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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

Tokyo Art Research Lab(TARL)

Tokyo Art Research Lab は、アートプロジェクトの担い手のためのプラットフォームです。時代に応答したアートプロジェクトをつくる学びの場と、現場の課題やこれから必要な技術について考える研究・開発を「東京アートポイント計画」と連携して行っています。

2023/03/24

これからのウェブサイトの姿を想像する|「Tokyo Art Research Lab」ウェブサイト制作振り返り座談会(前編)

TARLウェブサイトの改修に取り組んだ5人のメンバーが机を囲んでいる。机の隣には大型のモニターがあり、TARLウェブサイトが映っている

自分たちの取り組みを伝えたい、成果を必要な人たちに活用してもらいたい。さまざまな思いをのせて情報を届けようとするとき、どのようにウェブサイトの制作に取り組んでいけばいいのでしょうか。

2022年12月、「Tokyo Art Research Lab(TARL)」のウェブサイトが、アートプロジェクトの担い手のためのプラットフォームとしてリニューアルオープンしました。

7年ぶり3回目となる今回のリニューアルでは、約1年の制作期間をかけて、アートプロジェクトに関心のある人やプロジェクト運営に携わる人、研究者まで、TARLが蓄積してきた知見や情報にアクセスし、活用することのできるウェブサイトを目指しました。

新サイトのトップページのキャプチャ画像。現在のおすすめコンテンツが大きく表示されている

新サイトのトップページ。「プロジェクト」「資料室」「ひとびと」という3つの軸を明確にして、ユーザー目線で情報を手に入れるまでの導線を整理した。

旧サイトのトップページのキャプチャ画像。これまでTARLにかかわった人々の顔写真が横2列で並んでいる

旧サイトのトップページ。TARLの過去のウェブサイトは「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP) 」のアーカイブから見ることができる

今回は、TARLウェブサイトの改修プロジェクトに携わった5名が集まり、座談会を行いました。1990年代初期にウェブサイトが登場してから30年余りが経つなかで、ウェブサイトとわたしたちの関係性にも変化が生まれています。前編ではウェブサイトそのものの変遷や耐久年数、そして未来の姿などに思いを馳せつつ、後編では実際の改修について、アクセシビリティに関する取り組みへの感触を交えて振り返ります。


挑戦的な表現の場から生活インフラに

―― はじめに、ウェブサイトというメディアそのものについてお聞きしたいのですが、この30年余りの間に、ユーザーと、ウェブサイトの関係性はどのように変わりつつありますか?

ウェブディレクター 萩原俊矢(以下、萩原):かつてウェブサイトやSNSはデジタルに強い人が率先して使うものだったのですが、スマートフォンの普及やユーザーの成熟もあって、多世代にとって身近なものになりましたよね。さまざまな属性の人々がさまざまな用途でウェブサイトをつくるようにもなって、わたしたちの生活インフラとして定着した感覚があります。

編集者 川村庸子(以下、川村):2000年代のウェブサイトを思い出すと、「表現」の場でしたよね。そのため、ビジュアルや動きによっては読み込みに時間がかかって。使うものというより、そのウェブサイトとしての表現が前面に出ていた気がしますね。

萩原:当時から、ウェブサイトがシステム的にアクセシビリティをまったく無視していたわけではないのですが、川村さんがおっしゃるように、近年はウェブサイトが「表現」から、誰もが使う「ツール」へと移り変わってきていると思います。

―― なるほど。ウェブサイトが「表現」から「ツール」へと変化するなかで、みなが等しく情報を受け取れるように、アクセシビリティの担保が課題として現れはじめているんですね。

「表現」と「ツール」のバランス

―― 2022年12月にデジタル庁が「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」ベータ版を公開し、国内向けのウェブアクセシビリティの方針が示されました。萩原さんから見て、ウェブ業界的にも「アクセシビリティ」はホットトピックですか?

