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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/02/12

アーツアカデミー2018 第3回レポート:活動のためのファンドレイジング力を磨く[講師:伊藤美歩さん、若林朋子さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、2018年にリニューアルしたアーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


芸術文化団体に身を置く方であれば、少なからず感じる資金調達の苦労や課題。最近ではSNSなどでクラウドファンディングを実施している芸術団体や仲間の活動が目に留まる機会が増え、「ファンドレイジング」という言葉自体も身近になりつつあります。実際のところファンドレイジングとは何を意味し、どのような構造で取り組まれるものでしょうか。第3回は、芸術文化業界において、今、最も知りたいことの1つ「ファンドレイジング」をテーマに、2018年度アーツアカデミーのアドバイザーである伊藤美歩(いとう・みほ)さんと、若林朋子(わかばやし・ともこ)さんが講師となり、実施しました。

ファンドレイジング=ファンの度合いを上げる

受講生のこれまでの取り組みをきいてみると、事業のクラウドファンディングや、「友の会」という形式での会費・寄付金集めなど、事業収入や助成金でないかたちの資金集めを実践している方が多くいました。一方で、欧米などでみられるファンドレイジング専任の担当者がいる団体の例はなく、同課題を掘り下げていく余地はまだまだあるような状況でした。また、芸術分野特有の課題として、社会課題解決型プロジェクトの訴求力に比べて、潜在的支援者に伝わる価値の言語化がハードルとなっていることがあるようです。自分の活動を1分間トークで紹介するグループワークでは、短い時間で活動の価値を相手に伝えることの難しさを実感していました。

芸術文化団体へのアドバイスとして、伊藤さんは、「いきなり全ての人を対象にするのではなく、活動の価値をわかってもらっている人からアプローチするという優先順位の設定は必要。そういうところが他の非営利団体と少し違うかもしれません」とコメント。また、寄付依頼は工程が重要で、[潜在的寄付者]→[1回目の寄付者]→[リピート寄付者]→[マンスリーサポーター]→[大口寄付者]→[遺贈寄付者]という寄付者(ドナー)ピラミッドにおいて、支援者をより上部にあげていくように戦略をたてるということです。


伊藤さんのレクチャー資料:寄付者(ドナー)ピラミッド

どのような財源の種類があり、どのような活用方法があるのか?

続いて若林さんから、「限られたパイの取り合いではなく、いかにパイ=資金源を広げるかの発想転換」することが強調されました。公的な芸術文化支援が潤沢とはいえない状況下で、金銭以外も含む多様な民間支援の事例は、私たちの視野をぐんと広げてくれました。「民間」というだけでも、企業や団体、個人など様々で、限りある公的支援に比べて開拓のしがいがあります。その開拓のためには、まずは自団体の基盤となる財源を明確にし、収入源のバランスを整理することからはじまります。どのようなリソースを必要としているのか? そのリソースを得るための支援は何か? を把握することで、マッチする支援プログラム、支援相手が見えてきます。相手にとって「新たな価値」の提案となるようなアプローチがポイントです。


若林さんのレクチャー資料:当たり前のようであらためて気づかされる大切なポイント

ステークホルダーマッピングで見えてくる現実的な距離感や、ステークホルダーの実感度

再び伊藤さんにバトンがわたり、潜在寄付者の把握のためのステークホルダーマッピングを行いました。自団体(活動・事業)に当てはめて具体的なステークホルダーの名前と関係性をワークシートに落とし込みます。

「まずはどんなステークホルダーがいるのかカテゴリーを洗い出すだけでも大切」と言う伊藤さん。ワークを通じて、「関係性が近いと思っていたステークホルダーが実は遠かった」という気づきなど、受講生の間でも意外な発見があったようです。

輪の中心が大きいほど、外側のステークホルダーも増加する構造がわかり、輪の中心になる人を育てていく重要性を再確認しました。そして、このマッピングで洗い出したステークホルダー(とカテゴリー)に対して、関係作りの糸口を探したり、アクションプランを立てるため、「関係度」&「金銭能力」マトリックスを使い分析します。


伊藤さんのレクチャー資料:ステークホルダーマッピング

講座のなかで繰り返し話された、「支援」までの道のり(工程)をどのように築いていくか。その問いかけを反芻することで、「ファンドレイジング」のイメージが変化し、「ファンドレイジング」=「ファンづくり」という考え方がじわじわと染み込んでいくようでした。

ファンドレイジングに不可欠な団体と支援者の「関係性」が、お願いするという一方的なものではなく、対等であるべきだという点も、受講生を勇気付ける大きな学びでした。講師の伊藤さん、若林さん、受講生同士で、ご当地WAONを使った寄付などの創造的なアイディアや体験談の数々が飛び交った今回。受講生の皆さんが、これからどのような「ファンドレイジング」に挑戦されていくのか楽しみです。



受講生のひとり、新潟アーツカウンシルの石田高広さんが紹介してくれた新潟市のご当地WAON。講義後の懇親会でも盛り上がりました。

芸術文化団体の多くは、ファンドレイジングに時間と人を十分に確保することは難しく、働く人は目の前の業務を消化するのに精一杯ですが、今こそ開拓していくべき、そしてその甲斐がある活動ではないかと感じました。

次回のレポートは第4回「活動の意義を伝える評価軸を磨く~自身の活動の意義を客観的に伝える術を鍛え磨く~」です。評価の必要性や公的資金による事業は説明責任等が注目されている中で、自分たちの活動を自分たちで評価する、という点から伝える力を磨く時間になりそうです。お楽しみに!

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