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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2023/02/22

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2022レポート:第8回:課題解決/価値創造戦略レポートの最終発表会

ついに2022年度キャパシティビルディング講座の最終講座です。実に3年ぶりの実地開催による受講生の皆さんによるレポートの最終発表会が、1月16日に開催されました。16名の受講生の中には講座期間中に環境が変わり、パリからオンラインでの参加になった方もいます。また、芸術文化関係者、過去のキャパシティビルディング講座修了生やアーツカウンシル東京職員などオンライン含め25名の聴講者に見守られながら、受講生それぞれの課題解決/価値創造戦略レポートについてのプレゼンテーションが始まります。

休憩を挟みながら、3時間を超える発表会が行われます

事前に共有された各自のレポートをもとに、1人につき5分間の発表を行います。それに対してファシリテーター/アドバイザーの小川智紀(おがわ とものり)さんと若林朋子(わかばやし ともこ)さんから5分間のフィードバックがあります。

この日、発表した受講生の戦略レポートのタイトルは以下のとおりです(発表順/発表時点)。

  • 望月花妃さん(劇団「⼈間の条件」/ウェブ版『美術⼿帖』/多摩美術⼤学芸術学科/東京⼤学情報学環教育部/プロジェクトfemco.)『可能性を尊重できる社会と芸術のために未来に向けて若⼿の私が考える2つの⽅策』
  • 山田心さん(認定NPO法人芸術と遊び創造協会 法⼈部部長)『東京を三味線が響く街に… “遊び”としての和⽂化推進プロジェクト』
  • 石井裕太さん((株)電通PRコンサルティング サステナブル・トランスフォーメーションセンター 部⻑)『100年後も「選ばれ続ける劇場」をともにうみだす。~富⼭市芸術⽂化ホールの取り組みを事例に』
  • 荻山恭規さん(公益財団法⼈⼋王⼦市学園都市⽂化ふれあい財団 芸術⽂化振興課 主事 演劇事業担当)『演劇を続けたい⼈が各々の演劇の続け⽅を試す環境をつくるために、何故あんなに演劇が好きだったあの⼈が演劇を続けないことにしたのかを考える』
  • 長谷川結さん(システムエンジニア/書展検索サイト「墨客ぽっけ」管理者)『「絶対うまくいかないよ」と言われてからがスタートです!』
  • 吉岡律子さん(ritsuto design合同会社 代表/アートディレクター/グラフィックデザイナー/アーティスト)『『1つだけ美術館』をソーシャル美術館にするために -認知の輪を広げる計画書として-』
  • 石松豊さん(フリーランス ディレクター/Gerbera Music Agency ブランドソリューション 事業部長)『“非営利DIY音楽イベント”を継続していくための思考と戦略』
  • 今野誠二郎さん(アーティストランレジデンス「F / Actory」代表 ⼭梨県富⼠河⼝湖町に新拠点を準備中)『「ひとつの場所・集まりをつくることだけでは充分でない」アーティスト・ラン・レジデンス「6okken」について。』
  • 喜羽美帆さん(箏演奏家/東京都⽴晴海総合⾼等学校特別講師/株式会社⾳⽻クリエイティブ代表取締役)『「届け!のコトの音“ことどけ”」~箏の音に触れる機会をたくさんの人に届けたい~』
  • 式地香織さん(コドモチョウナイカイ事務局 代表)『コドモチョウナイカイからCOドモチョウナイカイへ 成長や自己実現をたすけあうコミュニティを目指して』
  • 土山里菜さん(STAND Still東京 役員/STAND Still 代表)『知るということ』
  • 島田真吾さん(合同会社きゅうり 代表社員/countroomメンバー/個⼈、任意団体及び法⼈の経理業務・助成⾦申請業務を⾏っている)『「経理版ジムジム会」を開催し、リアルなアートプロジェクトの経理のもやもやを共有・解決~事務局による経理のためのジムのような勉強会~』
  • 井上遼さん(独⽴⾏政法⼈国際交流基⾦(パリ⽇本⽂化会館))『「映画館」の国際文化交流に向けて』

※大貫はなこさん、中村みなみさん、佃直哉さんは欠席

課題解決/価値創造戦略レポートと、具体的なフィードバック

今年度の受講生は、自身の活動が抱える課題や目標に向かってすでに取り組みを実践されている方も多く、講座と並行しながら学んだことを取り入れていくプロセスが見えたことも印象的でした。

