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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/04/08

第12回「雅楽をもっと身近に ―― 雅楽の未来を育むために取り組んだ『伶楽舎・子どものための雅楽プロジェクト』」(後編)

第二部インタビュー

第二部では、アーツカウンシル東京のシニア・プログラムオフィサー、堀内宏公の司会で、本事業の背景となった雅楽の公演活動や伝承の現状、伶楽者での新たな取り組みについて掘り下げるインタビューが行われました。

第12回「雅楽をもっと身近に ―― 雅楽の未来を育むために取り組んだ『伶楽舎・子どものための雅楽プロジェクト』」(前編)はこちら


−まずは最近の雅楽の状況について、演奏する側、鑑賞する側、双方にどのような特徴や変化があるかをお伺いできますか。

中村 私は大学で雅楽の実技の授業をさせていただいています。子供たちの数自体が減って小規模にはなりましたが、熱心に勉強してくれています。ただ、「続けたいけれど」と言いながら卒業して、続ける場所が見つからず、そのままになっているということがほとんどですので、そこに非常にジレンマを感じています。私自身「雅楽をやろう」と考えて大学に入ったわけでもなく、ちょうど芝先生が「若い人たちと何かやろう」とされていたところに出会い、わけもわからないまま参加させていただいたことで育てられた、という部分が非常に大きいんです。今は、そうしたことが起こりにくい。本当は自分自身がそういう場をつくらなくてはいけない立場になっているということを感じつつ、そうできてはいない難しさがあります。

宮丸 全国的に見ても、愛好家のグループは増えていると思います。このごろは、お金をかけず、インターネットで自分たちの演奏をアップするということができますから、玉石混交ですけれど、それを観て、笙、篳篥、龍笛というような楽器があって、ということを知っている人は以前に比べると圧倒的に増えていると思います。先日も中学校でワークショップをしましたが、その学校ではインターネットを使って事前学習をし、興味のあることをレポートに書いて貼り出していました。それで授業の時に先生が「雅楽の楽器の名前、言える?」と聞くと、何人もの子が「もちろん」と言うんですね。こういうことは(長期助成の事業を始めた)2015年ごろと比べても全然違ってきていると感じます。

宮田 私が雅楽を演奏し始めた40年近く前は、ちょうど国立劇場の活動が盛んになっていった時期でした。でもまだ、雅楽はかしこまって聴くものという意識が強かったと思いますし、今でもそういう方は多いと思います。ですから、若い人たちが本当に自由に雅楽を楽しむようになってきたのは本当に嬉しいことです。『源氏物語』の中には、音楽を演奏する場面がたくさんありますけれど、中でも「今めきて」というふうに表現されているのがとても印象的なんです。当時、雅楽を聞くということは、高度に発達した唐の都の長安から入ってきた、異国の素敵な音楽を聞くという体験だったはずです。今の時代の若い人たちも、そんなふうに、再発見のような形で雅楽を聴いているのではないかと思いますし、そんなふうに心が動かされる体験を積み重ねていただけたらと思います。

宮丸 やはり、生の音を聴いてもらうこと、楽器の仕組みを実際に触って知ってもらうことで理解が深まるということは、とても大きいと思います。ですから、私たちが取り組んできた子どものためのコンサートも、子どものための、と銘打ってはいますが、子供だけじゃなく、初めて雅楽を知る人、あらためて聴いてみようという大人の人への広がりも期待しての活動です。

−今、宮内庁でやっているような「雅楽」のかたちは、明治撰定譜というものができて、演奏の様式が定められて以後のもので、それよりも以前の江戸時代に至るまでのかたちとは異なるものだということも聞いております。芝祐靖さんは、今はかしこまって聴くことが多くなった明治時代以降の雅楽よりも、それ以前の生き生きとした雅楽の響きを取り戻し、雅楽の魅力の幅を広げる活動をなさっておられました。現代ではさきほどのお話にも出たインターネットの環境も整備されてきていますので、そうした技術を通じて、明治撰定譜以降の雅楽に留まらない、また別の雅楽の多様な魅力に出会える可能性も広がってきているのではないかという気もいたします。伶楽舎のみなさまが行ってきたさまざまな活動も、必ずしも重々しくかしこまった雅楽を演奏するというのではなく、楽器の響きの多様性をダイレクトに楽しんでいただくものになっていると感じます。それを踏まえて、今後の伶楽舎の活動について、古典的な雅楽に親しむ人たちを増やすのか、さらに雅楽というものの幅を広げつつ聴衆の拡大をするのかといったお考えを伺いたいと思います。

