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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2023/12/27

ストリートダンスの聖地・渋谷で感じるままにダンスを楽しむ「Shibuya StreetDance Week 2023」(11月23日|代々木公園)

渋谷の公園通りを上りきると、眼前に葉が少しずつ色づき始めた代々木公園の銀杏並木が広がっていました。穏やかな秋晴れの中で開催された「Shibuya StreetDance Week 2023」(以下、SSDW2023)。2015年からスタートした国内最大規模のストリートダンスの祭典で、代々木公園の野外ステージとイベント広場にダンスフロアが展開。高校生対抗のストリートダンス選手権「SSDW CONTEST」やダンススタジオ、学生ダンスサークルなどの団体、ゲストダンサーによるスペシャルパフォーマンスで盛り上がりを見せる「RAINBOW STAGE」、若い才能がぶつかり合う白熱のダンスバトルが繰り広げられる「BATTLE PARK」、キッズからシニアまで音に身を委ねながら心地よく身体を動かす「CHILL OUT SPACE」と、同時並行でプログラムが進んでいくので、興味関心に応じてフロアを自由に移動しながら1日中ダンスと音楽を満喫することができます。

世界トップレベルのダンサーや新進気鋭のユースダンサー、さらにはダンスを始めたばかり、またはダンスに初めて触れるという参加者も混ざり合って、キャリアや世代を超えた交流と出会いの場として賑わったSSDW2023をレポートします。

インクルーシブDANCE WORKSHOP / CHILL OUT SPACE

チルでリラクシーな音楽が聴こえてくる方向に足を向けてみると、CHILL OUT SPACEに参加者が集まっていました。ここで始まろうとしているのは「インクルーシブDANCE WORKSHOP」。高いダンススキルと独自の感性で創造の幅を広げるダンサー・UNOさんと「TSUMUGU+」(耳が聞こえないデフダンサーのDAICHIさんとemiさん、そして手話通訳Ichiroさんの3人が企画するダンスアートプロジェクト)の4人が参加者を輪の中に招き入れます。

「ダンスをやったことがある人もない人も、聞こえない人も聞こえる人も、ここに集まってくれたみんなが楽しめるダンスを一緒に作っていきましょう!」とUNOさん。UNOさんが話す言葉をIchiroさんの同時手話通訳がフォローします。

まずはワークショップで使う基本の手話を覚えます。リズムをとるために必要なカウントや、「ゆっくり」「速く」といったテンポを共有する言葉、そして「拍手」「頭から」「一緒に」といったお互いの目線を合わせる言葉を知ることで、コミュニケーションの土台ができました。

声と手話の両方を使ってカウントをとるUNOさん

UNO「私の大好きな言葉“Dance is a universal language.” 言葉を使ったおしゃべりも大好きだけど、ダンスを通してなら地球を飛び出したって思いが伝わる。みんなもお互いの動きや表情を見て踊ってみて!」

賑やかな雰囲気に惹かれて、たまたま通りがかったお散歩中の外国人もドロップイン。音楽に乗って、周りで走り回ったり、遊んだりしている子供たちも楽しそう。どんどん周りの人を巻き込んでいく、ボーダレスでインクルーシブな空間です。

輪になってお互いの動きを見ながらリズムをシェア!

「ちょっとしたチャレンジと思いやりを持って。目が合った人にはにっこりと」そんなUNOさんの言葉が、1人1人の身体の動きや表情にしっくりと馴染んでいって、いつのまにか参加者同士の心の垣根が溶け合って見えなくなっていく感覚が心地よく、全員のハイタッチで迎えたフィナーレは自然とこぼれる笑顔で満ちていました。

おやこDANCE WORKSHOP / CHILL OUT SPACE

「ダンスであそぶアートする」をコンセプトに活動する家族ユニット「Nagase family」によるショー&ワークショップ「おやこDANCE WORKSHOP」では、カラフルなテープを思うままに地面にペタペタ。ドラム缶を叩く音に合わせて、幼児から小学校低学年までの子供たちがテープを踏んだり、タッチしたり、ジャンプしてみたり。

カラフルなテープの間を縦横無尽に動いてみる

「今度はみんなも音を出してみよう!叩いてみたい人ー?」とNagase familyのdaisukeさんが声をかけると、次々と子供たちがドラム缶の周りに集まってきました。初めは1つだったドラム缶が次第に数を増やして大小複数散らばり、子供たちの手にもそれぞれトンカチやバチが。手拍子や足踏みも合わさって、思い思いに奏でられた音の重なりが愉快なリズムを生み出します。大人も子供もみんなで、Nagase familyと一緒にサイファー(輪)を作ってダンス!

