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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2024/01/31

暮らしに文化の「拠点」が立ち上がる|映像シリーズ「Knock!! 拠点を訪ねて」のご紹介

ビルの一階に大きなガラス窓の部屋があり、中に人が座っている

国立市で10年以上にわたり運営されている拠点「国立本店」の外観

わたしたちは、日々の暮らしのなかで様々な場所を訪れています。
友人との待ち合わせに、好みの雑貨を探しに、会社からの帰り道に、明日のごはんを準備するために。目的を決めずに出歩くこともあれば、いつの間にか店主と他愛もない話に花を咲かせていることも。

文化事業においても、わたしたちの暮らす街中に場所をつくる、特に事業を動かすための「拠点」をつくることがあります。芸術や文化の拠点と聞くと、美術館や博物館、ギャラリーなどが思い浮かぶでしょうか。しかし、芸術文化に触れる機会があるのは、必ずしも専門的な設備や作品のある場所だけではありません。街を見渡してみると、個人や小さな団体がつくる「拠点」が数多く存在しているのです。

文化の領域から「拠点」をつくる

アーツカウンシル東京が実施している事業「東京アートポイント計画」では、アートプロジェクト――アーティストや地域の人々とともに、中長期的にプロジェクトづくりや運営に取り組む活動――を通じて、個人が豊かに生きるための仕組みやコミュニティづくりに取り組んできました。それは一度きりのイベントで終わるのではなく、多くの人と出会いながら、ともに企画をつくったり、考えを交わしたりする日常的な営みです。

3枚の写真が並んでいる。左から、部屋の中で大人や子供たちが何かをつくっている写真、シャボン玉が画面いっぱいに広がった公園の写真、こどもたちが影絵をしている写真

東京アートポイント計画の事業例。左から、神津島村でのワークショップ(HAPPY TURN/神津島)、足立区でのアートパフォーマンス(アートアクセスあだち 音まち千住の縁)、町田市のお寺を使ったお祭り(500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」)。地域の人々が主体的に活動を動かしてきた

そして、そうしたアートプロジェクト、さらには文化やアートを通じた出会いを育む視点の延長線上に「拠点」づくりがはじまることがあります。一過性ではなく、日々を過ごす街の風景を身の周りから変えていくために、暮らしの内側に「拠点」を立ち上げて関わりをつくる。ここに行くと何かに出会えそう、何かをはじめられそう。そうしたささやかにでも心の動く小さな場所や機会が、あちらこちらに生まれています。

では、それらの「拠点」をつくる人々は、どんなことを願って場所をひらき続けているのでしょうか。そして、日々の運営の中でどのようなことを感じ、何に悩み、この先にどのような風景を展望しているのでしょうか。

現場の声を浮かびあげる「Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと-」

東京アートポイント計画では、拠点運営の現場にある実感や課題を浮かびあげるために、映像シリーズ「Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと-」を企画・公開しました。2本の映像では、東京の各地域で拠点運営に携わるメンバーの対談を収録しています。

2人の男性が、机を挟んで和室に座ってこちらを向いている

写真左:吉田武司さん(アートアクセスあだち 音まち千住の縁 ディレクター)、写真右:青木彬さん(ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち― ディレクター)

一つ目の映像では、墨田区で「藝とスタジオ」を運営する青木彬さんが、足立区にある「仲町の家」を訪れて、吉田武司さんと言葉を交わしました。2人の口からは、なぜ「拠点」をひらく選択をしたのかという根本的な問い、あるいは家賃や人件費など資金源の悩み、そしてお互いの活動を知るなかでの新たな気づきが語られています。

青木 「その人の興味関心を引き取って、僕たちとじゃないとできないことを一緒につくることは意識していますね。今日は話しながら、そのアトリエのようなプロセスがあることが僕たちの拠点の特徴なのかもなって。」

吉田 「ここを借りるときもすごく迷ったんです。こんなに大きい場所を持つと、足が重くなるというか、ふらっと次に行けなくなるだろうなって。でも日々の活動の中で、他の人と出会う機会って少ないんです。我々の事業の目的は縁をつくること。新しい活動が生まれるために、いまは拠点をなるべくひらき続けたいと思っていますね。」

