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アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2022/08/23

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2022レポート:3年ぶりの実地開催。山元圭太さんによる第1回&第2回講座:ヴィジョン・ミッションを磨く&ファンドレイジング力を磨く

今年度、開催5年目を迎えた『芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座』は、芸術文化創造活動における課題や目標に取り組むための道筋に必要な思考力やスキルを多面的に磨くとともに、私たちが生きている社会の「未来を創造する」ことへも思考を深めていく約半年間の講座です。今年度はコロナ禍以降3年ぶりの対面実施です。東京近郊のみならず遠方は四国からも受講生が集まりました。アーツカウンシル東京の大会議室を会場に、十分に換気をしたなかでも意欲的な熱気が満ちています。
初顔合わせとなる7月22日は、第1・2回目の講座を同時開催するという濃密な一日です。まず1人2分の短い自己紹介では、様々な参加動機が聞かれました。「非営利をテーマにしているところに惹かれた」という声が非営利活動の運営に関わる方からある一方で「営利企業に勤めるからこそ、むしろ非営利ではない視点で文化芸術について考えたい」という意見もあり、視点も個性も多彩なメンバーの集いに期待が高まります。

講師の山元先生

この日の講師は、キャパシティビルディング講座の1年目から毎年、導入部分の講座を担当してくださっている山元圭太(やまもと・けいた)さん。活動/組織のヴィジョン・ミッションの棚おろしを軸に、非営利活動/組織における運営(第1回講座)と、事業/活動のためのファンドレイジング(第2回講座)を考えていきます。

【第1回】ヴィジョン・ミッションを磨く~組織使命の再確認・探求~

山元さんはソーシャルセクターの非営利組織のコンサルタントです。専門がアートではないからこそ、受講生にとっては社会的な視点で自分達の創造活動を考えられるきっかけを提供してくださいます。
講座のはじめにまず「今、自分/団体のやりたいこと」について整理をしていきます。自分(あるいは団体)の目指す活動を、エコノミック(経済)、ソーシャル(社会)、ライフ(生業)の3つのタイプに分けるとそれぞれ〇:〇:〇の割合になるかを考えます。

近年では「ソーシャルのふりをしたライフ」も多いそうです

受講生によって割合は様々でしたが、なかには「活動内容を説明する相手によって3つのタイプを使い分ける」という意見が出ました。山元さんもそれに同意します。「3つのモードを切り替えるスイッチを持って、相手に合わせて調整して話す。そのためには大元は何かをしっかりさせないと途中で何のためにやっているのかわからなくなってきます」と、まずは自分の中で軸を持つことの重要性を語ります。
自分の目指す活動のタイプがわかったところで、次に、達成するためにはどのように組織を運営していけばいいのかについて最適な手法を考えます。「自分の事業・活動は2つのうちどちらの特色が強いのか」と、以下の2つの型に当てはめます。

文化芸術の分野では『価値創造』型であることが多いです

『課題解決』型は、今ある明確な課題について「〇〇を解決する」というゴールが明確です。一方の『価値創造』型は、誰も実現したことがないゴールを目指します。そのため明確なビジョンが描けないので、トライ&エラーを繰り返すしかありません。また、実は起こりやすい勘違いとして、実際には『価値創造』型なのに、自分達は『課題解決』型だと思い込んで窮屈になる、ということがあるのだそう。「世の中には『課題解決』型が多いので、自分もそうだ!こうするのが正しいんだ!という呪いにかかっていることがよくあります」と警鐘を鳴らすと、受講生からは「呪いの話が刺さります。折り合いのつけ方がわからない」と声があがりました。
さらには、これまで『課題解決』型で成功していたことが、『価値創造』型に切り替えるとうまくいく事例が顕在化してきたとも、山元さんは言います。これには受講生からも「先輩世代の話を『課題解決』型として聞いてきたけれど、自分の世代になっていきなり『価値創造』型に放り込まれて困っている。どうすればいいのか」という切実な声も上がります。山元さんいわく「一番強いのは『両利きになる』こと。2つのやり方があることを知り、チューニングして使い分けていくこともやってもいいし、大事です」とアドバイスをします。そのためにもまずは、武器の1つである『課題解決』型について掘り下げていきます。

講座の様子

とくに力を込めて語ってくださったのが組織使命(「ビジョン」あるべき社会の状態+「ミッション」組織が果たす役割)についてです。資金調達の成功する良い組織の2つの絶対条件として、内側から湧き出る思いがあるのかどうかという『入魂度』と、多くの人の応援を集めるための『共有度』を挙げます。『共有度』は、例えば、山元さんが以前務めていた認定NPO法人かものはしプロジェクトの場合は「子どもが、売られない、社会をつくる」のように、受講生達は自分の活動について「受益者(一番届けたい人)が〇〇(どういう状態)な△△(活動対象エリア)をつくる」のかをシンプルに書き出してみます。それを活動に関わる人全員が共通の言葉にできる状態を作れれば、認識のズレがおこらず、多くの人に共有され応援を集めることができます。

不明確な場合は、中期ビジョンや、事業ごとのビジョンを立てます

この書き出したワークシートを互いに紹介し合うように講座内では何度も、受講生同士で少人数のグループになり意見交換をしました。誰もが溜まっているもやもやを吹き出すようにどんどんトークが盛り上がります。あまりに対話が終わらないので、時間を延長するほどです。過去2年間はオンライン開催だったためになかなか見られなかった白熱した光景でした。

