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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2022/07/11

プロジェクトを立ち上げる力をつける──これからの時代に求められるアートプロデューサー/ディレクターとは? “新たな航路”を探る講座とは

アートプロジェクトと呼ばれるものの中には、芸術祭・ビエンナーレ・トリエンナーレなどの大規模なものから、まちなかでの創造的な活動を生みだす場づくり、コミュニティの課題と向き合った社会実験的な活動など、規模もテーマも様々なものがあります。そういった様々なアートプロジェクトを担う人々のための学びのプログラム『Tokyo Art Research Lab(以下、TARL)』では、プロジェクトを自ら企画し、立ち上げるための実践的な講座ラインアップを発表しました。

TARLは2010年より、アートプロジェクトの担い手の育成に焦点をあてて展開しています。プログラムの設計については、NPOと共に都内でアートプロジェクトに取り組む『東京アートポイント計画』と連携し、その時々で必要な技術や知識を提供するようなプログラムづくりを試みてきました。今年度のTARL担当者・小山冴子さんはこの10年の取り組みをふまえ、今のアートプロジェクトに必要なことについてこう説明します。

「この10年、アートプロジェクトを担う人材を育てるため、TARLでは様々な試行錯誤を重ねてきました。最初はアートプロジェクトの運営に関する基礎力を身につけるためのリサーチ型のプログラムを企画し、その後、連続ゼミや公開講座、スクール形式の講座など、様々な形式のプログラムを企画してきました。プログラムに参加した後、実際に、アートの現場に関わる人も増えています。しかし、アートマネージャーやスタッフとして活躍する人は増えているものの、プロジェクトをゼロから立ち上げる人は、なかなか出てきません。また、この10年で、私たちをとりまく社会状況はめまぐるしく変化し、様々な社会課題が炙り出されるようになりました。それと対応するように、アートプロジェクトも多様化しています。現在は、より地域課題と向き合う場を作れるような人が求められていると思います。
このような考えから、今年度のTARLでは、地域や社会の状況に応答しながらプロデュースやディレクションをしていく人を育てるためのプログラムを行うことにしました。また同時に、現場で必要とされるスキル向上のための実践的なプログラムを開講します」

今年度のTARLのプログラムは大きく分けて2つあります。これまでのアートプロジェクトを振り返り、これからの形を考え、つくっていくプログラム『新たな航路を切り開く』と、アートプロジェクトの現場に必要なスキル向上のためのプログラムです。

『新たな航路を切り開く』メインビジュアル photo: Chihiro Minato

これからのアートプロジェクトを考え、つくるプログラム『新たな航路を切り開く』

「時代が変化するとこれまでの考え方ややり方では通用しなくなるので、今ある状況に対する応答の方法をつねに更新していかなければなりません。現代に、そしてこれからの時代に、アートプロジェクトはどう応答していけばいいのか。それには、過去の事例がヒントになります。いくつもの芸術祭を手掛け、各地のアートプロジェクトをつぶさに見てきた芹沢高志さんにナビゲーターとして入っていただき、この10年を振り返りつつ、これからの時代を考え、これからプロジェクトを立ち上げる担い手や状況をもっと生み出せたらと、4つのプログラムを組み立てました」(小山)

●この10年間を振り返るプログラム

  1. 2011年以降10年間のアートプロジェクトの歴史を振り返る『年表をつくるー2011年以降のアートプロジェクトを振り返る』
  2. 5人の、独自の視点で活動を行う実践者を招き、この10年の社会の捉え方と、未来について必要なものや心得を伺い、これからのアートプロジェクトのあり方について議論する『アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点』
    【ゲスト】
    港千尋(写真家/著述家/NPO法人Art Bridge Institute代表理事)
    佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)
    松田法子(建築史・都市史研究者/京都府立大学准教授)
    若林朋子(プロジェクト・コーディネーター/プランナー)
    相馬千秋(NPO法人芸術公社代表理事/アートプロデューサー)
  3. 2011年以降に生まれたアートプロジェクトについて、事例をあげながら8つのアートプロジェクトを一つひとつ詳細に見ていく『ケーススタディ・ファイル』
    【ゲスト】
    岩井成昭(美術家/イミグレーション・ミュージアム・東京 主宰)
    滝沢達史(美術家)
    青木彬(インディペンデント・キュレーター/一般社団法人藝と)
    アサダワタル(文化活動家)
    清水チナツ(インディペンデント・キュレーター / PUMPQUAKES)
    中村茜(株式会社precog代表取締役/一般社団法人ドリフターズ・インターナショナル理事/NPO法人舞台制作者オープンネットワークON-PAM理事)
    松本篤(NPO法人remoメンバー/AHA!世話人)
    キュンチョメ(アートユニット)

1は、2と3の両プログラムを進めながら見えてくる様々な方の視点や、紹介事例をもとに、年表をつくっていくプログラムです。2と3は、映像プログラムとして順次公開されます。どなたでも視聴可能です。これら3つのプログラムを通し、10年間を振り返り、アートプロジェクト間の繋がりや社会との関係などを考えていきます。

