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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/04/10

アーツアカデミー2018 第6回レポート:課題解決戦略レポートの最終発表会

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、2018年にリニューアルしたアーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


今回は、平成30年度アーツアカデミーの集大成となる課題解決戦略レポートの最終発表会。5回の講座を経て受講生が体得したものが形となって表れます。受講生は課題解決戦略レポートを作成するにあたり、アドバイザーのお二人にメールや面談、電話などでの相談や、受講生同士で情報交換をしながら、レポートを書き上げてきました。発表当日は、芸術・文化関係者20人以上が駆けつけてくださり、いつもの活気溢れた中に緊張感が加わった雰囲気となりました。

受講生18人の課題解決戦略レポートのタイトルは以下のとおりです(発表順)。タイトルだけ並べてみても、立場によって視点や方向性が異なり、受講生自身が抱えている課題とヴィジョンがよくわかります。(各受講生のレポート内容は後日こちらのウェブサイトで公開する予定です。)
応募当時のもやもやした課題が、講座を通じて行われたヴィジョン、ミッションを徹底的に言語化する作業や、ファンドレイジングや評価のワークショップにより明確化され、ロジカルに“磨かれた”課題解決戦略レポートとなりました。

  • 小野良さん(guizillen/足立区文化芸術劇場[シアター1010])
    『劇団のネットワークの構築に関してのプロセスと展望』
  • 鈴木加奈子さん(センションハウス企画室 制作/マドモアゼル・シネマ ダンサー)
    『コンテンポラリーダンス発信の場としての新たな挑戦―「ダンサーとアーティストを繋ぐマッチング劇場」としての新施策―』
  • 吉村衣世さん(公益財団法人現代人形劇センター/人形劇団デフ・パペットシアター・ひとみ)
    『実行委員会形式公演の可能性について』
  • 後藤良基さん(浦安音楽ホール)
    『これからの社会により貢献できるクラシック業界を目指すために』


(左上)小野良さん(右上)鈴木加奈子さん(左下)吉村衣世さん(右下)後藤良基さん

  • 石田高浩さん(アーツカウンシル新潟 プログラムオフィサー)
    『地域拠点プロジェクトの評価を通した地域アートプロジェクトの在り方の検討―新潟市・水と土の芸術祭市民プロジェクトを事例として―』
  • 小川まきさん(NPO法人シアタープランニングネットワーク)
    『理事会へのファンドレイジングプランの提案について』
  • 馬淵宏真さん(公認会計士/一般社団法人 Music Dialogue 監事/Foglietta Opera (フォリエッタ オペラ)監事/NPO法人 森林浴音楽会 監事)
    『アートプロボノ普及のための事業についての提言―専門家が文化芸術団体をサポートしやすい社会の実現のために―』
  • 宮本晶子さん(水戸芸術館演劇部門 企画制作)
    『社会と共生する文化担い手になるには』


(左上)石田高浩さん(右上)小川まきさん(左下)馬淵宏真さん(右下)宮本晶子さん

  • 藤原佳奈さん(mizhen)
    『アーツアカデミーを経て考える、創客について』
  • 松浦彩さん(公益財団法人石橋財団ブリヂストン美術館コミュニケーション部広報課)
    『私の思うこれからの美術館のあり方』
  • 坂本ももさん(舞台制作者 [ロロ/範宙遊泳])
    『誰も排除しない演劇を目指して』
  • 塩見直子さん(公益財団法人豊橋文化振興財団 穂の国とよはし芸術劇場 事業制作部 教育普及リーダー)
    『穂の国とよはし芸術劇場のこれからを考える―「人づくり」「場づくり」としての劇場―』


(左上)藤原佳奈さん(右上)松浦彩さん(左下)坂本ももさん(右下上)塩見直子さん

  • 今井俊介さん(公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場 事業企画課)
    『30年後の劇場が、人々の「好き」が循環する、活気ある“場”であるために』
  • 井上紗彩さん(森ビル株式会社)
    『収益事業の冗長化で、アーティストを持続可能な職業に。』
  • 大園康司さん(ダンスユニット・かえるP代表/春蒔プロジェクト株式会社)
    『これからの「コンテンポラリーダンス」に向けて―シーンを支える仕組みをアーティスト自らがつくる―』
  • 高原寛子さん(公益財団法人群馬草津国際音楽協会)
    『100年続く音楽祭を目指して―草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル40周年事業―』