「いい音出てるよ、その調子!」とNagase familyのyokoさん(写真中央)

daisuke「ステップはなくても踊れるし、楽器なしでもリズムは作れる。日常でハッピーになりたくて踊ってます。その楽しさを少しでもみんなと共有できていたら嬉しいです」

「みんなでガチャガチャ!自由に!」とNagase familyのdaisukeさん(写真中央)

プログラム終了後はみんなでお片づけ。ドラム缶ドラマーに1番乗りで立候補してくれた小学校低学年の参加者と保護者に参加した感想を聞いてみました。
参加者「いっぱい叩けたのが楽しかった。みんなで踊れた」
保護者「もっと気軽にダンスを日常に取り入れてほしいというNagase familyさんの思いに共感しました。足踏みだけでダンスになるんだという身近な楽しさを、親子で一緒に体験できたのがよかったです」

SSDW CONTEST

「SSDW CONTEST」は、次世代のルーキーの育成・発掘を目的とした高校生対象のチーム型ストリートダンス選手権。10校のチームがステージに上がり、日々の練習の成果を発揮すべく熱い戦いが繰り広げられました。


10校がパフォーマンスを披露

優勝は東京都立狛江高等学校。群舞がひと際美しく会場を魅了していました。
惜しくも優勝を逃したチームも「このメンバーで全力で楽しんで踊れてよかった!」「みんなで重ねてきた努力を発揮できた!」とステージを満喫した晴れやかな表情で、今後の進化を予感させるワクワク感でいっぱいでした。

RAINBOW STAGE

「RAINBOW STAGE」では、キッズダンサーを擁するダンススタジオや、学生ダンスサークルがパフォーマンスを披露。なんと総勢120名が一斉にステージに上がってパフォーマンスを披露したグループもありました。

RAINBOW STAGEを彩った参加者たち

午後のステージでは、ゲストダンサーによる特別なショーケースが展開。ブレイキン、HIPHOP、POPPINGなどZ世代の若手実力派チーム(GOOD FOOT、KING OF SWAG、IB6side、Naked Mojo、Lit 4)が参戦し、ステージがさらに華やいで大いに盛り上がりました。

7 to smoke BATTLE / BATTLE PARK

BATTLE PARKでは、白熱したダンスバトルが繰り広げられました。世界を舞台に活躍するティーンズバトラーが対戦する「7 to smoke BATTLE」は1対1の個人戦。一番早く7回連続で勝利する、もしくは、全体の制限時間25〜30分間のうち勝利した回数が一番多いバトラーが優勝者となります。勝利したバトラーはそのまま次の相手と対戦し、負けるまでバトルをし続ける勝ち抜き戦とあって、ダンススキルや表現力に加えプレッシャーの中で踊り続ける体力も問われる厳しい戦いです。

対戦相手を煽って圧倒する気迫や重力から解き放たれたように自由に躍動するバトラーの姿にフロアをぐるりと囲む観客も釘付けに。特に、連勝して波に乗っていたバトラーを挑戦者が破って、勝負の流れがぐっと変わる瞬間には胸が熱くなりました。

フロアを取り囲む観客も固唾を飲んで見守ります

バトルを制したのは18歳のREI POPさん。怒涛の7連勝で優勝を手にしました。
REI POP「U18のラストイヤーだったので、いい結果を収めることができて嬉しいです」
強い目力と波動で期待を超えるパフォーマンスを次々と繰り出し、観客の心を魅了したREI POPさんのこれからの飛躍がますます楽しみです。

優勝はREI POP!