【第2回】ファンドレイジング力を磨く~事業/活動に必要な資金調達力を磨く~

続く第2回講座では、「ファンドレイジング」の可能性について探ります。現在、日本の寄付市場の全体は年間約1.5兆円で、これは時計市場とほぼ同じだそう。決して少なくない金額が動く市場において、お金を預ける側の視点になり「お金を託せば何が起こるのか」を考えていきます。
山元さんは『ファンドレイジング5W1H理論』とし、わかりやすく紐解いてくれました。この5W1Hのうち「Why=何のために?」と「What=何を集めるのか?」の重要度が半分以上を占めます。とくに「What」については、非営利団体において「ファンド・レイジング(資金調達)とはフレンド・レイジング(仲間づくり)のことだ」と言います。経済的な成果を第一に求めているわけではない非営利の活動は、お金を投じてくださる寄付者だけでなく、時間を投じてくださるボランティア、プロボノ、スタッフといった一緒にヴィジョンを実現する仲間を集めていくことも運営の大切な活動基盤を形成していきます。

豊富な財源をどう組み合わせるのが自分達に適切かを考える

しかし、やはり資金調達は貴重です。その点に注目すると、非営利組織の場合は「財源の多様性」が特徴となります。

たとえば「会費」は安定財源なので心強いですが集めるのが難しい財源です。次に難しいのは「寄付」ですが、これは寄付者ときちんとコミュニケーションをとっていくことで継続をはかっていきます。このように、継続的に手元に届く持続可能な財源をいくつも持ち、重層構造を作っておくことが、組織/活動の運営にとっては大事なのです。

後半は、『ダイアログセッション』の時間をたっぷり1時間弱とりました。ここまで講座全体の流れを見てくださっていたファシリテーターの若林朋子(わかばやし・ともこ)さんと、本日は遠隔で参加となる小川智紀(おがわ・とものり)さんが登場します。

ファシリテーターの小川さん、この日はリモートで参加

ダイアログセッション(対話)の時間は、実はキャパシティビルディング講座では5年目にして初の試みです。若林さんがその背景を説明します。「まず今年度の講座で『非営利』をテーマにしたことについて。長らく、公的芸術文化支援の根拠は、世の中に存続させていく意義があると認められても、本質的に資本主義経済の構造になじまない類の芸術が存在することにあった。だから公的資金で支える必要があると言ってきた。これがいわゆる「非営利アート」。しかしコロナ禍によって、自走できていた商業芸術やエンターテインメントも経営困難に陥り、公的支援の対象となった。こうなってくると、芸術を公が支える理論的な根拠はいったいどうなっていくのか……文化政策や芸術支援の歴史的な分岐点ではないかと思っています。あらためて考えるためにも、皆で共有して対話したいとダイアログセッションをすることにしました」。
小川さんも「お金の話をちゃんとしたい」と言います。「今、国が『稼ぐ文化』に大きく舵をきろうとしています。お金が基準でいいのかな?他の人はどう考えているんだろう?と気になります」。
2人の問いかけに、受講生から積極的な意見があがります。近年各地で行われている成果を求めないアーティストインレジデンスについての期待や、公的助成をコストパフォーマンス重視にすると数値が低いものほど排除されてしまうため尺度を作っていかないといけないという意見など。それらを受けて山元さんは、ソーシャルセクターのNPOの分野でも似たことが起きていると語ります。「成果がわかりやすいものしか認められないことはおかしい。だからこそどう発信するかのマーケティングが重要でそれが活動のための資金調達にも繋がります」と総括しました。こうして6時間におよぶ初日のレクチャーを終えた受講生は、疲れよりも興奮が冷めないようす。講座終了後も意見交換をして盛り上がりました。

次回は、源由理子さんによる「活動の価値を引き出す評価の軸を磨く〜ロジックモデルを活用し改善・変革していく術を磨く~」です。ロジックモデルを有効活用し、活動を振り返りながら取組の継続的改善や社会変革につながる評価的思考について学び、自分たちの組織/活動にとって意味のある評価軸をもつことで組織・活動強化につながる道筋を探っていきます。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
山元圭太(やまもと・けいた)

合同会社喜代七 代表/株式会社 Seventh Generation Project 取締役/NPO 法人日本ファンドレイジング協会理事・認定ファンドレイザー/島根県雲南市地方創生アドバイザー
1982年滋賀県出身。地元の商業高校で近江商人を学び、大学で国際協力のNPO/NGO活動に参加。より良い世界/社会をつくろうとする「現場のプロ」の人たちが活躍できる環境を整えることができる非営利組織の「経営のプロ」になりたいと考え、経営コンサルティング会社で5年、国際協力NPOで5年、組織開発・人材育成・ファンドレイジング・計画立案などの経験を経て2014年に独立。合同会社喜代七代表/株式会社Seventh Generation Project取締役/NPO法人日本ファンドレイジング協会理事/NPO法人ソーシャルバリュージャパン理事/NPO法人ETIC.エコシステム共創チーム所属。社会的な願いに寄り添い、その成就のために新たな視点・知恵を提供する、多様なコミュニティをまたいで活動し、風を運び、風を起こし、移ろいでいく人。

執筆:河野桃子
記録写真:森勇馬
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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