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DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング

今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。

2018/05/09

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(2)AKIKO(上野暁子) 氏

2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(2)
株式会社 LAST TRAIN GETTER 代表取締役 AKIKO(上野暁子)氏
インタビュアー:アーツカウンシル東京、宮久保真紀(Dance New Air チーフ・プロデューサー)

(2016年12月6日)


–日本のストリートダンスを取り巻く状況はここ数年でも大きく変化していますね。
AKIKO:今はシーンが細分化しています。ヒップホップ※1 はヒップホップのダンサーが、ハウスはハウスのダンサーがイベントやパーティーを作っています。昔に比べたらダンサーはダンスイベントを企画し、一部のダンサーがクラブカルチャーのシーンとリンクして、それぞれの活動を広げている印象を受けます。ヒップホップはラップやストリートダンサーと一緒にイベント等を開催し、私は比較的、ハウス寄りで活動しているのですが、ハウスの場合は、ダンスミュージックというクラブカルチャーから生まれた踊りでもあるので、音楽シーンの方たちとの交流もありました。ブレイキン含めバトルのシーンでは世界規模のコンペティションがここ10年ぐらいで一気に増えましたね。

世界大会に行って、チャンピオンを獲ったとしても一時的なものというか、一過性のものであって、その後の保証があるわけでもなく、常にチャレンジし続けなきゃいけないという現実があります。

–現在の状況において課題と感じていることはありますか。

AKIKO:今の問題点ということで言うと、ダンスが上手くなってもここまで大きくなったダンスシーンに対して、ダンサーの活躍する仕事=現場がまだまだ少ないことです。ダンスが上手くなって、世界大会に行って、チャンピオンを獲ったとしても一時的なものというか、一過性のものであって、その後の保証があるわけでもなく、常にチャレンジし続けなきゃいけないという現実があります。
ダンサーによる主催事業が多いこと、スポンサーが取りづらい、バトル観戦ファンが少ない、プロとアマチュアの明確な差がないなど?でしょうか。バトルでは初めて500万円の賞金が出るイベント※2 が実施されましたが、大会自体が継続されるものではありませんでした。
ダンサー、所謂、ダンス業界の人は知っているけど、一般人がダンサーを知る機会は少なく、芸能人的な存在、例えば森山未來さんのように、芸能人的な存在のレベルまでいかないと、、金銭面で潤うのは難しいかもしれなれないですね。

※1 ストリートダンスにおけるジャンルの省略名称。ヒップホップ→ヒップホップダンス、ハウス→ハウスダンス、ブレイキン→ブレイクダンス
※2「STREET KINGS」のこと。LDH JAPANが主催するプロジェクト Dancer’s PRIDE のイベント。18歳以上のストリートダンサーを対象にしたダンスバトル・トーナメント(予選通過者とシードのBEST32による)。上位16名から賞金が発生する(優勝250万円、準優勝100万円など)

–そのような現状のなかで、ダンサーの生活の実態とはどのようなものでしょうか。

AKIKO:基本的にはみんなダンススクールでのインストラクターもベースにしている人たちが多いです。レッスンが生活の基盤になっているダンサーが多く、その他には振り付けやライブ演出、バックダンサーの仕事があります。バックダンサーが職業として定着してきたのは荻野目洋子さんの時代ぐらいからですかね。その後、TRFや安室奈美恵、DA PUMPなどでダンサーの需要が増えた印象があります。今はアーティストのライブの規模によって(バック)ダンサーの出演料の金額の幅は広いと思います。1公演3万円程度から、最高金額としては10万円程度が現状ではないでしょうか。
2000年代前半にダンス未経験者に向けたダンススクールが増え、それに伴い技術がそこまで高くないダンサーであってもインストラクターとしての需要が増えるという、誰でもダンスが教えられる風潮が発生した時期があります。
ショーを軸にしたシーンでは、コレオナンバー ( 振付作品 ) が圧倒的に増えています。気軽に発表会に出られるような感覚だと思います。大きな会場で開催されるものもありますが、クラブとか小さい箱でも行われていて、出演者がノルマを払って参加することで成り立っているイベントが増えました。作った作品が生徒だけで一人歩きすることもあると思います。勿論、イベント=主催者によって、クオリティは様々ですが、コレオナンバーが50以上も羅列されるなど、ダンス人口は増えていると思うので、上手い人も多くなったと思いますが、上手くない人も出ています。
そうなると、自然と良いものも埋もれてしまう様な、作品の価値や芸術性よりも、ダンスコミュニティの発表の場として活用している団体が多くなったと感じます。コレオナンバーの増加に伴い、チームで活動するダンサーが少なくなりました。

