ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

「芸術文化による社会支援助成」活動報告会

アーツカウンシル東京では、平成27(2015)年度より、さまざまな社会環境にある人がともに参加し、個性を尊重し合いながら創造性を発揮することのできる芸術活動や、芸術文化の特性やアーティストが持つ力を活かして、さまざまな社会課題に取り組む活動を助成するプログラム「芸術文化による社会支援助成」を実施しています。
ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2024/01/17

第4回「環境整備とクリエイション〜バリアフリー鑑賞の推進からその先へ」(前編)シネマ・チュプキ・タバタ(Chupki)

2023年7月14日、「芸術文化による社会支援助成」の意義や効果をあらためて検証し、その成果や今後の課題などを広く共有する場として、第4回となる活動報告会が開催されました。東京都北区東田端で、障害などにかかわらず誰もが映画を楽しめるユニバーサル上映を行う映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」を運営する合同会社Chupkiと、宮澤賢治作品の朗読劇の上映を軸としながら、視覚障害者のための音声ガイドの普及、視覚障害や聴覚障害などさまざまな個性を持つアーティストとの表現活動に取り組む「ものがたりグループ☆ポランの会」が活動を報告。バリアフリー鑑賞推進の意義や、そこから生まれる新たなクリエイションの可能性について語りました。前編では合同会社Chupki、後編では「ものがたりグループ☆ポランの会」とラウンドテーブルの様子をお届けします。


開催時期:2023年7月14日(金)18:30~21:00
開催場所:アーツカウンシル東京 5階会議室
報告団体・登壇者:合同会社Chupki 平塚千穂子
ものがたりグループ☆ポランの会 彩木香里、石神哲朗
ファシリテーター:小川智紀
グラフィックファシリテーター:関美穂子
手話通訳:加藤裕子、瀬戸口裕子
※事業ページはこちら


「みんなで開こう、広げよう ユニバーサル上映会」当日の様子

提供:合同会社Chupki

登壇者:(左から)彩木香里さん、石神哲朗さん、平塚千穂子さん

撮影:松本和幸

グラフィックレコーディング(制作:関美穂子)

(画像拡大:JPEG版

視覚障害者と一緒に楽しめる、クラシック外国映画の音声ガイドを制作

日本で唯一のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」を運営する合同会社Chupki。代表の平塚千穂子さんから「芸術文化による社会支援助成」に採択されたふたつの事業を中心に活動が紹介された。

登壇者:合同会社Chupki代表の平塚さん

撮影:松本和幸

「シネマ・チュプキ・タバタ」(以下、チュプキ)は、目の不自由な人や耳の不自由な人、車椅子の人、子育て中の人などどんな人でも安心して映画を楽しめる、客席20席の小さな映画館だ。2001年から視覚障害者の映画鑑賞環境づくりを続けているボランティア団体「バリアフリー映画鑑賞推進団体 City Lights」がクラウドファンディングなどを通じて募金を集め、2016年9月、JR田端駅から徒歩約5分の商店街にオープン。選りすぐりの映画をすべてユニバーサル上映している。ユニバーサル上映とは、どんな人でも映画が楽しめる上映スタイルのことで、視覚障害者にはイヤホンによる音声ガイド、聴覚障害者には日本語字幕付き上映といった鑑賞サポートツールの提供を全作品、どの回でも行っている。また、車椅子スペースや親子鑑賞室なども設置されている。

シネマ・チュプキ・タバタ

提供:合同会社Chupki

「日頃、映画館を運営する中で問題に思っていることを解消するために企画したプロジェクトに『芸術文化による社会支援助成』の助成をいただきました」と平塚さん。まず、平成31(2019)年度 第1期には「映画音声ガイド制作者の人材育成と鑑賞ツールとしての可能性を広げる研究」が採択された。

「来館者の声を聞き、音声ガイドの可能性ってもっとあるなと感じていた中で、視覚に障害のある方から『目が見えていた頃によく見ていた昔の外国映画をもう一度見たい』という高い要望がありました。一方で、一般客の字幕離れが進んでいて、字幕スーパーの付いた外国映画を見なくなってしまった高齢者や若者も多い。最近では映画配給会社が自社で音声ガイドを付けるようになり、「UDCast(ユーディーキャスト)」や「HELLO! MOVIE」のアプリで音声ガイドを聴くことができる作品も増えてきました。とはいえ、音声ガイドが付いているのは全体のまだ1割程度、そのほとんどが邦画作品です。そこで、クラシック外国映画の音声ガイドを制作しながら、課題となっていた人材育成や音声ガイド制作者のスキルアップも図りたいと考えました」

