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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京芸術文化創造発信助成[長期助成プログラム]活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成プログラム】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/04/08

第12回「雅楽をもっと身近に ―― 雅楽の未来を育むために取り組んだ『伶楽舎・子どものための雅楽プロジェクト』」(前編)

開催時期:2021年12月7日(火)19:00~21:00
開催場所:アーツカウンシル東京
報告団体名:一般社団法人 伶楽舎
対象事業:「伶楽舎・子どものための雅楽プロジェクト」(平成27年度採択事業:3年間)
登壇者(報告者):
宮田まゆみ(伶楽舎 音楽監督)
宮丸直子(伶楽舎)
中村仁美(伶楽舎)
尚紀子(東京コンサーツ)
司会進行:堀内宏公(企画助成課 シニア・プログラムオフィサー)
※事業ページはこちら


プロジェクト概要 ―― 達成目標

平安時代に大成されてから千年以上に亙って継承されてきた雅楽が今後何百年、千年先まで発展しつつ引き継がれていくために、そして2015年に創立30周年を迎える団体の活動規模を拡げるために、子どもを含む観客層・観客数の拡大を目的とした事業を行う。次代の文化の担い手である子ども達が雅楽と出会い親しめるプログラムや作品をつくり上げることを目指す。

助成対象活動の概要 ―― 活動の3つの柱

(A) 子どもための雅楽コンサート
子どものための雅楽作品「ポン太と神鳴りさま」(芝祐靖 作曲)の他、舞楽、雅楽解説、唱歌体験、雅楽の楽器紹介と演奏。正倉院復元楽器の紹介と作品演奏。
(B) 子どもを対象とした雅楽作品CD、雅楽紹介DVDの作成
これまでになかった音楽教育現場で活用しやすいツール。
(C) 子どものための新作雅楽の委嘱と初演
伊左治直 作曲「子どものための雅楽作品」(新作)、他。


レポート
第一部:報告会レポート

雅楽演奏家で作曲家の芝祐靖さんが1985年に創設した伶楽舎。民間の雅楽の演奏・研究団体として、古典はもちろん、廃絶曲の復曲や現代音楽の演奏、新作の創作にも積極的に取り組んできた同団体は、ワークショップやレクチャーコンサートなどの教育・普及プログラムも数多く手がけてきました。今回は、音楽監督の宮田まゆみさん、メンバーの宮丸直子さん、中村仁美さん、マネジメントを担当する東京コンサーツの尚紀子さんを迎え、2015年度から3カ年にわたり実施された「子どものための雅楽プロジェクト」の概要、成果と課題についてお話いただきました。

(左から)中村仁美さん、宮丸直子さん、宮田まゆみさん、尚紀子さん

伝統的な古典雅楽の演奏と新しい雅楽の演奏、創作を二つの柱として追求してきた伶楽舎。「子どものための雅楽プロジェクト」に乗り出した背景には、創設者、芝祐靖が取り組んだ子どものための新作雅楽の創作や公演、とりわけ2004年に発表した『ポン太と神鳴りさま』の成果があったという。「伶楽舎として子どものための雅楽に携わる前から芝は、自宅近くの小中学校に楽器を持ち込んで紹介したり、数人で演奏してきかせたりしていました。雅楽の演奏は、不思議な音楽に触れたという感じでそれほど反応はなかったようですが、実際に楽器に触れると、子どもたちは目を輝かせて鳴らし続けていたそうです。じゃあどうしたら雅楽の演奏を楽しんでもらえるか、いろいろな経験と試行錯誤の末に生まれたのが『ポン太と神鳴りさま』です」と、音楽監督の宮田まゆみは振り返る。主人公ポン太がナスの木に登り、雲の上で神様と出会うというシンプルな物語を、時にユーモアを交えながら、雅楽の深い広がりを持つ響きで彩った同作は、その後行われた文化庁の巡回公演でも人気の演目となった。「私たち自身、この曲を演奏するのはとても楽しく、ディズニーのアニメーションかファンタジー映画を見るような気持ちでおります。また、このように子どもたちが喜び、雅楽を楽しむ入り口になるならぜひ、この作品を中心に活動を広げたい、そのためにもCDやDVDがあるといいねと考えるようになりました。ただ、自分たちの力だけでそれを進めるのも難しい。そんな時に、このアーツカウンシル東京の助成を知ったんです」(宮田)
きっかけはCD、DVD製作の夢。とはいえ実際に応募、採択されたプロジェクトは、それだけに止まるものではなかった。「『ポン太と神鳴りさま』は2004年に初めて演奏しまして、その後、2006年、2007年と自主公演で『子どものためのコンサート』をした際にもこの曲を取り上げました。ただ、そうした教育プログラムのあり方についても、体系的に進めることができていないという悩みがあり、それならばと、文化庁の巡回公演、学校での経験も踏まえた集大成になるようなプロジェクトを考えようという話になりました」(宮丸)
次代の文化の担い手である子どもたちと「雅楽」との出会いをどのようにつくり、広げていくか。こうして、これまでの経験をもとに3つの柱(1.子どものための雅楽コンサート、2.子どもを対象とした雅楽CD、雅楽紹介DVDの作成、3.子どものための新作雅楽の委嘱と初演)が立てられ、それらを併行して進める3年間が始まった。

