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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/04/03

アーツアカデミー2018 第4回レポート:活動の意義を伝える評価軸を磨く─自身の活動意義を客観的に伝える術を鍛え磨く─[講師:落合千華さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、2018年にリニューアルしたアーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


第4回講座は「活動の意義を伝える評価軸を磨く─自身の活動意義を客観的に伝える術を鍛え磨く─」と題して、社会的インパクト評価を通した社会的事業の改善・マネジメント支援がご専門の落合千華さんを講師に迎え、文化・芸術の分野でも常に課題の一つとして挙げられる「評価」について学ぶ時間となりました。

落合さんの計らいで、受講生へ事前アンケートが行われ、講座への意気込みも「評価」という点から観測した上開催されました。この事前アンケートでは「あなたが思う『評価』という言葉の説明を一文で書くとどのようなものですか?」という設問に「客観的」「第三者」「測定」という言葉が多く上がっていました。

講師の落合千華さん

アンケート結果を分析した上で、落合さんは今回の講座の目的を以下の3つにまとめました。

  1. 評価の意義を理解し、慣れる
  2. 評価のエッセンスを周囲に届ける
  3. データを一つでもよいからとってみる

「今日からできること」として、講座の副題のとおり、伝えるスキルとして「評価」を活用できるように、まずはそのエッセンスを持ち帰るということから出発しました。

そもそも「評価」とは何か

「評価」とは対象となるものの文脈がわからない人に対して説明する際に有効な手段であると落合さんは言います。そして「評価」に関わる「社会的インパクト」については、「社会」とは何か、まず関係者でよく話し合い、合意すること。そして合意された「社会」において事業の介入によりどのような成果が出たのか。介入が無かったときと比較したその成果の差分をインパクトといいます。

このように、自明とされてきた単語の一つ一つを明快に解析していく落合さん。アンケート結果でも多くの受講生が持っていた「客観性」というイメージについても、評価の世界で言われる「Objectivity is myth(客観性は神話)」つまり客観性はない、という考え方もあることが紹介され、私たちが日ごろ持っている前提や先入観が次々に覆されていきました。

「客観性を追求しなくても良い評価がある」というお話は「何をもって客観的と言えるのか」という問いや「他者からの評価は必須」という固定概念に囚われ感じる困難から解放される突破口となりました。

評価のプロセス

落合さんのレクチャー資料:「計画、実行、分析、活用の順で周期を繰り返していく」

では「評価」とは具体的にどのように行うのか。「評価」のプロセスは次の4つに分けられます。

  1. 計画
  2. 実行
  3. 分析
  4. 報告・活用

「1. 計画」は、何を知りたいのか、どのようなデータが必要なのかを考える、特に事業改善を志向する「評価」の要となるプロセスで、高い専門性と労力が求められます。「1. 計画」の段階では外部団体へ委託をすることもありますが、事業実施者自ら「評価」に携わることはメリットしかない、と落合さんは語ります。前述の通り「評価」における客観性よりも、当事者が評価を理解し取り組むことが、ロジックを整理し、「評価」を活用していくことが事業をより良くしていくには重要とのこと。ただ文化や芸術分野の価値創造型の事業や、実演家にとって、「評価」と「創造性・芸術性」のジレンマもあることを確認し、“社会的な成果を志向しているわけではなければ評価をしない”という判断も計画であること、または事業(活動・作品等)を「芸術的」に評価するのは一旦社会性とは切り分けた上で、あくまで批評家の仕事にあたるかもしれない、というお話も印象的でした。

いずれにしても、「なぜ『評価』するのか、何のために、誰が必要なのかを関係者で明確にする」ことが強調されました。つまり「評価目的」が曖昧で、関係者と共有ができていないと、評価結果の活用もできません。例えば、現場担当者が主導して実施した「評価」の結果を、上司から「この結果(評価)は使えない」とされる残念な結果にならないよう、計画段階で組織内での丁寧な対話を行い、コンセンサスをとることが重要です。

落合さんのレクチャー資料:「なぜ評価するのか、何のために、誰が必要なのかを関係者で明確にする」

ロジックモデルを作ってみる

落合さんのレクチャー資料:「ロジックモデルを作り、活動からアウトカムまでの道筋を言語化する」

後半は実際にセオリーを作っていくというワークが行われました。

ロジックモデルを作り、活動からアウトカムまでの道筋を言語化していきます。

  1. 課題の深堀り
  2. ステークホルダー分析・システムマップ描写
  3. 成功のイメージ
  4. アウトカムの設定(セオリー作成)
  5. 指標作成と目標設定

この5にわけてセオリーを作っていきます。

グループで取り組んだこのワーク。自身の活動の再定義、関わっていく社会とステークホルダーのマッピング、そこに派生するアウトカムを整理する作業は、講座内で実施するには時間切れの受講生も多かったようです。しかし、芸術文化への愛をお持ちで、実際に文化事業に対する社会的インパクト評価に取り組まれている落合さんから、受講生それぞれの質問に的確丁寧なアドバイスもあり、学びも手応えもしっかりと得ることができました。


自分の活動に置き換えての質疑応答

「評価」は実は、ヴィジョン、ミッションの定義やステークホルダーマッピングなどこれまで実施してきた講座内容とも深くつながっていることも実感できた今回の講座。

講座の最初に落合さんから提案された

  • 「評価」のエッセンスを周囲に届ける
  • データを実際にとってみる

という、持ち帰ってからできる実践の大切さが強調されました。

「評価」とは実際に取り組んでみないとハードルの高いものでしたが、「客観性」というイメージから解放されること、「価値づけ」「言語化」など表現の変換で、“自分ごと”として感じられるようになったのではないでしょうか。これまで、他者から価値判断され「評価されるもの」として受け身だったものが、自身の活動を発展させるために、自分達で作っていくものなのだ、ということが実感できた今回の講座では「評価」に対して積極性が身についた気がします。

次回は、芸術文化と社会の接続の在り方を、受講生それぞれの活動を起点に生態系としてとらえてみる、大澤寅雄さんの講義です。お楽しみに!


<講師プロフィール>
落合千華
ケイスリー株式会社 最高執行責任者 COO、慶應義塾大学政策・メディア研究科研究員。プログラム評価等をとおした社会的事業のインパクトマネジメント支援、その研究に従事。特にコミュニティ支援や社会包摂を目的とした芸術文化活動を重点領域とする。財務的支援にも知見を有し、ソーシャル・インパクト・ボンド導入支援を含む各中央省庁の調査研究や、地方行政、民間企業、NPO等の評価事業に参画経験有。外資系メーカーR&D、経営コンサルタントを経て、2016年4月よりケイスリー参画。應義塾大学大学院理工学研究科修了。慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程在籍中。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM))

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