「視覚障害者の情報保障というだけでなく、音声ガイド付きでいろいろな人と映画を見ることによって鑑賞体験が豊かになることも広めていきたい。そのひとつとして外国映画のバリアフリー化ももっと普及させ、スタンダードにしていきたいという目標でやってきました」

事業内容は「音声ガイド制作者のスキルアップ」「バリアフリー上映とアンケート調査」「ワークショップの開催」の大きく3つに分けられる。 まず「音声ガイド制作者のスキルアップ」では、ジャンルの異なる3本のクラシック洋画『駅馬車』『三十四丁目の奇蹟』『カサブランカ』を題材として音声ガイド制作を行った。「外国の古い映画では吹替版がつくられていない作品が多く、視覚障害のある方は字幕スーパーが見えませんので、音声ガイドの中に字幕スーパーの朗読も含まれてきます。字幕はほぼセリフそのものなので、『ボイスオーバー』(字幕朗読)と呼ばれる吹き替え制作のような作業になります。キャスティングディレクターを置いて音声ガイドの台本作成とキャスティングを一任し、同時にキャスティングディレクターの育成も行いました。1本の洋画で10〜15人の声優をキャスティングするのですが、端役の多い作品の場合は、セリフの掛け合いが重ならないように1人で5〜6役を兼ねていただいたりもしました」

原音のトーンや芝居とズレないように声優たちがセリフを録音する様子は、スタジオ収録を記録した動画で見ることができる。シネマ・チュプキ・タバタ公式ウェブサイトの「事業報告」に掲載されているのでぜひ見てほしい。

字幕朗読制作 映画『カサブランカ』字幕朗読収録

提供:合同会社Chupki

制作者の育成も鑑み、2ヶ月間で1本の音声ガイドを制作できるようなプランを立てた。1人で1本つくるのではなく、1人約20~30分に分担し、1作品を4、5人のチームで制作した。

「メンバーがそれぞれ最初の原稿を書いた後に、名称の統一などお互いにすり合わせる必要があり、自分のパートと他の人のパートで、同じ場面の同じ場所を同じ言葉で説明できているかとか、名前をどう呼ぼうかとかコミュニケーションを密に取りました。またその書き換えた原稿をメンバーでさらに相互チェックをして。できあがった台本を視覚障害者のモニターさんにチェックしていただきます。ここで生じた検討事項から、つくり変える必要のある表現をもう一度直して、仕上がった最終的な台本でナレーション収録していきます。その収録したものを編集して音声ガイドを完成させるという流れですね」

音声ガイドモニター検討会の記録動画を紹介しながら、視覚障害者モニターの方から「リズムが悪い」という指摘を受けた例を解説した。「ガイド制作者が長い文章を書いてしまって、それを短くポンポンと切ってもらえると情景がイメージしやすいなどの意見をいただいているところです」。この動画も公式ウェブサイトの「事業報告」に掲載されており、時代背景、人物の特徴、シーンのつながりや意味など、非常に丁寧に読み込んで制作される過程が垣間見える。

音声ガイド制作 映画『カサブランカ』台本作り モニター検討会

提供:合同会社Chupki

ふたつめの事業内容は「バリアフリー上映とアンケート調査」。音声ガイドの活用の可能性をもっと広げられないか。作成した音声ガイドを視覚障害の有無を問わず、チュプキの観客に体験してもらい、アンケート調査を行った。

「イヤホンで音声ガイドを聴いてみてどんな印象を持ったかを聞いてみると、85%の方が『よかった』と答えてくださいました。具体的には『ガイドが説明してくれてわかりやすい』『字幕を目で追わなくてすみ、楽だった』といった意見。一方で『字幕の内容とセリフが違うので違和感があった』『映画に集中できなかった』という意見もありました」

さらに、『また音声ガイドを聴きたいと思いますか』という質問には、『聴きたい』が47%で『作品による』が33%。「字幕朗読だけの音声ではないので、視覚情報を補う状況説明の音声ガイドは、見える人にとってはわかることなので不要に感じたり、自分はそうは見ないという違和感が多少出てきたりするからかと思います。また、『2回目以降の鑑賞で使いたい』という声もありました」