「体験」の引力 子どものための雅楽コンサート

ひとつ目の柱である子どものための雅楽コンサートは1年に1回のペースで、都内でも地域を変えて開催した。管絃と舞楽の鑑賞に加え、旋律を歌で覚える「唱歌(しょうが)」を体験してもらうなど、雅楽の紹介をメインにした第一部と『ポン太と神鳴りさま』をはじめとする物語つきの曲を披露する第二部というのが基本構成。第一部の終盤には、鞨鼓や太鼓、篳篥など実際の楽器を触ったり、音を出すことができる体験の時間も設けた。中でも特に反応が大きかったのは楽器体験だったそう。「もともとはロビーと舞台上とで、打楽器と吹物を分けて体験してもらおうというふうに考えていたんですけれど、会場によってはロビーで音が出せないので、そこでは装束の展示をやって、体験は場内でというふうにしたこともありました。そうすると舞台上に人が押し寄せるような感じになったり。私たちとしては、やはり雅楽を聞いてもらうことを主眼にしていましたから、最初はそれほど体験を中心には考えていなかったんですが、回を重ねるごとに、いかにこの体験タイムをスムーズに運んで満足していただくかが課題になっていきました」(宮丸)
演目鑑賞や解説の仕方も3年のうちに進化した。「3年目には幕間で舞人が一人出てきて解説をするというようなこともしました。この方法は国立劇場の入門講座からアイデアをいただいたもので、ちょっと型を見せてもらったり、装束の説明をしてもらったりするんです。これは子供たちも喜んで見ています。このプロジェクトではゼロ歳児から入場可能にしていますが、客席から舞人が出ていって、小さな子の目の前を通ると泣き叫んでしまったりということもあります。でも、そういうことも私たちにとっては『しめた』と思える瞬間なんです。また、第二部の子どものための雅楽ではプログラムに歌詞と楽譜をつけて歌ってもらえるような工夫もしました」(宮丸)

伶楽舎 子どものための雅楽コンサート2020(※本プログラムは、アートにエールを!東京プロジェクト [ステージ型]の支援を受けて伶楽舎が新たに制作・収録したものです。)

楽しめる、使える 教材(CD、DVD)づくり

コンサートの制作、実施と併行し、CD、DVDの製作も進んでいた。1年目に録音、収録を行い、2年目の2016年5月にCD「子どものための雅楽 ポン太と神鳴りさま」、8月にDVD「子どものための雅楽 雅楽ってなあに?」を発売。CDの曲目には2つの昔ばなしと雅楽『ポン太と神鳴りさま』『カラ坊風に乗る』に加えて、コンサートでも演奏した『越天楽今様』『陵王』などを盛り込んだ。「雅楽は抽象的な音楽なので、いくら説明しても3分くらいで飽きられちゃったりするんですが、お話があると子どもたちが聞き入るんですね。この作品は語りについてもメンバーの一人が初演からずっと担当して、スキルアップもしています。『陵王』は、子供が全曲を聞くのは大変かもしれませんけども、今から振り返ると芝先生の笛でこれを収録できたということは、私たちにとって嬉しいことでしたし、今聞いても感動します」(宮丸)
一方、DVDでは古典、子どものための曲、武満徹による『秋庭歌一具』の抜粋を通じて雅楽の広がりを伝えると同時に、芝による解説、楽器紹介や篳篥の唱歌、舞楽の見どころも収録。学校の授業での使い勝手に配慮した。「全体で36分をそのまま流していただいてもいいですし、コーナーごとに観ていただいてもよいと思います。映像のプランナーに入っていただいたわけでもなく、基本的には撮影の方にお任せして、編集で『こっちじゃなくて、こっちのカメラで撮ったものを使って』といった形で進めていきました。ですから、もっといいやり方があったのかもしれませんし、今になって『全曲入れてもよかったな』とか『ナレーションをオン・オフできるようにすればよかったな』と思うこともあります。ただ、ワークショップの後に『復習に使ってくださいね』とお渡しすると皆さん喜んでくださいますし、本当につくってよかったと思います」(宮丸)

本プロジェクトで制作されたCD「子どものための雅楽-ポン太と神鳴りさま」。給食時間や音楽の時間などに、読み聞かせのCDのように使っていただき、雅楽に親しんでもらえれば、と制作した。併せて、雅楽古典曲の代表的な演目を収録。学校へのアンケートのお礼としてプレゼントし、現在でも生の公演を聴いてもらった後に贈呈している。

本プロジェクトで制作されたDVD「雅楽ってなあに?」。雅楽のDVDは多いが、雅楽は一曲の演奏時間が長く授業で取り上げるにはどこを見せるか選択が難しいため、コンパクトに雅楽を紹介できることを目的として、色々な曲の聴きどころを集めて制作した。なおこれらのCDとDVDは、伶楽舎のウェブサイトでも購入可能。

