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アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2022/09/20

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2022レポート:「評価」によって活動を強化する!源由理子さんによる第3回講座:活動の価値を引き出す評価軸を磨く

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第3回のテーマは「評価」です。どうすれば自分の表現創造活動が継続的に発展していくことができるのか。『ロジックモデル』という道具を用いて、自身の活動の「価値」を引き出す思考法を学びます。

講師の源先生

講師は、評価論・社会開発論の専門家である源由理子(みなもと・ゆりこ)さん。ケニア共和国の首都ナイロビのスラム地域での生活改善プロジェクトに評価担当として関わったなかで「自分たちが取り組んでいることの価値を決めることが評価だ」と実感を得たそうです。「評価とは、教育、福祉、アーツなどのいろんな分野に横軸を通すことができるものです。外の人が『みなさんのやっていることにはこんな価値がありますよ』と決めるものではありません。現場の実践家がどういうつもりでやっているかといった声が大事なんです」と、実際に芸術文化創造の現場で活動する受講生ら一人ひとりの思いが重要であることを強く示し、講座が始まりました。

事前に各自が提出した宿題のワークシート。前回の山元圭太さんの講義の学びを活かし、各自の活動について棚おろしします。

「評価」とは、より良い社会を実現するための道具である

源さんが講座のなかで繰り返し言われることがあります。それは「評価は道具です」ということ。「評価に振り回されないように、どう活用するかを一緒に考えていきましょう」と、各々の活動の強化に繋がるように『評価』というものを紐解いていきます。

評価とは、点数やランキングのことを指してはいません

評価(evaluation)という単語の構成は、「e(外へ取り出す)」+「value(価値)」+「ate(動詞化)」で成り立っています。つまり価値とは、「評価対象の『価値』を引き出すこと」といえます。評価といえばよくランキングや点数づけが思い浮かぶかもしれませんが、それはあくまでひとつのやり方。それらを通して価値・メリット・意義などが明らかにされることを評価と呼びます。
この『価値』とは、人によって異なります。たとえば30点という客観的な数字が出たとして「30点も」と思うのか「30点しか」と思うのかは、価値判断(データにどう意味付けするのか)になります。価値判断=評価なのです。

評価方法にもさまざまなやり方があるなかで、今回の講座で取り上げるのは『プログラム評価』です。プログラムとは事業(なんらかの社会課題解決、価値創造を目指している社会プログラム)のことですが、本講座の場合は「創造活動」が当てはまります。プログラム評価を行う際には、一人ではなく複数人で取り組むことが大事です。たとえば、さきほどの30点の場合には「その点数にどういう価値があるのか?」について一人の主観だけで判断せずに複数の視点による合意点を探っていくのです。
この『プログラム評価』には5つの階層があります。

プログラム改善のためには下から2層目のセオリー評価が重要

ニーズ評価、セオリー評価はプログラム開始前に行い、プロセス評価は実施中、アウトカム/インパクト評価、効率性評価は事後に行う場合が多いです。それぞれの階層で「これでいいのだろうか?」と問いかけます。
ここで自分のプログラム(芸術文化創造活動)を戦略的にとらえるために使われるのが『ロジックモデル』です。ロジックモデルとは最近は助成団体などでもよく聞かれるようになった言葉で、70種類以上のものがあります。活動をはじめるにあたりロジックモデルを作成し、実施していくなかで変化する状況に合わせてロジックモデルを見直し、最初の計画を柔軟に軌道修正していきます。源さんは「プログラムは実施すれば予想外のことや変化が起きるものですから、常『にこのままやり続けていいんだろうか?』と問い続け、改善していきます。改善がないものは見直し(評価)がきちんと行われていないことになります。評価は、継続的にプログラムをみ直して改善し、より良い社会を実現するための道具ですから」と、評価実施のポイントと全体像をお話します。

ロジックモデルは変化するもので、計画表ではありません

上記図の右上にある『アウトプット』と『アウトカム』が、ロジックモデルを作成するにあたって非常に重要なものです。アウトプット(手段)とは、自らがコントロールできる活動の結果のことで、たとえば道路建設を例にあげると「道路を作る=アウトプット」となります。アウトカム(目的)は、それによってもたらされる良い変化・価値のことで、例に倣えば「実際に観光客が増える=アウトカム」になります。

グループワーク:ロジックモデルを作成する

実際にロジックモデルを作成してみましょう。

アウトカムをひとまず3つの段階にわけて考えます

ロジックモデルを組み立てる時に大事なことは、図の上から順に考えていくこと。「何を実現したいのか」というゴール(最終アウトカム)から逆算して、中間アウトカム→直接アウトカムと設定していきます。

