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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/10/06

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(13)大森瑶子氏(振付家・ダンサー)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

大森瑶子氏(おおもり ようこ/振付家・ダンサー)


2019年に日本女子体育大学を卒業して、今は自分で作品をつくって発表しながら、他の方の作品に出演したり、ダンススクールの発表会で振付したり、「バブリーダンス」の振付で知られるakaneさんの会社〈アカネキカク〉に所属して、CMに出たりアシスタントをしたりしています。2019年に「横浜ダンスコレクション」で賞をいただき、2020年には受賞者公演をさせていただきました。劇場のほかは、クラブイベントでも作品を発表しています。
大学時代は、学内で作品をつくって発表する機会がいっぱいあったので、そこで作品をつくる練習をした感じです。良い同期に囲まれていて、一緒に作品をつくったり作品を見て影響されたりということが私の中でたくさんありました。


『ERROR』(DANCE×Scrum!!! 2020)
撮影:bozzo

どんなダンスをつくっているのか聞かれたら「フリースタイルのダンスだよ」と

KENTARO!!さんの〈東京ELECTROCK STAIRS〉というカンパニーを見て、「あ、ダンス、したいかもな」と憧れました。単純にダンスがすごいと思ったんです。それもあって、自分で作品をつくるときは振付の強度や個性に重きを置いています。作品をつくるときにまず考えるのは、コンテンポラリーダンスを知らない人にも純粋に楽しんでもらいたいということです。だから自分が表現したいことをそのまま作品にするというよりは、もう少しエンタメ寄りというか、お客さんの興味のフックになるような振付や演出を取り入れるよう、意識してつくっています。
クラブイベントで踊っているダンサーとコンテンポラリーダンスの間に、確かに温度差は感じます。でも共通している部分はあると思うので、そこの境目をもっとなくして繋いでいくかけ橋になりたいです。来る客層も劇場とは全然違うので、そういった場でコンテンポラリーダンス寄りの作品を見せることで、何か新たなきっかけが生まれるのではないかと思っています。
どんなダンスをつくっているのか聞かれたときに、私は「フリースタイルのダンスだよ」と答えています。色々な形を崩してつくっていくというイメージで、伝わりやすくなる感じはありますね。

コンペティションは自分の作品を見つめ直す機会

今私に一番足りないと思っているのは、作品の重厚感です。作品性がまだ弱いために、ただ踊っている場面が多いように見えてしまっていて。ダンスとしての単純な面白さを残しつつも作品性があるものをつくれるようになることを目指しています。そのためにも、テーマの部分を深める方法を探っていきたいです。
他のダンス作品を見て演出面を勉強しなくてはならないのはもちろんなのですが、それだけではなく、私は日常の感度をもっと上げていかないとダメかなと思っていて。ダンス以外のトピックにも敏感になって、気になったものはすぐ調べて勉強して、人と触れ合うことと同じくらい1人の時間でじっくり考えることも、作品をつくるうえで大事なのかなと。
またコロナ禍になってから、ダンス作品の映像をSNSにアップする人が増えて、私も色々なジャンルのものを見ました。時と場所を選ばないで見せることができるので、自分のダンスを知ってもらうためには良いのかもしれないです。誰かの目に触れて「あ、こういうダンスをつくっているんだ」と知ってもらえれば、次のきっかけにもなり得ると思いますし。TwitterとInstagramを使っていますが、確かにそれが大きな情報源になっているので、私自身もう少し活用していかなくちゃと思っています。ただ、映像があふれすぎていてうんざりする部分や、実際の劇場やイベントに足を運んでもらえなくなったらという心配も、正直あるので、バランスなのかもしれませんね。
ダンスがみたい!新人シリーズ」「横浜ダンスコレクション」「SAI Dance Festival」といったコンペティションに出したことで、作品をつくる力が養われました。審査員の方や振付家の方から作品に対する意見をいただけて、「自分はこういうつくり方で、ここが足りていないんだな」とか「こういう見方をされているんだな」と知ることができたのは、本当に良かったです。自分の作品を見つめ直し、次はどうつくっていこうかと考えることに繋がって、有意義な有り難い機会だったと思っています。ただ、賞を取ること自体に大きな意味があるかというと、私はあまりそのように考えていません。自分の力不足のせいもあると思うのですが、受賞の後うまく自分の活動を次に繋げていけなくて、それで終わりになってしまいました。
北尾亘さんが主催している「DANCE×Scrum!!!」も、作品を発表する場としてとても有り難かったです。お金は出ないですがスタッフを用意してくださって、あうるすぽっとという大きい劇場で舞台演出も使えて。本番までの間に2回スタッフ見せがあって、そこでアドバイスをいただけたことが、すごく自分の中でプラスになりました。そしてお客さんから「あの時の作品見たよ」と声をかけられることもあって、見ていただけた実感がありました。


