DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング
今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。
2018/12/03
DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(17)一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)
2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC)
顧問 山本幸治氏
蓮沼健氏(ディスクガレージ取締役)、
会長付総務委員 小柳輝昌氏(ディスクガレージ社長室長)
(同席)ニューポート法律事務所 齋藤貴弘弁護士
インタビュアー:
アーツカウンシル東京
宮久保真紀(Dance New Airチーフ・プロデューサー)
林慶一(d-倉庫 制作)
(2017年1月26日)
──音楽産業において、ライブ市場が飛躍的に伸びている要因や背景にはどのようなことがありますか。
山本:やっぱりお客様の志向がパッケージから生(ライブ)に変わってきたことが要因にあると思います。パッケージは、別に音楽を聴くことが沈んだのではなくて、聴くシステムというか、使うメディアが変わってきたということでしょう。だから、CDは落ちたけど、かといって、ダウンロードして聞くとか、ストリーミングで聞くとかということを含めれば多分、総体では変わってないはずなんですよ、音楽を聴くという活動はね。
ただ、例えば「FUJI ROCK FESTIVAL」※1 から始まった野外フェスとか、ああいった盛り上がり方。それから、このSNSの時代ならではの口コミ―画面から画面による口コミというのが非常に大きいと思います。だから、こういう複合的な要因がライブに行くという行為に繋がっている。
……ただ、例えばポール・マッカートニーなどは70才超えてまた来日しますものね。つまり、やる側(ミュージシャン)もきく側(観客)も一緒に年をとっていくわけですよ。当然、可処分所得の高い方々が観客になっていきますから、チケット代が1万2,000円でもお買い上げになるということがあります。そうすると、全体で見ると10代から70代まで聴衆の幅は広く、いくら少子化でも、やっぱり上の世代、団塊の世代がまだいますから、全体的に増えてみえる原因になっていると思うんですね。ですので、今はきっとピークだと思いますね。今後を語れというと、またちょっと違う形になるでしょう。
今後は来場されるお客様も減っていくし、当然、そこに関わるスタッフとしての若年層も減っていくということで、市場と関係人口の縮小という二重の意味で、大テーマを僕たちは持っています。
……細かいところで言えば、人口減少において若い人が減っているのでアルバイト人員が足りなくなっている。いわゆる人口構成で言うところの若年層の減少はイコール、マーケットも縮んでいくということです。ですから、今後は来場されるお客様も減っていくし、当然、そこに関わるスタッフとしての若年層も減っていくということで、市場と関係人口の縮小という二重の意味で、大テーマを僕たちは持っています。
蓮沼:あとは、根本的な問題として、いわゆる音楽の創造のサイクルといいますか、今までパッケージがそれを担っていたと思うんですね、著作者にきちんと印税が入っていくということで、新しい才能がその業界に入ってくるサイクルが、ずっと連綿と続いていたんですけど、それが現在は、ヒット曲が出て、それをお金に変えていくというプロセスがちょっと変わってきている。コンサートは、とどのつまり、ヒット曲をどれだけ持っているかというのが集客の1つのポイントで、昔であれば例えば、フジテレビの「夜のヒットスタジオ」で放送されました、TBSの「ベストテン」で1位になりましたということがイコール、楽曲の流通につながっていっていたんですけど、いまのネット文化はそうではないんじゃないか、という時代だと思うんですね。だから、NHK「紅白歌合戦」の、だんだんレーティング(視聴率)が落ちていくのは、それはしようがない。全世代にわたって共有するヒット曲がない時代が、もう10年、15年続いているということだと思うんですよ。
