ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2022/10/14

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2022レポート:創造的なコミュニティづくりとは?坂倉杏介さんによる第4回講座:芸術文化の領域横断は何をもたらすか

「創造的な出会いはどのようにして可能だろうか?」。この問いについて考えるのが、コミュニティマネジメントを専門にする坂倉杏介(さかくら・きょうすけ)さんによる第4回目の講座「芸術文化の領域横断は何をもたらすか?~越境が生み出す創造的な連携・協働」です。
領域を越えた多様なつながりからは新しい何かが創造されます。そのような創発的な連携・協働が生まれる場やコミュニティは、どのように作りうるのでしょうか。坂倉さんは「先に言うと、僕もその問いの答えは持ち合わせていません」と言います。答えを持ち、ビジョンやミッションを固めてきちんとやりすぎることで台無しになってしまうこともある。「関わる人々がそれぞれの領域における専門性や習慣を手放し、偶然や個々の意志にまかせることも必要になります」という坂倉さんのお話は、第1・2回の講座で学んだ「文化芸術の領域ではあらかじめ方法論やゴールは見えていないことが多い」という『価値創造』型に通じるものがあります。

講師の坂倉杏介さん

きちんと決めすぎないことを大事にする坂倉さんは、何度も「“ゆるふわ”の価値」を口にします。「ゆる」は、開かれていて多様性があり、違いを超えて共にあること。「ふわ」は、まだ見えていない価値を模索し、未来を志向すること。つまり、すでに存在する型に合わせるのではなく、一人ひとりが持ち味を発揮して望む未来を実践していくことで創造されるものがある。「いろんな人と、まだ無いものを考えていこうとすると“ゆるふわ”になるはず。現代の病理は『認識』と『関係性』の固定化である、という言葉がありますが、この『認識』と『関係性』をゆるめていくのが“ゆるふわ”なんじゃないかな」と坂倉さんは言います。

地域コミュニティ「おやまちプロジェクト」から見る創造性

坂倉さんはコミュニティマネジメントを専門としており、生き心地のよい地域を共に作る研究をしています。様々なプロジェクトを全国各地で行うなかで、実体験として「いろんな人が集まっていろいろ話をしていると、気づけば何かをやっていたり、結果的に何かが起こることがある。そのような創発的なプログラムはどうやってできるんだろう?」と考えながらコミュニティデザインを手掛けています。

どうしたら創発的な場/コミュニティを作ることができるのだろう?

近年、社会は分断化が進んでいると言われています。そこで求められているのは個の満足の追及ではなく、いかに分かち合うかということなのではないでしょうか。シェアする社会における文化事業・文化施設の意義とは何なのかを、坂倉さんが携わっている具体的なプロジェクトを例に考えていきます。

分断化社会において重要なのは、分かち合い・協働・関わりではないでしょうか

取り上げるのは、東京都世田谷区尾山台で生まれた「おやまちプロジェクト」です。尾山台の商店街と、坂倉さんの勤める東京都市大学が出会ったことをきっかけに、住民、学校、商店、まちを訪れた人などがつながり様々な動きが生まれていきました。

たとえば、尾山台商店街は毎日16~18時が歩行者天国です。かつては井戸端会議や子どもの遊び場でしたが、最近の小学生は道路で遊ばないこともあり「もったいない!ここでゼミをやろう」と2017年に路上で大学のゼミを始めたことが小さな一歩でした。

通りがかりの方が何人も立ち止まっていきました

路上ゼミをきっかけに、坂倉さんは商店街の図書館前でレクチャーをすることに。『30年後、このまちでどう暮らしていたい?』というテーマに、近所の主婦から「とてもよかった!商店街のことはよくわからないけれど、まちのことなら私自身の問いだと思った」という声があったそうです。また、地域の小学校校長や商店街の理事ら専門分野の異なる4人が発起人となりイベントを行うと、小学生と親御さんや大学生など4人それぞれのつながりから多様な人々が集まり「まちをこんなふうにしてみよう!」とたくさんのアイデアが集まりました。たとえば、学生が企画したホコ天プロジェクトでは、歩行者天国にテントを張りました。すると人が集まってきて、おしゃべりをしているうちに「スナックがやりたい!」とアイデアが広がり、その後『BARおやまち』がオープンすることになります。



