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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

「芸術文化による社会支援助成」活動報告会

アーツカウンシル東京では、平成27(2015)年度より、さまざまな社会環境にある人がともに参加し、個性を尊重し合いながら創造性を発揮することのできる芸術活動や、芸術文化の特性やアーティストが持つ力を活かして、さまざまな社会課題に取り組む活動を助成するプログラム「芸術文化による社会支援助成」を実施しています。
ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2024/04/17

第5回「うた・ことば・からだ―多様な人が出会う場づくりの可能性」(前編)表現クラブがやがや

9年間で、芸術・福祉団体などによる約150件のプロジェクトを助成してきた「芸術文化による社会支援助成」。2024年2月9日、助成を受けた事業を中心にその団体の活動を紹介するとともに、その成果や課題を参加者とも共有する活動報告会が開催されました。2021(令和3)年度から始まり、参加者も交えた意見交換を通じてネットワークの構築も目指しています。
5回目を迎える今回は「うた・ことば・からだ─多様な人が出会う場づくりの可能性」をテーマに、前編では、練馬区光が丘で20年近く、知的障害者をはじめさまざまな人が音楽やダンスのワークショップを楽しめる場をつくってきた「表現クラブがやがや」、中編では、墨田区両国で誰しもに開かれた地域のホール/アートスペースとして「両国門天ホール」を運営し、多彩なプロジェクトを展開してきた「一般社団法人もんてん」、そして後編ではラウンドテーブルの様子をお届けします。


開催時期:2024年2月9日(金)18:30〜21:00
開催場所:アーツカウンシル東京 5階会議室
報告団体・登壇者:表現クラブがやがや 小島希里、山田珠実
一般社団法人もんてん 黒崎八重子、赤羽美希
ファシリテーター:小川智紀
グラフィックファシリテーター:関美穂子
手話通訳:加藤裕子、瀬戸口裕子
※事業ページはこちら


「ダンス・ワークショップの様子」2016年 光が丘区民センター6階和室

撮影:堂本ひまり

左から、表現クラブがやがやの小島希里さん、山田珠実さん、一般社団法人もんてんの赤羽美希さん、黒崎八重子さん、ファシリテーターの小川智紀さん、グラフィックファシリテーターの関美穂子さん

撮影:松本和幸

グラフィックレコーディング(制作:関美穂子)

(画像拡大:JPEG版

うたやダンスが生まれるとき─「障害者」と「健常者」から固有名詞を持った人と人へ─

練馬区内の知的障害者を中心に音楽好きやダンス好きが集まり、毎月遊びのようなワークショップを開催している「表現クラブがやがや」(以下、がやがや)。そこで生まれた歌やダンスを年に一度「がやがやライブ」で発表している。代表の小島希里さんと振付家の山田珠実さんより、「芸術文化による社会支援助成」に採択された3つの事業を中心に活動が紹介された。

登壇者:表現クラブがやがや代表の小島希里さん

撮影:松本和幸

がやがやは2003年、練馬区立春日町青少年館主催の講座「ゆーすぷらざ」の参加者を中心に設立。もとは「障害のあるなしにかかわらず青少年が交流できる場をつくりたい」という意欲的な区職員から小島さんに声がかかり、どんなプログラムを行うかを相談するところから始まった。当初は手探りで、障害のある人とない人が一緒に料理をしたり、キャンドルをつくったりしていたが、「ボランティアと障害者という役割を超えて対話ができるような場をつくりたい」と考えた小島さんは、俳優の花崎攝さんと演劇ワークショップを始める。しかし、近くの日本大学芸術学部の学生らも参加して盛り上がってきたところで、講座が終了に。それでも「参加していた皆さんにやめたくないという思いがあり、主に光が丘区民センターに場所を移して活動を続けました」と小島さんは語る。

演劇やダンスを続けるうちにさまざまな人とのつながりもできた。作曲家の港大尋さんとはCD「がやがやの歌」を制作。2008年には明治安田生命社会貢献プログラムの助成を得て「エイブルアート・オンステージ」に参加し、「即興からめーる団」の赤羽美希さん(音楽家)と正木恵子さん(打楽器奏者)と出会った。「参加者自身の言葉から音楽やダンスをつくる」ふたりに感化され、鶴見幸代さん作曲、山田珠実さん演出・振付で、2008年には「みっつのうたでドドントカ」を早稲田大学小野記念講堂で発表した。「活動当初からコンビニ店員とのやりとりをもとにした寸劇のような『風間イレブン』というモチーフがあって、がやがやでは、音楽とダンスと『風間イレブン』の組み合わせがパフォーマンスの基本形になっていきました」という小島さんの言葉に、会場から和やかな笑いが起こった。