●プロジェクトを立ち上げるための力をやしなうプログラム
『演習|自分のアートプロジェクトをつくる』

2021年度の講座の様子 撮影:阿部健一

少人数制で行うゼミ形式の『演習|自分のアートプロジェクトをつくる』は、ナビゲーターやアーティスト、プログラムマネージャーと共にディスカッションを重ねながら、アートプロジェクトをより深め、自分のプロジェクトを考えていくプログラムとなっています。

「このプログラムでは、ディスカッションやワークを通して参加者各自のアートプロジェクトを構想していきます。ナビゲーターの芹沢さんと共に、3組のアーティスト(目 [mé] (現代アートチーム)、濱口竜介(映画監督/脚本家)、小森はるか+瀬尾夏美(アートユニット))が参加し、自身の作品制作の原点についてや、これまでに手掛けてきたアートプロジェクトについてのプレゼンテーションと、ディスカッションも行います。
演習のなかで、参加者それぞれの持つ「これって変だな」「これをなんとかしたいな」というモヤモヤを掘り下げていき、そこからどのようにプロジェクトを立ち上げていくのかを考え、練り上げていきます。というのも、アートプロジェクトというのは、突き詰めていくとやはり、個人の問題意識から出発しているからです」(小山)

たとえば震災復興や災害支援、世代や障害の有無に関係なく楽しめる場づくり、環境への配慮など、誰かの「こうだったらいいな」を実現する様々なプロジェクトがあります。それらは個人のモヤモヤから出発し、ささやかでもアクションを起こすことで様々な人を巻き込み、開催されたものです。プロジェクト化することによって、関わった人たち自身も、これまで思いもよらなかった考え方や方法に出会ったり、自分の能力の活かし方を発見したり、気づいていなかった自分の一面に出会うこともあります。それにより次の活動が生まれ、少しずつ創造的な活動の輪が広がっていきます。

「アートは、ある課題に対して、直接的に解決するというより、別の可能性や選択肢を広げたり、時間をかけて解決に導かれるような状況を生み出したりすることができると思っています。そしてそれはやはり、現代に生きる、ある個人の問題意識から出発しているからこそ、人の共感をよび、人を巻き込んでいく強さになります。
アートを媒介に様々な動きが広がり、互いに協力しあえる場や、地域や社会の課題についてもフラットに対話する場が広がっていくことで、そこから少しずつ世の中が良くなっていくと思っています。アートプロジェクトを通して、個人が豊かに生きていくための関係づくりや創造的な活動が生まれていくことは、私たちがこれからの社会を生きていく上でとても重要です。
そのためにも、アートプロジェクトを立ち上げるプロデューサー/ディレクターがもっと出てこれたらと思いますし、この演習を通して、まず自分の中の問いに気づき、そこからプロジェクトを立ち上げるための力を育めたらと思っています」(小山)

スキル向上のための各講座

2021年度の手話講座の様子 撮影:齋藤彰英

2020年度の講座の様子 撮影:冨田了平

この4つのプログラムのほか、より具体的にアートプロジェクトの実践に必要なスキルを身につけるプログラムも開講します。
初歩からアートプロジェクト運営を学ぶ「連続動画シリーズ」では、押さえておくべき基本のキからプロジェクトを継続していくための評価手法などを学びます。配信技術を学ぶ「オンライン配信・収録講座」や、「Webサイトづくりの共有ツール制作」のほか、人気の高い「手話講座」もあります。「手話講座」は、異なる背景を持つ人々が集まるアートプロジェクトにおいて、多様なコミュニケーションのあり方について考える重要な機会です。手話を習得するだけではなく、ろう者と聴者のコミュニケーションの違いや「ろう文化」に触れ、それぞれが現場で活かせるコミュニケーション技術や、アクセシビリティへの視点を育みます。

アートにできることの可能性を探っていく

これら講座への参加は、アートの手法に興味がある人はもちろん、アートに興味はなくても何かの課題に取り組む方法を探りたい人などにも開かれています。ぜひ講座で得たものを、一人ひとりがそれぞれの場所へ持ち帰ってほしい。全国各地で様々なアクションが起き、人同士の繋がりや発見が生まれ続けていくことで、自分の足元から生きやすい社会を実現していくことができます。一連の本講座は、アートプロジェクトの運営力だけでなく、より良く生きるための実行力を身につける機会になるでしょう。

取材・文:河野桃子


2022年度「Tokyo Art Research Lab(TARL)」講座・演習

  • 新たな航路を切り開く

    ・年表をつくる―2011年以降のアートプロジェクトを振り返る
    ・応答するアートプロジェクト|アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点
    ・応答するアートプロジェクト|ケーススタディ・ファイル
    ・演習|自分のアートプロジェクトをつくる【申込受付中!(2022年7月25日(月)12:00締切)】

  • アートプロジェクトの運営をひらく、○○のことば。[映像講座]

  • アートプロジェクトの担い手のための手話講座

    ・ワークショップ:ろう者の感覚を知る、手話を体験する。[対面講座(全3回)]
    ・プラクティス:手話と出会う。[オンライン講座(全5回)]
    ・コミュニケーション:手話を使い会話する。[対面講座(全6回)]

  • アートプロジェクトの担い手のための配信・収録講座[対面講座(全3回)]

  • Webサイトの価値や在り方を考える[ツール制作]

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