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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/11/09

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(14)田村興一郎氏(振付作家・ダンスアーティスト・DANCE PJ REVO主宰)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

田村興一郎氏(たむら こういちろう/振付作家・ダンスアーティスト・DANCE PJ REVO主宰)


振付作品をつくりながら、一般向けワークショップの企画開発や子供を対象とした育成プログラムなど、ダンスを使って幅広く活動をしています。前者の部分を「振付作家」、後者の部分を「ダンスアーティスト」と名付け、両面での活動展開を大事にしています。
以前は京都を拠点にしていて、密で骨太なコミュニティのなかで作家として修行し、考え方を構築してきました。このコミュニティのなかで分け隔てなく作品のことを話し合える関係は、現在の活動にもとても活きています。ただ今振り返ると、関西は東京に比べるとコンテンポラリーダンス活動をしている人口が少なくて、多数のダンサーと踊りたい僕には少し不向きだったのだと思います。仕事で東京と京都を往復するなかで次第に関東のダンサーにも声をかけるようになり、やりやすい環境が関東で浸透してきた2019年頃に、拠点を横浜と東京に移しました。

コロナ禍でクリエーションや舞台に対する考え方が大きく変わった

2011年に〈DANCE PJ REVO〉というカンパニーを立ち上げました。これまでの10年間は同じメンバーで長期的に活動するのではなく、作品ごとに異なるダンサーに向き合い、メソッドもダンスの質もコンセプトもその度に変えながらつくってきました。でも2021年度からは、同じメンバーでしばらくチームを固めて活動してみようかと考えています。色々な作品を繰り返し練習して時間や関係を構築する大切さを知ったうえで、そのまま同じメンバーで続けていく方が良いのか、それともその都度色々な人とやっていく方が良いのか、改めて見極めたいと思っています。
コロナで半年以上舞台がなくなり、それまでの当たり前が当たり前でなくなったことは、自分の活動を見直すきっかけになりました。今までは結果に固執するあまり、先のことばかり考えて、生き急いでしまっていたようなところがありました。高い頻度でフットワーク軽くやっていることが自分の自信になっていて、実際に活動も数珠つなぎ式に繋がっていたのですが、コロナでその活動リズムが崩れた途端、自分のモチベーションがわからなくなってしまって。改めて振り返ると1ヶ月に1本面白い作品をつくるという頻度自体に優越感を持っていたのかもしれません。それによってダンスを楽しむという根本的な部分が薄くなって、ザ・仕事みたいな感じでこなしていたかもしれないと、反省しました。
コロナによる空白の時間を経て、舞台という時間そのものや、人と向き合うことの大切さを実感したことで、クリエーションや舞台に対する考え方が大きく変わったように思います。以前は賞を取りたいとか、どこかの劇場に呼ばれたいという私利私欲のようなことが最優先だったのですが、今は結果以上に過程を大切にするようになりました。クリエーションでは今までとは違った工夫をすることで、ダンサーに「また一緒にやりたい」と言ってもらえるような関係づくりを目指しています。そして舞台では何よりもお客さんとのコミュニケーションが大事、良いも悪いも全部含めてやりとりすることを、今一番求めています。