普通に(外見を)見て、かっこいいなと思われて、ダンスやったらピカイチというような、そういう感覚のダンサーが増えていってほしいなとは思うので、そういうこととかを可能にできるような環境にはしたいなと思うんです。

–今後、ダンサーの創造環境はどうなっていくとよいでしょうか。

AKIKO:私はやっぱり作品の価値を、誰でもできるものではないものにしていかなきゃいけないとか、つくる人たちが特別な環境にしっかりと身を置いて、作品に取り組めるとか、創作活動がよりやり易い環境になったらいいですね。
普通に(外見を)見て、かっこいいなと思われて、ダンスやったらピカイチというような、そういう感覚のダンサーが増えていってほしいなとは思うので、そういうことを可能にできるような環境にはしたいなと思うんです。その一つとして、社会ともっとリンクしていくべきだなと思うんですけど。今は行政と町興し的なイベントで発表する場を作るとか、企業イベントで今までは伝統芸能や芸能人が出演していた現場にダンスコンテンツを入れていくことにチャレンジしています。

–「ASTERISK」※3 の立ち上がりの背景について教えてください。

AKIKO:立ち上げに携わったジールスタジオが主催していたダンスのイベントとして、私が2001~2015年迄、「WORLD WIDE」※4 という、ダンスのショーに特化したイベントをプロデュースしていた時期に、KAATで開催されたフェスティバル立ち上げのメンバー候補として名前が挙がり、パルコの中西さん※5 に出会いました。
「WORLD WIDE」では、アーティストのライブの演出をアーティストとダンスディレクター(=ダンサー)が相談し、バックダンサーのオーディションをやりました。当時、再デビューをした時期の三浦大知さんに会って、「この人は素晴らしいアーティストだ」と思って企画したコンテンツです。アーティストの後ろで踊れることも経験でき、多くのダンサーに参加してもらう事で、アーティストのファンにもなってもらえたら嬉しいですし、いろんな人が幅広く参加できるような仕組みを作りました。振付がよければ、そのままライブで採用して頂く。ライブで使用して頂けた場合は振付料を別途お支払いして頂くという仕組みです。アーティストの方たちに、演出や振り付けをプレゼンする機会にもなり、SKY-HIさんなどは、その後バックダンサーに起用して下さいました。
また、ディレクテッドナンバーという企画を作りました。「ダンス+α」で、ダンスと何か他の文化を繫げよう!という企画です。ポップ(ダンス)は筋肉を弾く様に使いますが、そこにハマると、どんどん思考が狭く、よりマニアックになっていくんですね。一般の人に分かり難くなってくるということを痛感して「わかりやすくてカッコイイって何だろう?」と思った時に、自分自身経験していたアクロバットは?という発想になり、「ダンス+新体操」を企画し、BLUE TOKYO(以下 BT)が生まれました。
クラブイベントのショーの延長にある興行に一番近いのは舞台だと思うので、(ストリートの)ダンサーの次のステップは舞台(作品)だと思います。ただ、ストリートダンスを代表するヒップホップというカルチャーには、今までに誰もやったことがないことをやって初めて認められるところや、所謂オリジナルであることが重要なんですよね。なので、今までの既存の舞台という概念を覆す様な興行でストリートダンサーが成功出来たら嬉しいですね。
…(「DANCE DANCE ASIA」の立ち上がりの前に)中西さんから「エポックメイキングな企画書、お待ちしています」というメールがさらっと送られてきました。エポックメイキングな企画書って何だろうと思って(笑)。ということで、「ASTERISK」の企画書を作りました。5分~10分程度であれば、印象に残る瞬間が作れます。作り方はシンプルでシルク・ド・ソレイユの様に、1つのシーンを各振り付け師が担当し、ストーリーテラーやクラウン的な存在のメインキャストがシーンを展開していきます。そこには「WORLD WIDE」にゲストで出演してくれていた DAZZLE や東京ゲゲゲイ、梅棒、他にもシッキン(S**t Kingz)やBTも含めて声をかけたのが 10団体だったかな。ストーリーでシーンを繋いで形になったのが「ASTERISK」という舞台作品でした。

