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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/07/07

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(1)敷地理氏(振付家・ダンサー)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

敷地理氏(しきち おさむ/振付家・ダンサー)



『happy ice-cream』(横浜ダンスコレクション2020) 
撮影:Sugawara Kota

東京藝術大学大学院の修士課程を修了し、2020年12月までは友人と四谷にスタジオを借りて、創作活動をしていました。

自分の部屋のようなとてもプライベートな空間が、作品を見るための一時的な「座席」となる

コロナ禍になって、オンラインでの作品発表はもちろん、ライブパフォーマンスを実際にやる場合でもそれをオンライン空間にどのように開いていくかを同時に考えていく必要が出てきました。この状況が自然と新しい作品を生み出すきっかけにもなったので、僕としては前向きに捉えています。
劇場とは違って、インターネット空間の座席数はある意味で無限です。しかも自分の部屋のようなとてもプライベートな空間が、作品を見るための一時的な「座席」となる。夕方に親しい人と家で見る、ドライブでどこかに行って見るなど、私生活の一部にパフォーマンス作品が入り込むことは、今この状況下だからこそですよね。劇場空間ではできないことに興味があります。親密な場所で親密な人と見ることで、作品の見方にも変化があるのではないでしょうか。
そこで、非常に個人的なイメージを観客に積極的に共有する方法を探ろうと考えているところです。同じもの、たとえば手を写していても、クローズアップにすると見え方が変わって、感覚が伝わりやすくなったりしますよね。そういう映像操作をひとつの「振付」と考えて、自分の感覚にフォーカスしてパフォーマンスを切り取ることで、個人的なイメージをオンライン空間にどう開いていけるか、自分なりのフォーマット作りをこれから試してみたいです。

「どう動くか」と「どう見るか」を等価に扱う

僕は、生で見てもらうことを想定してつくった作品をそのまま記録映像にして出すということに違和感を持っていました。どうやってオンラインでライブパフォーマンスを共有していくかを考えたときに、まず人間の身体がディスプレイ越しにリアルタイムの「イメージ」として見られる、という状況自体に関心があることに気がつきました。もちろんどう動くかはとても大事ですが、自分の興味としては「どう見るか」を同様に丁寧に扱いたいです。
これには、自分がダンスから入ったわけではないことも関係しているような気がします。もともと大学で彫刻をやっていましたが、石や木といった素材にピンとこなくて、人間の体を素材にする方向へ向かいました。ダンスを始めたのはそこからです。
制作の原体験になっているのは、建築やインスタレーションの中で一時的に自分の状態が変化していく感覚。その点で僕にとって一番重要なのは、作品を通して観客の視覚や身体感覚がどうなるのかということなのかもしれません。何かに接触することで、今ここに立って物を見て呼吸している「自分」をクリアに実感できるようになる瞬間を、作品の中に求めています。
基本的には映像にはあまり興味がなくて、見るのもやるのも、やっぱりライブのパフォーマンスが好きです。僕の世代は、物を所有するよりも体験に対してお金を払うという消費の仕方をしていて、映画館に行ったりサブスクしたりはしてもDVDは買わないし、ドライブはしても車は持たない。終わった後に物が残らず、自分の中の記憶や感覚だけが残るパフォーマンスは、所有しないこの世代に合っているように思います。