若手の振付家が集まるフェスティバルやオムニバス公演がもっとたくさんあると良いのでは

主催公演は、やれて2年に1回です。DANCE BOXでのアソシエイト・カンパニー公演の時は十分な制作費サポートを受けられたので、助成金頼みにならず助かりましたが、それ以外の公演企画は基本的に赤字で、負債を抱えることもよくあります。助成金はいつ採択されるかわからないし、採択されても振込は事業後になることが多いので、予算も実績もない最初はかなりきつかったです。お客さんを十分に呼べる告知力もまだないので、身の丈に合わないことをやっているのかなと悩むこともたくさんありました。でも集客できるようになるには、こういう経験を繰り返していくしかないかなと思って、今も継続しています。
3年前になけなしのお金を叩いて東京で主催公演を行ったのですが、他の人気公演と日が重なってしまってお客さんが全然入らなかったことがありました。この苦い経験から、10分でも20分でも短い尺で良いので、若手の振付家がたくさん集まって自由に作品を上演できるフェスティバルやオムニバス公演がもっとたくさんあると良いと思うようになりました。実際「横浜ダンスコレクション」や「DANCE×Scrum!!!」のように一度に何人もの若手が自分の作品を発表する公演には、それが好きな人がたくさん集まります。ただそのときに、お客さんを飽きさせない工夫は必要だと思います。鑑賞に集中を必要とするコンテンポラリーダンスの作品を、長時間何本も観るのは結構疲れてしまうことだと思うので。
東京は仕事が多くて、なかでもダンサーとしての仕事はかなり潤っている印象を受けます。たくさんオーディションがあって、次々に舞台の機会もあって。一方で振付家としての仕事は潤沢にあるわけではなく、経済的にも厳しいのが現実なので、作品をつくっていきたい人でもお金を稼ぐためにダンサーとしての活動を続けるのはやむをえないことかもしれません。でもそれによって、作品をつくる時間が必然的に減っているのではないでしょうか。オーディションも受けてワークショップに出て……とタスクをたくさんこなす活動の仕方は、余程頭を使わないと、作家としての時間を積み重ねてレベルアップすることが難しい。僕自身は、作家として頑張りたい気持ちがすごく強いです。だからこそ、振付家とダンサーの仕事は両立できないように感じているのかもしれません。
今の日本が、振付家としてのキャリアを形成しにくい環境であることは確かです。ステップアップが手厚く保証されている大きなコンペティション、たとえば翌年大きな劇場で単独公演できて制作費や稽古場のサポートをしてもらえる、あるいは海外招聘してもらえるなどの副賞がある大会があると、目指す先が明確で頑張ろうと思う熱量にはなります。その意味で、かつての「トヨタ コレオグラフィーアワード」のように、大きな企業がコンテンポラリーダンスの事業を新設したら、今すごく盛り上がるかもしれません。ただその一方で、コンペティション後のキャリアを積み重ねる環境が全体的に整っていないようにも思います。受賞をきっかけにバーンといける場合もありますが、なかなかそれも難しいのかなと。
だから、たとえ更地だろうが砂漠だろうが、困難な環境にもめげずにコンテンポラリーダンスを楽しみながら続けていける芯の強さがなければ、日本では活動を長く続けられないと正直感じています。
2018年に「Dance New Air」で若手ショーケースのキュレーションをさせていただいたとき、10年後の未来を担う作家というコンセプトを掲げました。3年経った今振り返ってみて思うのは、やはり作家として意志の強い人が生き残っていくのだなということです。作品の良さや面白さばかりを追い求めてしまうと、一時の活躍で終わりかねない。何かが折れてしまったとき、なかなか立ち上がれないと思います。もちろん面白いことをしている人は魅力的で素晴らしいのですが、それだけでは難しい世界。仮に経済的にマイナスであったり作品への評価が低かったりしても、やりたいことを曲げずに貫徹して生きていこうとする人たちがこの企画にコミットしてくれたと改めて思いました。


『F/BRIDGE』 
撮影:塚田洋一

「舞台作家である僕」と「子供と関わる僕」という両面性を大事に

最初にも少し触れましたが、活動の際は「舞台作家である僕」と「ダンスで子供と関わる僕」という両面性を大事にしています。舞台作品は「ミニマルハードコア」と言われるくらいで、目指す質感も空気感も硬派なのですが、小学校でのアウトリーチや子供向けワークショップのときはハードコアのハの字もなく、子供のように無邪気にテンション高くやっています。マイマー・大道芸人の室田敬介とのユニット〈ムロタムラ〉としての活動は後者に当たるのですが、関東に来てからは、コロナの影響もあってコミュニティの土台がまだできておらず、本格的な活動に至っていません。舞台活動の方が安定してきたら子供に関わる仕事もたくさんやろうと思います。
わかりやすいお笑いダンスをやるムロタムラのパフォーマンスなら「楽しいから観に来て!」と気軽に言えるのに、なぜか舞台公演となると一歩引いてしまい、ダンスにあまり触れたことがない仕事仲間に声をかけるのを躊躇する自分がいて、我ながらやりたいことと行動が矛盾しているなと感じていました。ただ最近は、だいぶ自信を持って誘えるようになりました。両面性があったとしても、結局僕はひとりの表現者なので。

コンテンポラリーダンスの作品は時代や社会を吸収しながらつくられていくと思うので、観る側にもその人なりの見方がないと楽しみづらい面があると思います。だから僕は、まず一般向けのワークショップを定期的に行うことで、入口となる舞踊芸術への関心をつくり出すことから始めようかと考えています。めちゃめちゃスモールステップですが、それによってアートって面白いね、と思ってくれる人口が増えたら、コンテンポラリーダンスの環境も変わっていくのではないかと思います。
振付作家としては、世界各地でツアーできるようなアーティストになりたいです。同時代のダンスを扱う振付家だからこそ、ひとつのスタイルや評価に捉われすぎず、メソッドもやり方も考えもどんどん更新して、変化を恐れずに挑戦し続けたいです。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の予定

田村興一郎(振付作家・ダンスアーティスト・DANCE PJ REVO主宰)
横浜を拠点に活動中。観るものと対峙するような身体強度のあるダンスは「ミニマルハードコア」と呼ばれ、評価を得ている。セゾン文化財団セゾンフェローⅠ。横浜ダンスコレクションにて最優秀新人賞、若手振付家のための在日フランス大使館賞、シビウ国際演劇祭賞を受賞。ダンスを通じた子供育成事業や「ワンコインワークショップ」「誰でも振付家になれる身体美術館」などの事業開発も行っている。
https://danceprojectrevo.wixsite.com/dance-project-revo

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