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アーツカウンシル東京ブログ

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ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2024/02/22

シビック・クリエイティブの最先端を探求する展示「Ars Electronica Inspiration」in「Art as Catalystー創造性を触発するアーティストたち」(12月15日〜24日|SusHi Tech Square 1F Space)

2022年10月に渋谷にオープンし、アートとデジタルテクノロジーの活用を通じて、人々の創造性を社会に発揮するための拠点として活動をスタートした「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」。クリエイティブ×テクノロジーで東京をより良い都市に変えることを目指し、さまざまなプログラムに取り組んでいる。その活動を国内外に広く発信し、理解を深めていただくことを求めて、オーストリアのリンツ市を拠点に活動する文化機関「アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)」との事業連携のもと、初のPOP-UP展示「Art as Catalystー創造性を触発するアーティストたち」が開かれました。


「Art as Catalystー創造性を触発するアーティストたち」開催の様子

有楽町駅前の「SusHi Tech Square 1F Space」を会場に、2023年12月15日〜24日のイベント期間中、エキシビション、ワークショップ、トークセッションの3つのプログラムが、来場者のクリエイティビティを刺激する仕掛けとなり、新たなイノベーションの種をもたらしました。本展は、CCBTとArs Electronicaがパートナーとして今後様々なアート×イノベーションの探求を進めていく上でのまさに出発点ともいえるイベントでしょう。

今回はプログラムのうち、2名のアーティストに注目したエキシビション「Ars Electronica Inspiration」の様子をレポートします。

アート×デジタルテクノロジーで社会と呼応するアーティストたち

エキシビションブースには、アーティストの中里唯馬さん、アヌーク・ヴィプレヒトさんの作品をそれぞれ纏った2体のマネキンが出現。本展覧会の企画はCCBTクリエイティブディレクター兼アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表の小川秀明さん、アルスエレクトロニカ・アンバサダーの久納鏡子さん、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボのリサーチャーのデニス・ヒルテンフェルダーさんの3名が手がけました。


左:久納鏡子さん、右:デニス・ヒルテンフェルダーさん

Biosmocking|中里唯馬

中里唯馬さんはファッションに社会的なコンテクストを取り込みつつ、テクノロジーを積極的に活用した作品制作を行っているファッションデザイナー。本展で展示された「Biosmocking」は、Bio Tech企業「Spiber株式会社」とタッグを組んで独自開発されたテキスタイル技術です。度重なる実験と高度なデジタルファブリケーション技術によって、「Brewed ProteinTM」という特殊素材で作られた生地の形状を精密に設計し自由に変化させることが可能となり、衣服にこれまでにない奥行きや身体へのフィット感をもたらすことに成功しました。


「Biosmocking」によるドレス

「ユーザー体験として特徴的なのは、優れた伸縮性のおかげでどんな体型の人にもぴったりの着心地を提供できることです。さらに製造工程においても、予めデジタルで設計した通りの形状に生地自体が収縮するので裁断の必要がなく、廃棄になる端材が出ない点が革命的です」と、デニスさん。


「Biosmocking」を用いることで生地を立体的な形状にデザインすることが可能に

近年服飾業界においても他の産業と同様に、消費的な活動の加速が環境負荷に与えてきた影響を憂慮する声が高まり、生産から着用、廃棄に至るまでのプロセスを見直す「エシカルファッション」や「サステナブルファッション」がトレンドキーワードとして、課題感の共有と実践が試みられています。中里さん自身も、ケニアに赴いた際に現地の手仕事の豊かさに感動した一方で、多くの服飾廃棄物が山積みになっている光景を目の当たりにしてショックを受けたそう。それが「Biosmocking」プロジェクトにつながる原体験になったといいます。ファッションデザイナーとして中里さんが手がけるデザインは、服の形状のデザインにとどまらず、テクノロジーによって服飾廃棄物の削減を目指すプロセスのデザインでもあるのです。

SCREENDRESS|Anouk Wipprecht

アヌーク・ヴィプレヒトさんはオランダを拠点に活動するハイテク・ファッションデザイナーで、ファッションとテクノロジーを融合させてアウトプットを生み出す「ファッション・テック」を得意としています。特に医療分野に高い関心を持ち、エンジニアリングのバックグラウンドを活かして、様々なメディカルデバイスをファッショナブルに纏えるようなデザイン提案に取り組んでいます。


「SCREENDRESS」

本展で展示された「SCREENDRESS」はスクリーンが埋め込まれた3Dプリントドレスで、人間にかかっている見えないストレスを脳波によって可視化することで、本人が言葉にしなくても自身の精神状態を肉体の外部に伝えることができます。


脳波の動きを読み取り、精神的な状態を可視化するアイディア

「人間はストレスがかかると瞳孔が大きく開き、リラックスした状態になると収縮します。そこから着想を得て、頭に装着したユニコーン・ヘッドバンドで脳波の動きを読み取り、ドレスの首飾りから伸びる6枚の円形スクリーンに映し出される瞳孔が、心理的負荷に反応して拡張する仕組みになっています」と、久納さん。


心理的負荷が大きくなると円形スクリーンの瞳孔が開く

メディカルデバイスに付随する不自由でネガティヴなイメージを払拭し、かっこよく楽しく気軽に身に付けたいと思えるような価値転換をファッションの力によってもたらすことができる、というアヌークさんの信念は、病と闘う人や生きづらさを感じている人、そしてそうした人々を取り巻く社会の分断を乗り越え、互いのエンパシーを高めていく一助となるはずです。

より暮らしやすい社会へと橋を架けるイノベーション×アート

「本展で紹介した2名のアーティストはいずれもファッションデザイナーでありながら、志向するのはファッション性を高めるためのデザインではありません。どんなデザイン、または、どんなプロダクトを生み出すと、社会に役立つのか、社会の助けになるのかを考え、実験し、社会に提示し続けているのです」と、久納さん。それはまさに、アートと企業をつなぎながらイノベーションを起こす試みに長年取り組み続けるアルスエレクトロニカの活動と共鳴するものだといえます。


久納さん

「まずはデザインしたアウトプットに興味を持ってもらう。そこをスタート地点にして社会的な課題を一緒に乗り越えていくきっかけをつくるのがアーティストでありアートの可能性ではないかと思うんです」とデニスさん。


デニスさん

一見全く関係のないような技術や関心を持つ人々がイノベーションとアートの融合する場所で出会い、同じトピックを共有しながらモノづくりに参加し、そこで生まれた新たなサービスやプロダクトが社会をより良い方向に導いていく。決してアーティストだけが特別なのではなく、私たち自身も日々の生活の中での気づきやアイディアを、意外な人やモノと掛け合わせることでイノベーションを起こせるかもしれません。そんな主体的な気持ちが奮い起こされ、イノベーション×アートが自分の日常の延長線上に感じられた展示でした。

>イノベーターたちの創造・共創を刺激する2つのワークショップ in「Art as Catalystー創造性を触発するアーティストたち」 (12月15日/16日/17日|SusHi Tech Square)はこちら


Art as Catalyst ‒ 創造性を触発するアーティストたち
会期:2023年12月15日(金)~24日(日)
会場:SusHi Tech Square 1F Space(〒100-0005東京都千代田区丸の内3丁目8-3) 
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
事業連携:アルスエレクトロニカ
後援:オーストリア文化フォーラム東京、日本経済新聞社
公式サイト:https://ccbtx.jp/


撮影:田中雄一郎
取材・文:前田真美

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