ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/10/12

アーツアカデミー2021「芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第1回レポート:私たちが生きる社会と芸術文化の置かれた環境を俯瞰する

これからの時代、私たちはなにを大切にし、どう歩んでいくのか。未来に向かうために「いかに創造していくか」という問いは、芸術文化だけに限りません。4年目となる『芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座』では、芸術文化活動における課題に取り組むために必要なスキルを磨くとともに、私たちが生きている「社会の未来を創造する」ことも考えていきます。

開講は、2021年9月22日。昨年度に引き続きZoomでのオンライン開催です。沖縄から秋田まで全国より16名の受講生が集まりました。「オンラインだから参加できました」という声もあり、とくにコロナ禍で土地を気軽に行き来できず行動範囲も狭まりがちななか、距離をこえた規模での開催となりました。

さらに今年度の講座第1回は、例年とは少し異なる始まりでした。これまでは後半にゲスト講師による講座を行いましたが、今回は自分たちが今どういう環境にいるのかを俯瞰することを重要視し、これから数か月を共有するメンバーとの横のつながりを大切にする時間を持ちます。共に集い、互いを知り合うことで、個々人の課題を深堀りしていくような丁寧なスタートをきりました。

講座プログラムと「社会・芸術文化」を結びつける

前半はまず、今年度の『キャパシティビルディング講座』がどういう意図で組まれたものかを確認します。全9回の講座をあらかじめ俯瞰してみることで、これから自分がなにを学び、どんな人と出会い、なにをどう深めていくのかを把握します。そうすることで自分の活動が、社会や芸術文化の環境とどう結び付けられるのかを考えられるのです。

講座全体のファシリテーター/アドバイザーは、小川智紀(おがわ・とものり)さんと若林朋子(わかばやし・ともこ)さん。2人の自己紹介は、仕事や趣味の話をまじえながら、明るく親しみやすい会話のキャッチボール。画面越しにちょっと頬が緩みはじめる受講生も数名います。

全9回の講座の全体像をつかむために、それぞれの講座の講師とテーマを紹介します。講座を主催するアーツカウンシル東京の今野真理子(こんの・まりこ)は、「あえて芸術文化のセクターではない方もゲスト講師としてお招きし、幅広くいろいろな学びを伝授していただき、議論していく場をつくっていきたい」と説明します。

次回にあたる2回目のゲスト講師は、山元圭太(やまもと・けいた)さん。自分たちの活動の社会的位置づけの再認識やヴィジョン、ミッションの棚卸しに取り組みます。3回目の大澤寅雄(おおさわ・とらお)さんは、芸術文化と社会の関わり方について“文化生態系”という概念をヒントに考えます。4回目は、徳永洋子(とくなが・ようこ)さんにより、文化セクターにおけるファンドレイジング(非営利団体の資金調達)の可能性を探ります。5回目は元資生堂、現エバラ食品工業株式会社の上岡典彦(うえおか・のりひこ)さんより広報・パブリックリレーションズの本質について学びます。6回目は、それまでの講義をふまえ自分の課題をあらためて探ります。7回目は、源由理子(みなもと・ゆりこ)さんによるそれぞれの活動に活かす「評価」についての講座。8回目は、セゾン文化財団理事長の片山正夫(かたやま・まさお)さんとともに「なぜ、社会にとって芸術文化が必要か」等について考えます。そして最後となる2月10日に、受講生による「課題解決戦略レポート」の最終発表会を行います。

この全9回の講座を通し、さまざまな角度から「社会における文化芸術の在り方」を考えることによって、今それぞれが感じている課題を解決したり、目標を達成していく具体的な方法を見出していくのです。若林さんより「コロナ禍でも力強く次に進んでいただけたらいいな」と願いをこめたエールが送られました。

次に、受講生の自己紹介です。一人につき3分で、所属や参加目的を語ります。今年の受講生は演劇や市民オペラなどに関わる公立劇場の職員が多い一方、劇団主宰、映画・映像関係者、国の公的組織職員、インディペンデントのキュレーター、演劇制作者などさまざま。自己紹介では、創作活動にあたり「コロナがどうなるかわからないけれど劇団活動を再開するにあたって」「集団のあり方が変わっていっているかもしれない」「権力のヒエラルキーがない集団にしたいが、団体運営の理想と現実の間で奮闘している」や、「官の立場で文化になにができるのか」「学生劇団が次のステップを歩み出せる、観客ひいては社会にとって意味のある活動にしたい」など、現場の切実な声があがりました。若林さん、小川さんが一人ひとりに丁寧に「面白いところ」「嬉しく思ったところ」などをコメントします。

