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東京芸術文化創造発信助成[長期助成プログラム]活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成プログラム】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/06/10

第13回「東京現音計画 コンサート、アーカイブ 〈ミュージシャン、クリティック、コンポーザー〉の3つの視点によるコンサート企画とレパートリー・データベース(映像)の公開プロジェクト」(後編)

第二部 インタビュー

第一部での報告を受け、第二部のインタビューではアーツカウンシル東京の玉虫美香子企画助成課長の司会のもと、ウェビナー視聴者の質問も交えつつ、東京現音計画の活動の広がりやそれを可能にするチームのあり方、今後の展開などが紐解かれました。

第13回「東京現音計画 コンサート、アーカイブ 〈ミュージシャン、クリティック、コンポーザー〉の3つの視点によるコンサート企画とレパートリー・データベース(映像)の公開プロジェクト」(前編)はこちら


「東京現音計画」はこうして生まれた

−アーツカウンシル東京では、東京現音計画の第1回の公演から、東京芸術文化創造発信助成の単年助成をさせていただいております。最初に東京現音計画立ち上げの企画を知った時には「これは面白いことが始まったな」という予感、確信を持ったと同時に「この編成で、これからどうやって活動を続けていくのか」というふうに考えてしまったことを、今も思い出します。それがここまで、10年も続いてきたのは、本当に驚くべきことだと思います。
今日はせっかくの機会ですので、「東京現音計画」の始まり、そもそもなぜこうした名前になったのか。どうして「東京」か、「現音」は現代音楽の略なのかそれとも「音が現れる」というような別の意味があるのか、また「計画」と名付けたということには、何かのもくろみ、くわだてに向かってある方法・手順で進んでいく、という意味合いが感じられますが、そのあたりの意図などをお聞かせいただけますでしょうか。

橋本 名前は有馬さんが最終的に「これがいいんじゃない?」と言ったんですけども。そもそもこのアンサンブル結成の言い出しっぺは僕で、僕が大石くんに話を持っていったんですね。というのは、結構大きなアンサンブルだと、サクソフォンも、パーカッションも、チューバも、エレクトロニクスも、入っていることは多いんです。でもサイズが小さくなっていくと、ピアノ以外の楽器は、外されていきます。実際、僕らは正式メンバーとしてじゃなく、エキストラとして演奏することが多い。そうすると、自分たちが主体的に何かをやりたいというときに、それができるアンサンブルがないわけです。このことを僕はとても不満に思ってまして、「じゃあ、そういう人たちで集まってやったらいいじゃないか」ということを考えたんですね。それが最初で、後になって黒田さんに泣きついて、ピアノにも入ってもらったんです。
で、ここからなんとかしてない知恵を絞って、活動していかなくてはならない、まずは団体名を決めようという時に、「アンサンブルなんとか、みたいなのはよくあるからやめておいた方がいいよね」という話になったんです。それで「無印良品」みたいな「漢字が四文字とか五文字の、日本語がいいね」とひらめいて。われわれは関東の、東京を拠点にやっているので「東京発」というのは最初から意識していました。その都市のアンサンブルの特異性を出したいと。

有馬 そのうえで何をするかと考えた時に、ただ単にコンサートをやる団体ではなくて何か新しいことを企てていくという団体だよねという話をしていて。それで「計画」というのを思いついたんです。まあ、とあるSF作家の方のお名前も多少意識していたんですけど(笑)。とにかく音楽を演奏するだけではないんだ、というのをどう打ち出したらいいのかというのでジャストフィットしたのがこの名前で、夕方に橋本さんと電話で話していて、「これだ」と一瞬で決まったのを覚えています。