* 対談「まちでの拠点の役割」からコメントを抜粋・一部編集

大きなガラス窓の室内に、男性と女性が机を挟んで座ってこちらを向いている。

写真左:加藤健介さん(ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)広報ディレクター)、写真右:飯島知代さん(HAPPY TURN/神津島 事務局)

もう一つの映像では、神津島村で拠点「くると」を運営する飯島知代さんが、国立市にある「国立本店」を訪問し、加藤健介さんと対談しています。小さな生活圏にあるからこその「拠点」のひらき方や、自分だけではなくスタッフとともに場の空気感を維持するための心がけなどが語られました。

飯島 「きちんと話し合ったり、こどもたちに聞いてみたり、ルールをあまり定めないところは余白という感じですね。わたしも失敗してきたことは多くて。自分の価値観だけで決めないというか、柔らかさみたいなものは必要なんだなって。そこは意識して、スタッフとも共有しはじめたところです。」

加藤 「責任感をどこまで負わせるか、という塩梅が難しいなと思っています。みんなフラットな関係だと思っているけれど、一方で、0.2歩くらい自分が前の方にいる意識でいて。普段は足並みが揃っているけれど、何かがあったときにはちょっと言える立場だ、という関係性にしていくことで解決することが出てくるのかな。」

* 対談「続け方のさじ加減」からコメントを抜粋・一部編集

「拠点」の役割を見つめなおす

映像は、それぞれの拠点についてのプレゼンテーションからはじまり、現在の取り組みについて紹介しています。対談では、拠点運営の日々に感じていること、地域での役割、拠点への期待や展望など、これまでの実践を振り返り、お互いに言葉にしながら紐解いていきました。

拠点づくりに興味のある方や、その運営に悩みを抱えている方、あるいは身近な拠点について知りたい方など、多くの方にとって文化事業における「拠点」の見方や考え方が広がるのではないでしょうか。街中の風景を見つめなおす機会に、ぜひご覧ください。


■ Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと- | 仲町の家(吉田武司)× 藝とスタジオ(青木彬)

■ Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと- | 国立本店(加藤健介)× くると(飯島知代)

概要

Knock!! 拠点を訪ねて-芸術文化の場をひらくひと-(2023年12月公開)
対談の音声のほか、手話通訳、字幕をつけて公開しています。
再生リストはこちらから

登壇者プロフィール

青木彬(あおき あきら)
アートを「よりよく生きるための術」と捉え、様々なアートプロジェクトを企画。東京都墨田区で展開する「ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―(通称:ファンファン)」ではディレクターを務める。2021年、活動をひらく場として「藝とスタジオ」をオープンした。
ファンファン ウェブサイト

吉田武司(よしだ たけし)
アートプロジェクトの事務局として様々な現場の企画運営に携わる。現在は、東京都足立区千住地域を中心に展開している「アートアクセスあだち 音まち千住の縁(通称:音まち)」にてディレクターを務める。2018年、音まちの一環として、千住の文化サロン「仲町の家」の運営をスタート。
音まち ウェブサイト

飯島知代(いいじま ともよ)
東京都神津島の海の家スタッフを経て、2018年から、島にとっての幸せなターンを考えるアートプロジェクト「HAPPY TURN/神津島」事務局として企画運営に携わる。2019年、島の中心地にほど近い店舗を改装し、誰もが自由に使える広場のような活動拠点「くると」の運用をスタート。
HAPPY TURN/神津島 ウェブサイト

加藤健介(かとう けんすけ)
東京都国立市を中心に「まちの入口をつくる」取り組みを実践している。アートプロジェクト「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」では広報ディレクターを務める。2013年に「国立本店」に出会い、現在は本とまちをテーマに活動する「ほんとまち編集室」室長として運営に携わる。
国立本店 ウェブサイト

企画運営

企画制作:櫻井駿介、川満ニキアン
撮影・編集:齋藤彰英
手話通訳:石川ありす、瀬戸口裕子

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