山本:例えば踊り、ダンスということに関しても、本来は幅が広いわけじゃないですか、お芝居やクラシック音楽にしたって幅が広いわけじゃないですか。その幅の広さの一つ一つにどういったお客様がついているかということが問題だと思います。かといって、いわゆる商品のようにマーケティングしてお客様のニーズに合わせてこういうアーティストを育てようとか、そういう問題ではないじゃないですか。まず、こういうことをやりたいというミュージシャンや音楽があって、それを社会に出したときにどう伝えましょうかという話です。方向性が商品とは違いますよね。そうなると、なかなかその辺が難しい。さっき言った幅を広げるにしても、じゃあ、ニーズを探して、幅を広げて、そこにいい商品を注入すれば売れるのかという問題とは全然違うということは、皆さん、重々、承知のお話だと思うのです。
どこかで共有できる情報を机の真ん中に置く必要がありますよね、みんなが見えるところに。
──業界をまとめる統括的な団体の必要性について。
蓮沼:最近イベントスペース協会というのができて、デベロッパーやゼネコンなどいろいろな業種の方がいらしていました。例えば関東というエリアで考えますと、もしかしたらこの協会に加えて、コンテンツ業界や、こういったことに興味があるプロモーターなどがいるかもしれない。そうであれば、どこかで共有できる情報を机の真ん中に置く必要がありますよね、みんなが見えるところに。
山本:ちょうど僕ら(ACPC)がJASRACとの団体協定というのを始めて、それまで各社とJASRAC各支部がやっていたことを、ACPCで申請も支払いも全部まとめて、曲目表も全部集めます、トラブったときはうちと会員社で話をしますというようなことをやり始めています。当然、手数料などをいただいて仕事にさせていただいていますが、やはり協定を結んだりするには、それなりの規模感がないとなかなか大変ですし、それこそ、PD(パブリック・ドメイン)ばっかり使っていると、団体協定の意味ないわけですよね。
……JASRACとの交渉の例では、音楽の役割と割合の実態をきちんと伝えるようにしています。例えば、コンサートはもう10対0で音楽100%でやっていますが、ダンス公演の場合は1対9でパフォーマンスが9割ですという前提で、だから、著作権使用料も10分の1でいいんじゃないかとかというような交渉のやり方はありますよね。例えばそのステージが成立するのは音楽5で振付5なんですとかと話せば。話せといっても、なかなか大変なんですが、でも、そういう主張はできる。
クラシックもポップスも全部ひっくるめて中小零細ばっかりなんです。だから、中立的な統括団体をつくって、目の前にある課題に対して異議申し立てをしていこうというところまで、みんなが1つになれてきたというプロセスがあるんですよね。
──2015年11月に芸団協(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)で、東京五輪に向け首都圏のホールが閉館や改修などで不足する事態の回避を訴える「劇場・ホール2016年問題」※2 についての記者会見がありましたが、会見の後、反響などはいかがでしょうか。
山本:ホール問題については、「2016年問題」という言葉自体が、皆さんの頭に入って、それがホール問題だということと繋がって(知って)いただいていたことだけでも大きい。まず、そういうことを、都民の皆さんも全国の方も含めて、共有できたことだけでも、あの記者会見をやってよかったなと思います。野村萬とサカナクションの山口一郎が会見で並ぶということはいままでなかったわけですよね。
芸団協 – これまでの提起(2015年度):https://www.geidankyo.or.jp/research/past.html
蓮沼:それに、エンターテインメント議員連盟ができました。
山本:議連との取組は今はとりあえず、高額チケット転売の話が主流なんですけど、ホールや文化施設のこれからのあり方と、特に地方創生の問題と絡めていろいろお話させていただいています。
蓮沼:音楽業界は、長らくレコード会社が産業の中心だったんですが、レコード会社はビジネスの仕組みそのものというか、既存の利権を奪われてしまうというようなところに問題意識を持ってやってきたところがあります。主導してきたレコード会社はそれなりの企業規模があるのですけど、一方で、ダンスの世界もそうだと思うんですけど、我々が関係する音楽業界はクラシックもポップスも全部ひっくるめて中小零細ばっかりなんです。だから、中立的な統括団体をつくって、目の前にある課題に対して異議申し立てをしていこうというところまで、みんなが1つになれてきたというプロセスがあるんですよね。ただ、このホール問題自体が、(現在議論のある)JASRACの著作権利用料(についての訴え)と同じようなスタンスでみんなと一緒に立てるかという問題になってくると、またちょっと違っていて。東京と地方ではまた事情が違っていまして、東京以上にホールの事情が悪いのはせいぜい大阪ぐらいですよね。あとは、もちろん、厚生年金会館がなくなって困っちゃった、2,000席の箱がなくなって困るという中核都市はあると思うんですけど、でも、それ以上に東京なんですよ。だから、これはローカルの問題になったんですね。