拡張していく企画

−長期助成で実施していただいたコンポーザー、ミュージシャン、クリティックというセレクションに加えて、プロデューサーズ・セレクションやベストセレクション、à la carteシリーズと、増殖とも言える活動を展開していらっしゃいますよね。メンバーも5人それぞれがソロや別ユニットで忙しく活動されている。さらにレパートリーのデータベースをウェブで公開したり、YouTubeの東京現音計画チャンネル、それから最近は『日本のライブ・エレクトロニクス音楽』という単行本を出されました。活動の「拡大」というよりもむしろ、枝が増えてどんどん広がっていくようなこうした「拡張」のスタイルというのは、どのようにできてきたんでしょうか。自然にそうなったのか、あるいは計画されてそうなったのか、その辺りはいかがですか。

橋本 半分は成り行きに近いと思います。最初は作曲家のセレクションと演奏家のセレクションの2本立てだったんですが、批評家の方や音楽学者の方がどういうふうに音楽を見ているのか、そういう方々が実際に音楽シーンに何かを投げかけるきっかけをつくることができないかと考えるようになって、クリティック、プロデューサーのセレクションが増えていきました。それとさきほど話に出た「計画」にもつながりますが、単純に演奏をするというだけではなく、われわれが「こういうこともできますよ、やってみませんか」みたいなことを提案する、そのことによって現代音楽シーン全体が面白くなるといいなと考えているところがあるんです。だから自分たち自身も面白がってやっているし、ちょっと節操がないくらいいろいろなことに手を突っ込んでいっている。手を突っ込んだまま、ちゃんと整理できていなくて、まだ発展していないところもあるかもしれませんけど。

有馬 付け加えるとしたら、これはメンバー全員の意識というより僕が、ということになるかもしれないんですが、絶対に同じことは2度やらない、現代音楽をやるからには毎回違うことをしないと面白くないよね、というのがあります。それが結果的に、今言われたような展開になっていっているわけです。それから、メンバーそれぞれがまったく違うバックグラウンドを持っているということもあると思います。書籍での展開についていうと、実は僕が社会人になっていちばん最初についた仕事は編集者で、本をつくることと音楽をやることはそんなに遠いものではないと思っていたし、たとえば黒田さんならライブハウスでやることとコンサートホールで現代音楽をやることを連続させて、自分のバックグラウンドを現代音楽に寄せるんじゃなく、そのまま侵食していこうというようなことを考えているんじゃないかなと思うんですけど。

黒田 ミュージシャンズ・セレクションを担当した時に、こういうことをやっているグループでよかったなと思いました。私は、もともとはクラシックのピアニストから始めていますが、ジャンルを行ったり来たりしています。みんな、東京現音計画も現代音楽という箱も、おうちのような感じで、好きなように使って、好きな時に帰ってきて、好きな曲をやっているという感じがしています。

音楽家だけではないチームの強さ

−ここからは視聴者の方からの質問を読ませていただきます。橋本さんに質問です。これからのチューバの展望、未来をぜひお聞かせください。

橋本 チューバという楽器は割と歴史が浅いんですが、オーケストラの楽器に比べて、世代ごとのテクニックの向上はすごいんです。10年で音域が1オクターブくらい広がる感じです。ですから今の若い人の中には優秀な方がたくさんいらっしゃるし、これはチューバに限ったことではないですが、YouTubeなどで面白い活動をする人も増えてきて、それが表に出てくるようにもなりました。だから現代音楽に限らず、面白い状況になってきているんじゃないかなとは思います。もし、ご質問いただいた方がチューバをやっていらっしゃる方なら、希望を持ってやっていただきたいですし、そうでなくても、ぜひ関心を持って聴いていただきたいと思います。

−ありがとうございます。続いてのご質問です。東京現音計画のメンバーには声楽家や弦楽器の演奏家はいませんが、そのつど客演で呼ぶのか、誰か決まったアドバイザーのような方がいるのか、あるいは今後新しくメンバーを加入させることもあるのか、お考えをお聞かせください。

有馬 パートを増やすという考えはもちろんあって時々話題にも出るんですが、今の5人のスケジュールを合わせるだけでも大変で、さらに一人増えるとなるとかなり厳しいよね、と橋本さんとよく言っています。外部の方を招く時には、特にアドバイザーがいるというわけではなく、われわれで協議しながら決めています。この曲をやるならあの人に参加してもらいたいというように、曲によって演奏者のセレクトが違ってきますから。