振付家の山田珠実さん

撮影:松本和幸

小島さんが「がやがや」の活動を広げるために申請した「芸術文化による社会支援助成」。その「取り組む社会課題」の欄には毎回こうしたことを記しているとして、山田さんが代読した。
「現代の日本では多文化共生、社会的包摂が提唱される一方で、障害者を“役に立たない”存在として排除しようとする傾向が強まってさえいる。障害のある人/ない人が固有名詞をもった一人の人間として交流し、信頼関係を構築する機会を創出することが求められている。本事業を実施することで、芸術表現をともにつくりあげ、多様性を孕んだ豊かなコミュニティづくりの地道な一歩としたい」
ただし、「これを実現するためにプログラムをつくるのではなく、既にがやがやに集まっている人たちとどう充実した時間をつくり出せるかということが先にあり、プログラムを考えている」と語る小島さん。「目的」に「人」が合わせるのではなく、まず「人」に合った内容や「場」を大切にしていることが伝わった。

ワークショップからライブまでの過程で育つ信頼。尊厳を尊重する小さな社会

記録動画を見ながら、助成対象となった平成29(2017)年度 第2期「がやがやライブはじまるよ!」、平成31(2019)年度 第1期「あっちでがやがや、こっちでがやがや」、令和4(2022)年度 第1期「あっちでがやがや、こっちでがやがや2022」について紹介された。

山田:2018年の初公演「がやがやライブはじまるよ!」は、けやきの森の季楽堂で開催しました。ワークショップを7、8回行い、参加者から生まれ出た言葉を歌詞に組み上げて構成し、主に作曲家の野田雅巳さんに曲を付けてもらい、ライブパフォーマンスに構成しました。築150年の古民家をリノベーションした美しいスペースで、広い庭から土間に移動していく形で、普段がやがやがワークショップをしているときののどかでリラックスした雰囲気で楽しんでいただけるようにしつらえました。

「がやがやライブはじまるよ!」2018年 けやきの森の季楽堂の庭で

離れの建物に出演者が登場し演奏をしながら、始まるよ、という話をして、土間に移動してパフォーマンスがあり、板の間のメインのエリアに移動してパフォーマンスが約30分あり、計45分ほどの構成で公演しました。そのなかから、歌詞を「即興からめーる団」がワークショップ参加者の言葉からつくり、野田さんが作曲した『あさ・ひる・ばん』という歌を聞いていただきます。
♪ふとん ふとん ドアをトントン ピポーン あさおきて あさ7じ あさ ごはん やかんを火にかけて パパンパ パン パン パン〜〜♪
この中の『あさ』という歌は、こんなふうに朝の動作を表す言葉が続きます。

『あさ・ひる・ばん』(活動報告会の当日に上映したけやきの森の季楽堂でのライブ動画ではないが、同作品が視聴できる)

「がやがやライブはじまるよ!」2018年 けやきの森の季楽堂

小島:私たちには大がかりな舞台だったので、送り迎えや誘導が必要な観客への対応など、さまざまな場面でもう少し広がりが必要になってきました。実際、地域のシニアのボランティアグループにつながるなど、この事業をきっかけに、近辺の方たちに「がやがやさんね」みたいな感じで言ってもらえるようになった気がします。

2回目の平成31(2019)年度 第1期「あっちでがやがや、こっちでがやがや」では、まだコロナの問題があったのでライブは中止になりました。しかし6回のワークショップの中で『きのう』という歌ができたんです。みんなで聞き書きをまとめてできた歌を、活動終了後に野田さんがアニメーションにしてご自身の歌唱でYouTubeにアップしたんですね。発表にはこういう形式もあるんだと思い、3回目の令和4(2022)年度 第1期「あっちでがやがや、こっちでがやがや2022」ではYouTubeにがやがやのチャンネルをつくって歌を発表する形で助成申請し、採択されました。その際、歌をつくって発表することにまっすぐに向かうのではなく、いろいろ寄り道した方が楽しいかなということで、10月は山田珠実さん、11月は大崎晃伸さんとダンスをして遊びました。

