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アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2022/11/10

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2022レポート:前半の講座を振り返り、未来へ踏み出す礎とする第5回:思考の整理・課題の抽出・設定

7月から開講したキャパシティビルディング講座ももう折り返し地点。今日は、これまでの講座でたくさんインプットした論点や、膨れ上がってきた各人の考えや思いを振り返りながら、受講生同士でディスカッションします。お互いの気づきを共有することで、思考を整理し、今ある課題の抽出と解決の糸口をあらためて探ることが目的です。
これまでは教室のような対面方式の座席でしたが、今回はファシリテーターの小川智紀さんと若林朋子さんの2人とともに、全員が車座になって互いの顔を見合います。

お互いの表情が見えるので、距離がぐっと縮まり空間密度があがります

これまでの講座の振り返り

まずは、第1~4回の講座を振り返ります。第1回の講師は山元圭太さんの『ヴィジョン・ミッション:組織使命の再確認』 。自身の活動を分類するとエコノミック(経済)、ソーシャル(社会)、ライフ(生業)のいずれに当てはまる割合はどれくらいか、それぞれにどのような目的や戦略があるのかを考えました。その講座を受けた受講生の感想からピックアップしたものをヒントに、ディスカッションをします。

受講生の感想を可視化して、過去の講座を振り返ります

若林さんが、スライド左下のコメントについて「講座内で出てきた『てへぺろ力』『したたかさ』に注目したのはなぜ?」と問いかけると、「真面目に考えすぎていたけれど、もっと曖昧でもいいんだなと思いました」とほっとした様子の受講生。山元さんが講座内で挙げた『てへぺろ力』『したたかさ』は、活動内容を説明する相手によってエコノミック・ソーシャル・ライフの3つのモードを切り替えて話すことをおすすめしたものですが、この言葉は他の受講生の心にも残ったようで、同意する声も聞かれました。
それぞれがこの講座で発見したことを「同じように感じた」「私はこう思った」とシェアし、ここで初めて受講者同士の考えが浮き彫りになってきます。

第2回の講師も同じく山元さんで『ファンドレイジング:活動に必要な資金調達力』 と題して寄付市場の可能性についても学びました。受講生たちが会費や寄付をもらうことの難しさに頷くなか、小川さんが「芸術には作る側と受け取る側の2種類以外に、寄付者など様々な関わり方があります。でもそのための窓口や人材を維持するのが大変なんですよね」と現在抱えているご自身の悩みもシェアすると、若林さんが「自動引き落としのマンスリー会員制度は作業が軽減されたり。アート以外でうまくいってる資金調達方法を参考にするのも良いかもしれません」と応答。また、過去の調査結果を例に出し「芸術分野のなかでは音楽が一番資金調達できていました。受け身でなく足を運んで手紙を出して、実際に寄付や協賛を依頼していたからです。求める所にお金は集まるんですね」とヒントになりそうなことを挙げます。

今回講座では、より互いの関心や問題意識など、受講生同士の人となりも見えてきます

第3回の『価値を引き出す評価軸:ロジックモデルの活用で改善』 では、源由理子さんより、『ロジックモデル』という道具を用いて、自身の活動の「価値」を引き出す思考法を学びました。ロジックモデルとは自分のプログラム(芸術文化創造活動)を戦略的にとらえるために使われるものであるため、受講生からは「箸の使い方がわかった日。でも使ってみないとほんとに使えるかわからない。使ってみて初めて「僕は不器用だな」とかわかるのかなと思った日」との気づきと、その先へのイメージが広がったよう。他には「対話の重要性を実感した」などの声もありました。
また、ロジックモデルを作るには物事を整理していかないといけないため、混乱している受講生も。若林さんは「自分の心地よいやり方と比較するのもいいかも」とアドバイス。「箸と同じで、ロジックモデルを作った後に、実際にそれを評価活動に使えるかを試す必要がある。ロジックモデル=評価ではないので」と実践を促します。

小川さんと若林さんの補足により、多様な活動を展開する受講生同士に共通する課題や問いがあることも浮き彫りになります

第4回は、本講座初講師となる坂倉杏介さんによる『芸術文化の領域横断:「越境」による創造的な連携・協働』 でした。地域における連携を例に、創発的な連携・協働が生まれる場やコミュニティはどのように作りうるのかを想像してみます。
講座ではキーワードのひとつに『わくわく』という言葉が出ており、受講生には「わくわく、楽しい、という気持ちが自分には圧倒的に足りなかった。相手のメリットや利益ばかり考え、カチッとした枠組みを作ろうとしすぎていた」「疲弊の原因のひとつはコミュニケーションコストだったのだと腑に落ちた」と発見があった人もいました。
また「自分の活動に重ね合わせられず、受講後にもやもやした」という声も。ファシリテーターの2人も「地域の連携と、芸術文化の連携はそもそも質が違う」と同意し、だからこそ「芸術文化が地域と出会う場合には、地域側の論理や連携の在り方といった相手の土俵に入っていかないといけないんじゃないかな」と可能性を示します。重ねて別の受講生から、最近、東北のNPOに呼ばれて創作したエピソードが挙げられました。「地域の人は芸術に慣れているわけではないので、折り合いをつけないといけませんでした。これは協働だったのかな」という問いかけから、「芸術文化と地域創生とはなんだろう?」と受講生同士で様々な意見が交わされ、視野が広がるとともにお互いの背景を知る良い場にもなりました。