橋本 現在のメンバー5人は、それぞれに活動をしながら、東京現音計画の仕事も分担しています。メンバーがある一定の数より増えていくと、活動に対する重みみたいなものが、人によって極端に変わっていくこともあると思うんですね。たとえば10人いるとすると、どうしてもコアなメンバーとそうでない人たち、みたいな形に分離していく可能性が高い。一方で5人というのは、一人じゃとても回らないので誰かに助けてもらわなきゃいけないみたいなこともあって、それぞれが分担してやっていくという意味でちょうどいい人数なんじゃないかとは思います。

有馬 日本の現代音楽アンサンブルの歴史をたどると、たまたまかもしれませんが5人っていうのは結構多いです。東京五重奏団だとか、サウンド・スペース・アークだとか。もしかするとこの人数は、いいバランスをとりながら長く活動するための秘訣なのかもしれません。

−今、メンバーについてのお話が出ましたが、それ以外のスタッフの方についてもお伺いしたいと思います。たとえば現音計画の場合、制作はナヤ・コレクティブの福永綾子さん、舞台監督はカノン工房の鈴木英生さん、写真やロゴマークは松蔭浩之さんと、最初からある程度決まったチームで動いていらっしゃるような印象があります。この辺りも、何かお考えがあってそうされているんでしょうか。

有馬 僕が最初に橋本さんから、このアンサンブルの計画を聞いた時、まず言ったのが、団体を持続させるためには、われわれ音楽家だけでなく、制作が必要だということでした。舞台スタッフやデザインなんかも含めて全部がパッケージ化されているというのは、僕が現代美術の領域にも少しかかわっていることと関係していると思います。現代美術シーンではそういった面にも非常に気を遣いますが、音楽は音楽家だけでやるという傾向があって、それは変えていきたいなということで提案したんです。

橋本 そういったスタッフの皆さんのお力添えをいただいて演奏会をやっていくことの重要性が、もう少し現代音楽のシーンでも周知されていくといいなということは思います。たとえばナヤ・コレクティブの福永さんは制作に関してはかなり深く関わっていただいていて、われわれがやりたいことに、現実的な視点を与えていただいています。事務的なことの分担は喧嘩になりがちですし、誰かが「もううんざり」ということにもなりかねない。でもそれをプロフェッショナルの人たちと分け合うことで、われわれの活動が長く続いているということもあります。現代音楽だと、受付や舞台監督も誰かが手弁当でやっていることが多いんですが、それが演奏会全体の流れとしてうまくいっている時もあれば、そうじゃない時もある。そこをきちんと専門の方がやってくださることで、演奏に対しての集中度も違ってきます。それに、演奏会をやるなら、みんなが幸せになろうよ、みたいな感覚はあって。いろいろなところを仕事としてきちんと回していく大切さもあると思っています。

黒田 必ずいつも5人で演奏活動をしているわけではないんですよね。デュオだったりトリオだったり、ゲストがいたり。それからさきほど映像でも観ていただきましたけど、身振り、身体表現のようなものが入っているプログラムもあって、照明や演出が加わることもあります。そういう場合はやはり手弁当で舞台監督をやってもらうというのではステージが成り立ちません。ですから、いろいろなスタッフが準メンバーのような形で参加しているということは、東京現音計画のカラーに合っていて、とてもいい効果を出していると思います。

有馬 写真をお願いしている松蔭さんは、実は僕も参加している「昭和40 年会」というアーティストグループのメンバーです。われわれは最近のコンサートではインスタレーション的なことにまで手を出しているので、そういう時に視覚表現の人がパートナーとしていてくれるのも非常に助かっていますし、意図的にそういうふうに企てをしてきたというのはあります。おそらくなんですが、毎回写真を撮るということも、こういったアンサンブルではほとんどないと思うんです。ただ、われわれには、当然、記録を残すことが次につながるという確信、信念があるんですよね。