※3 ASTERISK:「その時代に輝く最高峰のダンサーで作り上げられる進化系ダンス・エンターテイメント」2013年、2014年には長谷川達也 (DAZZLE)、2015年、2016年には牧宗孝が演出を務める。(参照:http://asterisk-web.net/
※4 DANCE ENTERTAINMENT PARTY WORLD WIDE DANCE COLLECTION:株式会社ジールワールドワイドが主催する、「ダンスエンターテイメント」の開拓を掲げた大規模なダンスイベント。2016年1月開催(於:東京ドームシティーホール)は、2日間で約8000名近くの動員を記録とのこと。
※5 パルコ・エンタテインメント事業部プロデューサーの中西幸子氏

–LAST TRAIN GETTER がマネジメントされている BLUE TOKYO※6 との出会いについて教えてください。

AKIKO:一番、ダンスに近い体操って何だろうと考えたら、男子新体操だったんですね。友人から新体操経験者の知り合いを紹介してもらう機会があったので「ダンスとかに興味を持ってくれる様な(新体操の)監督、誰か知らない?」と相談したら、青森山田高校※7 の監督、荒川栄先生を紹介してもらったのが始まりです。全国優勝を何度もしている名門校でもあったので、初めて挨拶する時はかなり緊張したのですが、、、、巡り会っちゃいましたね、新体操界の異端児に。(笑)青森山田高校の生徒と関わる様になって、彼らの純粋無垢な笑顔とキラキラした眼差しに心を打たれて、「この子達が活躍できる社会を創りたい」と思っちゃったんですよね。なにかを覚悟した気持ちになり、そこからBTの組織が構築され始めます。

–ストリートダンスは、スタジオができたから習いに来る人が多かったのか、習いたいという人が多かったからなのか、どちらなのでしょうか。

AKIKO:一般の人が通い易い環境のダンススタジオが増えたので、習いたい人が多くなったのだと思います。2000年頃かな、ダンサーがダンサーにお金を払って、レッスンが成り立っているだけでは、シーンが広がらないと思った瞬間があり、社会がダンサーにお金を払えばダンサーはもっと潤うのに・・・と考える時期がありました。
同時期に、個人で主催していたイベントにスポンサーの相談がありました。20歳そこそこの小娘がやっている企画書もないイベントを会社が相手にする訳もなく、そんな現実を突き付けられた時に、パソコンに向き合わなくてはいけないと思いました。同時期にジールスタジオの立ち上げとイベント企画(=「WORLDWIDE」)を相談され、スタジオ経営に関わる事になりました。
ジールは初心者をターゲットにしているので、レッスンを定額でいくつも受けられる受け放題システムが導入され、それが広がって、垣根(習い事としてのダンスのハードル)を下げたというか、一般の方が入り易いスタジオが確立されていきます。それに伴い、イベントに遊びに来る人もダンサーからダンス愛好者=一般に近い人たちになって、社会人も参加できるようなダンスシーンになっていったというのは、大きな成果だったと思います。一般の人が通い易い距離感のダンススタジオが増えたので、習いたい人が多くなったのだと思います。
…(90年代後半に)大きさ的にはDuo Stage BBsとかShibuya O-EASTとか、1,000人~2,000人入る会場(クラブ)でイベントをやっていました。今はダンサーがプロデュースすることも普通になってきていますが、これはいいことだと思います。私が始めた当時は、オーガナイザーって言ったら DANCE DELIGHTの原田さん、MAIN STREETのRAHAさん、SMOKIN GARAGEの松井さん、青山ナイトのSHOJIさんしか知らなかったから。チームや個人で会場借りて、呼びたいダンサー呼んで、毎日の様にイベントが成立しているこの現状は、20年前は考えられなかったですからね。「ダンス、どうやってイベントやるの?」というような、そんな状態でしたから。