……だから今度は、このホール問題やチケットの転売問題に対しても、中小零細が集まって、共通の問題として認識されるかどうかが大きなテーマじゃないかなと思っているんですよね。
別のジャンルと(ホールの取り合いで)食い合ったら本当に大変なことになるなという状況はあるんです。
蓮沼:もともと、ロックやポップスは、割とホールを選ばないで、体育館でもどこでもやっちゃおうというとこから始まっていたので、ホールが絶対必要なクラシックとはちょっと違います。PAのテクノロジーが進化して、いわゆる音の跳ね返りみたいなものも技術的な力で抑えていったりしているから、割とそういう意味で言ったら、ロック、ポップスはどこででもできる。箱(ホール)がない、というのはクラシックや別の音楽業界が最も直面している問題です。
山本:芸団協さんのホール問題の委員会に私は参加していて、そこで本当に一番眉間しわを寄らせて切実に訴えておられるのがバレエ関係の方なんですよ。特に、(バレエ公演が盛んな)五反田ゆうぽうとが閉館になったことが彼等にとっては大変なことで。やっぱりバレエって、上手(かみて)下手(しもて)をいっぱい使ったりとか、奥行きを使ったりとか、それこそオケを入れたらどうかとか、いろいろなことを考えると、なるほど、ホールが限定されるんだということは、よくわかりましたし、それで、ホール使用の競争率も激しいだろうし、土日のバレエ教室の発表会もなかなか思うようにいかない、とか。だから、そこでもしも音楽とか別のジャンルと(ホールの取り合いで)食い合ったら本当に大変なことになるという状況はあるんです。
蓮沼:あと、オリンピック・パラリンピックに合わせて改修される会場があるということと同時に、2020年は相当早くからその会場が押さえられてしまうと思いますので、「2020年はみんなで冬眠するか(笑)」みたいな、そういうお話なんですよ。場所がなければ稼げない。多分、2020年の僕たちの産業の売り上げは、前年比で相当減ると思いますよね、20年当年が。特に、首都圏が全体の4割か5割を占めていますから、仮にそこで半分に減ったとすると、全体の25%が失われてしまうという。
──街・エリア、公的機関との関わり方について
山本:ちょうど同じ時期かちょっとそのぐらい前に、風営法 ※3 の問題で勉強させてもらいました。その時に問題になった夜間の時間帯ということでいくと、“エリア”という横軸と“時間”という縦軸をこれからどう開発するのかが一番大事じゃないかと思うんです。そのときに交通網の問題や色々なお客様の安全の問題を含めていくと、立体的になってきますが、それぐらい大きく考えていかないといけないんじゃないかなという気がしています。そのエリアの問題でも、細かい問題として、どんな場所があるのというときに「うちはこういうことしか使えません」なんて言っている場所は、もうこれから無理なわけですよ、「ここ、使えますか」、「考えますよ、うちは」って言ってくれるようなスペースの方々と一緒に前を向いて何ができるかということだと思うんで。消防法の問題とか飲食があれば保健所の問題とか、色々なことがあるかもしれないけれども、事業者の責任としてやらなきゃいけないですし。
では、こういった民間的な動きの中に、東京都のような行政がどう加わっていただけるのか。アーツカウンシルも、何か立体交差みたいなところに、アーツカウンシルという視点を真ん中に置いたときには、そこで今と違うことを生み出せれば、きょう話し合ったことは効果があるんじゃないかなと思うんです、恐らくは。
蓮沼:池上本門寺の野外の音楽フェスティバル「Slow LIVE」もそうだし、築地本願寺の「本願寺LIVE 他力本願でいこう!」をやったときも、周辺の住民の理解を得ること、自分たちも関わるという意識があるとないとで大きな違いがでますよね。本当はトータルなまちづくりの中に我々のようなものをあらかじめ組み込んでいただけるとすごくいいのですが、ようやく事業者も、デベロッパーも個別の建物から、広がりのある平面としてまちづくりというようなところにシフトされている段階で、それの最後ですよね、僕たちのような者が入っていく余地はね。
少しずつ共通利益を求めて、やっぱり自分たちの問題を共有するところから共通認識を得るという、これは第一歩ですもんね