宮丸 メンバーの中にもいろいろな考えがあると思います。この事業で私たちがやってきたことは、楽器の音の面白さ、こんな音楽が日本にあるんだよということを知ってもらうという活動でした。そうした入口から、伝承されてきた特別なリズム体系や古典の楽曲の成り立ち、といったこの特殊な音楽の魅力をわかってもらいたいというのがすごくあります。西洋音楽とはまったく違うコンセプトの音楽ですから、音の面白さから出発して、そこまで聴いてもらえればいいなと思います。また、その先にはもちろん、今後、雅楽が発展していくようにという思いもあります。子供達にもいつも「1000年前から繋がってきた雅楽を1000年後にも伝えていくためには、新しい工夫がなくちゃいけない」と話していますが、こういういろいろな活動、新しい委嘱の作品からもそういう広がりが生まれるのかどうか、まだわからないところはありますが、期待はしております。

中村 新しい音楽を、この楽器をやってみたいということで、実際に雅楽の楽器を使っている方は増えていると思います。それに対して、何か伝統への後ろめたさのようなものはなくて、前の世代とは違う感覚でやっていらっしゃいます。ただ、たとえば、伶楽舎が委嘱してつくった曲を演奏する団体がいるかというといないんです。そういう広がり、動きがあったら面白いんじゃないかと思いますが、そういう団体が出そうにもないという課題は感じます。

宮丸 そこは本当に発展途上です。先月国立劇場で、伶楽舎としては珍しい、1曲をのぞいてすべて明治撰定譜による古典、という演奏会をさせていただきましたが、なんと、それがあっという間に完売したんです。世の中のニーズはそこにあるんだと感じました。そこで古典を聴いていただいて、さらに発展して新しいものも聴くというふうになればいいなと思ってはいるんですけれど。

−より多くの方に雅楽に親しんでもらおうという目的に向け、芝先生の作られた子供のための雅楽曲を紹介したり、新しい作曲家の方に雅楽と初めて出会う人のための独創的な新作を委嘱したりと、新しいアプローチで向かっていった。それは、伶楽舎だからこそできた方向性だと強く感じます。では、ホール側、制作者側から見た雅楽の状況についてもお伺いしたいと思います。そういった場で、雅楽はどのような位置付けにあるのでしょうか。マネジメントを担当されている東京コンサーツの尚さんにお話いただきたいと思います。

 この長期助成の企画を通じて、子供を対象にしたプログラムも充実してきて、ノウハウもできたということもあり、ワークショップをやってその後コンサートをするというようなアウトリーチのご依頼もいただいております。身近に楽器に触れた後で演奏を聴くというのは、洋楽でもそのようなアプローチが主流になっているかと思いますが、伶楽舎へもそういったご依頼が多くなっています。
またこの数年、主催のホールからのご依頼で、雅楽と別ジャンルのコラボレーション企画をできないかというような相談を受けることが続きました。2018年のパリの「ジャポニズム」に宮内庁楽部と共に呼んでいただきましたが、その時も古典とダンスとのコラボレーションを披露しました。伶楽舎としては2016年に勅使川原三郎さんとの『秋庭歌一具』を企画上演しており(当公演はサントリー芸術財団の第16回(2016年度)「佐治敬三賞」を受賞。アーツカウンシル東京の平成28年度 東京芸術文化創造発信助成[単年助成プログラム]第1期 助成対象事業)、そうした試みがあったから、お声がかかったというところもあると思います。
パリの公演については、伶楽舎でも、ご一緒した森山開次さんの方でも、観客のみなさまの熱気を強く感じたということがありました。ちょうどオリンピックがあったり、日本の音楽を見直そうという流れもあって、海外のお客さんが、日本の音楽の魅力をすごく喜んでくださった。それで、この企画をもう一度やりたいという話が2018年の時点からありまして、今年、文化庁の補助金を得て、先日、公演をすることができました[「雅楽で舞う 雅楽と踊る 伶楽舎×森山開次」2021年11月30日(火)於 テアトロ・ジーリオ・ショウワ]。この時には、以前伶楽舎が委嘱した曲、権代敦彦さん作曲の『彼岸の時間』と猿谷紀郎さん作曲『綸綬』にダンスをつけたんですが、猿谷さんは、「この忙しい現代で、雅楽の時間の流れについて考え直すべきなんじゃないか。今だからこそ、雅楽を聞くべきなんじゃないか。時の流れが現代とは異なるということをどう表現するか」といったことをすごく考えたそうです。これは、個々の楽器や曲の魅力とはまた違った意味で興味をそそる視点でした。また、森山さんも、リハーサルのとき1回目と2回目とで同じ日に続けて演奏しているのにテンポが違ったことに驚いたとおっしゃっていました。拍子を決めて振り付けをされたわけですが、毎回テンポが違う、指揮者もいないのでどう始めるかも異なるわけです。それが本来の日本の音楽だったかもしれませんが、私たちは洋楽の勉強をし、洋楽で育ってきましたから、そういったことも面白いポイントです。私たちマネジメント側としては、このような素材をもっとうまく拾って広報していけたらいいなと感じています。

