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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2018/05/02

アーツアカデミー2017レポート第10回:研究最終発表・ついに本番!<後編>(平成29年度アーツアカデミー事業報告会)

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。

1年を通してアートをめぐるリサーチを行いながら、東京都の文化政策や助成制度を知り、芸術文化活動の評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからのアートの世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。

当レポートでは、アーツアカデミーの1年をご紹介していきます。



調査研究員が半年以上をかけて進めてきた研究の成果を発表する「アーツアカデミー事業報告会」が、平成30年(2018年)1月30日、アーツカウンシル東京の会議室で行われました。この報告会は一般公開はしておりませんが、芸術文化支援に携わるさまざまな関係者をギャラリーに招いて行われました。前回は前半のレポートでしたが、引き続き後半の模様をお伝えします。

フリーランス制作者の働き方と育成を考える

次に発表を行った調査研究員(専門分野:舞踊)は、「コンテンポラリーダンス制作者の育成」をテーマに選びました。特にコンテンポラリーダンスの分野でのフリーランス制作者が直面する現状の課題として、収入の不安定さ、事前に業務量が見通せない、若手育成のしくみの不在、等々を挙げ、充実した創作環境のためには「制作者の人材育成が重要な課題」だと指摘します。その改善のためのフリーランス制作者の育成案として、個人の制作者が徒弟制度のような形で育成に当たるしくみや、ダンサーが公演の運営・制作を学び実践する環境づくりなど、様々な角度から、現場に即した提案がなされました。
「柔軟な育成体制や働き方が実現できれば、制作者は創作の現場を支えているという自覚をもつことができ、企画立案にも思考が及びます。そんな制作者の中からプロデューサーが生まれてくるのが育成の理想の形だと思います」
会場からもフリー制作者の仕事の現場や支援について具体的な質問が出ていました。

演劇の「横断的鑑賞プログラム」を目指して

次の調査研究員(専門分野:演劇・社会支援)のテーマは、演劇を志す学生を対象とした「横断的鑑賞プログラムの構築に向けて」です。
「演劇を学ぶには、色々な種類の舞台に実際に接することが必要です。絵画のように目の前にある作品を模写して学ぶということが難しい分野です。先行事例から学ぶためには、さまざまな系統の作品を見比べ、応用する技術やセンスをつねに選んでいく必要があります」
ところが現在、国内の現代舞台芸術は細分化しており、ふだんよく見る劇団やその系列の関連情報は入手しやすくても未知のコンテクストに出合うのが難しい状況になっている、と同調査研究員は考えます。
そこで提案されたのが、多様な種類の演劇作品に横断的に出合うことができる鑑賞プログラムの構築です。対象作品の抽出に当たっては、同調査研究員は国際演劇協会日本センター(ITI)が過去に実施していた「養成プログラム 演劇の再生」の鑑賞リストやアーツカウンシル東京の調査対象リストを参考にしています。学生が未知の傾向の作品に触れることの重要さを説く姿勢に、会場からは大きな拍手が送られました。

稽古場などの「創造環境」をどう支援するか

最後に登壇した調査研究員(専門分野:舞踊)のテーマは、小劇場分野での「稽古場不足」の問題です。稽古場の供給率として「50%」(2009年の東京芸術文化評議会による報告書より)という数字があります。稽古場としてよく使われる区民施設や民間のレンタルスタジオには、それぞれ利用上の規則や時間の制限、料金の高さといった問題があります。同研究員は、公立専用練習施設の稼働率の高さから、創造環境の整備はいまだ「早急に取り組むべき問題」だと指摘します。
「『創造』プロセスは成果が不確かなため、公的支援に困難が伴ってきました。しかし、支援が『発表』に偏ると作品発表が目的化され、現場を疲弊させてしまう恐れがあります」
同研究員は、新たな公的施設設置の可能性、民間の創造支援事業への助成など、あらゆる角度から創造環境の改善案を提起しました。案の中味はどれも極めて具体的で、会場では配布された資料に目を近づけて熟読する人の姿も多く見られました。

調査研究員は各自アートの現場で仕事をもっています。また、この1年を通じて、調査研究員たちはアーツカウンシル東京の委嘱により、さまざまな公演や展覧会の調査・視察を積み重ねてきました。そうした活動と同時進行で進められた今回の研究発表の内容には、東京のアートシーンの「今」と、それぞれの課題や可能性が汲み取られていたように思います。この日、会場に招かれた文化芸術支援の関係者からは、調査研究員に対して多くの質問や感想が寄せられていました。
「何が生まれるかわからない『創造』と、成果を求める公的支援の間にはつねに矛盾がつきまとう。それでも『創造』を応援し続けるために、調査研究員の皆さんには暫定的な案でも妥協的な案でも、しつこく提案を続け、ステップを積み重ねてほしい」という会場からの意見が印象的でした。

2017年度のアーツアカデミー調査研究員の今後のさらなる活躍を祈りつつ、これでレポート・シリーズを終わります。これまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

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