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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング

今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。

2019/02/19

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(21)平山素子氏、山口佳子氏(NPO alfalfa 代表)

2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。

平山素子氏、山口佳子氏(NPO alfalfa 代表)
インタビュアー:アーツカウンシル東京

(2016年12月27日)


──アーティストとして長年にわたり活躍していらっしゃいますが、現在の舞踊の状況と課題についてお考えをお聞かせください。

平山:“ある意味において”日本で舞踊はそれなりに普及しているかもしれません。大衆的なもの、民族的なもの、芸術的なものと種類も豊富で、ダンススタジオもたくさんある。実際、関東圏では週末になるとたくさんの公演やイベントが開催されていて、どれを観ようか迷うぐらい。劇場利用も抽選を行うほど予約がしにくい。しかし逆に、蔓延しすぎて自分たちが発信しているものに対して鈍感になっているというのが私の意見です。徐々にアマチュア志向が染みついてしまっているように感じます。観客も違いがわからずに観てしまい、これは渾身の一本を時間かけて理論や思想や技術を作り出そうとしているなと感じるものと、発表会のようなものを同列に並べて鑑賞し、SNSで感想を投稿している一部の観客層をみると、不安感を持ってしまいます。

本当の意味での舞踊のダイナミズムを体験し、価値を創造するにはじっくり時間がかかるということを知らないんです。

平山:例えば、フィンランドの教育についての話題から、マークシートのような選択肢で回答させる方法を廃止すべきだという意見が主流であることを知りました。フランスのバカロレア(簡単に言うと大学入学資格を付与する試験)は論述式で、最初の試験科目に「哲学」があることを知った時も驚きました。日本でも少しずつ変わってきてはいますが、いまだ知識偏重型で選択式に慣れています。選択式の場合4つのうち1つを選ぶと、あとの3つは間違っているということになってしまい、本当はいろいろな視点・見識・切り口があるということを見逃してしまう危険があります。これを繰り返すと多様性があるということを想像できなくなり、アーティストがいわゆる「価値の創造」として独自性の高い作品を発表しても、その後の受けとめる側が解釈できず、2次、3次的に拡販していく可能性を断ってしまい、本来芸術が持つエフェクトを発揮させられないと思います。
また、教育現場では“楽しい”がキーワードになり過ぎていて、楽しくないと舞踊じゃないみたいな雰囲気が横行しています。“楽しい”としても、その種類も内容も豊富に広がりがあるはずなんですが、何でも一つの正解に当てはめて安心しているように感じます。
もう一つ、ダンスのスポーツ化というのも危惧しています。身体能力だけで見ていくと、スピードや繰り広げる技も10年前と比較して進化がすごい。さらに、動画で視ることに慣れてきていて、動画で映えるものでないと魅せられないと徐々に刷り込まれてしまっています。だから、派手な技は幾度も練習するのですが、そのあとに「どうやったら観客の心をうごかせられるか?」と質問されてしまい、ガクッとなります。本当の意味での舞踊のダイナミズムを体験し、価値を創造するにはじっくり時間がかかるということを知らないんです。“踊る”動機づけの順番が違うというか…。スピードの時代の特徴といえるかもしれませんね。

「振付家」という職業に対する社会的認識も低過ぎることはとても残念

平山:「振付家」という職業に対する社会的認識も低過ぎることはとても残念です。だれが出演しているか? には興味があるけれど、だれの振付? ということに興味を抱いていない人が多い傾向なのです。
プログラムの表記などの権利問題にしてもあいまいな点が多いといえます。振付に関しての著作権がどうなっているか質問されることがありますが、これも不明瞭だと回答せざるを得ません。写真や映像の使用についてもクレジットを入れないでコピーして使うといったルールから外れたものが横行し過ぎています。平気でリハーサル風景を撮って、そこに映り込んだ人の許可も得ぬまま勝手にSNSで公開したりしてしまう。これら一つ一つに、オリジナルの権限のあるものなんだと認め合う「価値判断力」があれば、決してこのようなことにはならないと思います。モラルを学ぶ教育システムが追い付いていないように思います。この影響はいつの間にか、創造に対するリスペクトが薄れるということに繋がります。踊る楽しさだけを与え続けていることの弊害であると感じます。

──現在は大学で後進の育成にも取り組んでいらっしゃいますが、次世代の育成において何か課題を感じていらっしゃいますか?また、その解決のために必要な支援策とはどのようなものだとお考えでしょうか?

平山:「真の芸術家であれ、創造をし続けるんだ!」と言いたいところですが、大学生で創作的な舞踊の道に入りたいと思っている人たちには、舞踊技術以外のこと、セルフブランディングやセルフプロデュースを学んだほうがいいと考えるようになりました。これはちょっと残念でもあります。本来は稽古場で集中力を高めエネルギーを巡らせていることは理想的かつ素敵なことです。専念できる環境がベストです。しかし、今の環境では、稽古場から自らが出ていかないとマーケットには乗りません。「ダンスが大好き」という受け身的人生楽観者が多くて、本気スイッチはどこにあるかなと身体中まさぐり探すのだけど見当たらない。良くも悪くも“戦略的”に行動する人が少ない。それを象徴するかの如く、今、若い人は舞踊公演を観ない人が多い。理由はいろいろですが、もう少しよく聞いてみると、実は友達や知人の関係しているものなら観ていて、情報をとりにいって直感的に見なければ! と感じるものに足を運ぶという発想が薄い。これはアーティストとしては鈍感すぎるように感じます。「舞踊活動そのものに夢は持っていても目標が設定できない」というあきらめに近い感覚を根付かせてしまっている現状です。この意味からも、助成金のシステムや、公演の成り立ちなどを知るだけでなく、ダンス業界からどんどん外に出て、他のジャンルのベンチャービジネスや話題の研究などの方向性なども知っておくと時代を読む力が備わり、準備として役に立つかもしれません。
大学では、できるだけ先端で活躍しているアーティストたちと直接話せる機会を設け、舞踊の創造の先には今あるものをより良くするだけではない真の「価値」を新たに形成するということであることを伝えていきたいと考えています。