さらに3つめの事業内容「ワークショップの開催」では、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」の林建太さんの協力のもと、音声ガイドを活用し、いろいろな人がそれぞれの経験を持ち寄って「映画らしさってなんだろう」というテーマで語り合う場をつくった。折しもコロナ禍でイベントの開催が厳しくなり始めた2020年3月ごろ。参加条件を『駅馬車』と『三十四丁目の奇蹟』を見た人にし、チュプキで上映中のこれらの映画を見た人以外でも、かつてDVDやビデオや他の劇場で見たことのある人も対象に含め、7、8人が参加した。「かなり前に見た人の記憶は曖昧だと思うので、参加者に印象に残ったシーンを出していただいて、見える人も見えない人も全員で繰り返しそのシーンを音声ガイド付きで鑑賞した後、見たことや感じたことを言葉にしていただきました」

「人によって価値観や知識が違い、感じ方にも違いがあるので、やっぱり鑑賞経験はズレが生じるもの。けれどそのズレた経験を安心して言葉にできる場って意外と少ない。その対話の場を林さんにファシリテーションしていただいたんですけれども、いろいろ違った印象や違和感を出すことで、映画らしさや映画の面白さがより膨らむということを感じていただきました」

「特に、『駅馬車』の馬車の追撃シーンで、視覚障害のある参加者が『スタジアムで野球観戦しているような感じだった』とおっしゃったのが印象的でした。見える人たちは、映画のカメラの操作で映るものを見ている/見せられているようなところですが、見えない人たちは追撃全体を俯瞰しながら音声ガイドのアクション描写に応じて、逃げる主人公や追うアパッチ族に焦点を絞るそうです」

また、『三十四丁目の奇蹟』では、終盤の法廷シーンで長く審議が行われる。「時間の経った法廷」という音声ガイドに対して、見えない人から「時間の経過ってどうやって見えるんですか?」という質問があった。「見える人は、異なるふたつの法廷の場面がオーバーラップという映画の技法で重なっていくのを見て時間が経ったことを感じとっています。いろんな人と一緒に見ることで、映画ならではの表現がなされていたんだなとあらためて気づかされました。映画鑑賞ワークショップを通して映画のつくり方や構造を分解していくような体験ができて、改めて映画ってよくできてるねといったことを語り合えて面白かったです」

映画鑑賞ワークショップ「映画らしさってなんだろう?」『三十四丁目の奇蹟』編 チラシ

提供:合同会社Chupki

シネマ・チュプキ・タバタでは、音声ガイドを聴くためのイヤホンを受付で貸し出しており、視覚障害の有無にかかわらずその場で聴いてみたい人も借用することができる。「最近ではSNSなどでも音声ガイドのことが話題になって、それを見た映画会社の人からDVDなどを作成するときに音声ガイドを収録させてほしいという依頼をいただいたり、発信している人のコメントを読んで、音声ガイドに興味を持って見に来てくださる人もいます。もとは視覚障害者の情報保障とするために出てきたツールですけれども、いろいろな人に有効ですし、それを使って人と感想をシェアすることがこんなに楽しいことなんだよって伝えることができたかなと思います」

ユニバーサル上映会を開きたい人のためのウェブサイトを作成

続いて令和2(2020)年度 第2期には「バリアフリー上映推進のためのアーカイブ構築とシンポジウムの開催」が採択された。

「バリアフリーに対応した映画はたくさんつくられているんですけれども、そのツールをアーカイブとして活かしきれていないことなどいくつか問題がありました。バリアフリー対応作品や上映したい場合の問い合わせ先、鑑賞サポートのためのツールはどうやって扱ったらいいのかなど、調べることが容易ではなかった。ノウハウが共有されていないので、実施するのが大変なんじゃないかと思われ、ハードルが高くなっていました。高齢者や若年層にも音声ガイドや字幕の必要性は広がっていて、映画を楽しむ鑑賞ツールとして有効に活用できるのに、広く認識されていませんでした」

「そのため、ユニバーサル上映をやりたいと思った人がもっと簡単に調べられ、ノウハウを共有できて、気軽に開催できるようにしなくてはいけない、そのために必要なものをつくろうと考えました。また、コロナ禍で上映会自体が衰退してしまうのではという危機感があって、特にユニバーサル上映会みたいなものは開催されにくいものになってしまうのではないかと、上映の場を守ることも大切だと思ったんですね」

そこで、ユニバーサル上映会を主催する人に役立つ情報を集め、アーカイブ検索機能のついたウェブサイトを作成することにした。サイト名は「みんなで開こう、広げよう、ユニバーサル上映会」。まず、ユニバーサル上映とは何かを紹介するサンプル動画を作成した。