助成事業の企画のポイント

−助成についてのご質問です。今回の助成を申請された際の企画書では、どのようなことをアピールし、どんなビジョンを語られたのでしょうか。その内容の一端を教えていただけますか。

有馬 コンサートについては、各回のテーマを明確にして、それぞれの企画趣旨は何かというようなことを簡潔に言えるような企画書をつくりました。そういった作業を我々と制作とが対等の関係でやっているということが、助成申請の際に効果的に生きていると思います。

司会 これは、助成をさせていただいている私どもの方からも補足させていただきます。まず、この長期助成プログラムは、音楽以外にも、演劇、舞踊、美術・映像、伝統芸能、その他ジャンル複合的な活動を含め等、さまざまなジャンルからご申請いただけるようになっております。ただ、音楽に関しては、長期助成で採択されている件数が非常に少なく、平成25年度から現在までで3件しかなく、全体の8%程度ですので、ぜひ、音楽をやっていらっしゃる方からもご申請をお待ちしております。そういったなかで、東京現音計画のこのデータベース・プロジェクトというのは、自分達の演奏会の記録映像を次々と無料で公開してしまうという、普通はなかなかできないことに取り組むものでした。自分たちの活動を通じて音楽シーンに何ができるのか、どうやったら変えていけるのかという視点を持って、それを実行しようとするところが、ほかにないプロジェクトだったと言えると思います。またコンサートの企画についても、毎回、同じように繰り返す定期公演ではなくて、企画するとはどういうことなのかを問う内容で、企画の仕方自体が提案になっている。それはほかの団体やこれから活動をしようとしている方にとっても、非常に参考になるものではないかと考えました。たとえばクリティックズ・セレクションでは、どうやって研究や批評が実際の音楽シーンに関わっていく場所をつくることができるのかといった問題意識があり、その課題に実践的に取り組んでいる点でとてもユニークでした。

活動を長く続けるには?

−次の質問ですが、今後、どのような現代音楽の演奏団体であれば持続可能かという方法を考えていますが、アドバイスいただけますか、とのことです。

橋本 現代音楽ですから、年長者にこういうことを聞いちゃダメだと思います。若い人の方が感性を持っていますから、年寄りの意見は参考にしなくてもいい気がするんですけれど。現代音楽に限らず、こういう団体をつくって長く続けるためには、という話で言えば、ひとつわりと明確な答えがあると思います。それはたぶん、気の合う人、この人たちとだったら長くつづけていけるなという人たちとやるということです。それがいちばん大切で、編成とか腕前は二の次だと思います。腕はあるけれど気の合わないと人と長くやっていくのは大変ですし、長く続いているというのは結構大事なことです。われわれの場合でも、とても2回以上演奏会ができるような編成には見えないけれど、知恵を絞ればなんとかなってきました。

有馬 何か言えるとしたら、音楽の中だけで考えない方がいいですよ、ということかな。たとえば演劇ではもう一般的な考え方なんだけど、現代音楽ではまだやられていないことってたくさんあるんです。だからほかのジャンルの団体がどういう活動をしていて、継続させるのにどういう手法をとっているのか、助成金申請みたいなことも含めて、僕はよく参考にしているし、アンテナを張るようにしています。これは、活動の持続や助成金の問題だけじゃなくて、何が旬なのかということでもあって、それは音楽だけを見ていてもわからないことだと思います。

橋本 あとは、先ほども話に出たスタッフですね。制作だとか、演奏以外で一緒に考えて、育っていけるスタッフをきちんとつくることは大事です。

有馬 音楽では、キュレーターの存在は希薄ですよね。僕はそこを育成していく必要があるんじゃないかと思うんです。制作もそうですが、演奏を直接するわけではないけれど、コンサートやプロジェクトを組み立てていくうえで重要なメンバーという人が必ず必要になると思います。

