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文化の力・東京会議2012

東京都および東京文化発信プロジェクト室では、平成24年秋に開催予定の東京クリエイティブ・ウィークス期間中、10月19日(金)-10月20日(土)に国際会議「文化の力・東京会議」を昨年に引き続き開催します。
このブログでは、10月20日に開催される「文化の力・東京会議」の本会議に先立ち、10月19日に開催予定の分科会の事前準備会についてレポートします。

2012/09/19

国際会議「文化の力・東京会議」第二分科会 準備会 第一回(7月27日)レポート

第二分科会「文化芸術の挑戦に持続可能性を付与するフレームワーク」では以下のテーマで議論が展開される予定です。

「ひとつの文化的挑 戦が、持続可能な社会活動に発展するための仕組み、ルール、スケーラビリティについて議論する。現在、過疎対策や少子高齢化、まちづくりといった社会的課 題に対し、文化芸術分野では様々なアプローチが試みられている。しかし、限定的な活動に終始し、持続可能性を備えた社会変革活動の域に達せない事例も多 い。芸術文化のポテンシャルを最大限に活かすための要件とは何か。実践者同士の議論を通し、フレームワークへの昇華を目指す。」

議題
・ある文化の事例の効果が1000倍になるようなフレームワークとは
・既存のしくみとは異なる「やわらかなしくみ」づくりとは
・ある状況で、ある目的を達成するために、どのような方法が必要なのか
・違和感やずれを大事にしながら状況を問い直す、アートの力とは

主な出席者
・林千晶氏(ロフトワーク)
・藤浩志氏(アーティスト)
・西條剛央氏(ふんばろう東日本支援プロジェクト/早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程(MBA)専任講師)
・東京都歴史文化財団 東京文化発信プロジェクト室関係者
・国際交流基金関係者 

すでにご紹介しましたが、第二分科会では準備会の初回が正式に開催される前に、議論の方向性について話し合う機会が持たれました。そ こでの議論を踏まえた上で、会議当日は西條氏による活動の紹介から議論をスタートさせました。西條氏は、早稲田大学大学院の講師でありながら、ふんばろう 東日本支援プロジェクトという日本最大級のボランティア組織を立ち上げ、被災地に必要な物を必要な人に必要なだけ届ける仕組みを生み出されています。

西 條「震災後、『ふんばろう東日本』というプロジェクトを作り、アマゾンの仕組みなどを利用して、最初は物資の支援から始めました。例えば赤十字の支援は受 けられないが、家電はないという人がいました。そこに家電を送るための仕組みを作りました。そのほか、重機免許を取得できるようにして、被災した方が自立 するための支援も考えました。」

林「そのほかにもお手紙を届けるといったような、物以外を届ける、気持ちがつながることを考えた仕組みもありますよね。西條先生は現地での支援と、後方支援の両方を実践されていますね。やりたい人がやれる仕組みを作られているのは素晴らしいです。」


(林千晶、西條剛央)

西條「支援への関わり方もその人の状況によります。つまり関心は人によってさまざま。どんな人でも来れば、関心に応じて何かできるようなプラットフォーム 作りをしています。私は構造構成主義を提唱していますが、そのメタ理論がある領域限定ではなく、越境して使えるものだ、ということがわかりました。

これまで思想というものは言語の戯れでよかったのですが、震災以後、思想事態がためされたといえます。私は構造構成主義の手法を用い、パッションと現実の仕組みが矛盾せず存在できるあり方を模索してやっていこう提示できると思っています。」

林「ある事例が残るかどうかに関して、パッションをどうアクションにつなげ、そのストラクチャーをどう作るか、という考え方に関してはイノヴェーションの発想とよく似ていますね。」

藤「西條さんの理論から形にする手法について大変興味があるので、伺いたいです。」

西 條「プロジェクトから例をとれば、物資の送り方の方法に関しての話があります。既存の方法では、まず物資を集め、集めた県の倉庫に入れ、その後被災地の市 町村の倉庫に入れて、そこから出して物資を配るという流れになります。ところが、この方法だと、倉庫に入れて出して、送ってなど、それだけで大変な手間が かかりますし、一度倉庫がいっぱいになれば、物資を集めることもストップしなくてはいけない。

つまり、手続きはあれど、方法として目的、 この場合は物資を被災者に届けるということが達成できないのであれば、それは方法ですらない、と言えるわけです。そこで、私は既存のものをいかにうまく使 い、目的を達成するかを考えました。インターネットや宅急便の仕組みを使い、個々人が必要な人に必要なだけ届く、直送の仕組みを考えたわけです。