ワークショップからライブまでのダイジェスト動画を見ながら話を続ける。

山田:毎回必ず歌う歌があります。時々子供たちも遊びに来てくれて、やっぱり子供がいると何となく場が活性化する感じがありますね。

「あっちでがやがや、こっちでがやがや2022」より、ワークショップの様子

小島:山田さんは今、京都にお住まいなので、長電話でワークショップ前に何をやるか話をするんですけど、私が、紙を丸めたらどうだろうか、動きが面白いし、安いし軽いし安全だし簡単だしなどと提案したんですね。必ず何もしない人、興味がないとか、やらないけれど来ているという人がいるのですが、やらない人の存在が切断されないようなイメージができたんです。そうしたら山田さんが、私は筒をつくりたいと言って、ひらめいたと。林光さんの『裸の島』というドラマティックでエモーショナルな曲があるんですけど、その曲で紙を丸めてから踊るというイメージができたから、それをワークショップでやりましょうと言ってくれました。

山田:音を立てずにそーっと紙を回すとなんだか落ち着きます。丸めた紙をみんなで投げて重ねたりもしました。(映像を見ながら)この方は、やらない人の一人なんですけど、私は彼と歩くのがとても好きで、彼の歩行を見ていると「日常では感じることがないものを見てる」という気持ちになります。

小島:私にはもうひとつエアロビクスをつくりたいという気持ちがあり、ダンサーの大崎晃伸(通称てるぽ)さんにお願いしました。好きな食べ物を食べるときの動作を見せあって、それを「ギンギラギンにさりげなく」という曲にのせてダンスを構成してくださいました(笑)。

それと即興ダンスをやったんですね。そのことにとても充実感を得たケンさんという人が「てるぽとライブをやりたいからチラシをつくれ」と言ってきて(笑)。急遽1月に「ケンとてるぽ」の名でライブをしました。そんな自発的なことも生まれて、寄り道してよかったと思っています。

「ケンとてるぽ 即興ダンス」2023年 光が丘区民センター6階和室

他にもいろいろな歌をつくって「あっちでがやがや、こっちでがやがや2022」では、「馬喰町バンド」の武徹太郎さん、「つむぎね」の横手ありささん、野田さん、中村桃子さんとつくった新曲3曲をYouTubeにアップしました。

そのうちの『リュックのなかには』という映像を見た。
♪リュックのなかには けいたい電話 はれ あめ ゆき 天気予報 まいあさ テレビ 舞い上がれ〜〜♪

小島:ワークショップ参加の皆さんにインタビューして、その詩をもとに私がまとめて、ずっとがやがやに参加してくれている中村桃子さんが曲をつくってくださいました。

『リュックのなかには』(映像制作:武徹太郎)

山田:希里さんは「リュックの中身は?」っていう題目でインタビューしようと思いついたけれど、最初はプライバシーを覗くようで躊躇があるとも迷っていました。けれど実際に聞き取ってみると、「彼らの日常と生活が具体的に感覚できるものが出てきた」とおっしゃっていましたね。

小島:外に出かけるときに持っていくものだから、自分と社会をつなぐものなんですよね。そこに彼らの社会があり、言葉がワーッと立ち上がってくる感覚もあって、歌にできてよかったなと思いました。みんなで描いた絵を、武さんがつないでアニメーションにしてくれました。また、子供の頃からがやがやに参加し、現在は大学生の中村東子(はるこ)さんの映像による朗読付きバージョンもアップしました。

全体のまとめとして、「こうした活動を通じて参加者は、聞き書きから発表までの間にいろいろなプロセスを経たと思います」と小島さんは語った。

小島:まず質問されてそれに答える、作曲家の手を経て歌になったものを聞く、一緒に歌う、さらに動画になったものを発表して、それを見た人から感想を聞くなど、幾重にも自分の言葉が新しく生まれ変わる時間を、数多くの人と共有し体感できたことはとても意義があったと思います。この全体のプロセスによって参加者の信頼関係が育って、尊厳を尊重し合う小さな社会をつくれたとしたら、それが芸術文化による社会支援と言えるんじゃないかと思っています。

報告を終えた後、ファシリテーターの小川さんからいくつか質問があった。演劇界での活動20年になる小川さんにとって、がやがやは伝説的存在だという。

小川:小島さんは、人生のかなり長い時間、がやがやで何ができるか考えることに費やしているように見えますね。

ファシリテーターの小川智紀さん

撮影:松本和幸

小島:やっているうちに自分なりにこうしたいとか、したくないとかもあって、どうやったらみんなで一緒にいられるかを考えること自体が面白いという感じです。毎回課題は生まれるから、みんなと相談したりするのが面白いですね。