曲目が決まるまで

−東京現音計画の「セレクション」では、外部の方に選曲を委嘱するという形をとっていますね。その際に、現音計画側から何かリクエストをするようなことはあるんでしょうか。また、セレクトされた曲について、これは実現が難しいといった場合はどうするんでしょうか。

有馬 曲の長さや費用的な限界ではなければ、なんだかんだでなんとかしちゃいますね。そのノウハウは企業秘密ですが(笑)

橋本 これはケース・バイ・ケースです。さきほどお話した近藤先生の回は、ほとんど相談もなく「これ」と曲が決まってきて、そのままやることになった例ですが、やっぱり、予算や編成、楽譜のレンタル料がすごく高いといった理由で却下になる場合もあります。もちろんわれわれとしては、その方がやりたいと提案してくださったことを最大限やりたいとは思っています。ただ、結構長い時間をかけて、だいたい複数年にわたってディスカッションはします。セレクションもいろいろなパターンがあるんですよね。森紀明さんの回では、驚くぐらいたくさんの曲をリサーチしてくださって、あと3回くらいはできそうだったり。稲森安太己さんの回でも、リサーチの量はすごかった。沼野さんからは「チューバがいるから本当に苦労した」と言われたりもしました。もちろん沼野さんの冗談なのですが。

有馬 ですからコンサートによっては100近い候補曲があって、その中から絞り込んでいくこともあります。われわれが組む方は、みなさん、本当によくリサーチもされていますし、そこでの情報量は勝負どころになるんじゃないかな。あまりそういうケースはないんですが、もしわりとソフトなプランを提案されたら「もうちょっと頑張ろうよ」「もっと調べようよ」ってことを言うと思います。

橋本 今お名前の挙がった方のようにすごいリサーチ力を持った方々もいますし、はっきりしたヴィジョンを持っていて「こういうふうな曲がこういう編成でほしいんだけど、何かないか」と聞いてくる方もいて、そういう場合はわれわれが必死で探すんです。たとえばチューバの曲でしたら僕がいちばん詳しいので、僕から「こういうふうな曲があります」と提案することもあります。もちろん、僕が全然知らないチューバの曲を持ってきてくださる方もいますから、その辺りのやりとりはすごく楽しくもあります。

黒田 どなたにセレクションをお願いするかは、コンサートが終わった後でも前でも、常にミーティングのテーマになっていますね。

有馬 われわれの中でもいろいろな候補者をばーっと挙げるので、その時点でかなりの情報量にはなっていますから、そこからもう、さっき言った勝負どころだということになりますね。

−ありがとうございます。いただいている質問のうちの、財政に関わる部分をまとめてお聞きします。採算性と公演会場の規模感はどのように決定されるのでしょうか。また、長期助成だと、カバーされるのは全体の経費の半額です。残りは入場料収入で賄う形でしょうか。

有馬 助成金に関しては複数のものを活用するというやり方もあると思います。会場の規模については、われわれの場合はわりと単純で、まず、エレクトロニクスのやりやすいところというのが条件、制約になります。ですから機材が全然ないホールは対象外です。われわれの場合は杉並公会堂が多いんですが、音響機材がそろっている、自由に使える、無理めなリクエストにも応えてくれるというのが大きな理由になっています。ただ、会場選びは、空いていないとダメですから、自分たちの希望と空いているところと、どこで折り合いをつけるかは悩みどころです。

橋本 採算性については、さきほどもお話しましたが、ナヤ・コレクティブの福永さんのお力がいちばん大きいです。福永さんが出演交渉の際にも「この値段でしてください」だとか、ホールについては「この日はここしか空いていないので、ここで行きます」というような判断をしてくださっています。演奏会ごとだけじゃなく、複数年にわたってマネジメントをしていただくことで、どこに重点的にお金が使えて、どこを節約しなきゃいけないかみたいなこともわかってきます。ですからやはり、演奏家だけで長い間アンサンブルをマネジメントするのはとても難しいということでもあると思います。

