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Art Support Tohoku-Tokyo

Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。

2017/05/11

ばらばらな人たちが、ともに文化の土壌を耕した、3年 ――森のはこ舟アートプロジェクト

*本記事は『森のはこ舟アートプロジェクト2016活動報告書』に掲載した文章を再構成したものです。『森のはこ舟アートプロジェクト』Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)の一環として、福島県会津地域を中心に2014年度から2016年度まで実施しました。[執筆:佐藤李青(アーツカウンシル東京 Art Support Tohoku-Tokyo担当)]

「あ、俺、今年の(コア)会議に全部出席しているわ」「それって、おそらく、達矢さんくらいですよ、というか、達矢さんの予定に合わせて、集まっているということもありますが」「まぁ、よくあんなにばらばらな人たちが集まってやってきたよね、それが大きな成果だよ」

プロジェクトの終了が決まり、翌年度のプランを議論したコア会議の帰り道、東北新幹線の車中でディレクターの伊藤達矢さんと、そんな会話をした。「コア会議」とは、『森のはこ舟アートプロジェクト』の各エリアのメンバーが集まり、月に1回、福島県立博物館の会議室で進捗共有や議論をする場のことだ。誰が命名したのか記憶はないが、いつの間にか定例化していた。

西会津、喜多方、三島、猪苗代、北塩原。5つの市町村から集まった「コア」メンバーは、いわゆる、その地域の「代表」ではない。エリアコーディネーターを中心にプログラムを運営する当事者たちだ。それゆえ、会議の議題は、常に具体的で切実だった。アーティストや地域との向き合い方から契約の仕方に予算の使い方まで、長いときには、ひとつの話題で数時間も議論したことがあった。

地図上では隣のエリアも、移動しようと思えば、車で平均40~50分はかかってしまう。広大な山や川にエリアは隔てられ、冬はあっという間に雪に閉ざされる。道路は、その地形を縫うように走り、人々の暮らしは鬱蒼とした森に抱かれるように営まれている。ここでは、たとえ同じ「会津」というアイデンティティを共有するとしても、当然のように各エリアが背負う「文化」は違う。『森のはこ舟アートプロジェクト』は、この「ばらばら」な人たちが集まる、いくつものテーブルを用意した。

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西会津の風景:日本で2番目に大きな県の福島県は浜通り、中通り、会津の3つの地域に区分される。『森のはこ舟アートプロジェクト』の主な活動エリアとなった福島県西部の会津は「愛知県や千葉県がすっぽり収まるほど広い」(ウィキペディア調べ)。

テーブルの準備は、震災以前からの福島県立博物館の働きや『奥会津アートガーデン』の構想によって始まっていた。そして震災を機に立ち上がった『Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)』は、そこに接続することから、西会津、喜多方、三島で『週末アートスクール』を展開した。2012年度からは福島県も合流し、その枠組みは『福島藝術計画×Art Support Tohoku-Tokyo』へと発展する。『森のはこ舟アートプロジェクト』は、この延長線上で、2014年度に事業を開始した※1。2年目には猪苗代、北塩原とコア会議のテーブルを囲むメンバーが増え、遠く離れた南相馬でもプログラムの実施を試みた。

※1 福島県で事業の推移は『6年目の風景をきく-東北に生きる人々と重ねた月日』の「data3 会津から「福島」への広がり」(98頁)に詳しい。本書はArt Support Tohoku-TokyoのウェブサイトにてPDFダウンロード可能。

同じく2年目の2015年度にはNPO法人ふくしまアートネットワーク(FAN)が立ち上がった。FANはプロジェクトの事務局として、どこかのエリアに属するのではなく、その間をつなぐ、すなわち全体のテーブルをつくる役割を担った。それは会津、もしくは福島という広域を対象としてきた事業の成果であり、各エリアの活動が充実してきた結果でもあった。

各エリアのメンバーにとって「アート」は厄介なものだったに違いない。外からやってくるアーティストに伴走し、慣れないアートのプロジェクトに取り組み、そもそもアートという共通言語がない人々と共に作業を行う。メンバーの誰もがプロジェクトの最前線に立ちながら、その土地に暮らす住民でもあった。その困難は想像に難くない。だが、年を重ねることで、エリア側がアートを使いこなすようになっていった。それは西会津を中心とした「パートナーシッププログラム」の継続と拡大に象徴的だろう。

とにかく、一緒に何かをやってみる。そこから得られた実感は何よりも大きい。その連鎖はエリアで関わる人々や、ときには他のエリアへ「飛び火」していった。アートプロジェクトというテーブルで交わされるのは、ことばだけではない。