CREW BATTLE / BATTLE PARK

もうひとつのBATTLE PARKでのバトルは、チーム対抗戦で行う一般参加型の「CREW BATTLE」です。実力派の精鋭たちがしのぎを削ります。1チーム3名以上5名未満で対戦し、制限時間内に即興パフォーマンスを披露してテクニックとチームワークを競う戦いです。

チームで戦うCREW BATTLE

音楽もダンスも全て即興なので、その瞬間その場で生まれる表現は唯一無二。真剣勝負でありながらも、フロアで展開されるパフォーマンスをダンサー自身が心から楽しんでいる様子が魅力的で、特に味方を盛り立てるポジティブな圧が最高にクールでした。

即興はストリートダンスの醍醐味!ハプニングさえも笑顔に

優勝を勝ち取ったチームはデスモジョ。自信と遊び心にあふれ、予想を裏切る動きや完璧なユニゾンが印象的な5人です。ソロで魅せるスキルの高さもさることながら、グループならではのコンビネーションがハマる瞬間が何とも言えない気持ちよさで、メンバー同士の信頼関係がパフォーマンスから感じられるチームでした。

CREW BATTLEを見事制したデスモジョの5人

DANCE WITH music

テーマソングに合わせてオリジナル振付をみんなで踊る「DANCE WITH music」でSSDW2023のフィナーレを飾るべく、BATTLE PARKでの戦いを終えたばかりのバトラーを含め、出演者と観客がRAINBOW STAGE前に集結。期待が高まる中、ステージ上に颯爽と姿を現したのはSSDW2023アンバサダーのTHE D SoraKiさん。
2015年に開催されたSSDWのCREW BATTLEで12歳にして優勝を飾った彼が、20歳になった今年、アンバサダーとしてSSDWにカムバックしました。特に会場のティーンダンサーたちにとっては、SSDWを経験した先輩であり、近年ダンサーとしてますます活躍の場を広げているTHE D SoraKiさんに熱い視線が注がれました。

SSDW2023アンバサダー・THE D SoraKiさん

丸1日MCとしてRAINBOW STAGEを盛り上げた MC KENSAKUさんとの軽妙なかけあいで会場を温めつつ、このあと踊るオリジナル振付をTHE D SoraKiさんのレクチャーで軽くおさらいしていきます。事前に配信されていたレクチャー映像を見てきた人も、その場で初めて振付を知る人も、みんなで踊れる準備が整ったところで、SSDW2023のテーマソング「Trade Mark」を手がけたもう1人のアンバサダー・KREVAさんが登場。

SSDW2023アンバサダー・THE D SoraKiさん(写真左)、KREVAさん(写真右)

2人のアンバサダーのコラボレーションでSSDW2023はフィナーレ!

日本を代表するHIPHOPアーティストの登場に大きな歓声があがり、会場のボルテージは最高潮に。KREVAさんの紡ぎ出す圧巻のフロウ&ライムに、THE D SoraKiさんのしなやかで自由な身体表現が響きあう夢のコラボレーションが会場を沸かせ、オリジナルの振付箇所では多くの手が上がりステージの上も下もボーダレスに一体感を強く共有できる体験となりました。

THE D SoraKi「憧れのKREVAさんとのコラボ、最高でした!会場のみなさんの熱も伝わってきて、みんなで一緒にこの楽しい時間をつくれた感じがしてわくわくしました」
KREVA「ダンスをきっかけにみんなとつながれるって楽しい!と改めて感じられたステージでした。素敵な時間をありがとうございました!」

SSDW2023のプログラムを通して肌で感じたのは、必ずしもみんなが1つになる必要はないということ。同じ音楽を聴いてみんなが同じ感想を持つことはないし、ダンスにもこれが必ず正しいという正解はありません。一瞬一瞬の出会いを大切に、1人1人の存在を尊重しあい、異なる感性と表現が混ざり合うからこそ予想外の面白い化学反応が生まれることを楽しむ。こうした精神がストリートダンスの魅力であり、懐の深さなのではないでしょうか。そこには他者を受け容れる心の豊かさがあります。2024年のパリオリンピックでは「ブレイキン」が正式種目として採用され、一層注目が高まるストリートダンス。ダンスと音楽をきっかけに、年齢、国籍、性別、文化を越えた交流がさらに大きな輪となって広がっていくことでしょう。


Shibuya StreetDance Week 2023

・日程:2023年11月23日(木・祝)
・会場:代々木公園
・主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、Shibuya StreetDance Week 実行委員会(渋谷区商店会連合会、渋谷道玄坂商店街振興組合、一般社団法人渋谷未来デザイン、東急株式会社、株式会社パルコ)
・イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/creation/festivals/shibuya-streetdance-week/57562/


撮影:中山裕貴
取材・文:前田真美

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