有馬 あとやっぱり、長期助成のメリットをいかに活用するかも、アンサンブルを運営するポイントなんじゃないかなと思います。

東京現音計画のこれから

−ありがとうございます。最後に、これからの東京現音計画について、有馬さんからお話をいただきたいと思います。

有馬 コンサート活動自体が毎回新たなチャレンジになっているということは基本なんです。そのうえでこれからどういう計画を持っているかというと、一つは海外とのコラボレーションの強化です。黒田さんのセレクションがまさに「東京発」だったんですが、その先を考えていかないとな、というのがあります。それからさきほども年齢の話が出ましたが、次の世代にいかにノウハウを伝授していくか。僕の担当しているエレクトロニクスのパートなんてもう死活問題で、ちょっと前までは後継者がほぼいない状況でした。演奏もそうですが、運営のノウハウも含めてどう伝えていくかを考えていかないといけないと思っています。それから3つ目は、現代音楽の枠にとどまらない、広範囲なコラボレーションです。これは2021年のà la carteシリーズですでに始めているんですが、そういう取り組みには発見が多くて、われわれのメインの活動にも大きな刺激になると思っています。個人的には、去年、黒田さんがやったライブハウスでのコンサートについても、ライブハウスでやった方がいい曲ってあるよねという話が出たり、橋本さんがやった古楽についても、現代音楽をやるのと同じ人間が演奏する時にどんな連続性があるのかといったことに興味を持っています。自分自身のことだと、一時期ほどには即興演奏をやらなくなったので、そろそろそういう方面もやりたいですね。

アンサンブルとしては、意識的に活動を広げていくというよりは、自然と増えていくような計画をしています。これはちょっと予告なんですが、今、アメリカのバージニア大学大学院で、遠隔によるアンサンブル・イン・レジデンスというのをやっています。これはコロナ禍だからできた企画で、向こうの先生方と博士課程、修士課程の学生とZoomをいかに音楽をつくる道具にできるかという研究を、東京大学も交えてやっているんです。その成果は来年度発表される予定です。年末にはコンサート形式でも発表しますし、オンラインでの展開も考えています。こういったことを常に考えつつ活動しています。あとは、お二人から何か付け加えていただければ。

橋本 この報告会もコロナ禍でウェビナー開催になっているわけですけど、この騒動が早く終わって欲しいなというふうに思いつつ、その時にはたぶん、2019年とはまったく違う音楽シーンができていると思うんです。それに合わせて現代音楽というものがどう変わっていくか、当然変わらざるをえないと思うんですが、そこでどんなことができるのか。「こうしなきゃいけない」というんじゃなく「こうすると面白いよね」ってことがもっとたくさん出てくるはずなので、それをうまくキャッチして自分たちの活動に生かせるといいなと思っています。

黒田 アーカイブもしっかりできましたし、オンラインでのコミュニケーションも増えてきました。バージニア大学と新作をつくる時にも、アーカイブの過去のデータがすごく役に立っています。そして東京現音計画も10年経って、特に説明をしなくても「私は東京現音計画のピアノなんです」と言えるようになりました。ですから、むしろ東京現音計画で挑戦できることはこれからたくさんあると思います。

橋本 ちょっと夢のある話もすると、最近は現代音楽の分野でも、若い方で精力的に活動されている方、小さいアンサンブルも増えてきていますから、僕としてはフェスをやりたいなと思っていまして。ぜひその企画にもお力添えをいただきたいです。

有馬 2デイズくらいの現代音楽フェスね。

橋本 それが僕の夢です。

−東京現音計画の皆さんのことですから、これまでのフェスとも違うものをイメージされているのかもしれません。どんなものなのか、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

