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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/06/10

第13回「東京現音計画 コンサート、アーカイブ 〈ミュージシャン、クリティック、コンポーザー〉の3つの視点によるコンサート企画とレパートリー・データベース(映像)の公開プロジェクト」(前編)

開催時期:2022年2月17日(木)19:00~21:00
開催場所:アーツカウンシル東京(Zoom配信)
報告団体名:東京現音計画
対象事業:東京現音計画コンサート、アーカイブ(平成28年度採択事業:2年間)
登壇者[報告者]
有馬純寿(東京現音計画メンバー、エレクトロニクス)
黒田亜樹(東京現音計画メンバー、ピアノ)
橋本晋哉(東京現音計画メンバー、チューバ)
司会:玉虫美香子(アーツカウンシル東京 助成課長)
※事業ぺージはこちら


東京現音計画による長期助成プロジェクトでは、2012年結成以来の舞台記録映像を公開する〈レパートリー・データベース〉プロジェクト、そして、コンサート企画に〈ミュージシャン、クリティック、コンポーザー〉の3つの視点を持ち込むセレクション・シリーズ公演が、以下のとおり実施されました。

  1. 2016年7月14日 東京現音計画#07
    ~クリティックズセレクション1:沼野雄司
  2. 2016年12月19日 東京現音計画#08
    ~ミュージシャンズセレクション3:橋本晋哉
  3. 2018年1月31日 東京現音計画#09
    ~コンポーザーズセレクション4:近藤譲
  4. 助成期間中順次公開 レパートリーデータベース・プロジェクト
    2012年結成以来、2016年までの舞台映像から31作品を団体ウェブサイトで公開。東京現音計画委嘱の日本人作曲家作品や、楽譜だけでは解読困難な特殊奏法の手引きとして、国内だけでなく海外からの参照にも応える。

第一部 報告会レポート

2016年から2年間にわたり、東京芸術文化創造発信助成(長期助成プログラム)の支援を受けて実施された現代音楽アンサンブル、東京現音計画のコンサートシリーズとレパートリー・データベースの構築。その活動報告からは、楽しみながらも現代音楽シーンを刺激し更新していく、アグレッシブな姿勢が伝わってきました。

今年結成10年を迎える現代音楽のアンサンブル、東京現音計画は、ピアノと打楽器、サクソフォン、チューバ、エレクトロニクスというユニークな編成、かつスペシャリストが集うコレクティブならではの幅広い活動で知られている。彼らのコンサートは、プロデューサー、作曲家など、立場の異なるプロフェッショナルにプログラミングを委嘱し、シリーズ化したもので、この日の報告会では、評論家に選曲を委嘱する「クリティックズセレクション」、東京現音計画のメンバーが持ち回りで企画する「ミュージシャンズセレクション」、作曲家に企画構成を委嘱する「コンポーザーズセレクション」の公演内容やその成果、また現在も公開されているレパートリー・データベースの概要が紹介された。

異なるパースペクティブ=セレクションが誘う発見、展開

「コンポーザーズセレクション」「ミュージシャンズセレクション」は、それ以前にも東京芸術文化創造発信助成の単年助成を受けつつ開催していたが、2016年度からあらたに長期助成のもとでスタートしたのが「クリティックズセレクション」。この企画は、評論家や研究者といった演奏家とは別の視点を持つ専門家からの現代音楽シーンへの投げかけ、提案の場としてつくられたもので、2016年7月に行われた第1回では音楽評論家の沼野雄司が「新たな抵抗に向けて」とのテーマでセレクションを担当した。一部紹介された映像は、スティーブ・ライヒの『振り子の音楽』(1968)。吊り下げられた複数のマイクが床に設置されたスピーカーの近くを通るハウリング音から構成される実験的な作品だ。「タイトルや音自体は耳にすることはあるけど、実際に観たことはないという人が多い作品だと思います。大掛かりな装置が必要になるので、なかなかコンサートでは観られないのではないか」(有馬)。併せて紹介された、コンサート当日の沼野のスピーチによれば、テーマに含まれた「新たな」の意味は「ニュー」ではなく「アナザー」だという。「普通は抵抗だとか政治性というと、権力に対してのものだと考えると思います。つまり、自身の政治的なポリシーを明確に述べている作曲家やなんらかの形でそれを意識しなければいけない環境に育った作曲家ということですね。でもここではもっと『シンプルな作品』であることを意識しました。たとえば『振り子の音楽』では、すべてが目に見えているわけですから、何が成功して何が成功していないのか、みなさんがそれを見て、いろいろな反応をすることができる。くだらないと思う人もいれば、素晴らしいと思う人もいるかもしれない。そういう反応を引き出すことができるのが、ある種の政治性、社会性を持った作品というふうに、私は考えるわけです」(沼野)

続いて同年12月に開催されたのは、メンバーの橋本晋哉(チューバ)による「ミュージシャンズセレクション」。「低音から仰ぎ見る現代室内楽の系譜とチューバ0~5重奏」というコンセプトは、批評家や作曲家に選曲委嘱する公演に比べて予算配分が軽めという制約があるなか、既存の曲も活用しながら編み出された。「チューバはマイナーな楽器ですので、そもそもなかなかレパートリーもないんです。ソロやデュオの曲はまだありますから、その間を埋める形で、三重奏を田中(吉史)さんに、五重奏を坂東(祐大)さんに依頼しました。それで1、2、3、4、5までそろったところで、有馬さんから、ついでに演奏者がいない形の、つまり私の録音を素材として使った曲をつくるのはどうかという提案がありました。まったく誰もいない零奏から五重奏までというような形をつくることによって、チューバという、アンサンブルの中でもずっとバスをやっている楽器が、どういうふうな変遷でどんな役割が果たせるかを伝えようということになりました。」(橋本)