各自が図や写真を配したスライドを使いながら発表しています

自治体設置の文化財団で働く荻山さんは、第3回の講座でロジックモデルを作った時に、自分の抱える「演劇を続けたいのに辞めてしまう人がいる」という課題が、「演劇から人が離れることが寂しい」という個人的な動機から出発していたことに気づいたと言います。そこで、これまで演劇業界に関わってきた人々が「どうして演劇から離れたのか?」をまず聞いてみるためのWEBアンケートの計画を発表しました。音楽イベント企画制作に取り組んでいる石松さんは、第1回の講座で自分のやりたいことを整理した際に「これまでの自分の考え方は“エコノミック(経済)”だったのだ」と気づいたのだそう。また性暴力サバイバー自身が思いをビジュアル化するプロジェクトに取り組んでいる土山さんは、第6回の講座で『文化権』を知り、自分なりに「文化権ってこういうことなんじゃないか?」と考えを深めていった過程を発表しました。これにはアドバイザーの小川さんも「今期初めて取り上げた『文化権』についての講座を学びのポイントとしてレポートに選んでくれたことが嬉しい」とコメント。
ほか、三味線文化の普及と推進をテーマにした山田さんが、同じく受講生で「箏に触れる機会を増やしたい」と活動する喜羽さんらを仲間としたプロジェクトの提案をされたり、講座での出会いが新たな可能性を生む様子も感じられました。

受講生はメモを取りながら発表を熱心に聞いています

フィードバックは、受講生一人ひとりに合わせて丁寧に行われます。若林さんからは、事前のレポートを踏まえたうえでの具体的な良い点・改善点が多く伝えられます。「レポートが3ステップの構成になっており、非常にロジカルに構成されている」「レポートに背景、問題、数字などが明確に書かれており、業界の環境がよく伝わった」など、あらためて、伝わるレポートとはなにかと客観的に組み立てなおす指摘に溢れていました。また、前述の荻山さんの課題について、「この課題に対する戦略は『仮説をたてる』ことではないか。仮説を導き出すためにアンケートを実施し、そこで出た声をどう活かせるかと中長期的に考える計画を立ててもらえたら」とコメントし、受講生の抱える課題やヴィジョンの掘り下げや、その先の新たな価値づけについても助言されました。
小川さんは、受講生の活動やアイデアの良い点に目を向けたうえで、さらに「情報を振り返る機会を持つと、良い調査になるのでは」「市民らと広報をすればさらに活動が広がるのでは」など可能性に寄り添います。そして、ご自身の経験や知識をもとに具体的な新しいアイデアをくださいます。例えば、喜羽さんの「このままでは箏は滅亡する」という問題意識に対して、「今、取り組まれている活動のさらにその先にどんな展開があるんだろう。例えば、国の政策として文化と観光をセットで考えている今のタイミングで、芸術家側が“こんな文化や可能性があるよ”と訴えられたらいいのでは。その時に文化が持つ地域性を意識すると次の可能性があるんだろうなと期待しました」など、レポートのその先へ目を向けるフィードバックがなされました。

アドバイザーのお二人はそれぞれ違う視点で気づきをフィードバックしてくれます

『芸術』と『社会』の関係性の捉え方の変化

発表は3時間以上にもわたりましたが、聴講していた修了生からは「自分が参加した時はコロナ禍でオンライン開催でしたが、ひとつの場所に集まることで思いや熱気が一層リアルに伝わるんだな」との実感が寄せられるほど、密度の濃い時間でした。
特に複数の聴講者から、キャパシティビルディング講座はこれまでのアートマネージメント講座とは『社会』と『芸術』との関係性の捉え方が違っているという声が聞かれたことは印象的でした。例えば「受講生自らの創造活動をめぐる問題意識が、すでに社会と接続しているんだと感じた」「自分達の世代は社会と芸術を分けていたけれど、受講生の皆さんは一体として思考している。分けて考えること自体はもはや古い価値観かと思えた」や、なかには、社会と芸術が当たり前のように一体として考えられていることが「相当な衝撃だった」という感想もありました。
聴講した修了生からも「ケアとアートで協業関係を結んでいくことに可能性を感じている」「広い視野で考えれば、同じ方向を向いている仲間がいると思った」など、日頃の経験の中で芸術文化とそれ以外の分野や社会との関係性の密接さや可能性についてのエピソードがあがりました。

最後に、本講座の主催であるアーツカウンシル東京の玉虫美香子助成課長から、発表会全体を終えてのコメントがありました。「今期は、実際に現場で体当たりでプロジェクトを実践されている方が多く、聞きごたえがあり、中身も充実していました」。さらに芸術文化と社会との関係について触れ、「社会という目に見えない抽象的な概念・単位ではなく、受講生個々の現実に立ち、人間と芸術やアートの関わりを非常に繊細に考察することで独自のプロジェクトを作られているととても強く感じました。これは芸術やアートのあり方や意味が、大きな目から見て転換期にあることとつながっているように思います」と話され、これからの時代の変革に期待が寄せられました。

最後に一人ずつ修了証書授与が行われ、半年にわたる講座が終了しました。この日のフィードバックを受けて受講生らが完成させたレポートと、講座各回の様子をまとめた報告書&レポート集は2023年4月に完成、公開予定です。

修了証を手にする受講生たち


執筆:河野桃子
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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