また、これらの製作に関連して、学校教育における雅楽教育の実態調査を行ったのも、今後につながる貴重な取組みだったと言えるだろう。調査は2016年5月から7月にかけ、都内の小・中・特別支援学校2,318校を対象にアンケートを送付する形式で行われた(回収率9.7%)。質問は10問程度。授業でどの程度雅楽に時間を割いているか、授業内容についてCDやDVDは活用されているか、生徒が実演したり、生演奏を聴く機会はあるのかなどを選択肢を示しながら聞く質問、教員の雅楽体験について聞く質問などで構成されていた。「どんな教材が欲しいかということでは、DVDで各楽器の別撮りがほしいとか、楽器の一つひとつを説明してもらえると嬉しいといった要望がよく見受けられました。やはり演奏を録画しただけのものでは使いづらいということが確認できました。また、小学校の先生にはいろいろな工夫をされている方が多くて、唱歌(しょうが)を歌ったり、リズムを打ってみる、あるいは曲の季節に合わせて屋外で鑑賞するようにしているといった書き込みもしてくださいました。中学校の場合は8割がDVDの視聴を中心とした授業になっているようです。それから、本物を聴かせたいけれど予算がないとか、知識がないから研修の場がほしいといった声も多く見られました。このアンケートの送付や回収、集計は大変でしたが、今の伶楽舎の活動にも生かされていますし、雅楽にそれほど興味を持っていない学校にも、こうした取り組みを通じて、伶楽舎が学校教育に役立ちたいと考えているということが少しでも伝われば嬉しいです」(中村)

新たなレパートリーの創造

コンサート、CDやDVDの製作が、これまでの演奏、研究、創作で積み重ねた財産を活用する事業だとすれば、新しい財産づくりにも挑んだのが、3つ目の柱にあたる「子どものための新作雅楽の委嘱と初演」だ。2015年10月から2017年3月まで、5人の作曲家と伶楽舎の演奏家によるワークショップを開催、2017年5月の自主公演「伶楽舎雅楽コンサートno.32 新しい雅楽 次の世代へ(子どものための委嘱作品集)」で、5つの新作(山根明季子 作曲『星のテンテンテン』/藤家渓子 作曲『瞳の色は夜の空』/東野珠実 作曲『雅楽絵巻 鳥獣戯楽~正倉院復元楽器のための~』/北爪道夫 作曲『季節の絵本』/伊左治直 脚本・作曲『踊れ!つくも神 ~童子丸てんてこ舞いの巻~』)を初演した。「これまで伶楽舎が演奏してきたお話つきの曲は3曲でしたから、子どものコンサートを毎年続けるとするなら、さらに子どもたちに楽しんでもらえる曲を開拓した方がよいと考えました。委嘱には経済的な大変さが伴いますが、これもこの長期助成があったおかげで実現できたと思います」(中村)
非公開で、全8回にわたっておこなわれたワークショップでは、新曲についての具体的な意見交換が重ねられた。「それまでの新作の委嘱では、たとえば古典の爪では弾けないとか、音域が難しいとか……色々なハードルを乗り越えてでも、それぞれの作曲家の方の作られたイメージを実現する演奏をしようとしていたと思います。でも、この時には『子どもに聞いてもらいたい』という目的がありましたから。あまりに複雑な曲、奏法にならないようにしてほしいといったことも含め、相談しながら進めようということで、このような取り組みになりました」(宮丸)
この時に発表された5曲のうち3曲は、すでに伶楽舎のレパートリーとして再演されており、この2022年にも複数回にわたり演奏が予定されている。さらに今年7月の「子どものための雅楽コンサート」の楽器紹介コーナーでは、5曲のうちのひとつ『雅楽絵巻 鳥獣戯画〜正倉院復元楽器のための〜』を手がけた東野珠実による新曲も披露される見込みだ。

教材CD、DVDの製作、アンケート調査の記録、5曲の新曲とそのレパートリー化と、今回の事業は、多くの財産を伶楽舎と雅楽鑑賞、教育の場にもたらした。報告会でのプレゼンテーションやインタビューを通して印象に残ったのは、伝統に根差した自負と、現代を生きる柔軟さ、そしてこの事業の組み立ての“真っ当さ”だ。新たな挑戦、方向性を開拓していくのに、新奇なアイデアを思いつく必要はない。積み重ねてきた取り組みの中からこそ、挑戦すべき課題は見えてくるもの。教育普及関連の事業を「体系的」に見直すことから始まった伶楽舎のプロジェクトは、まさにこれに当てはまる。とはいえ、越し方を振り返り課題を取り上げ、事業として組み立て、実現に持ち込むには、それだけの時間と資金が必要で、多くは普段の公演活動などに追われ、足踏みをすることになりがちだ。長期助成プロジェクトは、こうした「そこに見えているのに手をつけられていない、取り組むべき挑戦」の背中を押すもので、伶楽舎の「子どものための雅楽プロジェクト」はその大きな成果といえる。

(取材・構成 鈴木理映子)

第12回「雅楽をもっと身近に ―― 雅楽の未来を育むために取り組んだ『伶楽舎・子どものための雅楽プロジェクト』」(後編)につづく


プロジェクト概要:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/support/program/7644/

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