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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/09/22

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(10)Aokid氏(ダンサー・アーティスト)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

Aokid氏(あおきっど/ダンサー・アーティスト)


もともと中学生の頃からブレイクダンスをやっていて、東京造形大学の授業で、コンテンポラリーダンスやパフォーマンス・アート、現代美術やコミュニティアートといったものを知りました。KENTARO!!さんや川口ゆいさんの作品を見るうちに、自分でも舞台作品をつくりたいなと思うようになってきて、色々な舞台を見に行くようになって。同時に、ドローイングや、写真、映像、文章などを使った美術制作も始めました。
大学卒業後にKENTARO!!さんのダンスカンパニー「東京ELECTROCK STAIRS」に参加し、海外ツアーにも行きました。でも1年半くらい経ったところで、自分でつくっていない作品で海外に行っても、自分の考えを話すことはできなくて、後の展開がないなと思って。自分の考えを他の人と共有することをもっとやっていくために、カンパニーを離れて1人で活動することに決めました。


撮影:KABO

提供された場所がなくても「こういう考えでこういうアクションをやってみる」ということをアーティスト同士が共有していければ「発表」になる

それで2012年くらいから始めたのが「Aokid city」というプロジェクトです。ダンスカンパニーをつくって舞台だけをやっていくことには違和感があって。「街」にすれば、踊るだけじゃなくて音楽も入れられるし、パーティをしたり美術を持ってきたり、色々なアプローチを増やしていけるなと思って、こう名付けました。
「Aokid city」と並行して、様々なジャンルの人が集まって話をする「ブルーシート」というイベントを2014年に代々木公園で始めたのは、インディペンデントな発表の場所をつくりたかったからです。今でこそ小さいイベントが増えましたが、当時はあまりなくて、場数を踏むためにもそういう場を自分で用意できたらと思っていました。でも、話だけでお互いを知るのは難しくて、うまくいかない部分もありました。そこで2016年に、「ブルーシート」にゲリラパフォーマンスを合体させた「どうぶつえん」という形をつくりました。パフォーマンスなり発表なりを見せたうえで話をする方が、コミュニケーションが生まれやすいような手応えを感じています。またお客さんも、周りで遊んでいる人や空や土など、発表以外のものに目移りしながら見ているのが、結構面白いです。興味を持って足をとめた人に「今こういうことやっているんですよ」と話したり、警備員の人に追いかけられてピクニックの振りして乗り切ったり、怒られたらお客さんともそれを共有して問題について話し合ったりして、続けてきています。
こういったイベントを公園で移動しながらやるというのは、ダンサーならではのアイデアかもしれません。提供された場所がなくても、「こういう考えでこういうアクションをやってみる」ということをアーティスト同士が共有していれば、外を歩きながらでもひとつの「発表」になります。結果として、ダンスやパフォーマンスを舞台よりも近くで考えてもらえる機会、アーティストの思考に触れてもらえる機会になっているように感じています。アーティストにとっても、色々な発表形式を実験する場にはなっているみたいで、「どうぶつえん」に参加して以降、パフォーマティブな作品や体を使ったアプローチに取り組み始める人もいました。
ダンスって、ストレンジャーな側面を持っていると思うんです。ちょっと変なもの、奇妙なものを表現するというか。僕はそういうことが、舞台の上だけでなくて、街の中でももっと起きていてほしいなと考えています。劇場のような特別な場所だけでなく、普段から街に芸術に触れる機会があって、予定調和以外のことが起きることで、色々な人の中にちょっとした「免疫」のようなものができてくるのではないかと思います。
「横浜トリエンナーレ」が行われているなか、外でゲリラ的な活動をしたこともありました。僕のお節介な目線なんですが、公式プログラムの横にゲリラ的なものを加えることで、公式ではできない部分を補足するというか、楽しみを勝手に少しだけ拡張することができるのではないかと思って。カウンターカルチャーみたいな感じはあるかもしれません。