橋本 これは本当に、今初めてお話しすることなんですが、現代音楽と一口に言っても、いろいろなアンサンブル、演奏会を聞きにいくと、この演奏家がやっているところにはこのお客さんみたいな感じで、そこにいるお客さんの層がものすごく分割されているなという印象があるんです。現代音楽はもっと一般に開かれるべきだとよく言われますけど、それ以前に、たとえばブーレーズは聴くけどライヒは聴かないとか、タン・ドゥンは好きだけど、クセナキスは嫌いだとか、そういうふうにお客さんが分かれてしまっている。それでいて日本の中でどういう団体がどういう活動をしているのかを俯瞰する機会もないですから、何かしら行ってみるといろいろな音楽があって、いろいろな人が来ているなというふうに、交わるところがあるといいですね。今、東京芸術劇場で藤倉大さんがやっている「ボンクリ・フェス」も、そういう意味で面白い試みだなと思っていますけど、もう少し違ったかたちで何かできるんじゃないかとうっすら思っています。

有馬 グループですから、こういうアイデアを聞くと、「じゃあ、ちょっと違うジャンルの人を入れてみようか」とか「現代音楽DJをいれようよ」と、どんどん遠慮なく意見が出てきて、企画が膨らんでいきます。それも現音計画ならではだと思います。今日は、一人ひとりが順番に丁寧にしゃべってますけど(笑)、普段なら、言いたいことが山のようにあって収拾がつかないというのがわれわれのスタイルですし、そこに生まれる相互作用は大事にしていきたいと思っています。

(構成・文:鈴木理映子)


東京現音計画 Tokyo Gen’On Project
現代音楽の第一線で活動する演奏家によるアンサンブルとして2012年に結成。日本初演曲を中心としたプログラム、ユニークな編成の委嘱、若手演奏家/作曲家/スタッフへのワークショップなど演奏家サイドから新たな視点を提案していく。現在のメンバーは有馬純寿(エレクトロニクス)、大石将紀(サクソフォン)、神田佳子(打楽器)、黒田亜樹(ピアノ)、橋本晋哉(チューバ)の5名。第13回(2013年度)佐治敬三賞受賞。
 
有馬純寿(エレクトロニクス)
エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、現代音楽、即興演奏などジャンルを横断する活動を展開。国内外の主要な現代音楽祭に参加し、数多くの演奏会で音響技術や演奏を手がけ高い評価を得ている。芸術選奨文部科学大臣新人賞。東京シンフォニエッタ、東京現音計画のメンバーとして、また秋吉台国際芸術村「ペルセポリス」ソリストとしてサントリー芸術財団佐治敬三賞受賞。帝塚山学院大学リベラルアーツ学科准教授、東京音楽大学大学院特任教授、京都市立芸術大学非常勤講師。

黒田亜樹(ピアノ)
東京芸術大学卒業、伊ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。フランス音楽コンクール第1位。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞。現代音楽演奏コンクール優勝、朝日現代音楽賞。 ビクター『タンゴ2000』『タルカス&展覧会の絵』、伊LIMENレーベル『ブルグミュラーエチュード全曲集』DVDなど録音多数。サルデーニャのSpazio Musica現代音楽祭、シチリアのエトネ音楽祭などイタリアを中心に活動。作曲家の指名により録音した『Piano Collections FINAL FANTASY』等によっても親しまれている。2014年『火の鳥〜20世紀ピアノ編曲集』を伊オドラデクよりリリース、英BBC ミュージックマガジンにて五つ星、レコード芸術誌にて特選盤。
http://www.kuroaki.net/

橋本晋哉(チューバ)
チューバ、セルパン(16世紀フランス由来の古楽器)奏者。サントリー芸術財団サマーフェスティバル(2008、2010)、コンポージアム(2009)、ヒロシマハッピーニューイヤー(2015)、「秋吉台の夏」現代音楽セミナー、東京オペラシティ文化財団「B→C」、NHK-FM「名曲リサイタル」などにソリストとして出演。洗足学園音楽大学講師。「東京現音計画」「低音デュオ」「東京セルパン・トリオ」のユニットで活動。
http://shinyahashimoto.net/

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