「目が見えなくなったら映画はどんなふうに感じられるか、音声ガイドが付くと映画はどんなふうに見えてくるのか、耳が聞こえなくなったら映画の字幕がどれだけ大事か、音声ガイドも字幕も付いたユニバーサル上映とはどんなものか、ひと通り体験できる動画になっています。『目が見えなくなったらどんなふうに感じられるか』というところでは、あえて映像を入れずに真っ暗にし、音声ガイド付きのところは、画面は真っ暗だけど音声ガイドが聴こえてきて、想像しながら映画が見られます。『字幕がどれだけ必要か』は、字幕付きで音声がなくて、聞こえない方が字幕付きで映画を見るとこういう感じになるんですよという状態を体験できる動画になっています。そして最後は全部付いた状態になります。ユニバーサル上映とは、必要な人に必要な鑑賞ツールを用意し、いろいろな人と一緒に映画を鑑賞することで、場を共有するすべての人にとって、鑑賞体験の可能性が豊かになるというユニバーサルデザインの考えに基づく上映会です。日本語字幕や音声ガイドを付けるだけじゃなく、外国人のために英語を付けようとか、いろいろなことを皆さんが考えてつくるものがユニバーサル上映です。映画はみんなのものだから、上映という場が豊かであればあるほど体験の可能性は広がる、とにかくやってみましょうと呼びかけているようなサイトです」

ウェブサイトで最も力を入れたのは対応作品検索だ。データベースに登録された作品のうち映画会社制作の公式のものはほとんど「UDCast」か「HELLO! MOVIE」に対応しており、アプリのマークで見分けられる。マークが付いていないのは、チュプキの制作で、アプリには対応していないが、字幕も音声ガイドもある。情報はジャンルやカテゴリーに分かれていて、映画情報サイトの映画.comに飛ぶようになっている。バリアフリー対応作品が膨大にある中で、主催者がどんな作品でユニバーサル上映できるかが探しやすく、ダイバーシティに関するものなど、テーマでも検索できる。上映会の開催方法についても、3ヶ月前ぐらいから企画、宣伝し、会場を借りてといった流れを紹介。ウェブサイトを見た人から問い合わせがあり、実際に上映会に結びついたケースも数十件ある。「今後は、実際にユニバーサル上映会を行った人々のレポートを増やしていきたい。実例を紹介し、真似してみようって思う人が増えたらいいなと思います」

シンポジウムと映画『こころの通訳者たち』を上映

さらに、このアーカイブ化と鑑賞ツールの活用を促すために、今後上映会を開催する可能性のある各自治体の公共ホール、文化振興担当や社会福祉協議会、障害者施設、公共図書館など約1200ヶ所に案内を送付して参加を呼びかけ、2021年12月22日、北とぴあつつじホール(東京都北区)でシンポジウム『ユニバーサル上映 過去から未来へ』を行った。ゲストにCity Lightsの副代表で「バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり」の役者でもある視覚障害者の美月めぐみさん、「UDCast」のアプリを開発したPalabra株式会社取締役社長・山上庄子さん、長年障害者のドキュメンタリー映画を撮る映画製作配給会社「いせフィルム」の伊勢真一監督を招いた。

「美月さんは障害者当事者で映画を楽しんでいる人。伊勢監督は、チュプキで音声ガイド制作、字幕制作をご一緒しました。最初は鑑賞ツールに懐疑的な考えをお持ちだったんですけど、実際に制作に立ち会われる中で、自分の作品は旧作に遡って全部バリアフリー化したいとおっしゃるようになり、11作ほどバリアフリー化しました。そんな監督にお越しいただいて、鑑賞ツールを作ってユニバーサル上映することで、制作者も鑑賞者もその間を繋ぐ人もその経験がいかに活きるかをお話いただきました」

また、シンポジウムとあわせ、チュプキが初製作したドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち~What a Wonderful World』(以下、『こころの通訳者たち』)の完成披露試写会も兼ねた上映を行った。

シンポジウム『ユニバーサル上映 過去から未来へ』2021年

提供:合同会社Chupki

「これらの事業を通して、障害者の映画鑑賞機会を平等にするのがゴールではなく、これが当たり前で、みんなの映画鑑賞体験をもっと豊かにもっと面白くするためにユニバーサル上映を行うことにとても意義がある。だからみんな積極的に開きましょうということをお伝えできたかなと思います」

『こころの通訳者たち』はその後さまざまな劇場で上映され、現在は各地で自主上映が行われている。発表の最後に「シンポジウムに参加した方に、その後も各上映会場でお会いしたりして、あのとき見ましたとお声がけいただきます。ユニバーサル上映会をやってみたいという方が増えていて、『こころの通訳者たち』を上映したいという方もいらっしゃいます。これからもそうした方たちに伴走しながらユニバーサル上映の意義と価値を広げていきたい」と語った。