※6 BLUE TOKYO:所属メンバーは12名。青森大学・青森山田高校男子新体操部出身のアクロバットプロパフォーマンスユニット。個人、グループとて国内アーティストのサポートパフォーマーや舞台公演など多方面で活躍中。現在、海外では2名が Cirque du Soleil メンバーとしてラスベガス常設ステージにて出演中。(出典:http://www.bluetokyo.jp/about/
※7 青森山田高校(学校法人青森山田学園):青森県青森市にある高等学校。2018年に創立100周年を迎える。体操部および吹奏楽部の活動が活発で、学外派遣なども行っている。昭和42年に体操の同好会からスタート。男子新体操部は昭和57年に尾坂雄右氏(現総監督)の就任とともに設けられ、以来34年間で28回の団体全国優勝、15回の個人全国優勝という実績がある。2002年から二代目監督に就任した荒川栄氏はこれまでの伝統に加え男子新体操を世界のスポーツにするべく「追求心」と「進化」を掲げ新しい体操の構築に取り組んでいる。(参照:http://www.aomoriyamada-hs.jp/

–最近のスタジオ運営について。

AKIKO:現在、テーマパークにBTのメンバーも含め、アクロバットパフォーマーとエアリアルダンサーをキャステイングしているのですが、洗足池にあったエアリアル(空中パフォーマンス)のスタジオがオーナーの高齢化でクローズし、練習場所が無くなってしまうと相談を受けました。同時期に渋谷のレンタルスタジオ missionの立ち上げに協力していましたので、オーナーに「ついでに(笑)エアリアルの出来るスタジオも作って下さい!」と相談し、地下にエアリアルの練習場所を作ってもらうことが出来ました。そしたら運営をしなくてはいけない事に。「うそー!(笑)えっ!会員規約とか、レッスンプログラムとかも・・・はい。そうですよね~。」みたいな始まりでしたね。でも、講師も頼り甲斐のある同世代で、というか芯のある出来る女子達なので、色々ハプニングはありますが、今では、新人の育成まで出来る環境になって来ました。エアリアルとBTでコラボして、空中を彩るアクロバティックなショーを体感出来るライブフルな空間作りを考える機会になり、結果、エアリアルとの出会いでエンターテイメントの意識と感覚が広がりました。

–ダンスのインストラクターの仕事や、ダンス検定※8 についてはどうお考えですか。

AKIKO:ダンスインストラクターという現場もダンスシーンではあるんですが、お稽古ごとのピアノの先生と変わらないところもあると思います。逆に言ったら、教えが上手ければ誰でもできてしまうのが日本のシーンの現状でもありますね。
…体操などの競技は倒立や規定(演技)があるから理解出来るのでですが、(ストリート)ダンスはどちらかというと、文化やアート、エンターテイメントの世界だと思っています。基準云々ではなくて、好き嫌いなんじゃないですかと。(規定どおり)できてたって、かっこ悪かったらかっこ悪いと思うし。そう思うところがあるので私は興味ない派ですが、社会にとって必要であれば良いと思います。

※8 ストリートダンス検定:JSDA |日本ストリートダンス協会の行うダンススキルの検定。HIPHOPとJAZZに分野が分かれており、それぞれオープンからインストラクターまでの7段階の受験レベルがある。参照:http://jsda.info/exams/

学校にきちんといいダンサーを派遣するための、(公的な)助成金がある、ということがあれば、できるだけそれを生かしてみたい

–ストリートダンスの人々が作品を創り出して、ホールを使って活動するようになったことは、バトルだったり、クラブでやっていたものとは違う何かを見せるんだという志向が出てきているのでしょうか。

AKIKO:バトルの子たちの殆どは、舞台(創作)のシーンには来てないと思います。バトルばかりで見向きもしないじゃないですか。スタジオは発表会をホールでやるので、発表会のようなショーをもうちょっとクオリティ高くやってみましたという舞台作品が一時期増えましたよね。クラブからホールに行ったのではなくて、どちらかというと、スタジオの発表会が公演になったというような、そっちの進化なのかな。

