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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2022/07/01

芸術文化と社会を読み解き、活動を続ける力をつける──『キャパシティビルディング講座』『会計・税務講座』とは

「芸術活動を続けていくには?」「これから芸術文化の環境を変えていくには?」との切実な問いの解決を後押しするプログラムとして、人材育成事業・アーツアカデミー2022では、芸術文化創造活動の担い手に向けた2つの講座を7月より開催します。

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座』では、社会と芸術文化の関係性を広い視野で捉えながら、活動基盤、推進力、思考力などを多面的に磨きます。『芸術文化創造活動の担い手のための会計・税務講座』では“おかね”にまつわる基礎知識や持続的な団体運営や事業運営のヒントなどを、芸術文化の視点から学んでいきます。

両プログラムを担当する今野真理子さんにお話を伺うと「アートマネージメント講座としてノウハウを学ぶというよりは、もっと本質的なことと向き合う講座を目指しています。これからの社会と芸術文化を考え、また、“おかね”への苦手意識を少しでも軽減し、活動の発展のためのヒントを提供することによって、様々な創造の担い手がこれから活躍する後押しをしたい。本気で創造の現場を良くしたい!という明確な思いを持っている人にぜひ参加してほしいです」と期待を込めます。

キャパシティビルディング講座──創造を続けていくために

今年度はテーマを「非営利の芸術文化創造とは何か?」とし、社会と芸術文化の関係について考えるほか、受講生の個別の課題について解決の糸口を探っていきます。16人ほどの少人数で半年をかけて受講する体制で、これまでに東京を中心に群馬、新潟、愛知など地方の方々からの参加もありました。また、これまで演劇・映画・美術のアーティストや制作者、キュレーター、公共文化施設に勤める方、文化系メディアで広報をする方などが集まりました。



過去の講座の様子

このキャパシティビルディング講座は2018年度から始まった人材育成事業で、芸術文化についての様々な取り組みをおこなうアーツカウンシル東京のなかでも助成事業を担当する部署が企画しています。
「助成金を得ても、活動を維持したり発展させていくなかで行き詰まったり、なかなかスキルアップしなかったりするという採択事業者側の悩みが聞こえていました。ならば資金面の支援だけでは届かないところをサポートしようというのが始まりです。助成金に依存せずに、ほかの資金調達方法や、理解者や支援してくれる仲間を増やすために「自分達の活動は~」と相手に届く言葉を獲得していく。また、社会における芸術文化の位置や自身の活動の役割も多面的に捉える。そうやって、自分達で活動を発展させていくための視点を相対的に学び、活動の基盤を固める場を作ろうと思いました。そういう機会はあまり芸術文化の分野では少なかったのではないでしょうか」(今野)

これまでの講座では、「助成金がないと文化は成立しないのか?」といった問いの答えを探るような回や、社会のなかで自分たちの活動がどういう意味を持つかを考える回、活動を実行し目標を達成するために必要な『評価』を学ぶ回など、社会と芸術文化を俯瞰して捉えられる体系的なプログラムを組み立てています。

行動を起こした受講生たち

これまでの受講生には、様々な方法で自身の問題意識や目標を実行していく人達がいました。


ART JOB FAIRメインビジュアル

2021年度の受講生である高山健太郎さんは、講座がきっかけで事業を立ち上げました。ほかの受講生達と話すうちに、芸術文化の現場では「いい人材に出会えない」「任期があって継続的なキャリア形成ができない」など、働き方や就労にいろんな課題があることに気づいたそうです。ならばアート業界に特化した様々な働き方や人と出会える場を作ろうと「ART JOB FAIR(アートジョブフェア)」を企画しました。そのための資金は、講座での学びを活かしてクラウドファンディングを実施し、250万円以上を集めました。

2018年度受講の藤原佳奈さんもまた、講座期間中に当時主宰していた演劇創作ユニットmizhenの企画のためのクラウドファンディングを実施することを決め、様々な人の協力を得て立ち上げて成功しました。“創客”を課題に掲げ、「ビジョン/ミッションの設定」「ファンドレイジング」「社会とのつながり」についての学びを経て「どうやって自分達のメッセージを発信すればいいかわかった!」と目の前が開けたそうです。

また、2019年度受講の細川洋平さん(演劇カンパニーほろびて主宰)は「小さなカンパニーが孤立しないためには」という課題を抱えていました。講座内の個別相談でアドバイスを受け、広報・宣伝活動について整理をしたことで、現在では批評家や演劇ジャーナリストの注目を集めて活動の場が大きく広がっています。また、資金計画の立て方を見つめたことにより、助成金について漠然と感じていた依存的な印象が無くなり、自身の選択によって活用するようになりました。

