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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2019/03/29

「やっぱり、ことばだね」―プログラムオフィサー1年目日記(5)

ずいぶんと、ことばの使いかたが変わった一年だった気がします。

考えやものごとの本質は「説明する」ものではなく「ひらく」ものになりました。
あるプロジェクトの個性やそれらしさは、「におい」がしたり、「にじんだ」りするものに。
資料や議論をよくするためには「回転」が必要だと知りました。
ものごとはときに「了解」とも「解決」とも少し違う「引き取る」というかたちで収まりがつくこともあり、「事故」は「トラブル」以上に何かがクラッシュするような肌感覚を覚えるものでした。
気になる活動やテーマは「さわって」おくことが重要で、情報の「解像度」を上げたり下げたりしながらプロジェクトに向き合うことも必要でした。

このある種の東京アートポイント計画的な“方言”を並べてみると、なぜか五感に関することばや動詞など、身体に基づいているものがとても多いことに気づきます。

動詞は、一瞬だとしてもそこに時間をはらむように思います。「歩く」ということばを発している間は「歩いている」光景がついて回るのです。
だから、東京アートポイント計画らしいことばを聞くたび、この10年間でどれだけその光景が共有されたのだろう-例えば「ひらく」だったら、何人もの頭の中で、何回も、何かがひらいたのだろうな-と、想像してしまいます。

▲「東京アートポイント計画 ことばと本の展覧会」開催風景

2019年3月2日(土)から18日(月)にかけ、「東京アートポイント計画 ことばと本の展覧会」が開催されました。Tokyo Art Research Lab「Open room」の一環として行われた企画で、東京アートポイント計画、およびそれと連動する形で実施されているTokyo Art Research LabArt Support Tohoku-Tokyoがこの10年間のなかで発行してきた成果物(冊子やDVDなど)、約200点が一挙に展示。壁面にはこれまでの東京アートポイント計画および前述の二つの事業で実施してきた活動の記録写真と、その成果物に掲載されている一文やフレーズが一部抜粋され、「ことば」の展示を行いました。

この展示風景を見て、誰かがふとこんなことを言っていました。「東京アートポイント計画は、やっぱり、ことばだね」。

どうして「やっぱり」、なんだろう。写真や映像、実施データ等はもちろん大切な記録だけれど、東京アートポイント計画を、アートプロジェクトを振り返るには、「やっぱり、ことば」だと。それは、ことばは、何かを情報伝達しようとするツール以上に、ことばそのものが「記録媒体」だからなのではないかなと思います。そのことばが生まれるためには様々な営みや体験の共有、実験、それから意識のすり合わせなどが起きているはずです。ことばはそういった光景や時間を運んでいる気がします。そして語られたことばからは、逆に語られなかったものが見え隠れします。その見えないものも想起させるからこそ、なかなか活動の総体が把握しづらい(それゆえ記録や評価が難しい)、ささやかなアートプロジェクトでは「ことば」が大事になってくるのではないかと感じました。

▲「小鳥に近づくときのように、そっと、さりげなく、そばに寄ること。(『ぐるぐるヤ→ミ→プロジェクト 2010-2013』p.8)」『小鳥』にも、『そっと』にも、『さりげなく』のなかにも、アートプロジェクトの現場で起きた様々な試行錯誤や物語が含まれていて、こうとしか言えない表現になっているんだろう。

約一年前、東京アートポイント計画のプログラムオフィサーとしてのスタートを切ってから、ことばの独特な使われかたに静かな衝撃を受け、その出会いを記録するような気持ちではじまったこのブログ。

執筆する度、一つ一つのことばはプログラムオフィサーとしての自分にとって何ができているか・できていないかの指標になっているということも感じました。自分が身体的に理解している「ことば」ではないと、使いにくく、なんとなく着なれない服を合わせているような気持ちになるし、ときにはそのことばを意識していれば防げたであろうミスコミュニケーションもありました。

2019年1月26日(土)に開催された「Artpoint Meeting #07 プロジェクトを拡げる『メディア』のつかいかた」で、コミュニケーションプランナーの中田一会さんは、「『活動=やっていること』と『情報発信=言っていること』のバランスに気を配ることが重要」とお話されていました(開催レポート参照)。「やっていること」に対して「言っていること」が少なすぎてももったいない。「言っていること」のほうが「やっていること」よりも大きくなってしまうとプロジェクトが歪なものになる。ことばが使えるか使えないか、というのはその感覚とも、少し重なるかもしれません。また、今回の「東京アートポイント計画 ことばと本の展覧会」に集結した言葉たちは、その絶妙なバランスのなかで生まれてきたものなのではないかと思います。

これまで出会ったことばのうち、「使えている」と言えるものはそうそう多くないかもしれません。まだまだ使えないことばや、使ってしまっているけれどももっと身体にしみこませる必要があることばもあります。付け焼刃的にではなく、ゆっくり身につけていかなくてはと思う一方、分かりやすいものや判断しやすいものからの強い波を受け、アートプロジェクトの豊かさや貴重さをますます感じる今日この頃でもあります。気を引き締めて、次の一年を迎えたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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