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コラム & インタビュー

アーツカウンシル東京のカウンシルボード委員や有識者などによる様々な切り口から芸術文化について考察したコラムや、インタビューを紹介します。

2021/03/24

コロナ禍で舞台をつくること

特定非営利活動法人アルファルファ 代表理事、アートマネージャー
山口佳子

~シリーズ「with コロナ」の時代における芸術文化と表現~
新型コロナウイルス感染症の流行は、芸術文化の現場に大きな危機、変化をもたらしています。
本シリーズでは、各分野で活動されている方や識者に、現状や課題、今後の可能性などについて、様々な視点から、寄稿いただきます。



石渕 聡 振付 『Birthday』
出演:井田 亜彩実、栗 朱音、皆川 まゆむ
撮影:大洞 博靖

2021年1月9日、10日、江東区の豊洲文化センター シビックホールにて、ダンサーの動きのサンプリングによってコンテンポラリーダンスを創作する試み「アドバンスト・コレオグラフィ vol.2」(以下アドコレ)を開催した。舞踊評論家でもある東洋大学の海野敏教授が構想し、龍谷大学の曽我麻佐子准教授の元で開発された3次元振付シミュレーションソフトを用い、平山素子、Tarinof dance companyの坂田守、コンドルズの石渕聡という3人の振付家たちが、コンピュータが作る動きをもとにしてダンス作品を創作。ダンサーによるパフォーマンスと、開発者を交えての振付シミュレーションソフトについてのプレゼンテーションを行った。vol.1は2018年にスパイラルホールで開催し、ダンスパフォーマンスを観客に見てもらうだけではなく振付家が創作に使用したタブレットを会場で実際に触って体験してもらった。コンピュータに登録されている振付の動作は実際のプロのダンサーによるもので、バレエやコンテンポラリー、ヒップホップの様々な動きがおさめられている。タブレットの使用者がそれらの中から好きな動きを選択し組み合わせると、画面に表示されたアバターがその振付の動きをしてくれるので、誰でも振付家のクリエイションを追体験できる。今回のvol.2では残念ながらそういった体験型の要素はそぎ落とされ、できるだけシンプルな要素で公演を行うこととなったが、こういった「タブレットを用いて振付作品を創作する」という企画の特性が、今回のコロナ禍でのダンス公演の開催に一つの可能性を示すものとなった。ここではコロナ禍で行われた舞台公演のドキュメントとして、公演までの記録を書き記していきたい。

一度目の緊急事態宣言発令

2020年2月26日、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、Perfumeの公演が開演数時間前に突然中止のアナウンスが流れる。そこから次々とコンサートや舞台公演が中止や公演延期になっていったのが今でも印象に残っている。私たちアルファルファは主催事業はかかえていなかったものの、現場に入る予定だった2月、3月の海外のダンスカンパニーの招聘公演は来日中止、マネジメントをしている平山素子が所属する筑波大学のダンス部公演も結果中止となった。当初は、少し時期をずらせば開催できるようになるのではないかと様々な現場がスケジュールを調整し公演を行おうと奔走していたが、事態は一向に改善しない。ついに4月7日の政府の緊急事態宣言を受けて、都内の公共劇場など多くの劇場がしばらくの間閉館という状況になった。アドコレの会場となる豊洲文化センター シビックホールもスタッフは多くが在宅勤務に切り替わった状態で連絡をとり続けていた。

この時、公演まで9か月ほど。普段の公演準備であれば、広報も始まり、クリエイションも少しずつ進んでいる時期なのだが、今回にいたっては開催日程は決まっているものの、開演時間も決めかねた状態で、公演の開催も含め不透明なまま。世間の空気としても劇場に人が足を運ぶような雰囲気ではなく、公演の告知をしても情報が届かない上に、この時点で公演ができると判断しても1月に果たして本当にできるのかという不安が強かった。ただ、この企画はいわゆる普通のダンス公演とは異なり、主催者である海野先生と曽我先生が文部科学省科学研究費の助成を受けている共同研究がベースとなっている実験的な側面が強かったこともあり、状況に合わせた最善の着地点はどこか、探りながらオペレーションができる余地があったのは幸いであった。そんなわけで、公演の大枠のみを決めた状態で、シビアに状況を決定しないといけないぎりぎりの時点まで、この状況下で公演を行うべきなのか、どのような時間設定で公演を行うのが良いのか、客席はどのような数で設定すべきか、リハーサルはどうするのか、運営のリスクをいかに抑えられるかなど、考えられうる問題をできるだけシミュレーションしながら準備を進めていった。

