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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2020/03/05

アーツアカデミー2019 第7回レポート:「芸術と社会の関わり方を磨く」―社会とのつながりを捉え、「接続」を考える―

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


アーツアカデミー2019第7回は、2019年1月28日(火)、本講座のファシリテーターを務める小川智紀(おがわ・とものり)さんとニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員の大澤寅雄(おおさわ・とらお)さんを講師に迎えて行われました。テーマは、「『芸術と社会の関わり方を磨く』―社会とのつながりを捉え、「接続」を考える―」。芸術文化と社会がどのように接続できるかを、文化生態観察、文化的コモンズ、文化資本といったキーワードから学び、自分たちの活動とステークホルダーとの関係性、役割を可視化する試みです。

講師の小川智紀さん

芸術文化活動はどこにある?――社会的背景をとらえる

講座では、まず小川さんが登壇し、助成事業の運営事務局の仕事の中で感じてきた疑問を語りました。小川さんは、日本国憲法第89条「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」を踏まえ、「公の支配に属さない――つまり民間の慈善、教育、博愛事業に対して助成金が出せないのは不思議。芸術文化の活動に対しても、『慈善、教育もしくは博愛の事業に該当するから、これはお金を払うのは憲法違反だ』という人もいる」と述べます。そして、日本における教育分野や社会福祉の領域での歴史背景を例示しながら、「 民間や“社会”の側にあると、自由にはできるが存立基盤が危うい。“国家”の側にあると、縛られるけれども安定になる。それでは、どこに芸術文化を位置づければよいのだろうか」と受講生に問いかけました。
講座では、社会の側で支えるというのはどういうことなのかを、幾つかの事例を挙げながら考えていきました。「民間の中で支えるということは、(歴史的に)“社会運動”という側面があったことを忘れてはならない」という市民活動支援の識者である山岡義典さんの言葉を引きつつ、全国青い芝の会が車椅子でのバス利用を巡って1977年に起こした「川崎バス闘争」、死刑囚が拘置施設内で制作した絵画や工作物などを展示した「死刑囚表現展2019」が例として挙げられました。社会運動への支援を国家が担うのか、民間が担うのか、あるいは社会なのかを全員で考え、現状では少しずつ民間の助成が進んできていると小川さんはいいます。そして、2010年以降、民間の活動は「経営論」として語られる傾向にあるが、改めて1990年代までの「運動論」や2000年代は「協働論」を考えていく必要があるのではないかとも述べました。最後に、こうした見方を「大澤寅雄さんの提唱する“文化生態系”の中でどう考えたらよいのか?」として大澤さんに講座のバトンを渡しました。

小川さんの考える過去から現在に繋がる民間の活動の変容

「文化資本」、「社会関係資本」、「経済資本」の流動性を高める

後半は、大澤さんが登壇しました。日本における文化政策の変遷を概説していただいた後で、フランスの社会学者ブルデューが提唱した、人間がもつ「文化資本」、「経済資本」、「社会関係資本」という3つの資本を踏まえ、それらの相互転換を促し、地域で循環させることで「地域資本」の形成が図られるのではないかとの提案が示されました。そして、「文化資本があるからこそ、信頼、規範、ネットワークが形成される」と「社会関係資本」の成因を述べ、東日本大震災、ノートルダム大聖堂の火災、沖縄の首里城の火災といった惨事では、文化資本があったからこそ、外部から即座に社会関係資本が流入し、資本の転換や循環が生まれ、地域のレジリエンス(復元力)を呼び起こすきっかけとなったのではないかとの考察を述べました。

講師の大澤寅雄さん

生態系として、芸術文化を捉える

グループワークでは、美術家の藤浩志氏が描いた「Plants!」の概念図と大澤さんが自然界における生態系をヒントに提唱している「文化生態系」の5つのポイント(下図)が示され、各受講生の活動に関する文化生態系の絵を描く試みが行われました。生物の住む環境が多様であるように、受講生が活動場所として描いた絵にも、海中や森をたとえとした様々な環境がみられました。中には、微生物や鳥のフンといったディテールまで描く受講生も。描いた自らの生態系をグループ内のメンバーに示しながら、「記事で取り上げてくれる記者はサンゴ」、「陸にいる人と海にいる人では役割が異なる」、「ここは、水のような、土のような、泥っぽい感じ」といったやり取りが活発に繰り広げられました。生態系という切り口から自身の活動を徹底的に観察することで、つながりや環境の大切さに目が向く絶好の機会だったのではないでしょうか。

文化生態系を描く上で重要な5つのポイント

完成した生態系をグループ内で共有する受講生

大澤さんは、「生態系サービス」と呼ばれる概念を文化へと適用した「文化の生態系サービス」(下図)を示しました。そして、4つあるサービスの内で「調整サービス」と「生息・生育地サービス」が見落とされがちなのではないかと述べました。さらに、「価値」の観点から芸術文化を捉えると、どうしても「利用価値」に重きが置かれるが、そもそも「利用価値」を測る指標となる経済的価値には限界がある上に、「非利用価値」は見落とされがちであることから、価値自体を測ることに困難があることも指摘もしました。

文化の「生態系サービス」

大澤さんによると、2001年のユネスコ総会で採択された「文化」の定義には、「共生の方法」もその範疇に含まれているそうです。異なった種が同所的に生活することで相互に利益を得る「相利共生」や、より効率的に花粉を運んでもらうためにハチの羽音によって花が一時的に「蜜を甘くしよう」と頑張るような「共進化」、そして、森の木々が地中で根によってネットワークを作っていることなど、相互作用しているからこそ成り立っている生態系の例を挙げ、「みなさんもつながりあってほしい」と受講生間はもとより、社会との相互作用に対する期待を述べました。

次回は、最終回となる課題解決戦略レポートの発表会です。多様な講師陣による7回の講座を踏まえて、学んだ成果を受講生の皆さんが発表することとなります。芸術文化活動における課題解決の方法や、新しい企画・プロジェクトなどを取り入れた具体的な方法の提案が期待されます。

文責:大野はな恵
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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