す べての方法に共通していることは、特定の状況で特定の目的を達成する手段である、ということです。そういうものを僕らは「方法」と呼んでいる。これが「方 法の原理」という考え方ですね。つまり、状況と目的によって方法の有効性は変わる。その都度有効な方法を探すことが重要なのです。

今回の 未曾有の災害では、誰も経験したことがなかったがゆえに、ゼロベースで方法を考えることが求められました。だから構造構成主義が役立ったのです。現在様々 な変化のスピードは速くなっていますが、その刻々と変化する状況の中では、既存の仕組みはすぐ使えなくなってしまいます。あらゆるもののパフォーマンスを 上げる、新しい方法論が求められていると言えるでしょう。」

林「私はそういった既存の方法論を問うという力をアートが持っている と考えています。つまりアートには前提を問う力がある。アートの目的というのは、物を作ることではなく、その物を通して会話をすること。つまり、何かを見 て「えっ」と感じるその気持ちそれ自体が目的ともいえるのではないでしょうか。

北川フラム氏が越後妻有トリエンナーレに関して言っていた 言葉がとてもいいなと思ったんですが、「私は町おこしができるとは思っていない。物を置くことによって、これってなんなのという会話が生まれるというのが 目的。そこから何かが始まるということが大事だから。」とおっしゃっていたのです。アーティストとして藤さんの言葉はどうお考えですか?」

藤 「私は違和感と向き合うところから始まるのではないかと考えます。例えば地域への違和感とか。言葉にもできず、モヤモヤした感覚から新しいイメージは立ち 上がるのではないかと。今日話を伺って、すごく面白かった。状況と目的、というものがクリアになった。僕にとって状況をとらえ活動をつくる作業は違和感を いじる作業に近いような気がしました。

そのとき、目的とされるものは最終地点のビジョンのようなものではなく、状況に方向性をつくり動き 始めるベクトルのようなものではないかなと思っています。動いてゆく中で様々に広がる活動の可能性、あるいは違和感との感覚のやりとりの中で見えてくるベ クトルそのものが希望や期待を作り出しているのではないかと。つまり、何かに向かってやらされているという感じになってしまうと、希望がなくなるので す。」


(藤浩志)

西條「そうですね。構造構成主義に基づく支援活動もそんな感じ進めています。構造構成主義や現象学においては、立ち現れるものが、さしあたって事実だとと らえます。そのなかで活動をする。立ち現れた経験の中で、違和感をもったり、こうしたいといった関心をもったり、じゃあどういう方法があるのかと考えた り、そういうやり方で被災者を支援してきました。そこから関心も生み出される。

ただ、言葉で生み出せるものはごくわずかです。科学におい ては、同一性を探るのが大事です。つまり、言葉によって同一性をさぐる。一方で芸術においては、ずれを重視しますよね。内側からかきわけて、どうすらして いくか、というような。忘れがちなんですが、それらはどちらが正しいかということではなく、もともと関心の方向性が違うんですよね。」

藤「なるほど、まさにその通りです。私はむしろずれ方に興味を持ってしまいます。」

林 「何かを決めるのに、多数決ではないというのは大事ですよね。つまり問いの質が重要。合議制はだめですね。アーティストは個人で問いますよね。彼らは必至 に問うからこそ説得力があると思います。ところで西條さんは、活動などの質の高さの判断はどこでされていますか?そもそも質の高さというものはあるので しょうか。誰が決めるのでしょうか。」


(林千晶)

西條「私は価値を決めるのは人だと思っています。では価値とは何か。全ての価値は自身の欲望などに相関して立ち現れます。これは「価値の原理」です。つまり自分の関心のあり方に応じて現れる。

こ れは当たり前のようですが、普段の認識は逆なんです。つまり、悪い人間がいるから悪い人間が見えているんだ、と考える。自分の関心と切り離して価値や事実 認識が成立していると考えてしまうわけです。そうするとそれは「客観的な事実」ということになりますから、異なる「事実」がぶつかりあい、そこにはわかり あえる可能性というものがなくなってしまう。しかし、全ての価値は関心相関的に、つまり良い悪いといった価値判断は、自分の身体や欲望や関心に応じてなさ れるわけです。
 
だから、自分がどういう関心を持っているのかを自覚することは大事になるんです。すべてそこから判断されるわけですか ら。そしてその関心のあり方自体が妥当なのかを問うことも大切ですね。その関心や目的が妥当なもので、皆で共有したならば、常にそれに照らして考えればよ い。そしてその目的からぶれないことも大事です。