手ぶりをまじえ話す萩原俊矢さん

萩原俊矢 ウェブディレクター。体制づくりや各ページの設計などを統括した。

萩原:やはり業界的にもデジタル庁ができたのは大きいですし、関心が高まっているのは間違いないと思います。実は既にあるWCAGのようなアクセシビリティガイドラインは、非常に詳細につくられていますし、これ以前からアクセシビリティを大切にしようと唱えてきた人も多くいらっしゃいます。

しかし、ウェブサイトの制作現場を個別に見ていくと、アクセシビリティを重んじるよりも、動きのあるかっこいいもの、スペクタクルを求めた演出を積極的に取り入れる傾向は現在も多分にあります。それ自体が悪いということではないですが、しかし、この5年ほどで制作者のなかからも「それってほんとうに必要な人に情報を届けられるウェブサイトになっているの?」という問いが投げかけられるようになってきました。クライアントとなる企業の担当者も、アクセシビリティやSDGsの考え方が業務に落とし込まれてきて、その必要性を意識する場面が増えてきているようです。そうしたクライアントの姿勢に応じて、ウェブサイトの制作に携わる人も、考え方やつくり方をアップデートしている最中なのでしょう。

―― これからはウェブサイトの評価軸として、アクセシビリティの担保が大きな位置を占めそうですね。

萩原:僕が難しいと思っているのはウェブサイト上での「表現」と「ツール」のバランスです。斬新な画面の動きや新しいデザインの提案は、アクセシビリティの観点からは使いにくいことが多い。ただ、チャレンジする人がいなければ、新しいものは生まれない。なのでどちらを悪ともせず、両方をそれぞれ適材適所でやっていくべきだと思います。

「表現」と「ツール」が交わるところに位置する媒体が、ウェブサイトでありウェブデザインなので、悩ましいですね。今回改修したTARLウェブサイトは、多様なアートプロジェクトの担い手が使う「ツール」としての使命があるので、そういった「表現」は控えめに、むしろアクセシビリティについて検討する方向性で攻めたほうがいいのではないかと思っていました。

川村庸子さんが笑顔で制作メンバーに話している

川村庸子 編集者。各ページの構造整理や、ルールづくり、テキスト制作などを担った。

川村:わたしも改修作業をしながら、ウェブサイトにおいて、今後アクセシビリティを担保することが当たり前になっていったらどうなっていくのかと考えていました。スプーンやフォークのように使いやすさを追い求めていくと、いずれ「型」が見えてくると思うんですよね。それはもちろん目指すべき状態ですが、クリエイションとしてチャレンジする部分はどこに生まれるのだろう、と。

萩原:すべてのウェブサイトがアクセシブルになって、かつかっこいいのが理想的ですが、両立することはなかなか難しい。新しいデザインや表現を追い求めるウェブサイトにも引き続き挑戦しつつ、そこからアクセシビリティの向上に使えそうな技術が生まれたら、お互いに共有できるような関係をつくりたいですよね。

川村:全体的なアクセシビリティの底上げをしつつも、そこから360度、それぞれがいろんな方向に進化していくということですね。

未来のウェブサイトについて考えてみる

―― 人々の価値観や社会情勢が変化していくなかで、ウェブサイトはどれくらいの頻度でアップデートを考えるべきなのでしょうか?

アーツカウンシル東京 櫻井駿介(以下、櫻井):萩原さんがナビゲーターを務めたTARLの勉強会「これからのウェブサイトについて考える」でも、たびたびこの「ウェブサイトの耐久年数」というトピックについて議論してきました。大規模な改修は、組織をあげてさまざまな人が携わりコストがかかりますから、なにか目安があるといいですよね。

メンバーに話しかけている櫻井駿介さん

櫻井駿介 アーツカウンシル東京 Tokyo Art Research Lab/東京アートポイント計画 プログラムオフィサー。本プロジェクトの担当者で今回の旗振り役。