グループワークでは4チーム、各3~4人のグループに分かれます。4人の受講生が冒頭のワークをそれぞれのグループに事例として提供してくれました。たとえば「コドモとオトナ が芸術文化を通して多様で持続可能な学びの循環する環境をつくる」、「演劇を続けたい人がそれぞれにとっての演劇の続け方を見つけられるようなネットワークをつくる」など、各事例のビジョン/ミッションを実現するためにはどういうロジックモデルを作成すればいいのかを、チームで考えていきます。ただし、通常は1時間以上かけているワークを、今回の講座では30分で行うため、ロジックモデルの作成はどういうところが難しく、どんな発見があるかを実践のなかで共有することを重視して行いました。
源さんより「自分はこう思う、という主観で議論してくださいね!いろんな人の意見や視点は、どこに価値を置くかを考える対話になりますから」と注意ポイントが示されます。まさに複数の視点による合意点を探っていく評価の実践です。

ワークのためのロジックモデル作成シート

受講生達にとって、この日会うのはまだ2回目。どのグループもまず明るい雰囲気での自己紹介から始まります。源さんの講義を聞いて言いたいことが溜まっていたのか、ディスカッションもとても盛り上がりました。

グループワークの様子

30分のワーク後に、グループごとにディスカッション内容と感想を発表します。
まず、事例を提供した4人以外の感想から聞くと、他人の活動を客観的に判断することの難しさが垣間見られました。なかでも「最終アウトカムを絞っていくのが難しい」という声がいくつかあがりました。「対象を絞ると活動を狭めてしまう」「みんなが納得できる共通のワードを選ぶことが難しい」「やる前はわかっていたつもりだったけれど、実際にやるのは大変だった。これを実現するためにはこうしなければ……じゃあこれを実現するためにはこうしなければ……とどこまでも繋がっていく」とロジックモデルの具体的な組み立てに苦戦した様子。源さんからは「今回は30分しかないのでグループ内で丁寧に合意を得て進めていくのは大変でしたが、決まらない時は仮に設定して、行ったり来たりしながら考えていきましょう。そもそもロジックモデルは思考のための道具ですから」とアドバイスします。

作成にあたり「やっぱりこっち」と考えが変化するので付箋を使います

事例を提供してくれた4名からは、「過程で、自分でも思っていなかった考え方がでてきた」「知恵をいただいた。『こういうことがしたいんですよね?』と客観的に言ってくださって目が覚めるようだった。定期的に広い範囲の人達に協力してもらいながら、自分のロジックモデルが合っているのかを確認しながらやりたい」「中間アウトカムを考えることで最終アウトカムが整理できた。やってみると難しかったり、ここが穴だと気づかされたりした」と、他者と話すなかで新たな発見があったようです。

これらのコメントを受けて、源さんは「いろんな人と協働していくことについてちょっと紹介したい」と『協働型プログラム評価』について解説がありました。『協働型プログラム評価』とは、まさに今回のグループワークのように、いろんな人が入ってロジックモデルを見直していくことです。従来型評価は評価専門家による査定が主流でした。しかし実際に現場で汗を流す人・資金を提供する人などの関係者みんなで評価すれば、実践に効果的な戦略に落とし込むことができるし、現場経験から得た知見(暗黙知)を言葉にしていくことができます。また、可能であれば、異なる視点を持っている人(批判的友人)にもロジックモデルの見直しをしてもらえると、客観的な気づきがあるでしょう。これら異なる視点を持った人達の『対話の場』を設定することで、相互に学び、モチベ―ションや柔軟な思考法が得られます。さらには、ロジックモデルを共通言語として対話することで、関係性の構築もはかることができます。これはその後の団体のマネジメントへもよい影響が考えられます。「ロジックモデルが正しいかよりも、関係者でいかに納得できるかが重要だと思います」と、源さんは締めくくりました。

次回は、キャパシティビルディング講座において初のプログラムである「コミュニティづくり」がテーマです!坂倉杏介(さかくら・きょうすけ)さんによる「芸術文化の領域横断は何をもたらすか?~越境が生み出す創造的な連携・協働」として、創発的な場づくりから社会と芸術の関係性を考えます。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
源由理子(みなもと・ゆりこ)

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科 教授
国際協力機構(JICA)等を経て現職。専門は、評価論、社会開発論。改善・変革のための評価の活用をテーマとし、政策・事業の評価手法、評価制度構築、協働型(協創型)評価に関する研究・実践を積む。近年は特に、社会福祉分野、文化芸術分野における関係者のエンパワメントや組織強化につながる協創型評価のあり方に関心を持つ。一般財団法人PBEE(実践家・当事者参画型エンパワメント評価)研究・研修センター理事。

執筆:河野桃子
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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