よくあるのは、「失敗したくない」「批判されたくない」という関心の方が本来の目的とす り替わってしまうことです。つまり、被災者支援が目的なのに、失敗したくない、ということと入れ替わってしまう。そうすると「やめておこう」となってしま う。失敗しないためには何もしないという方法が有効ということになりますから。しかし、これでは誰も助けることができないわけです。

大きな目的としては、さしあたり誰もが幸せに生きたいと思っている、ということはいえると思うので、迷ったときは、「より幸せな社会にするために」ということを大目的として置いて、それぞれの関心や方法が妥当かどうか考えていけばよいと思います。」

林「ところで、幸せについてですが、人と人の間で「幸せ像」の形を共有するのは難しい物ですよね。例えば、お金だけが幸せに貢献するわけではないとのに、とらわれている人が多い。幸せって青い鳥みたいなものでしょうか。なかなか気づかない。」

西 條「つまり価値の問題であり、言葉の問題ですね。幸せって何?という言葉の問題。でも必ずしも幸せの像が同じである必要ってないんですよ。それはひとり一 人違うわけですから。「幸せ」を実体的に捉えてしまうと途端に難しくなってしまいます。ただ「幸せ」という言葉を使って僕らがコミュニケーションできてい る時点で、何らかの同一性はあるということなのですから、「より幸せな社会にする」ということを置いておくだけで建設的に物事を進めていくことはできるん です。

「社会を変える」ということはよいように思われがちですが、社会変革によって不幸になるのではだめですよね。社会を変えること=よいこと、ではないわけです。変わらない方が幸せだったということもあるわけですから。

ただ、ある時期にはここだけは変えないと社会が倒れる、変えないといけないということがあるのです。そういう場合には、方法の原理や価値の原理といった考え方をフレームワークとしてもつことにより、物事を先に進めることができるようになります。」


(西條剛央)

藤「確かに絶対的な価値などありえないですよね。価値のあるように見えてしまうもののなかで、価値が作られる。でも実は「誰と」の関係の中で価値は変わると思います。誰と対峙し、誰と語るかによって自分の中の価値もその都度変化することに注目しています。

私 はアーティストとして、地域社会の中にいろいろな活動を起動させるOS的なシステムを作ることにも興味を持って活動しています。いろいろな興味や関心が発 生し、様々な物事が動き始める状況をつくることです。人々の興味や関心が変化することで、人々の地域社会との関係も変化します。

そのシス テムをつくるうえで重要なのは本気の態度なのではないかと考えるようになりました。面白いとふるまうこと、何かが面白いというように見せるマジックです。 そうするとまわりの人が巻き込まれてくる。つまり、アーティストにとって重要なのは、この態度を発することなのかなと。」

西條「それはとても原理的なことですね。特に現代社会においては作品とアーティストは分けられないですよね。その人の人となりや、態度も含めて表現方法やおもしろさ、評価の中に入ってくる。人間は立ち現れた現象全体の中から物事を判断していきますからね。」

林「次回は、西條さんにうかがった構造構成主義についてふまえつつ、事例をふまえたお話をしたいと思います。どこが状況や関心のあるところなのか。人はなぜわくわくしたのか。事例を通じて理論を深めることができるのか。キーワードを明らかにしたいです。

今 回の会議の前にお話しをした際に、やわらかいしくみ、というものが出ました。つまり、方法を決めるのではなく、状況や目的をとれない仕組みは違う。どんど んかわっていく仕組みではあるけれど、何もないわけではない。そういったものがあるのでは、と考えています。無形の形といいましょうか。」

山口「ディレクターの山口です。大変面白いお話しでした。日常のレベルでひろがる思想ですね。」

西條「そうですね。大きな社会システムと日常の営み。大きな物語と小さな物語を共存させる上位の考え方を提示したいと思います。」

第二分科会準備会初回において、明らかになったのは既存のしくみが自明なものではなく、それこそが問い直し続けられる必要があること。そして、その問いの 発し方や、問う為の思想、そういった可変生を踏まえたプラットフォームといったものが可能なのではないかということについて、柔軟に事例を踏まえて検討す ることこそが重要ということです。今後は具体的な事例を踏まえ、さらに議論が発展する予定。具体的なアクションにつながる議論の展開が期待されます。

(文:国際会議分科会担当 熊谷薫)

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