきく ―東北に生きる人々と重ねた月日』にまとめた。この冊子制作の過程では、震災後の変化を感じる場面に度々遭遇した。その変化とは、震災後に起こった喫緊の課題に対するものから、これから先の営みへと向けられた現地の人々の眼差しの変化だ。

5年という月日は、「ここで生きていく」という彼らの覚悟を強くしてきたのだと思う。だからこそ、自分たちが暮らす土地で育まれてきた文化や資源を見つめなおす活動へとシフトしているのだろう。

宮城県塩竈市を中心に活動を展開する「つながる湾プロジェクト」では、松島湾の文化を捉え直し、継承していくための取り組みが行われている。

13年から始まった同プロジェクトでは、塩竈・松島湾や海の歴史・文化について様々な分野の講師を招いて学ぶ「チームwan勉強会」や、アーティスト・五十嵐靖晃による、漁網を参加者と共に編み、屋外に掲げ、完成した網の目を通して土地の風景を捉えなおす「そらあみ」。地域の物語や先人の知恵を歌や詩、料理などを通して、表現する手法を体験する「語り継ぎのためのリーディング」。活動の成果を一堂に集めて、湾を旅するように展示やワークショップを体験する参加型の展覧会「海辺の記憶をたどる旅展」など、運営事務局のメンバーは、地元住民やよそ者の視点を融合しながらリサーチを行い、プロジェクトを実施してきた。そうして地域文化と出会い直す中で、今、その話や技術を学ばなければそれ自体が消えてなくなってしまうという切迫した課題に気付き、どのように伝え残していくことができるのか、継承の方法を模索しはじめている。

16年度は、2冊の書籍『ノック!−じぶんの地域ともう一度出会う10の扉−(以下、ノック)』と『松島湾のハゼ図鑑』を制作した。

『ノック』は、つながる湾プロジェクトの企画に実際に参加した人物の体験談をモデルに、地域と向き合う際のコツ(視点)を10の扉として紹介している。「よそ者の話を聞く」「季節・時間を意識してみる」「恒例行事にする」など、新しい視点に気付くきっかけをつくり出す本だ。

『松島湾のハゼ図鑑』は、宮城県の食文化と地域住民の生活を支えてきた松島湾の「ハゼ」に注目し、その生態や実践的な漁法のノウハウ、美味しい食べ方などを愛らしいイラストで紹介。1年間かけて行った調査とワークショップの経験(名人に教わりながら行ったハゼ釣り体験、焼きハゼをつくり、最後にはハゼだしのお雑煮づくりを行った)が活かされた内容となっている。

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ハゼの焼き干しづくり

『ハゼ図鑑』を用いることで、松島湾のハゼ文化をより広く、身近なものとして地域住民に伝えていくことが可能になるだろう。この「図鑑」はシリーズ展開を予定していて、次は「牡蠣」に焦点をあてて制作する予定だ。事務局メンバーの気付きと経験が、カタチを変えて、地域に循環していく仕組みが生まれようとしている。

文化は変容し、人々の営みと呼応しながら、引き継がれていくものだと思う。その在り方を模索し続け、共有し、表現していくことが、文化の継承の一歩なのだろう。そして、まさに今その一歩を踏み出そうとする東北の地では、これからこそ、芸術文化のしなやかな眼差しが求められている。

*参考情報

▼つながる湾プロジェクト
http://tsunagaruwan.com/

▼芸術文化を活用した被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo」公式サイト
http://asttr.jp/

*連載「6年目のASTT」

[1] 文化で社会をつなぎなおす(森隆一郎)
[2] 境界線を編み直す(佐藤李青)
[3] 地域文化と出会い直す(嘉原妙)

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