ACT取材ノート
東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。
2019/04/08
高齢者対象の映像制作ワークショップ「えいちゃんくらぶ」が成果を披露
武蔵小金井駅からほど近いシャトー小金井。
2019年3月12日(火)~16日(土)、その一室にある「小金井アートスポットシャトー2F」で「えいちゃんふぇす~多様にたわわな実りと種~」が開催されました。
えいちゃんふぇすは、小金井市内を中心にアートイベントなどを行っているNPO法人アートフル・アクションと東京都、小金井市、アーツカウンシル東京が展開するアートプロジェクト「小金井アートフル・アクション!」の一環として実施する映像作品の展覧会。
おおむね70歳以上の人を対象にした半年間の映像制作のワークショップ「えいちゃんくらぶ」(映像メモリーちゃんぽんくらぶ)の成果を披露する場です。
スクリーンやノートパソコン、スマートフォンなどいろいろな形態で、メンバー各々の映像作品が映し出されています。
会場で、えいちゃんくらぶの5人のメンバーと、講師を務める映画研究家の角尾宣信さんにお話を伺うことができました。
「えいちゃんくらぶ」のみなさん。左から、山本さん、なみさん、坂本さん、てるちゃん、講師の角尾さん、外山さん
メンバーたちは、半年間、月に2回ほどのペースで集まって撮影や編集を学びました。
参加を決めたきっかけはいろいろ。たとえば坂本さんは映画ファンで、「映像というものがどうやって作られているのか知りたかった」と話します。
写真が趣味のてるちゃんは、「写真は瞬間を捉えるものだけど、映像はその続きが見られる」と思い参加しました。
撮影にはそれぞれの私物のデジカメを使い、動画編集ソフトで編集。「最初はデジカメで動画を撮れることすら知らなかった」という方も多かったなか、最終的にひとり2〜3作品、全部で12もの力作ができあがりました。
夫婦で参加した、「アイデアはどんどん出てくる」監督タイプのなみさんと、「編集作業が大好きなんですよ」という坂本さん。ふたりで役割分担をして作品を作りました
カフェに集まる人々を写した30分のドキュメンタリー『あるコミュニティ・カフェのはなし』(坂本さん 作)
坂本さんがチーズケーキを作る様子を撮影した『チーズケーキ作り』(なみさん 作)。いい香りが漂ってきそうです
毎年の恒例行事だという、ご自宅での甘夏みかんの収穫。それをキッチンで絞ってジュースにする様子を写した『甘夏みかん』(坂本さん 作)
散歩の道中など、日常のなかで見かけた草花を断続的に記録し、1本の映像に仕上げた『木と草と花』(なみさん 作)
ワンカットの短い映像を撮ってみるところから始まったワークショップ。メンバーたちは、回が進むにつれてメキメキと腕を上げていったそうです。
次第に制作への思いが強くなり、山本さんは「こうしたいっていう思いが出てくると、だんだん自分に課すものも増えて。日常のなかでも常に映像制作のことを考えちゃって、しんどいときもありました(笑)」と話します。
なみさんに誘われ、途中参加した山本さん。「見学のつもりで行ったんですが、ゆるゆるっとした雰囲気が気に入って」参加を決めたのだそう
織り機でマフラーを作るまでを丁寧に追ったドキュメンタリー『旅するひつじ』(山本さん 作)
大きなスクリーンに次々と映し出される夕暮れの空。美しさに圧倒される『夕焼け』(山本さん 作)
外山さんにワークショップの感想を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「講師の角尾さんと伊藤さんは、お若いのに年配者の気持ちをわかってくれるんです。何を言っても否定せず、ちらっと話したこともすくい取ってくれる。そんな彼らに教えてもらえたから、最後まで続けられました。ケンカするようなことがあったら、きっと途中でやめちゃってたわ」。
それを聞いた角尾さんは「ケンカしなくてよかった!(笑)」とひと言。みなさんからどっと笑いが起こります。
全員が本気で取り組んだからこそ生まれた、楽しく和やかな雰囲気とチームワーク。この半年間で築かれていった、みなさんの関係性が感じられた瞬間でした。
もともと写真が趣味だったという外山さん。「写真が動いたら楽しいんじゃないかと思ったの。それから、70歳以上という条件が気に入って参加しました」と話します
『Rendez-vous』(外山さん 作)。目に負担がかかるパソコンでの作業が難しかったため、編集を極力せずに済むよう、シナリオの順番通りに撮影する「順撮り」で作られました
『Let’s Dance!』(外山さん 作)では、外山さんが趣味で作った人形たちを撮影。会場では、スクリーンの前に人形を並べる演出も
長年、写真を趣味にしてきたてるちゃん。会場では写真作品も展示しました
散策で訪れた浅草を写した『野川と浅草の風景』(てるちゃん 作)。美しい構図に、長年続けてきた写真の腕が光ります
応仁の乱の時代までさかのぼるという、自身の家系のルーツをテーマにした『柿内家始孫』(てるちゃん 作)。家系図が写され、ナレーションでその歴史が語られます
映像とともに、てるちゃんが自作した家系図も展示されていました
今回の展覧会でひと区切りを迎えた、えいちゃんくらぶ。
来期以降の活動については、これまで通りみんなで話し合って決めるのだそうです。
角尾さんが「ぜひ来期も続けたいですよね。次は、みんなで1本の作品を撮るのもおもしろいかなと目論んでいます」と話すと、「しばらく休みたい(笑)」「わたし、もう疲れた〜」と笑い合うメンバーたち。
そう言いながらも、「このまま解散っていうのも寂しいよね」というてるちゃんの言葉に、みなさんはうなずいていました。
会場中にものづくりの楽しさがあふれていた「えいちゃんふぇす」。自由な発想と、作品に向き合う真摯な姿勢にはっとさせられました。
これからの展開にも期待しています!
小金井アートフル・アクション!「えいちゃんふぇす~多様にたわわな実りと種~」
- 会期:2019年3月12日(火)~16日(土)12:00~18:00
- 会場:小金井アートスポットシャトー2F(東京都小金井市本町6-5-3 シャトー2F)、その他市内各所
- 主催:東京都、小金井市、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、NPO法人アートフル・アクション
- イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/34153/
撮影:鈴木穣蔵
取材・文:平林理奈