山本:例えば、みんなで意見を提出していくといった行動は、我々側の課題かもしれないけれども、今後は、行政側もそれを受け止めて、どんな手の広げ方を見せていただけるのかという意味で、その角度とか厚みが決まってくると思います。例えば、僕らみたいな中間支援というか統括団体の人間を集めて会議というのもありだと思います。
蓮沼:そうですね。ぴあがPFF(ぴあフィルムフェスティバル) をずっとやってらっしゃって、僕らも、些少なんですが、おととしくらいからお金を出しているんです。やっぱりあれを見ていると、若手の作家が次から次に出てくるんですね。10代から20代前半という方が本当にたくさんいるんですよ。でも発表する機会がないという、それはどのジャンルも一緒なんですけど。そこに我々が少しでも出すことで助けになるのかなというのでやっているんですけど。だから、アーツカウンシル東京のような組織はそういうことに、民間と一緒に、目配りを、高いところから見ていってほしいなというのはありますよね。
山本:ライブハウスみたいな個人発みたいなものばっかりではなく、ホールは企業が運営している施設も多いので、ある意味、次のまちづくりみたいなところで、共通課題を共有していって、新しいまちづくりに生かすみたいな、核にそういうスペースを持ってくるというような発想が生まれますよね。
……著作権の権利は利権なんですよね、だから、お金、儲かるだろうということで、色々な人が来ますし、そこにはビジネスの才にたけた人もいれば、私腹を肥やしたい、俺は稼ぐぞという人もいる、それも全部含めて活性化につながっていると思うんですけど、でも、それはそれで置いといて、必要なものを必要なときに必要な方たちのためにつくるというのは、とても必要ですよね。
山本:コンサートプロモーターズ協会というのは、権利を利用している団体なだけで権利団体じゃないんですよ、何の権利も持ってないですね。今は一般社団だから内閣府になっちゃいましたけど、もともとは経産省所管なのです。ほかの音楽団体は著作権問題とかを持っているのでみんな文化庁所管なのですけれど。そういう意味でいくと、権利者じゃない人たちの団体ってすごく必要と僕は思っています。団体としては、財源ももちろん豊かではない、専従スタッフも置けないというような団体ですけど、皆さん、そうやって少しずつ共通利益を求めて、やっぱり自分たちの問題を共有するところから共通認識を得るという、これは第一歩ですもんね、そこ、始まっていますよね。
支持者同士で固まってしまうと、その周辺のファンには疎外感がちょっと出てくるでしょう。
──客観的に見て、ダンス文化というのはどのように見えているでしょうか。
「Legend Tokyo」みたいなものをやっていると、つまり、見る人たちというよりは、やる人たちのためのエンターテインメントですよね。だから、ダンスも、そうか、底辺からずっと盛り上がっていて、“ドゥ・スポーツ”なんだなと思うんです。
……でも、ちょっと難しいのは、この盛り上がり方を間違えると囲い込みになるんですよ。例えば国立劇場とかに行くと、お客さん同士で「ご苦労さま」とか「お疲れさま」って言ってるんですね。もっと楽しみに来なさいよ、と。支持者同士で固まってしまうと、その周辺のファンには疎外感がちょっと出てくるでしょう。
……あらゆる意味で、エンターテイメントを含めて、盛り上がってきてはいるんですよ、みんな何かやっていますからね。いい時代になったとは思うんですけど、その分、プロとの境目が薄いのかなって。宝塚を退団したある女優さんが独立して最初にやったダンスイベントがあったんですけど、そこにブロードウェイからダンサーが来て、ダンサーの核になり、さらに出演ダンサーの指導もやっていたんですけど、ストリートダンサーと舞台で基礎を積んできた人のダンスが、全然キレが違うというか、全部動作が決まっているんですよね、冗漫なところがないというか。だから、「これがプロなんだ」と思えるのがいいと思うんですけど、そこが決して世間で受けるわけじゃないというのもまた現実かなと思うんですよね。
コンサートプロモーターズ協会(ACPC)
音楽を中心としたライブ・エンタテインメントを主催する、全国のプロモーターで構成される一般社団法人。ライブ・エンタテインメント産業のさらなる発展を目的として、各種の公共事業を実施している。
コンサートツアー事業及び関連音楽事業の調査、研究資料の収集、機関誌やその他刊行物の発行などを行うとともに、コンサートにまつわる商習慣を明文化した、業界初のコンサート約款の策定等に取り組んでいる。
http://www.acpc.or.jp/