(左上)今井俊介さん(右上)井上紗彩さん(左下)大園康司さん(右下)髙原寛子さん

  • 新井まるさん(株式会社 maru styling office)
    『こころの波紋がかさなりあう、豊かな社会をめざして』
  • 鯨エマさん(NPO法人シニア演劇ネットワーク理事長/俳優[[J.CLIP]/障がい者ヘルパー)
    『高齢者が主体的に取り組める全国シニア演劇大会を!—2020年東京大会を、その後も元気に活動継続する起爆剤に―』


(左)新井まるさん(右)鯨エマさん

提出されたレポート自体は5,000文字以上なので、5分というプレゼンテーションの時間はあっという間でしたが、それぞれ熱意が溢れる中身の濃い発表でした。各発表後にいただいたアドバイザーのお二人からの講評でも、もう一歩思考を深める一言が添えられ、18の課題を会場全体で向き合うような時間となりました。

穂の国とよはし芸術劇場の塩見さんの発表では、劇場がある豊橋市の文化振興指針と劇場の運営を照らし合わせ、今後の展開を具体的に検討する戦略となっていました。この発表に対し、若林さんは「豊橋市の皆さんの前で報告会を開いたら良いと思った」と背中を押し、指針や条例を達成しているのか、達成していないのかを定点観測で検証することは重要なリサーチと提案になっている、特に人材育成プログラムの追跡調査は同じようにアウトリーチをやっているところにも参考になるから実現してほしいと評価しました。

草津夏期国際音楽アカデミー& フェスティヴァルの運営に携わる高原さんは、100年続く音楽祭を目指して資金面での課題解決をするために、基金を創設するという意欲的な戦略を発表されました。これに対し伊藤さんはミッションと評価が直接結びつきにくい苦労に共感しながらも、基金をつくるには評価が必要なので、この芸術祭を巣立っていったアーティストたち(卒業生)が代弁者になれるようなコミュニティをつくり、そこからの発信というような演出で評価をみせていけたらいいと思うというような具体的なアドバイスがありました。

受講生18人は同じ講座を受けながらも、獲得した知見を創造的に昇華し、多彩なアイディアや挑戦、提言へと展開していました。共通していることは、この18の課題は、個別の事例ではなく、芸術・文化の業界全体に関わるこということです。彼らが、今後課題解決に向けて進めていくことは、芸術・文化業界が前進する一歩となるような気がしました。

全員の発表終了後、立ち会ってくださった関係者の方から、以下のコメントをはじめ多数のフィードバックをいただきました。

「芸術が人間にとってどういう意味を持っているのか、奥行きのあるパースペクティブをもって考えられていた。」

「18人の発表から、どういう人物が必要か、どういう課題意識が必要なのか、どんな挑戦が必要なのか、という輪郭が見えてきた。皆さんのチャレンジを応援したい。」

平成30年度のアーツアカデミーが、他のスキルアップ講座と一線を画している点は、思考のアップデートを図っているところだと思います。忙しい実務や生活に追われ、認識している課題を解決する時間すらない、現場の人間にとっては、新たなスキルというよりも、思考や考え方を変化させることが、実は解決への近道になっているのではないでしょうか。

また、「芸術文化創造活動の担い手」として、ジャンルも立場も異なる人達が集まり、意見交換が行われたことも、この講座の醍醐味でした。同じ受講生というフラットな立場で、学ぶ時間、互いの課題や考えを共有し、有機的な関係が築かれていました。アーツアカデミー自体がコミュニティ、ネットワーク形成に必要不可欠なプラットフォームとして機能していたのだと実感しました。

今後、ここで生まれた繋がりを活かしながら、受講生が課題解決戦略を実践に移し、芸術・文化の生態系が豊かになることを願っています。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM))

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