──コンペティションやアワードについて

平山:確かに、日本ではコンペティションが乱立しています。それぞれに独自の審査基準や方向性を示しているのは良い傾向だと感じます。その中でも、終了してしまいましたがトヨタコレオグラフィーアワードの果たした役割はやはり大きかったかなと感じます。実際、応募が多かったのは、アーティストが受賞して、その後も公演プロデュースを受け、憧れるような活動を継続できていると見えるからでしょう。必要なのは一時的な栄誉ではなく、アーティストとして活動していく覚悟を決めるきっかけです。(賞金がなくてもいいから)アーティストとして働きなさい、そのサポートはする!! バックアップする!! というシステム作りをしてほしいと考えます。

──プロデュースする側の役割について

平山:舞踊専門のプロデューサーが少ないことも残念です。私は幸いにして公共ホールのプロデューサーから何度か声をかけていただき、その都度、難しい題材や共演者を提案され驚きましたが、これらのチャレンジが今の私の個性を築いてくれたと感じています。成果の見えにくい舞踊というジャンルにおいて、いかに一人のアーティストとして最大限の努力をして企画の意図に答えていくか。毎回、眠れぬ夜が続き、体の痛みに耐えながら、質を保証し価値を創り出すかを必死に考えていました。
このような機会を得ることで開花するアーティストの卵はたくさん存在すると考えます。

──アーティストをつなげるデータバンク機能について

平山:散らばっている情報が統合できるようなデータバンク機能があるといですね。実際にないわけではなくすでにいくつかの試みがなされていることは知っています。しかし、なぜだか若い人たちはこういった取り組みについてほとんど知らないのです。もったいない。そしてネットワークも必要です。これはアーティスト側にも観客側にも有益であると考えます。
それから、アーティスト同士をつなぐプロデュースも魅力を感じます。仲のいい友達だけでまとまるのではなく、業界をまたぐかなり大胆な…無理させるぐらいの。各業界に多くの才能の芽が存在しますので、それをコラボさせるというより、ぶつからせるようなものがふさわしいかと思います。このためには舞踊が魅力ある領域にみえる必要がありますが…。

アーティスト自身がサヴァイヴし続けるだけでなく、作品づくりのために一緒に並走してくれる劇場の存在や、上演された作品を世の中に広げていってくれるような人や組織のようなものがやはり必要。

──アーティストへの支援について

平山:公演回数が少ないことは本当に残念です。特に再演がなかなかできない。コンテンポラリーダンスは面白いトライアルをするジャンルではあるけれど、洗練度が積みあがらない理由の一つでもあります。深化させ成熟・洗練させるには何度も繰り返す必要があります。観客動員見込みで公演回数は決まってしまうのでしょうが、現在、規模が縮小傾向にあるように感じられます。堅実な時代なのかもしれません。さらに、ここから海外の芸術祭などへチャレンジするなど別な機会とすぐにつながらなく、残念です。東京で上演されたもので、ある程度の規模の作品を、様々な場所で売り込んでマーケットに乗せてくれる人がいると、アーティスト側としてはとても励みになります。これまでずっと場(特に創造環境)が必要だと考えていましたが、こうして頭を整理してみると問題は別なところにありますね。プロフェッショナルに活動できるという夢を現実にできる環境が出来上がらないと、ずっと問題は解消されず小さな論点がぐるぐる回っているだけになってしまいます。アーティスト自身がサヴァイヴし続けるだけでなく、芸術発信のために一緒に並走してくれる劇場や組織のようなものがもっと増えることが必要だと常に感じています。もちろん、アーティストはあぐらをかかず常に走り続けて、大胆な存在でいることが前提ですが…。

山口:加えて、今はフリーランスのダンスの制作者がとても少なくなってしまって、劇場とアーティストの間をつなぐ人も絶対的に不足しています。アーティストが長期的に作品を発表したり、ステップアップしていくためには、ビジョンを共有したり、客観的にアーティストについて語れる人の存在が重要になってきますが、アーティスト以上に制作者がサヴァイヴしていくのも難しいと思います。アーティストとそういった制作者は表裏一体なところもありますので、アーティストの活動を支援していくことによって、そこで活動する人たちも一緒に底上げできるような仕組みが必要なのかもしれません。



撮影:白鳥真太郎

平山 素子
コンテンポラリーダンサー/振付家。2006年ボリショイ劇場バレエ団にて『Revelation』をS.ザハロワに提供、新国立劇場公演『Life Casting』(07年)で朝日舞台芸術賞、『春の祭典』(08年)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、江口隆哉賞を受賞。シンクロナイズドスイミングやフィギュアスケートの日本代表選手の指導も手がけるなど活動は多岐にわたる。筑波大学体育系准教授。
http://www.motokohirayama.com/

NPO alfalfa
平山素子をはじめ、クオリティの高い芸術創造活動を続けるアーティスト、およびアートNPO、各地の文化施設や民間企業等と協働し、広く社会に良質なアートを提供する。同世代のアートマネージャーたちのゆるやかなネットワークによる、柔軟で開かれた活動体制からスタートし、アートマネジメントの持続性と次世代の担い手育成をめざす。
http://alfalfalfa.net/

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