まちなかで次々に予期せぬプロジェクトが生まれ続けています

さらには、バーに来た人達の間で「ずっと子ども食堂がやりたかったんです」「管理栄養士の資格ありますよ」という会話から生まれたつながりにより、翌月には『おやまちカレー食堂』という子ども食堂がオープンしました。素材となる野菜は、近くの農家から仕入れた形の整っていないものを使っています。また、空き店舗を2ヶ月間借りてオープンしてみるというプロジェクトを始めてみると、そこに集まった人達が、ボードゲームナイトというイベントをしたり、「将来パン屋になりたい」という主婦が手作りのパンを販売したりと、日々何かが創造され続けていました。結局、4人でスタートしたプロジェクトから様々なイベントが生まれ続け、3年で参加者数のべ6,238人となりました。専門がバラバラだった4人を介して知り合わないはずの人が知り合い、口コミで広がり続け、関心がなさそうな層や地域外の人達も足を運ぶようになったのです。さらには、困りごとを抱えていた地域内の病院や企業などの法人から「一緒に何かできませんか?」と声がかかるようになりました。
この状況について坂倉さんは「ルーティンをしていたら生まれないことが生まれる。出会えない人に出会える。思ってもみないことが起きる。創造的な「誤作動(エラー)」が起きると、創造的な出会いが生まれるんです」と言います。
以降、「いろんな専門知識では解決できない問いをまちの中で一緒に考えていくことが大事なのでは」と考え、商店街の中に人が集まれるスペースをリノベーションすることにしました。その場所作りには、「どんな場所にしたいか?」まちのキーパーソンにヒアリングした内容を反映したり、皆で内装作業をしたり、試しにカフェなどの企画を実施したりしていきます。そして、様々な人がいろんなアイデアを持ち寄ったことで、スペースができた時にはすでに良い感じの「コミュニティ」が存在していたのです。
坂倉さんは“ゆるふわ”に加えてもうひとつ、“わくわく”というキーワードを大切にします。自分がアイデアを出したり関わることで、「自分の問題だ・自分の場所だ」という実感ができ、創造的なことがいくつも生まれていったのでしょう。そういった創造的な出会いを生むためには、自分の場所や専門的な固定観念を離れて、外へ飛び出すこと。それが“越境”であり、「こんなことがやりたい」ではなく「こんなことがやりたいのでどうすればいいですか?」と自らに変化する準備があることで、予期しなかった出会いのマッチングが起こる可能性があるのです。

何人もの受講生から質問があがります

こうして坂倉さんが自身の考えをシェアしてくれたことを受け、講座の受講生からは質問があがります。「コミュニティを作って継続していくには具体的にどう情報伝達をすればいいのか?」という質問には、正直に「絶賛悩み中」と回答。「今のところは自然に情報が行きわたっているけれど、イベントのお知らせが届けたい人に届かないこともある。地道にやっていかないと、かな」と、坂倉さんは答えやゴールを示すのではなく一緒に考える、あるいは本人に考えさせます。だからこそ、各々が自分事として関わっていき、「おやまちプロジェクト」が広がっていったのでしょう。

受講生からの「連携・協働のお悩み相談」

講座の後半は、受講生の個々の活動にフォーカスしていきます。受講生から事前に提出された『お悩み相談』に、坂倉さんとファシリテーターの小川智紀(おがわ・とものり)さんが返答していきます。例えば「今の活動のスポンサーの方々にもっとコミットしてもらえたら」や「業界内の序列に悩んでいる」という声には、「関係性の固定化は苦しみだけど、相手を変えるんじゃなくて、自分がわくわくできるように変わっていけば物事は動いていくんじゃないかな」「動かせない序列はそのままに付き合うのは大事。そのうえで、その人が動けば動くというキーマンを見つけて関係を積み重ねていくといい。小さなところからしかイノベーションは起こせないから」と坂倉さん。小川さんも「自分がわくわくすることを求めたら、どこかで「私もやりたい」という人と出会えるかも。『おやまちカレー食堂』みたいに!」と期待を声ににじませます。自ら変化していくことで創造的なマッチングが起こる可能性があるという、今回の講座テーマに通じる話です。

受講生の悩みに率直に思いを話す坂倉さんと小川さん

他の受講生からは「悩みがあったけれど、今日の講座を聞いていくなかですっきりしてきました」という声もありました。ファシリテーターの若林朋子(わかばやし・ともこ)さんも「今日のお話の中で答えをいただいているような気がしました。自然に人が集まるためには『協働』『連携』という名前をつけないことが大事なのかもしれません。それが“ゆる”で“ふわ”なことなんですね」と頷きます。最後に坂倉さんから「今の若林さんの言葉がすべてですね。協働や連携という場合もあるけれど、どちらかというと『手伝ってもらう』という感覚の場合が多い。そうではなく、自分達だけではできない形を創造していくために他の人達と一緒にやるということなので、自分達の考えや形を変えていくことは絶対に必要です。自分の場所から外に出るのは難しいし怖いけれど、出ちゃえばなんとかなりますから、恐れずに踏み越えていってほしいです」とエールを送りました。

講座終了後に30分ほど部屋を開放すると、坂倉さんや受講生同士の話が盛り上がりました。内に溜まった思いを発し合うことで、この講座でもまた何か創造的な出会いが生まれるかもしれません。

次回の講座は早くも第5回です。「思考の整理・課題の抽出・設定」として、ファシリテーターの小川さんと若林さんのもと、これまでの講義をふまえ、思考を整理し、課題の抽出と解決の糸口をあらためて探っていきます。受講生同士のディスカッションや相互フィードバックもあり、共に学ぶ仲間達と現在地を確かめつつ前に進む時間となりそうです。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
坂倉杏介(さかくら・きょうすけ)

東京都市大学都市生活学部 准教授。博士(政策・メディア)。専門はコミュニティマネジメント。三田の家 LLP 代表、NPO 法人エイブルアートジャパン理事ほか。多様な主体の相互作用によってつながりと活動が生まれる「協働プラットフォーム」という視点から、ウェルビーイングとイノベーションを生み出すコミュニティ形成手法を実践的に研究する。多様な人々がそれぞれの持ち味を発揮したプロジェクトを各地で実践している。

執筆:河野桃子
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

最近の更新記事

月別アーカイブ

2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012