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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2013/08/05

熊谷POレポート アートプロジェクト考察日記(その4)

「アートプロジェクトのアーカイブスのためのスタンダードとは?」

アートプロジェクトとは何なのだろう。」という疑問から始まったこのブログ。TARLで得た知識をもとに、もう一度最初の疑問に立ち返ってみようと思います。

7月26日(金)にP+ARCHIVE事業の一環として、「Archives Kit Lab」第一回が行われました。
こちらではアートプロジェクトの現場で使いやすい、活動を残すためのアーカイブ手法をコンパクトにまとめたキットづくりを行います。そのため、まずはアーカイブス学研究者であり、編集者でもある齋藤歩さんをお招きし、基本的なアーカイブの理論について振り返り、キット作成のためのアドバイスをいただくとともに、P+ARCHIVEで昨年度行ってきた活動を検証しました。

その中で齋藤さんより、あくまでも暫定的なものと前置きがあったうえで、「アートプロジェクトとはなにか?」についての定義が提示されました。とてもシンプルで有効性のある定義だと感じたので、こちらで引用します。
1.「美術館という制度と空間から外に出て」……空間的ひろがり
2.「市民に依る参加をベースとして」……人的ひろがり
3.「プロセスを重視した」……時間的ひろがり
(竹久侑「本展の企画についての記録と考察」『「3.11とアーティスト:進行形の記録」記録集』(水戸芸術館、2012、145頁)
上記のような特徴を持った芸術活動が「アートプロジェクト」の想定する範囲ではないかとのこと。

そして、この特徴こそが「とらえにくさの根拠。」であり、果たしてこういった「ひろがりのある活動は記録可能か?」ということこそが、アートプロジェクトを残す際に常に前提として横たわり、立ち返るべき疑問としてあるとのこと。これはつまり「ひろがりのある」「とらえにくい」活動をアーカイブ化すれば定義可能か?という疑問と表裏一体でもあります。

とはいえ、齋藤さんから、いくつか大きなヒントをいただくことができました。

アートプロジェクトの実施に関わると、まずその活動のあいまいさ、そしてそれゆえの固有性に囚われることが多いのですが、そのこと自体が問題なのではないか?と、お話しを伺いながら、感じたのです。上記の1~3の特徴をもった活動は、それぞれ独自の広がりを持っており、到底あるシンプルなルールにのっとっては、運営も、ましてや記録もできないように感じられるのです。しかしながら、その一見大変個性的な活動に関しても、俯瞰して分析すれば、いくつかの共通の機能に分類が可能なのではないか、という指摘をいただき、はっとしたのです。こういった分類をアーカイブス学では「スタンダードシリーズ」というそうですが、まずはアートプロジェクトの実施主体(=記録作成母体)の基本的な活動の機能を分類することは可能だ、と認識することが重要なのです。その認識こそが、アーカイブ作りの第一歩となるのでしょう。

つまり、ある種の基準となる「スタンダード」を設定することにより、そこに収まりきらない活動の個性が明確になるのではないでしょうか。そしてそれこそが、その活動の評価につながる「何か」を浮き彫りにするはずです。

その他にも、アートプロジェクトの現場で発生する保存されず、廃棄されることもある「非記録(non-record)」情報は、しばし「ドキュメント」と呼ばれ、「記録集やカタログ」といったメディアに編集されるとの指摘がありました。そして、この活動の際に収集するさまざまな無形有形のデータを残すことが、実は活動をアーカイブ化する際の有効な作業になるのではないかとのこと。年度末に作成することの多いドキュメントを戦略的に利用すれば、最もシンプルに活動をアーカイブ化する手助けになるのかもしれません。その際に、資料の集積では見えない、プロジェクトのストーリーも編みこめば、より人がアクセスしたくなる魅力的な活動の記録としてのアーカイブ作成にもつながることでしょう。

さて、昨年度P+ARCHIVE事業として意欲的に取り組んできた『種は船プロジェクト』のアーカイブ作業は、一つの例を丁寧に検証する作業でした。そして、今回の講座では、この作業を振り返り、さらに一歩進めて、様々なアートプロジェクトに共通する「機能的なアーカイブのための資料の分類法」「そのための作業の基礎」を抽出し、整理することが可能になりそうな予感を感じました。キットづくりを通して、プロジェクトごとにアレンジ可能なアーカイブ方法のスタンダードを提示することにより、活動を記録することが一気に簡便化するのではないでしょうか。


種は船プロジェクトの資料の入ったフォルダーを参加者全員で確認している様子

このキットづくりでは、今後様々なプロジェクト実施主体の方々もお招きし、より良いものつくるべく意見交換をしていきます。自分たちの活動をスリム化するために、さらに未来に伝えるべき価値を描くために、アートプロジェクトの現場で使いやすいキットを丁寧に検討していきたいと思います。

今回はちょっとかたいお話しになりましたが、キットは手に取りやすい楽しいものにしようと企画中ですので、年度末の完成をお待ちください!

また、齋藤さんにご提示いただいた「アートプロジェクトとは何か。」を考えるためのいくつかの視点を参考にしながら、さらに様々な議論を積み重ねていくので、こちらもご期待ください。

東京アートポイント計画 プログラムオフィサー 熊谷薫

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