−確かに、リズムやテンポは西洋音楽においては音楽の重要な要素ですが、日本の音楽においては、それだけでない響きの味わいを聴き取る面白さがあります。西洋音楽が水平的に展開、構築されていくとするならば、日本の音楽はそうではなく垂直的に音色の味わいが立ち上がってくる。その響きを全身の感覚で楽しむのが雅楽の特徴ではないでしょうか。今回の体験プログラムのように実際に楽器に触れ合う経験も、聴覚や視覚だけではなく、五感全部で楽しむことにつながっているのではないかと思いますが、その辺りについては、どうお考えでしょうか。

宮丸 実際に楽器に触れたその子の感動は、生の音を聴かせたり、構造を説明して聞かせるのとは違う特別なものだと思います。今は管楽器の体験が難しい時期ですから、打楽器と舞の体験をやっていますが、そうするとたとえば「鉦鼓が一番好きだった」とアンケートで書いてくれたりするんです。雅楽の打楽器の奏法はものすごく単純で、鉦鼓の場合は片手で「チン」、両手で「チチン」と、これだけなんです。ですから古典をやっている雅楽の団体では、鉦鼓は、若い人、初心者が担当する、わりと軽んじられがちなポジションなんですが、子供たちは先入観がないですから、その「チン」という音をひとつ出すことで感動が深まるんですね。そこはやっぱり、やってみるのとみないのでは全然違うなと感じます。

中村 コロナ禍以前は、ロビーに篳篥を並べて、順番に子供たちが吹いたり、もちろん消毒しながらですけれど、そういうことをしていました。篳篥や龍笛はプラスティックのものがあって、単純な構造で音を出す喜びを確かに感じられます。子供たちの方にすれば、どんな楽器でもいいのかもしれませんが、雅楽の楽器は、「息を入れたら、こんなに綺麗な音が出るんだ」という直接的な感動が得られやすく、大勢の人に参加してもらいやすい、扱いやすい楽器だということもあると思います。

子供たちの雅楽の楽器体験の様子を説明する宮丸直子さん

雅楽の“広がり”をとらえ、伝える

−ありがとうございました。それではあらためて、長期助成の事業を終えて、その後の活動に役立った点や発展した部分について、そして今後の展開についてお聞かせ願えますでしょうか。

宮丸 長期助成に申請する以前から、伶楽舎では子どものための活動をやっていましたが、きちんとした業績をつくっていかないと続けていけないというような思いがありました。それはとりもなおさず、学校側が伝統芸能の演奏やワークショップを求めている時期とも重なっていました。学校での公演やワークショップ、依頼公演での楽器や唱歌の体験といった、演奏会とは違う普及公演の数をカウントしてみたんですが、やはり2014年くらいからだんだん増えて、2020年はコロナで特殊な年になってしまい、ほとんどキャンセルになってしまいましたが、2017年から19年まではコンスタントに要望をいただいていました。
ですから私たちとしては、この長期助成は、それまで手探りでやっていたことを、トータルとして捉えて、今後どういう企画をやったらいいかを考えることができた、そういう句読点になったと感じていますし、そこからさらに工夫ができないかを追い求めつつコンサートを続けています。子どものための雅楽コンサートはシリーズ化して、2018、19年、そして今年(21年)も開催しました。子どものためのコンサートは保護者の方も若いですし、チケット代を高くすると敬遠されてしまいます。なので「こんなに赤字を出して、どうしてそれでもやるの」と言われることもあります。でも、いろいろな人に広く伝えたいと考えたときに、やはり、学校だとか閉じられた空間でやるだけじゃなく、「ここにきてね」と言える場所がほしいんです。去年と今年は、あまりたくさんの人数の人たちをいっぺんに会場に入れられない、ということはありましたが、今後もコンサートを続けながら、新作を入れるといった試みをしていければいいと思います。