–「DANCE DANCE ASIA」※9 の制作に関わられるようになって、アジアのストリートダンスシーンについてはどのようにお考えですか。

AKIKO:特に東南アジアで私がすごく感じたのは、命がけでダンスやっている生き様です。もう子供たちを食わしていくためにはダンスするしかない。そうじゃないとみんな直せない病気で死んでいく、そういうことが背景にあることも感じました。カンボジアはフィリピンより更に感じました。ダンスの世界大会でチャンピオンになった男の子がベトナムにいるんですが、全然ベトナムで活躍できないのはどうしてだということを日本のダンサーに相談してきたんですね。相談されたダンサーは「日本国内でバトルに出たけど、全然認められなくて、海外のバトルで認められるようになったら日本での見方が変わったんだ。だから、君も1回であきらめないで、2回も3回もどんどんチャレンジするんだよ」という話をしましたが、フィリピンの子が海外でバトルに出る為の渡航費を稼ぐには3年間バイトをしないと資金が作れない現状だと知らされ、生活水準のレベルの違いは大きいなと思いました。
…(フィリピンとベトナムだと)動きとかも何か違いました。フィリピンはアメリカっぽいなと思ったけど、ベトナムは確実にフランスだなと。植民地などの歴史的な背景もあると思うんですけど。アメリカはどちらかというと、よりライブに近い感じ。フランスのほうが舞台芸術に近いというのかな。分けるとしたらね。分け方が正しいかわからないですけど。
…カンボジアでちょっと感じたんですけど、体育(教育)がないところに音楽、ダンスを広めるって難しいかなと。

※9 DANCE DANCE ASIA -Crossing the Movements:国際交流基金アジアセンター、株式会社パルコによる主催・企画。2014年に立ち上げられ、アジアのストリートダンサーらを軸にして舞台作品の共同制作を行うプロジェクト。http://dancedanceasia.com/

–教育の現場についてダンスはどのように関わっていけるでしょうか。

AKIKO:学校にダンサーを派遣するための、(公的な)助成金があれば、できるだけそれを生かしてみたいと思いましたね。自分の母校だったら教えたくなるじゃないですか、そう思うダンサーが母校に恩返してあげられる仕組みができたらいいなと思います。
–ダンスフェスティバルの可能性はどのようなところにあると思われますか。
フェスティバルはいろんな方が参加出来る環境があるといいですね。例えば、代々木公園だったらバスケとかもあるし、英語でダンス&英語でバスケ、一緒にやっちゃおうワークショップとか。ダンスにちょっとプラスアルファを繋げていけれるようなコンテンツがもっとあってよいと思っています。子供たちが遊べる(仕組み)。例えば絵が得意なダンサーでもいるので、音楽と絵で遊ぶとか、工作しながら楽器使って遊んでみるとか。青空の下で、ダンサーとダンス愛好者(様々な)人が集まれる場所があったらいいななど。世界のいろんな楽器に触れながら、街とアートがコラボする、ダンサーがそういうところに自然に繋がっていく。あそこの展示会で踊ってくださいとか、そういうリアルなコネクションを広げていく交流や作業が増えたらいいなって思います。

外の世界も見れるようなきっかけや、そのための知恵と方法をざっくばらんにお話ししていただけるような環境があると嬉しい

–あったらよいと思う公的支援などはありますか?
AKIKO:何を支援するのか、何をやるのがいいのかという点で(言えば)、エンターテイメントをつくれる仕組み(があると良い)。ダンサーがダンス(=自分の仕事)に集中出来るエンターテイメントの環境や、センスを仕事として生かしていけるような機会が増えていったら、ダンサーが生きていける。外の世界を見れるような機会や、その為の知恵と方法をざっくばらんにお話ししていただけるような環境があると助かるかもしれません。

–ダンサーのキャリア形成についてどうお考えですか。

AKIKO:今、何しろ将来の見本になるダンサーの像が無いというのが問題だと思っています。将来の希望、夢が無い。夢が無いというか、例えば野球選手ならイチローみたいになりたいというのは、今ダンサーだと森山未來とかになるわけですか?となるじゃないですか。ストリートダンサーだと誰なんだろう。お金をきちんと稼げているとか、影響力が出せているとか、一般社会から見ても有名なストリートダンサーがいないのは、力が及んでいないことがまず悪いんですけど、それをつけていく環境が無いこと。常に開拓なので、見本が無い。あれば真似できますけど、できない以上はチャレンジしていくしかないから、切り拓いていくためのアイデアとか、そのアドバイスがエンターテイメント界で成功している経験者からあれば助けになります。機会があれば、応えてくれるダンサーはたくさんいる思います。
…やっぱりダンサーってダンスしか見ない人が多いんですよ。その目をちょっとこう、ファッと外の世界も見れるようなきっかけや、そのための知恵と方法をざっくばらんにお話ししていただけるような環境があると嬉しいです。

