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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

Art Support Tohoku-Tokyo

Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。

2017/09/12

「土地の記憶を紡ぐ術(アート)−東北の海と森の実践から」(Art Support Tohoku-Tokyo トークセッション#2 レポート後編)

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Art Support Tohoku-Tokyo トークセッション#2(レポート後編)

 アート(art)という言葉は「技術」という意味をもったアルス(ars)に由来するといいます。
 じぶんが暮らす地域と向き合う術(すべ)としてのアートに着目し、これからの実践の方法を考えようと、海と山それぞれの実践の方法を共有するトークセッションを開催しました。ゲストに迎えたのは、自然豊かな海と森に囲まれた土地の記憶を独自の方法で探り、継承しようと実践を重ねる宮城県の松島湾と福島県の会津地域の方々です。イベントの様子をライターの加藤貴伸がレポートします。



海からの視点で地域を捉える「つながる湾プロジェクト」

 会津の山間での実践を紹介した二人に続いて登場したのは、宮城県の松島湾周辺で「湾」に着目したアートプロジェクト「つながる湾プロジェクト」を続ける津川登昭さんと大沼剛宏さんです。最初に、プロジェクトの概要について津川さんが説明しました。

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津川登昭さん(一般社団法人チガノウラカゼコミュニティ代表理事)

 宮城県沿岸部の中ほどに位置する松島湾は、七ヶ浜、多賀城、塩竈、利府、松島、東松島の6つの自治体に囲まれた穏やかな海です。湾内には塩竈市に所属する浦戸諸島などたくさんの島が浮かんでいます。
 「湾内から陸地を見わたすと、当然ながらそこに行政上の境目はなく、地形が連続して見えるんです」と津川さん。
 海からの視点で地域、湾域を捉えなおそう。そんな思いを共有したメンバーが2013年に始めたのが「つながる湾プロジェクト」です。同じころ、アーティスト・日比野克彦氏がデザインした小型船・TANeFUNe(たねふね)が「海からの視点」を提唱して松島湾にやってきたことも、プロジェクトが始動する発端のひとつになったそうです。
 津川さんはプロジェクトの性格について、こう話します。
 「自分の地域というのは何なのか、どんなものが眠っているのか、自分とどうつながっているのか、というのを知る活動が中心。プロジェクトを通じて自分を知ることができるんです。アーティストと一緒に活動することで、立ち位置によって視点が変わることにも気付けました」

「勉強会」で学んだことを体験活動に変換する

 続いて、「つながる湾プロジェクト」代表の大沼さんが、具体的な取り組みについて話しました。

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大沼剛宏さん(「つながる湾プロジェクト」代表) 

 「つながる湾プロジェクト」がスタートした2013年から、大沼さんたちは松島湾にまつわる歴史、文化、産業などについて専門家を招いて勉強会を重ねました。そして学んだ一つ一つの事柄を一つずつ体験できる形でアウトプットするというのが、同プロジェクトの実践スタイルです。
 大沼さんは具体的な体験プログラムとして、2016年度に実施した「松島湾とハゼ」を紹介しました。松島湾で伝統的に行われてきた、釣り針を使わない「ハゼの数珠釣り」と、数珠釣りで釣り上げたハゼを焼き干しにする「焼きハゼづくり」、そして焼きハゼでダシをとる「仙台雑煮づくり」を一連の体験プログラムとして体験するものです。大沼さんはそのねらいをこう話します。
 「数珠釣りで漁をする人はほとんどいなくなったけど、なくなってしまうのはもったいない。数珠釣りでハゼを釣って、焼き干しにして、雑煮を作ることは、一度体験すれば家庭でもできます。そういう形で文化が引き継がれていくきっかけになればと考えてプロジェクトを進めています」

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ゴカイを束ねた「数珠」で釣り上げられたハゼ。2016年(写真提供:つながる湾プロジェクト)

 次に大沼さんが紹介したのは、2014年に実施した、湾を巡るツアー「湾の記憶ツーリズム」です。江戸時代に世界一周した浦戸出身の人物の物語の朗読や、島料理の食事、松島湾のカキ棚の見学など、地元住民との対話も交えながら、湾の文化を体験するものでした。
 「最終目的地は、湾全体を見渡せる高台です。体験を通して、自分たちの住む地域のことを実感できるプログラムになりました」と大沼さんは振り返ります。

 「つながる湾プロジェクト」が実践してきたアート活動の中でも特に象徴的といえる取り組みが、アーティストの五十嵐靖晃さんとの共同プロジェクト「そらあみ」です。色のついた糸を使って地元の人たちと一緒に大きな網をつくり、空に掲げます。菜の花や松など、地域の風景に含まれる色を使った網を掲げ、地域の自然や歴史、文化を再認識するプロジェクトです。