萩原:そうですね。ここ10年ほどでいえば、ウェブサイトの耐久年数は伸びてきている印象です。すこし前までは、ウェブサイトを表示する端末や機器の進化が凄まじく、そこに対応させるための改修作業が必要でした。2006年頃にスマホが登場して、ウェブサイトがスマホに対応しはじめたのが2011年頃。タブレットなどの端末も多様化して、PCモニターの解像度も向上しましたから、その前につくられたウェブサイトは、当時の技術でしっかりつくられていても、そろそろ限界を迎えているものも多いです。

現在はそうした技術の進歩も、ある程度落ち着いてきましたね。スマホなどの携帯端末がいくら小型化する技術を獲得したとしても、それより先に「これ以上文字が小さいと読めない」という人間の知覚的な限界がありますし、8Kの高画質モニターが一般家庭用に普及するようなフェーズでもないですし。

ウェブサイトは建築と似ているので、できたら放っておいていいものではなく、空き家にも風を通さないと傷んでしまうように、定期的なメンテナンスやアップデートが必要です。そうしたことを踏まえて、さらに今回のTARLウェブサイトのように数年先を見据えたつくり方をしたものは、しっかり長持ちするのだと思います。

笑顔で話す井山桂一さん

井山桂一 デザイナー。ウェブサイト全体のデザイントーンの設計や、各ページのデザインを担当。

―― それでは、ウェブサイトは将来どのようなことができるようになっていくのでしょうか。

萩原:この10年の変化を誰も想像できなかったように、未来のことを語る難しさがありますが、ユーザー自身が機器の設定をカスタマイズして、個別のニーズに合わせるような仕組みも実装されてきていますね。そうすると、ウェブサイトも同じようにユーザーが自分にあったかたちで情報を手に入れられるような、さまざまなバージョンのシステムが生まれてくるだろうと思います。データベースにあるコンテンツが、特定のタイミングや機器の性能、カスタマイズに応じて、最適化されて現れる。

例えば、老眼や弱視の方が見るときには大きい文字で表示されて、日本語が母語でない方が見たら「やさしい日本語」へ変換される。ウェブデザインがどんどん柔軟に姿を変化させていくことが、未来のスタンダードになっていくのかもしれませんね。

デザイナー 井山桂一(以下、井山):現在のウェブデザインの大半は、デザイナーが「ここには、こういう動きをつけて、これくらいの大きさで置く」などの意匠を指定して、エンジニアがデザインを満たすようなプログラムコードを書くという、いくつかの段階を踏んでつくられています。こうした作業分担が、技術の進化によって徐々に埋まっていく気がしています。いまもさまざまなサービスがありますが、今後はさらに自由度の高いウェブサイトが、プロに依頼しなくても、もっと気軽に直感的につくれるようになっていくのかなと。

川村:おもしろいですね。出版業界でもZineやリトルプレスなどが広がり、自分の声や経験をかたちにするハードルが以前より低くなっていますよね。では、本をつくるプロが不要になるのかといえばそうではなく、自分がつくるからこそプロのすごさがわかるし、それぞれのよさがあって、ともに存在している。ウェブサイトも同じように、もっと多様になっていくのかもしれませんね。

一方で、最近はTwitterやnoteなどのプラットフォームごとに文体が均質化しているように感じます。言葉は思考をつくるので、知らず知らずのうちに思考そのものが貧しくなってしまうのではないかと。だからお二人がおっしゃったように、自由度の高いウェブサイトが気軽につくれるようになれば、言葉や思考も同時に解放されていくのかもしれないなと思いました。


現在のウェブサイトの動向、そして未来のウェブサイトの姿に思いを馳せたメンバー。後編では、今回のTARLウェブサイトで具体的にどのような改修に取り組んだのか、体制づくりやペルソナの設定など、いくつかのポイントを振り返ります。

レポート後編へ続く

「Tokyo Art Research Lab」ウェブサイトはこちら
>ウェブディレクターの萩原さんが監修したウェブサイト制作のポイントをまとめた冊子『アートプロジェクトのためのウェブサイト制作 コ・クリエイションの手引き』はこちら
「Tokyo Art Research Lab」ウェブサイト」改修のポイントをまとめた記事はこちら

(文・遠藤ジョバンニ、撮影・仲田絵美)

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