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『草木をまとって、山のかみさま』(2016年度/パートナーシッププログラム)
初年度(2014年度)に西会津エリアプログラム(アーティスト:片桐功敦)として実施し、2年目からは予算を含めて西会津国際芸術村を中心とした町民の自主運営で2016年度も継続している(主催:I am flower project、西会津国際芸術村)。

『食の伝達・縄文ギフト』(2016年度/西会津×三島コラボレーションプログラム)
「縄文」を共通のキーワードとしてリサーチからプログラムの実施までを、隣り合う西会津と三島のエリアメンバーが共に取り組んだ(プロジェクト・アーティスト:EAT&ART TARO、コラボレーション・アーティスト:樋口祐一)。


2015年度に三島では、アーティストのEAT&ART TAROさんと『食のはこ舟』に取り組んだ。三島町間方地区に伝わる「トチ餅」づくりをTAROさんとエリアコーディネーターの三澤真也さんがトチの実の採集から餅づくりまで全ての工程を教わり、その内容を紙芝居で残した。地域の失われゆく「文化」を継承しようとする試みだった。

そのトチ餅を食べるという日にTAROさんから、次のような話を聞いた。トチ餅づくりを経験してみると、いくつか明らかに必要のないように思える工程があったのだという。それでも全ての工程が継承されてきた。それは工程を変えてしまうと、トチ餅づくりが失敗するおそれがあったからではないか。つまり、豪雪地帯で食料の環境が決して良いともいえなかった、この土地で、トチ餅づくりの失敗は生きるための食を失うことを意味する。だから、確実にトチ餅をつくれる、この工程が続いてきたのではないか。そうTAROさんは推察していた。

土地の文化には、そこに暮らした人々の生の記憶が込められている。それは当然のことのように日常に浸透しているからこそ、文化となる。だが、それは時を経て、生のあり方が変化することで、いつしか消えてしまう。「アート」は、文化を生きたものとして、他者と触れることが出来るものとする、ひとつの術(すべ)となりうるのだろう。

『森のはこ舟アートプロジェクト』は、アーティストを水先案内人として、それぞれの土地の文化に向き合おうとしてきた。そこには、この地域が迎える、喪失への危機感があった。その「寂しさ」と向き合うことであった※2。だが、その現実に真摯に向き合う実践の先に現れたのは、どれもが朗らかで、生のよろこびを参加者と分かちもつような現場だった。3年間で二回も婚礼(『幻のレストラン』と棚田劇『森の婚礼』)が行われたのだから。そして、その視線は未来に向いていた。

※2 三島エリアコーディネーターの三澤真也さんは『森のはこ舟アートプロジェクト』のクロージングフォーラムで、自らのプロジェクトでの実践を振り返り、この3年間は地域の人々が抱える「寂しさ」と向き合ってきたのではないかと語っていた。

『幻のレストラン~西方街道・海と山の結婚式~』(2015年度/西会津×三島エリア協働プログラム)
西会津と三島をつなぐ「西方街道」にまつわる食材や郷土料理のストーリーと創作料理を披露する1日限りのレストランをオープンした(プロジェクト・アーティスト:EAT&ART TARO、コラボレーション・アーティスト:木村正晃)。プロジェクトは西会津と三島のメンバーが共に運営を行い、それが翌年度の『縄文ギフト』でのコラボレーションのきっかけとなった。


棚田劇『森の婚礼』(2016年度/喜多方エリアプログラム)
3年間、喜多方市の楚々木集落で継続してきた『楚々木樂舎』(アーティスト:岩間賢)の成果を活かし、会津地域の婚礼文化をテーマに、集落を野外劇場に見立てた公演を実施した。


「あぁ、このテーブルについている人たちは、ここで新しい文化をつくろうとしているんだなぁ」

あるとき、コア会議に出席していて、そう感じたことがあった。文化が生きる時間は、人が生きる時間よりも圧倒的に長い。それは自然がもつ時間の感覚に近いのかもしれない。『森のはこ舟アートプロジェクト』は終わる。だが、3年をかけて同じテーブルで、ともに文化を耕してきた人々が、この土地で生き続けるかぎり、その「もぞもぞ」とした蠢きは続くことだろう。


*関連サイト

森のはこ舟アートプロジェクト
芸術文化を活用した被災地支援事業「Art Support Tohoku-Tokyo」公式サイト

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連載「6年目のASTT アーツカウンシル東京の被災地支援事業」
[1] 文化で社会をつなぎなおす(森隆一郎)
[2] 境界線を編み直す(佐藤李青)
[3] 地域文化と出会い直す(嘉原妙)

見聞日常
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復興とともにある、生活者目線の文化政策―「福島藝術計画×Art Support Tohoku–Tokyo」


*東京アートポイント計画からのご案内

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