2018年1月には「コンポーザーズセレクション」として、作曲家の近藤譲のディレクションによるコンサートも開催。近藤による『灌木』(2000)と新曲『序詩』(2018)を含む全5曲が演奏された。「作曲家の方によるディレクションについては、なるべく幅広く、個性の異なる方々にお願いしています。近藤先生の回に関しては、かなり早い段階で『これをやります』と言っていただきました。これは近藤先生に限ったことではないですが、われわれのように偏った編成での演奏会にどういった曲を選ぶかは、その方がご自身の曲以外をどう捉えているか、その一端を伝えてくれる面があり、それもこのセレクションの面白さだと思います」(橋本)

なお、長期助成の期間に行われた演奏会はこの3本だったが、3つのセレクションは以後も続けられており、この報告会では2019年7月の「ミュージシャンズセレクション vol.12 黒田亜樹with フランチェスコ・ディロン」の模様についても紹介があった。この回はメンバーの黒田とイタリアのチェロ奏者、フランチェスコ・ディロンの共同プロデュースによるもの。ディロンと、ゲストとして参加したヴァイオリンのアルド・カンパニャーリは、クラシックのアンサンブル、クァルテット・プロメテオのメンバーで、現代音楽の分野でもキャリアがあり、黒田とのピアノトリオにも参加するなど、旧知の間柄だった。「私はライブハウス的な、ロックとか、ワールドミュージックの分野でも活動してきたので、その要素を東京現音計画に持ち込みたいなと思いました。フランチェスコ・ディロンもまた、スカラ座で演奏していたかと思うと、アンダーグラウンドのDJと即興ライブをやったり、ロックのライブをやったりしているので、彼と相談して、現代音楽と、そこから少しポップに持っていけるようなプログラムを考えました」(黒田)。身体の身振りを含むシモン・ルフラーやシモン・ステン=アナーセンの楽曲やキース・エマーソンの『タルカス』を黒田とマウリツィオ・ピサーティが現代音楽版にした『ゾーン=タルカス』を含む演奏会は、ロックやポップスのファンも集うなど、幅広い層からの注目を集めた。「東京現音計画の活動と国際交流をまとめてひとつの形にできたことは私にとってもターニングポイントとなりました。自分自身、あらためて、これからも拠点であるイタリアと日本をまたにかけつつやっていこうと思えましたし、東京現音計画の活動の幅を広げることにつながったとも思います」(黒田)

「ないなら作ってしまおう」データベース・プロジェクト

コンサートを通じ、多彩な試みを進める一方で、長期助成申請のもう一つの柱とされた「レパートリー・データベース・プロジェクト」も着実に進行、2018年5月には、これまでの東京現音計画の演奏動画を撮影、アーカイブし、公開するウェブサイトが立ち上げられ、現在も稼働している。「ヨーロッパはどこでもそうだと思いますが、たとえばフィンランドには、フィニッシュ・ミュージック・センターという組織があって、そこのウェブサイトにはフィンランドの作曲家のデータベースがあって、それが非常に充実しているんです。作曲家はもちろん、編成によっても検索やリサーチができるようになっている。残念ながら、日本では、サントリー音楽財団(注:現・サントリー芸術財団)が『日本の作曲家の作品』という冊子をまとめていた時期もあったんですけど、そういった情報が掴みづらい状況がずっとあったと思います。われわれもよく海外から『日本の曲で面白いものがないか』と聞かれたりするんですが、なかなかそれに応えることができていませんでした。だったら、これは自分たちでいちど雛形をつくって、どういうふうに立ち上げ、運用できるかということを考え、アーツカウンシルさんに提案することにしました。もちろんそれも、われわれが個人でできない話ではない。ただ、立ち上げにはある程度の資金とエンジニアなどの人材が必要でしたから、そこにお力添えをいただき、今、かなり充実したデータベースを提供することができています」(橋本)
これまでにもそれぞれの団体が演奏の映像記録を残すことはあったし、コロナ禍でコンサートの配信も盛んに行われるようになった。だが、すべての記録を動画で無料公開し、タイトルはもちろん、作曲家や編成による検索も可能とするこのデータベースは、独立した演奏団体によるものでは類例がないものと言っていいだろう。実際、アクセス元は国内外を問わず、他団体の演奏活動の重要な資料としても活用されているという。「われわれのアンサンブルは編成が特殊ですから、世界中の団体の楽曲探しの一助にもなっています。実際に、海外のアンサンブルから『この映像を見たんだけど、自分たちでも演奏できるか』と坂東さんに問合せがあったりもしたそうです」(橋本)

こうして2年にわたる東京現音計画の活動を俯瞰してみると、その挑戦、実験性が、マニアックな探求に終わらず、むしろ活動の領域を広げ、開く方向へと向かっていることに気がつかされる。作曲家、評論家をも巻き込んだ公演活動、自らの構築したアーカイブを世界に開くデータベースは、いずれも現代音楽シーン全体を刺激し、活性化するもの。単なる演奏家に止まらない、現代音楽の「活動家」としての報告は、エッジィでありつつ、未来に向けた広がりを感じさせるものだった。

(構成・文:鈴木理映子)

第13回「東京現音計画 コンサート、アーカイブ 〈ミュージシャン、クリティック、コンポーザー〉の3つの視点によるコンサート企画とレパートリー・データベース(映像)の公開プロジェクト」(後編)に続く

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