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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2022/01/20

アーツアカデミー2021「芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第8回レポート:社会における芸術文化の必要性を考える ~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方等を考える~

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第8回は、現代演劇・現代舞踊に対して助成を行っている公益財団法人セゾン文化財団理事長の片山正夫さんに、芸術文化支援について伺います。講座の目標は以下の3つです。

  • 「なぜ、社会にとって芸術文化が必要か」という問いについて考える。
  • 法制度を含め創造活動を取り巻く環境を総体的に捉え、活動の価値を客観的に説明する力を磨く。
  • 芸術文化支援の選択肢を知り、自立・自走の在り方も探求する。

片山さんより「芸術文化支援にはただひとつの正解があるわけではありません。今日の話は明日からすぐ役に立つわけではないが、長期的にみなさんの心に残っていければ」との言葉で、講座が始まりました。

「社会」における芸術文化の必要性

まず、芸術文化の“パブリック”な価値について考えていきます。
「個人にとってであれば、芸術文化は単に娯楽や時間つぶしだという答えでもいいんです。しかし社会にとってどういう意味を持つかとなると、多くの社会の構成員に納得してもらわないといけません」と片山さんが言うように、社会にとって価値がないのなら「税金を使って公的支援をする必要がない」と言われてしまうでしょう。しかし“他者”にこの価値を説明して納得してもらうことは容易ではありません。コロナ禍では「芸術文化は不要不急か?」という議論が様々なところで起こりました。このような議論は「しない方がいいと思う」と、あえて片山さんは言います。
「芸術文化に関わる側から『(自分達は)不要不急なの?』と多くの反発がありました。しかし世の中を不要不急なものとそうでないものに二分する議論の土俵に、自らが上がっていいのでしょうか? 芸術文化はそことは違う次元にいることを誇るべきではないでしょうか」。コロナ禍のような緊急事態下においては、医療や食事が優先されるべきなのはある意味で当然です。だからといって、芸術文化が不要だということではありません。片山さんは「芸術文化は違う土俵にいるんだ」と繰り返します。

日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。

現在、日本政府の財政は大変な状態です。2020年の段階で債務残高はGDPの238%近く。コロナでこれはさらに悪化します。そんな状況では、文化に対して公的な資金を出していくのはますます厳しくなります。一方で国民生活をみると、他の先進国が右肩上がりの中、日本人の所得はここ数十年伸びていません。これではフラストレーションがたまり、税の使い道に厳しい目が向けられるようになるのは当然の流れでしょう。税金を使うには、より説得力のある「説明」が求められる時代になっていると言えます。

実際に、政府の文化予算はどうなっているのでしょう。文化庁の予算を見ると、だいぶ以前より1千億円の横ばい状態です。「去年・今年とコロナで文化予算が大幅に増額したように見えますが、それはコロナ対策であって、本当の意味の文化政策ではありません。やはり『文化には公的な価値があるんだ』ということを説明していかないといけない」と片山さんは繰り返します。

文化の公的価値について、すでにいろいろな説明がなされてきました。

文化の公的価値は「生きがい」「心の豊かさ」「自己肯定感」など目に見えないものも多く、伝わりづらくもあります。目に見えるものでいえば、「cultural heritage(文化財)」「innovation(技術変革)」「観光振興」「communitily building(地域活性化)」などがあります。これらは(アーツカウンシルの先駆けである)アーツカウンシル・イングランドが「なぜ公的支援が必要か」をずっと説明し続けてきた中でも用いられている言葉です。
中でも、もっとも中心となる重要な言葉は「art for all」です。日本でも和訳せずに使われ耳にするようにもなりました。ただこの言葉は、階級社会の歴史を今なお引きずっているイギリスだからこそ、特定の社会的階級に属する人々だけが芸術文化を享受するのではなく“全ての人々のための芸術文化(art for all)”である、という言葉がより心に響くという面もあります。片山さんは「外国の歴史や社会に根ざした概念を、なんの批判もなく日本に取り入れて使うのはどうだろうか。というのが私からの問いかけです」と思考の自立を促し、受講生それぞれに「あなたは自分の活動の社会的価値をどう説明しますか?」と質問していきます。全16名の受講生一人ひとりの回答にその場でコメントを返したり、丁寧に掘り下げていきます。受講生らは、同じく芸術文化に関わりながらも活動が異なる立場からの意見を聞き、互いにメモを取り合いました。

芸術文化における自立の方法をさぐる

芸術文化団体やその活動の「自立」には、大きく3つのポイントがあります。「経済的自立」「精神的自立」「社会的自立」です。それら自立が達成されるかどうかは、収入の比率と大いに関連しているのでは?というのが片山さんの考えです。収入については、3つのカテゴリーに分けられます。