『かませ犬』(SAI DANCE FESTIVAL 2018)
撮影:bozzo

本来自由で何をしても良くて、変な作品もどんどん出てきても良いはずなのに、実際にはあまり生まれていないような気がする

ダンスだけではない、全然違う業界の方のお話を聞けるような講座や機会があれば、とても役に立つし有り難いです。自分の視野を広げ、いわゆるダンスの世界だけではない、外の人と繋がりたいと最近切実に思っています。別にコンテンポラリーダンスの世界に失望しているわけではないのですが、公演を見た知り合いから、あなたの作品は日本のコンテンポラリーダンス界よりももっと他に面白がってくれる人がいるのではないか、と言われたことが気にかかっていて。
私の勝手な思い込みかもしれませんが、コンテンポラリーダンスはこういう作品でなくてはいけないという概念や共通認識がなんとなくあるのではないかと感じることがあります。本来自由で何をしても良くて、変なつくり方をした変な作品がどんどん出てきても良いはずなのに、実際にはあまり生まれていないような気がして。たとえばお笑いは第7世代とか言って、色々な笑いが生まれ受け入れられ、更新されていますが、コンテンポラリーダンスにはそういったことがないように思っています。もっとも、私自身もできていないのですが。
次の作品はまず、グループではなくソロでやりたいなと考えています。そして、1回振り切って要素が余りにも多すぎるダンスを作ってみたいんです。「踊りすぎ」「曲使いすぎ」とたまに言われることがあって、要素が多いと安っぽくなるかな、取捨選択して少なくした方が良いのかなとも考えていたのですが、でも待てよ、その前に一度真逆のものを、「今何が起きて何を見たんだろう」と思うくらい濃いものをつくるのに挑戦してみたいかもしれないと思い始めて。もっと技術が必要で簡単ではないとわかっていますが、失敗してもいいから捨て身で挑んでみようと思います。

コンスタントに発表できる場を自分で探していきたい

私は、すごくダンスが踊れる振付家になりたいです。そしてつくった作品は、発表してそれっきりというのも悲しいなと思うので、できる限り再演はしていきたくて。作品をブラッシュアップして発表する機会や場をいただけるなら、ぜひやりたいです。
同時に新作も、コンスタントに発表できる場を自分で探していきたいです。特に今後は人の企画に乗っかるだけではなく、自主公演など、自分から活動を積極的につくり出していこうと思っています。横浜ダンスコレクションの賞で初めて海外のハンガリーのフェスティバルで踊らせていただいた時、誰も知らない中で発表することが、怖いけれどすごく楽しかった。だから、そろそろ全然知らない人たちに向けて作品を発表することにも取り組んでいきたくて、これまでやったことのないところで公演することも視野に入れようかなと考えています。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京



撮影:高橋萌登

大森瑶子(振付家・ダンサー)
1996年生まれ。幼少の頃よりクラシックバレエを習い、中学・高校の部活で高橋萌登(東京ELECTROCK STAIRS)にヒップホップやコンテンポラリーダンスを師事。SAI DANCE FESTIVAL 2018にて審査員賞受賞、横浜ダンスコレクション2019にて最優秀新人賞、タッチポイントアートファウンデーション賞受賞。2019年にはハンガリーにてソロ作品を発表。現在はソロやグループ作品などの創作に取り組む。
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