−子どもを対象にした事業は、伶楽舎さんの活動の大きな柱のひとつと伺っております。今後も赤字を覚悟でこの事業を進めていかれるのかどうか。続けていくのであれば、何か工夫をされていくのかどうかということについてもお伺いしたいと思います。たとえば、フル編成ではなく、いくつかの楽器を組み合わせた小編成で、子どもたちに雅楽に触れてもらうための新作を作曲家に依頼することはできないのか。あるいは、子どもたちが実際に演奏に参加できるような、実験的で教育的な音楽作品づくりなどが可能なのか。今後、子どものためのコンサートの企画自体を、お金がかからなくて、効果的なものとして展開していく可能性については、どのように考えていらっしゃいますか。

宮丸 学校から直接依頼をいただく公演ですと、一生懸命お金を集めてくださっても、少人数でしかいけないということがたくさんあります。自治体からの依頼でも多いのは4、5人でいくワークショップです。それだとそんなに予算をかけずにできますし、体験も十分にできますので、これはやっていくべきだと思っています。ただやっぱり、11人、16人くらいでやる雅楽の音響のすごさ、装束を着た舞台も観てもらいたいなと思います。ですから少人数編成の曲もほしいですが、それを聴いたり、少人数のワークショップを受けた人向けの発展編として、古典の演奏だったり、大人数の響きを聞いてもらう場も必要なんじゃないかなといつも思っています。

−その辺りの考えはせめぎ合っているということですか。

宮丸 両方必要なんです。たとえばワークショップの時には、私たち、あえてTシャツで行って演奏することもあります。でも、それだけだと伝わらないものもあります。

−伝統芸能は、様式や型ができあがっていますから、それを自分の体に入れていくことが継承するということになります。ですからその型を崩してしまったり、現代的な工夫を前面に生かしたものにしたりすると、それは「伝統芸能」ではなくなってしまうということがあります。一方で、その芸能を成立させている観念、西洋的な芸術や文化の価値観とは異なる本質を抽出して、核心として伝えていくという方法もあります。ただ、この場合、あまり観念の方に傾倒してしまうと、肝心の古典の様式や型が伝わりづらくなってしまうということもあります。伝統芸能は、こうしたせめぎ合いのなかで、経済的な面とも相談しつつ、継承のための活動をしていくという状況にあるのかと思います。また、ひとくちに「伝統芸能を楽しむ人たちを増やす」といっても、鑑賞する人を増やすのか、実際にその芸能を実演する人を増やすのかという二つの方向があるのではないかと思います。伶楽舎さんの場合は、その点についてはどのようにお考えになっておられますか。もちろん、活動のなかで両方の方向性が重なってくるのが理想なのかもしれませんが。

中村 今の伶楽舎の活動は、ほとんどが、鑑賞者、聴く方を対象にしている感がありますね。いわゆる教える活動というのは会としては行っていません。もちろん、中にはそれぞれに指導をされている方もいますが、会自体が、実際のところ、多くの演奏者を受け入れることができない、というのが現状で、演奏者を育てて、ゆくゆくは一緒にやっていきましょうというふうには、なかなかいかないのが難しいところです。実際、『越天楽』などを演奏して、「楽器、面白い」「面白かったから習いたい」と言ってもらえても、「どこに行けば習えるよ」ということが言えない。一歩先に案内することができない、というのはジレンマとしてあります。また、子ども向けコンサートでも、どうしても初めて聴く人を意識するので、曲目も『越天楽』など、ある程度似通ってしまいます。そこでも、もう一歩先に誘導することができないままでいるという反省はあります。じゃあ、どうしたらいいのか。伶楽舎のスタジオがあって、そこに楽器があって「いつでも来ていいよ」、「じゃあ、この時間は子どもたち向けの教室ね」みたいなことができればいいんですが、実現に至る道筋が見えないでいます。

