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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

Art Support Tohoku-Tokyo

Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。

2017/09/12

「土地の記憶を紡ぐ術(アート)−東北の海と森の実践から」(Art Support Tohoku-Tokyo トークセッション#2 レポート前編)

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Art Support Tohoku-Tokyo トークセッション#2 レポート前編

 アート(art)という言葉は「技術」という意味をもったアルス(ars)に由来するといいます。
 じぶんが暮らす地域と向き合う術(すべ)としてのアートに着目し、これからの実践の方法を考えようと、海と山それぞれの実践の方法を共有するトークセッションを開催しました。ゲストに迎えたのは、自然豊かな海と森に囲まれた土地の記憶を独自の方法で探り、継承しようと実践を重ねる宮城県の松島湾と福島県の会津地域の方々です。イベントの様子をライターの加藤貴伸がレポートします。


 アーツカウンシル東京と東京都が主催するArt Support Tohoku-Tokyo トークセッション#2「土地の記憶を紡ぐ術(アート) −東北の海と森の実践から」が、8月19日、仙台のRough Laughで開催されました。当日は福島県と宮城県でそれぞれアートプロジェクトを主導する4人が話し手として登場。30人ほど集まった参加者が4人の話に耳をかたむけました。

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この日の司会を務めた桃生和成さん(一般社団法人 Granny Rideto代表理事)

各地の実践者に共通する、「アートという技術」

 まずはアーツカウンシル東京のプログラムオフィサーとして各地のアートプロジェクトをサポートしてきた佐藤李青が、Art Support Tohoku-Tokyo(以下ASTT)、および今回のセッションの趣旨を説明しました。

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佐藤李青(アーツカウンシル東京 ASTT担当)

 ASTTは、東北各地の団体が実施する芸術文化活動を支援しています。各地の活動に関わってきた佐藤によると、それぞれのプロジェクトを主導している人たちは共通して「アートという技術」を持っているのだそうです。佐藤は、「アート」を「他者と何かを共有する『現れ』をつくる技術」と定義します。地域の歴史や文化を、他者と共有できる形に変えていく「術」としての「アート」。それが、今回のトークセッション「土地の記憶を紡ぐ術(アート)」のテーマです。

 佐藤は、この日のイベントの目的を3つに整理しました。
 一つめが、「出会う(出会い直す)」こと。離れた土地で、同じような問題意識を抱えて活動する者どうしが出会う。そのこと自体に意義があるということ。
 二つめが、「『術』を共有し合う」こと。それぞれの取り組みを具体的に紹介し合い、互いの手法を共有することで、今後の活動に新たな展開が生まれること。
 三つめが、「一緒にやってみる」こと。4人の話し手だけでなく、会場に集まった参加者も含め、この日の出会いから何らかの企画が生まれていけば、と佐藤は話しました。

アートを通じ、森と人との関係性に新たな価値を見出す

 最初の話し手として登場したのは、生まれた地でもある福島県西会津町に暮らし、アートプロジェクトや移住サポートなどの活動を展開する矢部佳宏さんです。

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矢部佳宏さん(西会津国際芸術村コーディネーター)

 西会津町の中でも特に高齢化率の高い地区に住む矢部さんはまず、こう問いかけました。 
 「地方の消滅って、本当に人口の減少のことでしょうか」
 それぞれの土地に人が住むようになり、土地の自然を損なわないように生きる知恵や術が受け継がれてきた。それらがなくなってしまうことが「地方の消滅」であると矢部さんは言います。
 「自然と人間の共生」という理念を現代的なアプローチで捉えようと矢部さんたちが取り組んだのが「森のはこ舟アートプロジェクト」でした。これは、会津地方の中山間地域の森林文化をテーマに2014年から展開されてきたプロジェクトです。矢部さんは、「アートという視点を持つことで、森と人との関係性に新しい価値を見出すことができれば、そこに新しい生業、新しい森林文化が生まれるのでは」との思いでプロジェクトに取り組んできました。

 矢部さんは、「森のはこ舟アートプロジェクト」として西会津町で実践してきたいくつかの事例を紹介しました。
 一つが、土地の草花に身を包んで神様になりきるワークショップ、「草木をまとって山のかみさま」です。華道家の片桐功敦さん主導で始まったこのプログラムは、その後は地域住民に引き継がれ、祭りの要素を加えて続けられているそうです。矢部さんはこの取り組みを、「アートから伝統行事が生まれる試み」と表現します。
 次は、西会津町と三島町を結ぶ「西方街道」に着目した「幻のレストラン〜西方街道・海と山の結婚式〜」です。かつて、この街道を行き来する海山の食材が出会うことでさまざまな郷土料理が生まれました。「幻のレストラン」は、それらの郷土料理をあらためて味わいながら地域の文化や歴史に思いを馳せる、1日限りのレストランです。
 ほかにも矢部さんは、かつて地域で行われていた和紙づくりを自然の中で見つめ直す取り組みなどを紹介しました。

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「幻のレストラン〜西方街道・海と山の結婚式〜」の活動をまとめた冊子

 次に話したのは、会津地方の三島町で「森のはこ舟アートプロジェクト」などの活動を展開してきた三澤真也さんです。

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三澤真也さん(一般社団法人地域づくりのアトリエソコカシコ代表理事、ゲストハウス「採集型ホステルソコカシコ」オーナー)

 三島町は西会津町の南に位置し、西会津町と同様に高齢化・人口減少が進んでいる地域です。三澤さんは7年ほど前にこの町に移住し、会津の森林文化を見直す取り組みを続けてきました。
 三澤さんが最初に紹介したのは、「食のはこ舟」というプロジェクトです。これは、三島町の間方地区に受け継がれてきた郷土料理、「トチ餅」の作り方を紙芝居にして残そうというもの。三澤さんたちは間方集落に通って地域の歴史を学ぶとともに、トチの実拾いから始まるトチ餅づくりの全工程を実際に体験し、1年がかりで紙芝居を完成させました。

 
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トークセッション会場に展示された紙芝居が参加者の注目を集めました

 「途絶えつつあった郷土料理を紙芝居という媒体にしたことによって、少し文化を紡げたのかなという思いはあります」と話す三澤さん。体験自体がとても面白かったそうで、今後は観光のプログラムに取り入れることも考えているそうです。

 三澤さんは次に、矢部さんも紹介した「幻のレストラン〜西方街道・海と山の結婚式〜」に触れ、プロジェクトを進める上で生まれた貴重な出会いについて強調しました。
 「レストランの準備のために、二つの町の若者たちが集まって西方街道を一緒に歩いたり、地域の食文化を調べたり。行政上のラインを超えたつながりが生まれました」

 今年6月からは、古民家を改修したゲストハウスを営業している三澤さん。そのねらいをこう話します。
 「僕は地域を面白くすることが自分の役割だと思っています。そのためには、拠点が必要。人と人とが交流することで、何かを生みだす熱が生まれると思うんです。三島町に移住まではしなくても、ゲストハウスを拠点にして、地域と関係を持ってくれる人を増やしていきたいです」

>>レポート後編へつづく


*ASTT関連レポート
・ばらばらな人たちが、ともに文化の土壌を耕した、3年 ――森のはこ舟アートプロジェクト
・地域文化と出会い直す―6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業 [3]―

*ASTT関連リンク
・公式ウェブサイト
・公式Facebookページ

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