山田:段取りを用意してそうしてもらおうとしても、彼らはやりたくなければ出てきてくれないということが往々にしてあります。がやがやのメンバーとは、一緒に楽しいと思えるポイントを探さないと実現しないんです。

小島:最初の頃、山田さんは、パフォーマンスは舞台に人が出て舞台から人がはけて成り立つものだけれど、がやがやではどうしたら成立するのかわからないって悩んでいましたね。

山田:そうですね。今思えば当たり前なんですけれど、最初から最後までみんなでその場を目撃していることが必要だと思います。通常の演劇の舞台では、出演する人だけが出て、出演しない人は袖で待つようなこともある。でもその構図は成り立たないということがよくわかりました。それで最初からみんなが舞台に上がって、小エリアで区切るように舞台上にラグを敷いて、そこをパフォーマーが座っているエリアだというふうにしたら、はじめからみんなが舞台の上にいるわけだから、やる人は自分がいるところからラグの上にすっと出ていけた。段階を踏まなくても、自分が出たいと思ったらちゃんと出てきてくれる。

表現クラブがやがやの発表 山田珠実さん、小島希里さん

撮影:松本和幸

小川:がやがやでは、音楽やダンスといった体を動かすことに焦点を当てる芸術ジャンルを扱ってきたように思いますが、小島さん自身は翻訳の仕事をされていて「文学の人」というイメージがあります。その両方のジャンルは共通するのか、あるいは異なるのでしょうか。

小島:『リュックのなかには』『ほしいもの』という曲では「作詞:小島希里&WS参加者」として自分の名前も出しました。作詞に関わることができ、私自身の関心とも結びつけることができたのだと思います。

山田:実際はみんなが書いた言葉を、希里さんが編集したという理解ですけれど、どうですか?

小島:聞いたまま書いていると言っても、私の頭を通して書いているので「いえ、私はやっていません。みんなの言葉です」というよりは、踏み込んでやっていると思います。やっちゃいけないことをやっているような気もしたりと難しいところですが、でもずっとやってこなかったことを、ここでちょっとやってみようという気持ちになりました。みんなでインタビューして、それを赤羽さんたちはその場で曲にする特別な技がありますが、私にはその技術がない。だからみんなでやっていると言うよりは、自分がやっていることもきちんと表明して、関与していると言った方が誠実かなと思ったのです。

小川:がやがやの場のつくり方、あるいは場づくりに徹している部分もあるし、あるいは関わり方の技術、あるいは考え方も、20年の中で熟成されて脈々と受け継がれている何かはきっとおありなのでしょうけれど、現場ではそこにいる人たちから生まれてくるものを待って形づくっているのですね。

演劇やダンス、音楽などを通じて、自分の言葉で自分を語ることができる、そんな喜びが体からあふれてくるような舞台。YouTubeのがやがやのチャンネル(https://www.youtube.com/@gayagaya-youtube)をぜひ見てほしい。

(取材・執筆 白坂由里)

第5回「うた・ことば・からだ―多様な人が出会う場づくりの可能性」(中編)に続く


表現クラブがやがや
2003年、練馬区立春日町青少年館が主催する講座の参加者を中心に設立。区内に暮らす知的な障害を持つ人たちを中心に、音楽好きダンス好きが月に一、二度集まり、歌って踊って遊んでいる。そこで生まれた歌やダンスを作品として構成し、年に一度「がやがやライブ」として公演を行っている。

芸術文化による社会支援助成 助成実績


芸術文化による社会支援助成
東京都内で活動する団体を対象に、「社会的な環境により芸術の体験や参加の機会を制限されている人が、鑑賞・創作などの芸術体験を行い、創造性を発揮したり、想像力を豊かにすることができる活動」や「自らの問題意識に基づいて社会課題を設定し、さまざまな人や組織と連携・協働を行いながら、課題解決に取り組む芸術活動」を支援するプログラム。平成27(2015)年度に開始し、平成28(2016)年度からは年に2回公募を実施している。これまでに約150件の事業を支援してきた。「芸術のための芸術」でもなく、また単に「社会の役に立つ芸術」というだけでもなく、これまでにないやり方で社会と創造活動が不可分の状態にあるような新たな芸術のあり方、いわば「第3の芸術」を提起し具体化していく活動を後押ししようとしている。

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