「安心してなんでも発言できる場なので、積極的に話し合っていただければ。コロナで内向きな時も外に眼を向かせてくれる仲間でもあります」と若林さんの言うように、これから後半の講座では、受講生同士がお互いの課題や思考を深堀りしていきます。

半年をともにする仲間から、異なる視点を得る

今野より、講座のゴールである『課題解決戦略レポート』について説明があったのち、過去の修了生たちの動向を紹介しました。受講生のみなさんが、この講座を通したその先をイメージできるように。そして実際にZoom越しに修了生があらわれ、実践的なエールを送ります。

講座修了生の活動について

そして、講座後半のメインプログラム「語らうワークショップ」(100分)がはじまりました。ラウンド1~3を通して受講者が互いに「私」について語らいましょうということで、私たちが生きる社会と芸術文化の置かれた環境を俯瞰していきます。
まず、Google Jamboardというツールを使い、リアルタイムで3つのアンケートに答えていきます。

●ラウンド1

アンケート(1)「私はなぜ、ここにいるのでしょう」

便宜的に演劇・映画・美術・音楽・伝統芸能・ダンスを配した図のなかで自分のいる場所を書き込みます。多くの受講者が、明確にひとつのジャンルではなく、複数のジャンルにまたがる場所を選びます。それぞれの現在地が可視化されていきます。「ジャンルにこだわらず考えていきたいのかな」(小川さん)。

アンケート(2)「キャリアはいつから?」

芸術文化に関わり始めた年にチェックを入れます。「2001年は劇場ではこんな感じでしたね?」「2011年は震災でしたね。現場はどうでしたか?」など、いくつかの時代をそれぞれの視点で振り返ります。「ジャンルは違っても、近い業界に生きていると同じ時代について思い出すイメージは似ていたりします」(小川さん)。

自身のキャリアスタートの年に自分の付箋を移動します

アンケート(3)「官・私・共」

自分がどのようなイメージで活動しているのか、「官」「私」「共」の三角形のうちの近い場所に自分の位置を配置します。“ペストフの三角形”という概念から発想を得ているこのアンケートは昨年度も実施し、三角形の中央付近に多くの受講生が集まっていました。今回もまた中心に集まる人が多くいます。

自分の活動イメージに近いポジションに自分の付箋を移動します

このアンケートにより自分がどこにいるかを可視化することでポジションを知る。また、ざっくりではありますが受講生の全体像の俯瞰もできました。

●ラウンド2・3

次に、実際に受講生同士で言葉を交わします。Zoomのブレイクアウトルーム(少人数グループ)に分かれて、3~4名で20分間話をします。テーマは「自分にとっての課題」「その課題がコロナ禍で変わったか?変わらなかったか?」。終了後、ルームごとにどんな話題が共有できたかを全体に発表します。どのグループも初対面ながらまだ語り足りないような、名残惜しい空気が漂います。
小川さんから「20分では短いという声が殺到しています。次は30分で!」とふたたび別のメンバーでブレイクアウトルームへ。同じ話題についてまた別のメンバーと話すことで、同じテーマが横に広がって繋がっていくという“ワールドカフェ形式”です。それぞれの土地の文化芸術はどんな状況なのか?そのなかでどんな課題を抱えているのか?そんなことを再び3~4名で話し合いました。話題は途切れることなく、実感のともなったお互いの声に耳を傾けます。離れた土地で、同じく文化芸術に携わる人同士、どんな思いで、どんな課題を持っているのか、まだ聞き足りないようですが、あっという間に30分が過ぎました。

最後に、『磨く時間』と題した振り返りで、本日の4時間にわたる講座を締めます。小川さんからは「現場の課題は山積している。諦めず、仲間と話しながら、時間をかけて少しずつ向き合っていくことが必要でしょうね」と、若林さんからは「すぐには答えの出ない、もやもや状態を受け入れて考え続ける力(ネガティブケイパビリティ)を強めていけたら。一緒に悩む仲間がいるのがこの講座のいいところですから」と、繋がりながら学ぶことで未来に向かう場にしていきたいという、受講者たちの受け皿となる場であることが示されました。

次回は、「ヴィジョン、ミッションを磨く」というテーマで、山元圭太さんによる講座となります。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


執筆:河野桃子(かわの・ももこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

最近の更新記事

月別アーカイブ

2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012