A 事業収入、受託収入、報酬など
B 公的資金(政府・自治体からの補助金・助成金)
C 民間資金(民間財団、企業、NPO、個人)

それぞれ公的価値の説明にも違いがあります。Aに比べると、Bには高い説明責任が生じます。そしてCもまた一定の説明責任が求められるのです。

3つの収入カテゴリーがほどよいバランスであることが理想とされる

アメリカの場合、芸術・文化に限れば、民間資金(カテゴリーC)による収入が圧倒的に多いのが現状です。政府からの補助を得つつ、一方では民間資金に活路を見出していくことが日本でも考えられる道でしょう。そのために「寄附税制」を活用することも重要です。日本の寄附税制について考えてみましょう。

日本の法人制度の性質を4象限に区分した時、私たちの活動はどこに位置するか?

日本の寄附税制は法人制度とリンクしています。上図の中で“非営利”の部分は、利益を配分しないシステムで運営されています。一方で営利法人はすべて非公益で、株式会社が代表的です。“公益”のゾーンにあるのが、不特定多数の利益を追求する法人です。
寄附税制の対象となるのは「認定NPO法人」「公益社団法人」「公益財団法人」(※画像内の黄色枠)などです。それらは寄附した人にメリットが生じるため、寄附がしやすくなるという仕組みになっています。今後、この仕組みをより活用できるかが、私たちの多くが関わる非営利の芸術文化活動における課題のひとつだといえます。

寄附税制の仕組み

寄附税制とは、税制控除対象団体に寄附をした場合、寄附者に一定額をキャッシュバックしてもらえる制度だといえます。つまり、誰かが寄附をしないとこの仕組みは発動しません。ほとんどの先進国では、政府はこの寄附税制と、補助金の両方を組み合わせて非営利団体を支援しているのです。「それぞれに強みと弱みがあるので、公的支援はどういうバランスで行われるのが良いのか?と、創作側でも考えてほしい」と片山さんは受講生に問いかけます。「公的価値を一般に説明しにくい活動でも、誰かの共感さえ得られれば寄附に繋がるという可能性がある。公的助成や補助金のような財政支出に依存するばかりではなく、民間資金を開拓していくことが、今後ますます必要になると思います」。

講座の終わりに、チャットでも受講生からの質問がいくつも寄せられました。財源については「(片山さんの所属する)セゾン文化財団のような『助成財団』がもっとあれば良い」と言います。アメリカの場合、個人寄附の得られにくい中間支援組織などは大型の財団が支援しています。長期的ではありますが、最終的にはそうなればいいなというビジョンを語られました。
また「一般の人がもっと寄附する土壌をつくっていくには?」という問いには、片山さんは「日本の芸術団体などは、寄附をちゃんと頼まない」ことを問題点として挙げます。アメリカでも、寄附をする一番大きな動機は「頼まれたから」という場合がほとんどです。日本でも見習えることは多いです。活動の特定の部分についてのみ寄附をお願いするという方法もあります。たとえば企業に対して「恵まれない子どもたちに観劇の機会を」というように、教育面にのみプレゼンテーションをするなど、相手にとって寄附しやすい条件を工夫することが大切です。
講座のファシリテーターの若林さんも「社会の要請が多岐にわたるようになり、寄附する分野がすごく増え、企業が芸術を寄附先として選択するのが難しくなりました。とくに芸術は他の分野に比べ、寄附をもらっての感謝や報告が非常に少ないと、よく言われます。これを改善しないと(寄附先に)選ばれない」と、現状課題についての解決案を提示。これについては片山さんも大きく同意し、芸術分野にも自らできる行動がまだまだあることを実感する講座でした。

さて、ついに第8回講座まで終えました。次回は最終講座となります。『課題解決戦略レポートの最終発表会』として、受講生一人ひとりが、自分の課題や目標を設定しその解決や実現の具体案を発表します。発表までの約2か月弱の時間、時には受講生同士で意見を交わしながら、自分の課題を見つめていきます。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
片山正夫(かたやま まさお)
公益財団法人セゾン文化財団理事長
1958年兵庫県生まれ。1987年、セゾン文化財団の設立時より運営に携わる。常務理事を経て2018年より現職。1994~95年、米国ジョンズホプキンス大学フェローとして芸術助成の評価を調査。現在、(公財)公益法人協会理事、(公財)助成財団センター理事等を務める。アーツカウンシル東京カウンシルボード委員。慶應義塾大学大学院、明治学院大学非常勤講師。著書に「セゾン文化財団の挑戦」共著に「民間助成イノベーション」等。

執筆:河野桃子(かわの・ももこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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