映画『こころの通訳者たち』ポスター

提供:合同会社Chupki

ここで、ファシリテーターの小川さんからいくつか質問があった。

小川:「UDCast」や「HELLO! MOVIE」の音声ガイドが付けられているのは普及してきているとはいえまだ全体の1割程度とのことですが、対応作品検索サイトを見ていると、例えば『ローマの休日』は入っていないんですね。

平塚:そうですね。「UDCast」や「HELLO! MOVIE」を利用する場合、映画会社が新作に対応して、製作委員会で音声ガイドや字幕を付けることを決めて、予算もかけて作成していきます。なぜ邦画が多いのかというと、制作者のチェックも必ず入れるから。古い作品だとチェック体制が取りにくいからかなと思います。

小川:なるほど、だからチュプキでつくっているんですね。

平塚:ないものはつくるしかないので。

小川:平塚さんの活動って、City Lightsという団体を結成し、待望の映画館をつくり、さらにいろんなプラットフォームをつくり、それを広げるために『こころの通訳者たち』という映画を製作するといった何層かの構造になっているんですね。シネマ・チュプキ・タバタはどんな映画館なのかを確認したいところです。今(2023年7月現在)は何を上映していますか?

平塚:今年で7周年を迎えます。今は『BLUE GIANT』というジャズに魅せられた3人の青年の青春映画、アニメーションを上映しています。バリアフリー対応していなかったので、当館オリジナルで音声ガイドを付けました。チュプキは20席しかないのでキャンセル待ちがある状態のため延長上映されます。

小川:チュプキって何語なんでしたっけ?

平塚:アイヌ語で「自然界の光」を表す言葉です。自然の光、太陽も月も星もみんなチュプキで表せるそうなんです。自然界の光は誰にも平等に降り注ぐものだから。

小川:映画はみんなのものだっていうことを体現しているような言葉ですね。障害があっても子連れでも大丈夫ですね。

平塚:はい。親子鑑賞室という完全防音の小部屋もありまして、赤ちゃんが泣いちゃったりしても、その部屋から安心して鑑賞を続けられるような設備もあります。

映画会社が制作していないクラシック洋画の音声ガイドを自発的につくり、バリアフリー鑑賞ツールとユニバーサル上映会を広めようとしている合同会社Chupkiの平塚さん。それも障害のある人々への鑑賞サポートのためだけでなく、映画の「鑑賞」という側面に光を当て、作品をより深く、映画と人間の関係性をより豊かにするために尽力しているように見えた。さまざまな映画館にも参照してほしいと願いたくなる提案でもあった。

(取材・執筆 白坂由里)

第4回「環境整備とクリエイション~バリアフリー鑑賞の推進からその先へ」(後編)に続く(2024年1月24日公開)


合同会社Chupki
2001年より視覚障害者の映画鑑賞環境づくりを続けているバリアフリー映画鑑賞推進団体City Lightsが2016年に募金を集めて設立した映画館。視覚障害者のみならず、聴覚障害者、発達障害者、車椅子利用者、小さなお子様連れのお客様など、様々な障害を持つ人が安心して映画を鑑賞できる環境を提供する日本初のユニバーサルシアター。映画の音声ガイドや日本語字幕を制作し、毎日ユニバーサル上映を実施。
https://chupki.jpn.org/

芸術文化による社会支援助成 助成実績

ものがたりグループ☆ポランの会
2004年創立。「生きる」をテーマに宮澤賢治作品のみを上演。 2021年イーハトーブ賞奨励賞受賞。 舞台の音声ガイド制作、鑑賞サポートに携わる。 2020年より字幕映像制作や手話パフォーマーとともに創り上げる公演を行っている。
https://polan1010.com/

芸術文化による社会支援助成 助成実績


芸術文化による社会支援助成
東京都内で活動する団体を対象に、「社会的な環境により芸術の体験や参加の機会を制限されている人が、鑑賞・創作などの芸術体験を行い、創造性を発揮したり、想像力を豊かにすることができる活動」や「自らの問題意識に基づいて社会課題を設定し、さまざまな人や組織と連携・協働を行いながら、課題解決に取り組む芸術活動」を支援するプログラム。平成27(2015)年度に開始し、平成28(2016)年度からは年に2回公募を実施している。これまでに120件余りの事業を支援してきた。「芸術のための芸術」でもなく、また単に「社会の役に立つ芸術」というだけでもなく、これまでにないやり方で社会と創造活動が不可分の状態にあるような新たな芸術のあり方、いわば「第3の芸術」を提起し具体化していく活動を後押ししようとしている。

最近の更新記事

月別アーカイブ

2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012