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地元漁師の協力で、カキの養殖棚に掲げられた「そらあみ」。2013年(写真提供:つながる湾プロジェクト)


ディスカッション「自分の地域の文化をつなぐ」

 この日のトークセッション最後のプログラムは、4人の話し手に桃生さんと佐藤さんも加えた6人によるディスカッションです。両地域の取り組みに「文化を残そう」という意識が共通しているというところから話がスタートしました。

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和やかなムードで、率直な意見が交わされました

三澤「それぞれの地域の、一つ一つの文化に神様が宿っているような気がするのですが、そういうものが失われつつあるのかなと、松島湾の話を聞いてあらためて感じました」

大沼「地域の文化や技術を、そのまま残すことはできない段階に入っていると思うんです。それらを持っている人が高齢で、人口は減り、需要もない。そのなかで、各家庭の日常にそういうエッセンスを少しずつ溶け込ませていけるようなプロジェクトを組めればと思っています」

 さらに話は、プロジェクトを進める上での現実的な問題点に及びました。「プロジェクトを始めるとき、地域の人に理解してもらうのが難しいのでは?」と桃生さんが問いかけます。

大沼「やはり地元の人の協力は必要。僕らのチームには地元の人の中に入り込むのが得意な人がいて、彼のおかげでプロジェクトが少しずつやりやすくなったという面はあります」

矢部「集落に住むと、側溝の清掃や草刈りなど、みんなでやらないとコミュニティが維持できなくなるような人足作業があります。そういう作業を通じて仲良くなることも必要です。お祭りもそうですね。共同作業で一緒に苦労すると、共通言語が生まれるんです」

三澤「ある集落で、大学と連携したプロジェクトに取り組んだときは、その集落の住民が二分していて大変でした。最初に行政から区長に説明してもらうなど、段階を踏んで理解を求め、強くは反対しにくい状況に持っていった。そしてプロジェクトをやってみたら、2年目は学生が来るのを歓迎する雰囲気になりました」

津川「僕も行政には相談に行きましたが、予算は自治体ごとなので、行政にできることとできないことがある。それは当然のことで、むしろ、柔軟に動けるのは我々のほうなんです。もちろん、行政にお願いできる部分はありますし、県の取り組みを我々が手伝うような場面もあります」

矢部「目的を共有できていて、行政にお願いする部分と、僕らがやる部分の役割分担ができていれば、一緒にできることはたくさんありますね」

三澤「都市部と違って若者が少ない地方では、民・官が協力してやるしかないですよね。行政はすぐに担当が変わってしまうので残念に思うこともあります」

佐藤「地域の事業を東京からサポートする立場で言うと、最初に、広域的に活動している機関と組むと話が早かったです。一つの自治体だと行政区域に縛られてしまうので、普段から領域を超えているところと協力関係を結ぶのが重要だと思いました」

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どの参加者も、真剣な表情で話に聞き入っていました

 最後に桃生さんから、プロジェクトを運営する上でのお金との付き合い方についての問いかけがありました。

津川「基本的には外部資金の枠内でのプロジェクトと捉えていますが、プロジェクトから発展した部分について、覚悟を決めて事業として経営していくかどうかの判断をしなければならない場面があると思います」

大沼「いろいろな活動をしてきた中で、コンセプトを維持したまま事業として運営していけるプログラムもある。そのほうが効率も良くて、文化的な広がりも期待できるなら、その選択をすべきなのかなとは思います。覚悟を決めて継続していくのかどうか、ちゃんと検討することが必要ですね」

矢部「『森のはこ舟アートプロジェクト』のような、広域的な連携を前提としたプロジェクトは、予算がないと難しいと思います。一方、『草木をまとって山のかみさま』は有料化して自主財源で継続しています。ただ、同じことを繰り返していると、そこに熱も気持ちも入らなくなってしまう。アートプロジェクトは、そういう温度が大事ですよね。儲けることを目的にしていたらアートプロジェクトは成立しないと思います」

三澤「『森のはこ舟アートプロジェクト』の一つの特徴が、外部から人を呼ぼうとしなかったこと。自分たちの地域で楽しいことをやって、自分たちが豊かになることを目的にしていました。個人的にはそれをうまく利用できたと思っているんです。アートプロジェクトを基盤にして、地域づくりの拠点となるゲストハウスを作った。これからはそこで自主財源を作りながら、やれる範囲でやっていこうと思っています」

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ディスカッションが終了してお開きとなったあとも、会場の熱気はなかなか冷めませんでした

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両地域の取り組みをまとめた冊子など、たくさんの資料が参加者に配布されました

>>レポート前編


*ASTT関連レポート
・ばらばらな人たちが、ともに文化の土壌を耕した、3年 ――森のはこ舟アートプロジェクト
・地域文化と出会い直す―6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業 [3]―

*ASTT関連リンク
・公式ウェブサイト
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