撮影:石原新一郎

ダンスコミュニティの人に「これもダンスなのかもな」と知ってもらう

ただストリートでいくら活動していても、ダンスのコミュニティからはなかなか認識されません。「Aokid city」も同じで、それだけを発表していてもなかなか他のコミュニティにアクセスしていかない感じがありました。そこで外から見てもわかりやすいように、自分が習得してきた技術を丁寧にプレゼンテーションする劇場向けのダンス作品もつくるようにしています。たとえば『地球自由!』という作品には、こちょこちょくすぐられるのを思い出すことで動かされる体を表現するとか、壁を叩くことでその質感や空間の奥行きを示すとか、そういうことを振付として提出する場面がありました。
だから、ダンスコミュニティの人が集まるコンペティションなどに出して、「これもダンスなのかもな」と知ってもらうことは、自分にとってもとても大事でした。賞はあった方が良いと思いますし、誰かが誰かを良いということは結構重要だと思います。僕の場合も、これは面白いと評価して場をつくってくださった人たちのおかげで、今の自分があります。
2016年に「横浜ダンスコレクション」で審査員賞をいただいてから、仕事が本当に増えました。ただ、賞をいただいたダンスの方にぶわーっと行くかといえばそうではなく、むしろ「どうぶつえん」みたいなことをやっていかなきゃダメだとも思いました。
広い人を対象にした作品をつくるときは、わかる部分とわからない部分、「ここは見ていられる」「ああ、なるほどね」という部分と「ちょっとこれはどうなんだろう」「難しいかも」という部分を両方入れ込もうとしています。なぜかというと、最初はよくわからなかった部分が、色々なものを見ていくなかでだんだん理解できるようになった自分の経験があるからです。わからなさすぎて怒ったり、苦痛に感じたりしたものが、あるとき「これをやろうとしていたんだ」とか「実はこんなことが地味に起きていたのか」と感動に変わったりする。この時間のかかり方は、エンターテイメントではあまりなかったことで、芸術だからこそと思います。
歌や美術など色々な分野をやりながら見ていると、ダンスに限らず専門分野ごとに結構分かれていて、同じことに取り組んでいる人ばかりで集まってしまう傾向があるように感じます。でもダンスの舞台にも、実は気がつかないうちにダンス以外の要素、たとえば演劇的なもの、音楽的なもの、美術的なものが入っていますよね。そのことをもっと意識的に使う技術を獲得して、「これ、今音楽っぽくなかった?」とお互い共有できるようになると、ダンスのつくり方ももっと自由になるし、他のことへの理解も及ぶのではないかと考えています。

ダンサーが面白くなってダンス界を何とかするという方向だけではないのでは

環境が整えば作家が生まれてくるのかというと、難しいところですね。今の自分の活動も、東京だからこういうスタイルになっていて、別の場所であればまた違うスタイルで活動していたんだろうと思います。創作環境をつくるのと作家が生まれるのは補完関係というか、一緒にやっていかないといけない部分だと思います。すでに地域や劇場とアーティストが組んでいる例はいくつかありますよね。
また最近は、ダンス以外のジャンルでも体を使う人が結構出てきていて、僕はそっちの方に関心が移っているのかもしれません。2019年1月にこまばアゴラ劇場で行われたフェスティバル「これは演劇ではない」にサブキュレーターとして呼んでいただいたときは、演劇のフェスティバルのなかでダンサーを紹介したいと思って、プロとして立って活動し発言している人を選んで『これはダンスで!これはダンスで?これはダンスで、、、』という企画を打ちました。あのときはダンサーと何かやることを考えていたというか、ダンスを何とかしたい気持ちがより強かった気がします。でも今は、ダンサーが面白くなってダンス界を何とかしなくてはいけないという方向だけではないのでは、と思い始めていて。たとえば美術作家がダンスを使うとか、ダンサーではないけれど体を使って面白いことをしている人が結構出てきているので、そっちをどんどん盛り上げていった方が良い気もするんです。もちろんダンサーとの協働も、アイデアを考えて実践し続けていきたいです。多様な体や多様な視点を持つことで、もっと自由になれるのではないかと思います。


Photo: Kazuyuki Matsumoto
東京芸術祭2020 APAF Exhibition「フレ フレ Ostrich!! Hayupang Die-Bow-Ken!」ワークインプログレス公演

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の活動予定


撮影:石原新一郎


Aokid(あおきっど/ダンサー・アーティスト)

ブレイクダンスをルーツに持ち、舞台作品の他、ヴィジュアルアートやパフォーマンス作品の制作、展覧会への出品も行う。「どうぶつえん」、「Aokid city」などのプロジェクトを主宰。都市から受けるインスピレーションをもとに様々な芸術活動で応答し、都市について再考している。2016年、横浜ダンスコレクション審査員賞受賞。たくみちゃん、額田大志、よだまりえなど、他ジャンルの作家とのクリエーションを多く重ねる。
https://ninjaaokid16.wixsite.com/aokid

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