カンボジアで感じたんですけど、体育が無いところに音楽、ダンスを広めるって難しいなと。音楽も体育も美術も無いという学校が多い地域に、ダンサーのセカンドライフじゃないですけど、最低限の賃金を保証して、エンターテインメントやダンス(の教え)を届けられる。音楽とか美術とかアートまでも学べるような、場所や機会を作れたら

–これからどのようなヴィジョンをお持ちですか。

AKIKO:それはダンス業界に限らず全てにおいて言えるのかもしれないですが、才能の適材適所を見極め、役割分担をつけて、みんなで仕事を成功させたいですね。企画、運営、制作含め、ダンサーのセンスが活かされる仕事を、そして不得意なところは補い合える環境をつくっていけられたらとは思っています。
助成金や地域の事業など、社会の仕組みや事業を知らないことで損していることがある気もします。
…夢というか、何かちょっと盆踊りを復活させるような感じで、そこに提灯とミラーボールがあってもいいかなぐらいの感じのテンションですね。楽しく踊る。音楽を踊るということが、自然な距離感で地域にあってくれたら嬉しいですね。
…オリンピック終了後、助成金が無くなるのが確実にわかるので、それまでにその後の環境をどこまで作っておけるのか、というのが課題です。
…カンボジアで感じたんですけど、体育が無いところに音楽、ダンスを広めるって難しいなと。音楽も体育も美術も無いという学校が多い地域に、ダンサーのセカンドライフじゃないですけど、最低限の賃金を保証して、エンターテインメントやダンス(の教え)を届けられる。音楽とか美術とかアートまでも学べるような、場所や機会を作れたらいいですね。
(国際交流基金アジアセンターの日本語講師派遣は)基本的に日本語教師のアシスタントで、プラスアルファの時間は自分特技を、その土地に広げていく、日本の文化として広げている活動にご協力くださいという仕組みのアジア派遣というのがありますよね。あれをカンボジアの人に聞いたら、「AKIKOさん、これ、これ」みたいな。これはいいと思ったんですよ。でも、派遣する前にこういう仕組みでダンスシーンをつくっていきましょう、というのをしっかりと相談して、送りこまれた人が困らない環境はつくらなきゃいけないので、そういった(環境)つくりを一個一個、挑戦してみようかなと、現実的なこと考えたり、でもその壮大さに頭が真っ白になったり。

人間を、フラットな目で見れる人間が育つのではないかと。自分の出来る事、得意な事を見つけ、それで更に仕事が生まれるとか。そういったエネルギーがダンスのもつ強みなんじゃないか

–ダンスの強みとは何でしょうか。

AKIKO:経歴とか職業とかを全く度外視にして、心を豊かにするのはダンスのもつ強みだと思います。作品を創る場合、それに対して全員がいい作品になる様に参加しなきゃいけない。できる子ができない子に教えなきゃいけないし、できない子はできる子に感謝しなきゃいけないし、教わったからお礼をするとか。完璧に出来る人はいなくても、出来る限り努め、出来るだけ人間を、フラットな目で見れる人間が育つのではないかと。自分の出来る事、得意な事を見つけ、それで更に仕事が生まれるとか。そういったエネルギーがダンスのもつ強みなんじゃないかなと。


AKIKO(上野暁子)
株式会社LAST TRAIN GETTER 代表取締役 ストリートダンス・プロデューサー
小・中学時代に日本舞踊、体操競技に携わり、高校卒業からダンスを始める。ハウスダンス草創期から、ハウスダンスを軸にジャズダンスとアクロバティックなフロアームーブを得意とし、現在でもパフォーマー(CARNIVAL)、インストラクターとして活動中。日本女性ハウスダンサーのLEGEND的な存在になっている。個としてのダンサー、豊富な人脈を伴うダンサーという枠に留まらず、ダンスシーンをより具体的に社会に発信する為に、株式会社を設立し、代表取締役に就任。企業イベントや、CM・MVのキャスティングを手掛け、1998年より続くストリートダンスのポータルサイト「トウキョウダンスマガジン」の運営など、常にダンスシーンの先端を構築し続けている。http://ltg.co.jp


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