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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2020/02/14

アーツアカデミー2019 第5回レポート:芸術文化の必要性を考える ~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方等を考える~

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


2019年12月2日(月)、セゾン文化財団理事長の片山 正夫(かたやま・まさお)さんをお迎えして、第5回『芸術文化の必要性を考える~芸術文化支援の鍵に、自立の在り方を考える』が開催されました。今回の講座は、「なぜ、社会にとって芸術文化が必要なのか」という問いを考えることで、芸術文化活動の価値を説明する力を磨きつつ、自立の在り方を探求するねらい。昨夏、『あいちトリエンナーレ2019』内の企画展「表現の不自由展・その後」の展示中止と再開、そして文化庁の補助金を巡る一連の出来事は、図らずも「表現の自由」と「表現の侵害」の対立を浮き彫りにし、「そもそもなぜ芸術文化は公的に支援されるのか」という問いを顕在化させました。そこで、この日のプログラムは、「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる出来事をひとつの事例として、社会における芸術の必要性を受講生それぞれの立場から思考していく場となりました。

講師の片山正夫さん

今、あらためて考える

冒頭、片山さんは、「これまでにも『表現の自由』にまつわる議論は、度々起こってきた」と述べ、政治的な問題はもとより、性的あるいは宗教的な問題等を扱った作品を公的な場で展示することの是非が、国内外で議論されてきたことを指摘しました。片山さんは、今回の「あいちトリエンナーレ」の問題もこの系譜に連なるものであるとした上で、受講生に「あいちトリエンナーレの問題についてどう思いましたか?」との質問を投げかけました。
この問いを受けて、受講生からは意見や思いが次々と飛び出しました。中でも、「あいちトリエンナーレ」の運営団体と行政、そしてそれを取り巻く人々の間に、「共通言語、とりわけ『芸術とは何か』という認識がないままに議論が進んでしまったのではないか」という芸術文化観の相違や、それぞれの主体間で論点がずれることで「議論がうまくいかなかった」といった分断を問題視する意見が多く出されました。また、「事前対策が不十分」や「理解してもらえるような説明を運営側がしていれば、新しい価値観を生み出せたかもしれない」といった運営側の課題や不備を指摘する声が挙げられました。同時に、「補助金不交付の決定へと至った文化庁のプロセスが不透明」といった補助金の手続きに対する問題も挙げられました。

「あいちトリエンナーレ」について各自、意見を述べました

「あいちトリエンナーレ」問題に対して、挙げられた意見

芸術文化に対する公的な助成支援がもつ意味

休憩を挟んでの後半、まず「武満徹、小津安二郎、手塚治虫、黒澤明、寺山修司、安藤忠雄といった、日本のアート界を作ってきた人たちは、公的な助成金をもらっていなかったのに素晴らしい仕事をした。だから政府の支援など不要なのではないか、という意見にどう答えるか」という問題が提起されました。その上で、そもそもわが国の文化政策の発端が、明治維新直後に政府が推進した欧化政策にあり、その背景には列強からの侵略への強烈な危機感があったが、その後、文化支援の根拠は、「心の豊かさ」など抽象的で曖昧なものになっていった、と歴史的経緯を振り返りました。では現在、「芸術文化に税金を投入することの正当性」は、どこに求められるのでしょうか。受講生の意見として多かったのが、「芸術が、心の豊かさや人間形成に資する」という点(個人の内面)を指摘するものでした。「(文化芸術は)社会をデザインする上での意味ある余白であり、それらを見る・聞くための機会が必要」とする声は、まさにその代表的なものです。さらに、「所得や地域、教育の格差によらず文化に平等にアクセスする権利」が人々にはあるという点(文化の権利)に関する意見も聞かれました。こうした芸術の本質を説く意見は、日ごろから創造の現場で活動している受講生ならではの視点といえるのではないでしょうか。また、「国として文化水準を上げる」(外交政策的)、「受益者の金銭的な負担の軽減」といった意見(経済学的)や「文化財保護」、「教育的価値」といった意見も聴かれました。
発表を受け、片山さんは「芸術文化に税金を投入することの正当性/理論的根拠はどう説明されてきたか?」と題した表(下図)を示しつつ、各項目の説明と受講生から挙がった意見を、[個人の内面][教育・福祉政策的][経済政策的][社会政策的][地域政策的][都市政策的][外交政策的][文化権][経済的]というカテゴリーに整理をしました。

「芸術文化に税金を投入することの正当性/理論的根拠」の例示

「正当性/理論的根拠」に関するグループワークで挙がった意見

そして、現在の文化芸術基本法や東京都文化振興条例、さらには日本国憲法に行政が文化に関わる根拠がどのように記述されているのかを確認した上で、日本の文化政策の立案プロセスが抱えている問題にも話が及びました。また政策立案においては、Jリーグのサッカーチームが地域に一体感をもたらしている例を挙げ、たとえば「スポーツにはできないがアートにはできること」は何かを深堀して考えていくことも重要ではないかと指摘されました。さらには、18世紀末にヨーロッパで興った「芸術のための芸術」「芸術至上主義」という概念に見られるように、近代になって初めて芸術が自律したものと捉えられるようになってきた歴史を踏まえ、こうした考えが現在も一定の影響力がある中で、「社会から超越しているからこそ芸術だ」という考えと「芸術もまた社会の一部じゃないか」という考えの間にあるジレンマ、そして独創性と制度化とが容易には相いれない状況にあることにも言及しました。片山さんは、「そうしたところにも、あいちトリエンナーレ問題の根があるのではないか」とし、受講生に対して「では、あいちトリエンナーレの問題を繰り返さないためには、どうしたら良いのか?」と問いかけます。受講生からは、運営側が「上層から末端まで共通の認識をもつ」、「作品を提示する理由を説明していく」、「市民とコミュニケーションしていく」といった意見が出され、同時に、「不交付決定に至るプロセスの情報開示」、「審議プロセスの整備」といった行政に対する改善の声も共有されました。

「あいちトリエンナーレの問題を繰り返さない」方策を発表する受講生

 最後に、片山さんは、イギリスの社会学者ダーレンドルフが民間公益セクターのあるべき姿として述べた「創意豊かで個性ある団体が乱立するようなクリエイティブカオス(創造的混沌)の状態」という表現を引きつつ、民間支援の役割の重要さを強調し、逆に政府に対し過度に期待し、依存することには注意すべき面もあると指摘しました。芸術文化と政治が直接相対すると問題が起こりやすいのは事実なので、民間から民間への資金の流れを促す寄付税制のさらなる活用に向けた取り組み、そして、アーツカウンシル・イングランドの理念を引きあいに中間支援組織の重要さを再認識すべきと述べました。

市民が特定の非営利団体に寄付をすることで、実は最大で寄付額の半額近くの税額控除が受けられる日本の寄付税制の仕組み

次回、第6回は、『活動の意義を伝える評価軸を磨く~活動を振り返り、改善・変革していくすべを磨く』と題し、源 由理子(みなもと・ゆりこ)さんをお迎えします。講座では、文化芸術活動に対する評価の意義や全体像を理解した上で、活動を継続的に発展させていくための手法や、可視化・言語化する術を磨いていきます。

文責:大野はな恵
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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