『Juicy / work in progress』(横浜ダンスコレクション2021) 
撮影:Sugawara Kota

作品をつくるとなって初めて、自分が今まで学んできたことが何だったのかを考えるようになった

海外のプログラムに積極的に参加している理由は色々ありますが、そのひとつに、日本の中だけではそもそも活動の場が少ないという点があります。生きていくためには、海外でも機会を得て、やれる場所を広くしていかないといけないと感じています。
交換留学のときにベルリン芸術大学を選んだのは、美術教育自体がもともとヨーロッパから来ていて、憧れがあったからです。ヨーロッパの美大は、つくりたいもの、自分があることを重視して、技術は入ってから学んでいくみたいな面があって、入学時に作家性よりもテクニックを求めることの多い日本の美大とは大きく違いました。つくりたいものがあまり明確でないまま行ってしまった僕は、もう赤ちゃん状態で、かなりしんどかったです。何をしたら良いかわからなくて、なぜかリトグラフなどをしながら色々な場所に顔を出して、とにかくインプットしていました。
通っていたベルリン芸術大学は、美術だけでなく、舞台芸術や音楽の学部もあったことがとても良かったです。ダンスやオペラやジャズの人たちと一緒に授業を受けて作品をつくる機会があって、自分の幅が広がりました。作品を個人的につくるとなって初めて、自分が今まで学んできたことが何だったのかというのを考えるようになったように思います。
また世界が広がるという意味では、APAF(アジア舞台芸術人材育成プログラム)やTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)で海外のアーティストと知り合い、向こうでは今何が起きているかを知れたのはとても良かったです。広いスケールで皆が今何を考えてつくっているのかがもっとわかるような、海外に開いたプラットフォームがあると良いのかもしれません。

経済が厳しい今の日本で、支援を受けたアートが何を社会に出していくのか、それがどういう風に繋がっていくのか

大学を出てから一番実感したのは、社会の中で自分の生活と制作活動をやっているのだということ。責任感も気持ちも全く変わりました。在学中は、日本でも海外でも、あまり生活の話はしてこなかったんです。つくる話ばかりで、その後どうやって作品を売っていくか、ターゲットを誰にするかといったことは話題にしてこなかったなと、振り返ってみて思いました。キュレーションやプロデュースを学んでいる人と一緒になったときに初めて、そういったことを具体的に意識するようになりました。
助成金以外の方法でどうやって自立して活動するか、最近友人とよく話しています。それは、社会のシステムの中に自分の活動をどのように位置づけるかということでもあります。その意味で今ちょっと興味があるのは、一時的な「劇場」のようなものをインターネット空間上に作っていくことですね。ギャラリーの代わりにYouTubeなどのサービスを使って作品を公開している人とか、既にいるじゃないですか。ベンチャー企業みたいな感じもありますが、そうやって自分で自立したサイクルをつくってやるのはすごく良いなと感じていて。
そのためにはまず、長期的なチームを組むことを考えていかないといけないと思っています。今は、予算がついた大きい企画以外は、制作面も全部自分でやっています。ただそうするとクリエーションが十分にできなくなってしまって、外側をつくっていたら中身が何もないということになりかねない。だから作品のコーディネートやプロデュースを意識的に行っている方と協働したいです。大きなスパンで何かつくるときは特に、どんな環境でどんなメンバーでつくるかという作品の「手前」のことが、実は作品を大きく決めているのではないかと思っています。
制作環境という点では、公民館のような場所を転々と借りながら活動を続けていくのは、仕方ないのですが精神的にも大変です。セゾン文化財団の森下スタジオのような整った環境が増えていったら良いなと思います。その一方で、経済が厳しい今の日本で、支援を受けたアートが何を社会に出していくのか、それがどういう風に繋がっていくのかまでよく考えていきたいです。
学校教育の影響もあってずっとヨーロッパのものを見てきましたが、ここ1〜2年はアジアに興味が向いています。短期的な計画としては、たとえば能など現代まで残る日本の伝統的なパフォーマンスの様式に共感してしまう部分や、今路上やプライベートな空間で行われているデモンストレーションやサイファー[*複数人が集まって即興でラップやダンスをすること]などのパフォーマンスについて、作品制作を通じて考えていきたいです。あとは、人間の身体やコミュニケーションが今後どうなっていくかも気になっています。いずれにしても、そのような活動をどうやって続けていくのかが直近の一番の課題です。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


敷地理(しきち おさむ)

振付家/ダンサー。東京藝術大学大学院修士課程修了。横浜ダンスコレクション2020「若手振付家のための在日フランス大使館賞」受賞。生身の身体をメディアとしてダンス、パフォーマンス、彫刻作品を手がける。主な作品に『happy ice-cream』(横浜ダンスコレクション2020)、『shivering mass, loose boundary』(TPAM2020フリンジ)、『blooming dots』(豊岡演劇祭2020フリンジ/CAF賞2020/TPAM2021フリンジ)、『Juicy』(横浜ダンスコレクション2021)など。
https://mumumubrothers.wixsite.com/osamu-shikichi

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