受講生同士でディスカッションしたいテーマについて

後半は、思考の整理・課題の抽出を目的に、受講生それぞれが気になっていることや他の人の意見を聞いてみたいお題を事前に提出し、それに基づいて議論していきます。16名の受講生はそれぞれ音楽、映像、演劇、伝統芸能、デザイン、書道、出版、社会包摂など関わる分野も様々で、その形態もNPO、営利企業、フリーランスなど多彩な経験があり、アーティスト活動から企画制作、バックオフィスまで職能も異なります。そのようなメンバーで分野や形態を越えて意見交換をすることで、意外な発見があるかもしれません。そんな期待を胸にディスカッションを重ねていきます。

キャッチーにまとめた8つのパネルをめくると、それぞれ質問があらわれます

まず、左下の『税金とアート』のパネルをめくると、受講生からの「もし“●●(演劇等文化事業)なんかに税金を使うな”と言われたら何と答えますか?」という問いが登場しました。それについて、公立の財団法人で文化事業の仕事をしている受講生からは「そういうお電話をいただくこともあります。必要な人がいることをわかっていただきたい」という実感や、芸術祭の運営に関わるNPOで働いている受講生からは「税金以外の収益方法を探そうとあがいています。飲食の事業をしたり、NPOで収益事業をしてもいいんじゃないかな」や「行政側や市民との対話がもっと必要なのでは」などそれぞれの実体験から意見が出ます。他にも「どう答えられる可能性があるのか」「そもそも答えないという選択もあるのか」など、様々な可能性が飛びかいました。

右下の『事業の受け渡し』のパネルは、「事業継承する人をどうやって見つけたらいいのか?」という切実な悩みが議題となります。議題を出した受講生が「事業を続けていると、やめたいのにやめられない、続けたいのに続けられない、ということもありうると思います。皆さんの話を聞いてみたい」と問いかけると、それぞれが自分の団体のことを話してくれます。「私の組織はトップの存在が大きいので個人に継承せず、組織の一事業にすればいいのではと思っている」という意見や、「伝統芸能の場合は運営や世襲の他に、クオリティをどう継承していくのかを重要視しています」といった例も。いずれの活動もやるべき事業で手いっぱいのようではありますが、若林さんは非営利セクターの事業承継に関する研究事例を挙げ「成功のコツは早目の準備と計画的な継承」という結論を紹介し、受講生は各自の取組みに重ね合わせていました。

他の議題として、「アーティストと(中小規模の)公共ホールの協同──いっしょにつくる──とはどういうことだろう?」「芸術文化業界の経理・会計はブルーオーシャンだが人材が集まらない」「売上をあげることを求められるなかで文化を担うことは可能なのか」「運営者と表現者を兼ねている場合、どう折り合いをつけているか?」「アートシーンにみる広報活動の問題点は」など、様々な視点からの問いがあげられました。なかには「今、情報発信のポータルサイト作成に取り組んでいるんですが、自走させていくにはどうしたらいいと思いますか?」など具体的な意見を求めるものも。
ひとつの問いに10分ずつほどかけ、受講生それぞれの具体的なケースについて意見を聞きます。さらに他の受講生が具体的な経験談を話すことで、「それは参考にできそうです。勇気を持てました」「私の組織とはここが違うんですね」「違う分野ですが、気持ちも課題もすごくわかります!」など比較することでの刺激も。お互いの発言を熱心にメモし、多様な考えが混ざっていくようでした。

活発に出た意見を、それぞれが自分の参考にしていきます

最後に、小川さんと若林さんからは、『課題解決/価値創造戦略レポートの最終発表会』とそれにあたっての面談の案内がありました。これから第6・7回の講座を経て、受講生たちは学んだことを自分の活動に落とし込んでいきます。
今日は、同じ第1~4回の講座を受講した人同士、インプットしたことを踏まえながら、自分の活動について客観的な意見を聞くことができる復習の場でした。ヒントを得た受講生もいれば、混乱したり、新たな課題が見えてきた受講生もいるようです。この中間振り返りは、最後の戦略レポートに向けてしっかりとジャンプするための重要なステップとなるでしょう。

次回の第6回は、『人間にとって「文化」「芸術」とは?~「文化権」から捉え直す~』と題し、講師の中村美帆さんに『文化権』についてお伺いします。誰ひとり取り残さない芸術文化とは、芸術文化の価値を説明する文化政策の理論的背景とは。キャパシティビルディング講座開講以来初の視点で、思考を広げ、深めていきます。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
小川智紀(おがわ とものり)
認定NPO法人STスポット横浜 理事長
1999年より芸術普及活動の企画制作に携わる。2004年、STスポット横浜の地域連携事業立ち上げに参画。2014年より現職。現在、アートの現場と学校現場をつなぐ横浜市芸術文化教育プラットフォーム事務局、民間の芸術文化活動を支援するヨコハマアートサイト事務局を行政などと協働で担当し、福祉事業のネットワーク化を模索している。NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク理事、NPO法人アートNPOリンク理事・事務局長、愛知大学文学部非常勤講師。

若林朋子(わかばやし ともこ)
プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 特任教授
デザイン会社勤務を経て、英国で文化政策とアートマネジメントを学ぶ。1999~2013年(公社)企業メセナ協議会勤務。プログラム・オフィサーとして企業が行う文化活動の推進と芸術支援の環境整備に従事(ネットTAMの企画・運営等)。2013年よりフリー。事業コーディネート、執筆、編集、調査研究、評価、自治体の文化政策やNPOの運営支援等に取り組む。NPO法人理事・監事(8団体)、アートによる復興支援ARTS for HOPE運営委員、助成審査委員、自治体の文化振興計画等策定委員など。2016年より立教大学大学院特任教員。社会デザインの領域で文化、アートの可能性を探る。

執筆:河野桃子
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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