宮丸 レンタルだけれど常設で、楽器が置けて、たとえば曜日を決めて夜に短いコンサートをやる、というような夢を見て、実際にそういう場所を探したこともあります。ただ、普通の建物ではダメだったんですね。どんなスタジオでも太鼓の音が大きすぎるということで挫折しました。お寺や神社ならば音が聞こえても怒られませんから、そういう会場を練習場所にすることも考えられるかなと思いますが、今はコロナで難しいところもあって、まだ大きな課題になったままです。また、ひとつ、実現のために動いていたのが「初めての琵琶」「初めての箏」だとか、6カ月で1曲できるようにするという講座です。これも、現状では同じ楽器を共有することが難しいということで保留になっています。

 「文化庁による子供の育成事業」の公演で「演奏者の皆さんは何歳からこの楽器をやってたんですか」という質問が出たんですよね。その時に宮丸さんが、それなりに背が大きくならないとできないので、宮内庁楽部のおうちの方たちは、小さいころから歌を歌ったりして身体と耳に馴染んでから楽器を始めるというようなお話をされていました。そう考えると、子どものプロジェクトでたとえば太鼓を叩くという経験が子どもの中に残れば、その次にやってみようか、というのは、年齢的にもっと後で、本当に大人になってからでもいいんじゃないかとも思います。

−体験を軸にした普及活動をなさっている伶楽舎さんの活動は、大変意義のあるものではないかと思います。この活動を通じて雅楽や日本の伝統芸能の素晴らしさがより多くの人に届き、ゆくゆくは自分でもやってみようという人が増える。また、古典をしっかり継承すると同時に、雅楽の楽器を用いて現代の感覚を取り入れた新しい響きの世界をつくっていくというようなことが続いていくのが、理想的ではないかと思います。

宮田 今回の助成を通して、アーツカウンシル東京さんと接する機会ができたことで、ただ助成を受けるということだけじゃなく、あらためて、こうして私たちの活動を客観的に考えることができたということは、とても大きなことだったと思います。重ねて感謝申し上げます。ありがとうございました。

質疑応答

質問者1 ダンサーの方とのコラボレーションについてですが、さきほど紹介されていたのは、ダンスといっても洋舞でコンテンポラリーのものですね。何かコラボレーションにおける選択眼というものはあるのでしょうか。どういうところにポイントをおいて、コラボレートをされたのかお伺いしたいです。

宮丸 いちばん最初に自主公演で勅使川原三郎さんと『秋庭歌一具』をやった時は、いろいろな方にコンタクトをとって、最終的に勅使川原さんにお願いしたんですが、その後のコラボレーションは主催の方からいただいたお話です。ですから、森山開次さんも、私たちが選んだというより、そういうご縁があって、という感じでした。コラボレーションに関して、ひとつ付け足しておきますと、昨年、「音のVR」という企画で、コロナ禍のなか、国立劇場さんにもご協力をいただいて、伶楽舎と新日本フィルハーモニー交響楽団のコラボレーションの撮影、録音をしました。『君が代』や『ジュピター』の演奏をしてそれは楽しかったです。新日本フィルさんとはその後も「子供のためのコンサート」でコラボレーションする機会をいただくことができました。ですからなんとなくアンテナを張っているといろいろな声をかけていただけることがあるなと思っています。

※「音のVR」――国立劇場×音のVR 雅楽とオーケストラの360度アンサンブル:https://time-space.kddi.com/otonovr/gagaku/

質問者1 ありがとうございます。コラボレーションの際には、その時々で、偶発的な要素も取り入れながら音楽に昇華していくというような感じでしょうか。

宮丸 そうですね。今年1月(2021年1月)にロームシアター京都で金森穣さんとやった『秋庭歌一具』は、ロームシアターの方が伶楽舎の活動を見ていらして、組み合わせてくださった企画です。

堀内 ダンサーの方とコラボレーションでは、どの程度、事前の打ち合わせや稽古をなさるのでしょうか。

宮丸 ダンサーの方の考えにもよります。『秋庭歌一具』のように曲のかたちがカッチリしているものについては、そんなにたくさんリハーサルしなくてもいいですから。

中村 基本的には音楽はすでに初演されたもので、形を変えませんので、双方歩み寄るというよりは、音楽に踊りをつけていただくことになります。これが、音楽も初演ということですと、また話は違ってくると思いますが、今回は、ダンサーの方に合わせていただいたということになるかと思います。

宮丸 そうですね。ただ、先ほども森山さんとのコラボレーションの話にもあったように、私たちの演奏のテンポが変わるので、ものすごく苦労して合わせてくださっていた面もあると思いますし、それが踊り手の方にとって目からうろこが落ちるような体験になったということもあると思います。