今野さんは「ちょっとずつ自信がついたり、抽象的だった問題意識を明確にし、具体的な方策や自分自身の変化に繋がることができたという受講生はすごく多いです。講座からの学びだけでなく、受講生同士が少人数でお互いの意見や考えを語り合うなかで、吸収しあっている。そこでの繋がりが次の活動に結びついたりと、ネットワークができていくことも私達としてはとても嬉しいです」と振り返ります。

今年のテーマは『非営利の創造とはなにか』

コロナ禍になり、芸術文化もまた大打撃を受けました。活動を続けていくことが大変だという声があがるなか『創造し続けていくために』というコピーを2020年から掲げています。さらに今年度は、“非営利”であることに焦点をあてました。
「近年、文化行政においても芸術文化の社会的・経済的価値に対する注目が高まっています。でも実際には多様な創造があって、経済的な価値基準では測れないようないろんな芸術のいとなみがある。とくに非営利の活動の人たちが収益力を問われた時に、営利的な面だけに捉われず、「自分達の活動はこういうものです」と自信をもって伝えられる言葉を編み出していける場にしたい。自分達の活動の価値を、誰にどうやってきちんと伝えていけるのか……そのための思考を皆で深めていきたいです」(今野)

そのために新しいプログラムとして『コミュニティづくり』と『文化権』を講座に取り入れることにしました。コミュニティづくりでは、創発的な場づくりから社会と芸術の関係性を考えます。文化権では、文化や芸術の本質的な価値や理論的背景を学ぶ予定です。
講座の最後には、各自がレポートをまとめます。自分の思考を言葉にすることで理解者・協力者を得るための武器になったり、自分達の活動が明確になり自信がつくことも、活動の基盤として大きな推進力となります。


2022年度のプログラム一覧

“おかね”のイロハを知る、『会計・税務講座』

アーツアカデミー2022のもう一つの企画『会計・税務講座』はオンラインで開催します。去年は、アーティストや制作者などの個人で「そもそも青色と白色の違いがよくわかりません」という方から、芸術団体を運営していて「税金についてちゃんと勉強したい」という方まで、のべ700名弱が受講しました。

芸術団体や文化事業にむけた会計・税務の基礎から、ほぼすべての人に影響する新制度である「インボイス制度」と「電子帳簿保存法」についても特集企画を設けます。さらに、「源泉徴収とは」や「助成金は収入にいれていいんですか?」など頻発する質問のなかからいくつか取り上げて解説する“撮り下ろし入門動画”を作成し、年度末までアーカイブ公開する予定です。

「皆さんがお金のことで行き詰まって、コンプレックスになって活動に支障がでてしまってはもったいない。苦手意識の克服やさらなる活動の発展の助けになるといいなと思って講座を企画しています。キャパシティビルディング講座で活動を明確化した受講生も、会計・税務実務で足踏みしてしまわないように、どんどん活用してほしいです」(今野)

前年の会計・税務講座で寄せられたたくさんの質問をベースにしたQ&A集も2023年2月頃に公開します。手元に置いておきたい1冊として活用いただけるハンドブックになる予定です。

基盤づくりと、実際の運用を連動させていく

芸術文化を支えるための講座は様々な機関で実施されていますが、アーツカウンシル東京のように芸術文化についての支援を幅広くおこなう組織が受け皿になることで、ほかのサポートと連動し、より具体的な後押しを実現することができます。
今野さんは「ただ学びたいだけではなく、得たことを持ち帰って、芸術文化の未来を発展させたい、変化させたいという強い思いがある人に、実践していく力をつけていただきたい。やる気と本気度が高い人達がこれからの芸術文化を担っていくのだと期待しています」と、多角的に芸術文化活動を後押しするプログラムを目指しています。

取材・文:河野桃子


アーツアカデミー2022

現在、2022年度の受講生を募集中です!

  • 芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座
    申込締切:2022年7月8日(金)17:00
    イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/53167/
  • 芸術文化創造活動の担い手のための会計・税務講座
    任意団体(法人化検討団体含む)編:2022年7月15日(金)
    一般社団法人編:2022年7月26日(火)
    特定非営利活動法人(NPO法人)編:2022年8月5日(金)
    個人編:2022年9月15日(木)
    営利法人(株式会社、合同会社)編:2022年10月17日(月)
    特別企画(電子帳簿保存法&インボイス制度)編:2022年11月15日(火)
    イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/53197/

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