 伶楽舎は四谷区民ホールをホームとして演奏会をしています。400人くらい入るホールで、だいたいいつも埋まっているんですが、『青海波』をやった時には、本当にお客さんがいっぱいになりました。『源氏物語』にも関連する曲ということで、国語の先生だったり、文学に関心を持っているお客さまが来ていらっしゃったようです。この前の(同じ『青海波』を演奏した)国立劇場の公演が完売したのもそういう広がりかなと思いました。森山さんとの公演でも、珍しく一列目から席が埋まっていって、「これはダンサーのファンの方だろうな」というのがよくわかりました。ダンスでは何度かコラボレーションをさせていただいていますが、今後、どういう組み合わせならば、雅楽の持っている要素に広がりが出るのか、これまでの客層とは違う方々に聴いていただけるか。私たちも考えていかなくてはいけませんが、ほかの組み合わせを考えてくださる方がいらっしゃれば、ぜひ、新しいことにチャレンジしていきたいと思っております。

堀内 今ある雅楽の作品を変えずに、別のジャンルの表現を重ねるという方法とは別に、一緒に新しい作品をつくっていくという方法もあると思います。それも、制作者やプロデューサーの側が選ぶ組み合わせでなく、伶楽舎さんの方で、美術でも映画でもジャンルは問いませんが、コラボレーションを行う相手の幅を拡張していくという可能性も期待したいところです。

宮丸 もちろん、ここではお名前は出せませんが、内輪ではこういう人とこんなことを、というようなことはたくさんあります。でも実現はまだできていないですね。

宮田 文学に興味がある方、古代中国の歴史や文化に興味がある方、現代音楽に興味がある方など、さまざまな分野に興味がある方が公演にいらっしゃるように、雅楽を通していろいろな楽しみ方ができるんですね。子どもたちが楽器に触れることもそうですが、雅楽を通して、いろいろな文化芸術へと関心が広がっていくということもあると思います。ですから私たちも、作品の演奏だけにとらわれず、自分から世界を広げていくような試みをしていきたいですし、一緒に演奏する方、聴いている方にもそれを伝えていければと思います。

(構成・文:鈴木理映子)


プロジェクト概要:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/support/program/7644/

一般社団法人 伶楽舎
1985年に芝祐靖(初代音楽監督)が創設した雅楽演奏団体。発足以来、現行の雅楽古典曲以外に、廃絶曲の復曲や正倉院楽器の復元演奏、現代作品の演奏にも積極的に取り組み、国内外で幅広い活動を展開している。特に、現代作曲家への委嘱作品や古典雅楽様式の新作の初演には力を入れ、年2回のペースで開催している自主演奏会で度々発表している。他に、解説を交えた親しみやすいコンサートを企画し、雅楽への理解と普及にも努める。また、文化庁「文化芸術による子供の育成事業」他、小中高校生を対象としたワークショップ、レクチャーコンサートなどの教育プログラムも多く行っている。令和2年(2020年)「第50回ENEOS音楽賞邦楽部門」受賞。
https://reigakusha.com/home/

宮田まゆみ(みやた まゆみ)
国立音楽大学卒業後、雅楽を学ぶ。1983年に笙のリサイタルを開催して注目を集める。古典雅楽の他に現代音楽にも積極的に取り組み、世界的な活動を展開している。国立音楽大学招聘教授。2018年紫綬褒章。雅楽演奏団体「伶楽舎」音楽監督。

宮丸直子(みやまる なおこ)
東京藝術大学音楽学部、同大学院修士課程(音楽学専攻)修了。雅楽を芝祐靖に師事。雅楽演奏団体「伶楽舎」に1985年の創立時から参加。国内外の演奏会、音楽祭等に出演。共著『図説 雅楽入門事典』(柏書房)

中村仁美(なかむら ひとみ)
東京藝術大学修了。篳篥、楽箏、左舞、古代歌謡等を芝祐靖・大窪永夫・上明彦・豊英秋などに学ぶ。1986年から「伶楽舎」に参加。古典雅楽から現代音楽まで、独奏楽器としての篳篥の魅力を開拓する活動を展開。国立音楽大学、沖縄県立芸術大学非常勤講師。

尚 紀子(しょう のりこ)
音楽事務所、株式会社東京コンサーツ・代表取締役社長。所属演奏団体「伶楽舎」のマネジメントを担当(コンサート、全国各地の小・中学校での雅楽普及公演の企画制作)。

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