withコロナで起こった様々な変化の中で

準備を進めていくうえで判断が難しかったことの一つに、PCR検査のことがある。今では民間の検査料も随分安くなったが、パンデミックが始まった当初は検査費用もかなり高額で、関係者全員の費用を何度も負担するためにはそれなりの予算が必要だった。色々な資料や情報にあたりながら、定期的に検査を受けられない状態で、無症状でPCR検査を受けるメリット/デメリットを考えていた。結局考えても考えても正解がわかるわけはなく、つてをたどって東京医科大学の先生に感染症対策アドヴァイザーとして関わっていただき、出演者やスタッフ、観客の安全の確保と不安の解消につとめていった。顔の見える専門家の存在は、現場を進めていく上で大きな安心材料でもあった。そしてキャストやスタッフとも話をしながら、最終的には「PCR検査は受けないけれども、できるだけ感染リスクを下げるための努力を行う」方向に舵をきったのだが、それを後押ししたのは、基本的に舞台上で話したり歌ったりということの少ないダンスというジャンルの特性と、今回の企画の軸になったタブレットの存在だった。

アドコレの大きな特徴として、コンピュータシステムによるダンスの振付ソフトを使って作品を創作するということがある。詳細についてはウェブサイトを参照いただきたいが、振付家がタブレットを操作し動きを決めていくと、画面の中にいるアバターがそれを踊ってくれるのだ。その振付をダンサーが起こして舞台で上演していくという、テクノロジーとアナログな人間の思考がミックスされているところに面白さがある。リハーサルでは各振付家が様々な動きを作りアバターの動きの動画をシェアすることで、ダンサーが常時集まらなくてもリハーサルをスタートさせることができた。コロナ禍で一気に普及したZoomでの個別稽古、合同稽古も組み込みながら、対面でのリハーサルはなるべく減らして本番まで走っていくことができ、場所の離れたところにいてもスケジュールの調整が可能になるなど、大変なことも多いものの新たな可能性も見出すことができた。全身全霊の渾身の一本とはまた違う実験的な公演だからこそできた判断も多く、アーティスト個人の本公演とはまた違ったこのような公演に関わる機会が最近は減っているのだが、色んなタイプのアーティストが集い、現場とアカデミズムをつなぎ、キャストとスタッフが交差する場をもつことの大切さを実感した。そしてその集合知の中にこそ、コロナ禍を生き延びていくためのヒントがあるように思う。

緊急事態宣言再び。そしてオンラインでのつながりを通して大学生たちと考えたこと

2021年1月7日、アドコレ劇場入り前日。再び緊急事態宣言の発令が決定。今回、非常勤で教えている法政大学キャリアデザイン学部の学生が実習で入る予定だったのだが、学生自身の安全の確保と現場のスタッフの数をできるだけ抑えるという理由で、公演は開催されたものの実習はなくなり、オンラインでの講義のみを行った。大学で、実習科目以外に担当していたアートマネジメントやNPOに関する講義は、1年間オンラインでの講義。前期は学校も講師も学生も訳が分からない状況で、とにかく学びを止めない、という姿勢のみで走り続けたが、後期になるとオンライン講義のノウハウも少しずつ蓄積され、学内の特別チームを通しての様々な教員たちとの情報の共有などで、それぞれの講義のスタイルというのもできあがってきたように感じる。私の講義は基本的にテーマごとにパワーポイントを用いた説明動画を作成し、学生たちが好きな時間にそれを視聴し、課題やテーマごとに調べたり考えたりすることを重視していた。時々、オンライン配信している美術館や劇場のコンテンツをフィールドワークと称して体験してもらったことは、現場で直接体験できないながらもオンライン講義で疲弊した学生たちにとってはちょっとした息抜きにもなった様子だった。と同時に、アートを通して今の世界を見てみることで、この状況を乗り越えるヒントと力を感じたという学生からのメッセージも多く、コロナ後の世界でもぜひアートや舞台芸術に関心を持ち続けてもらいたいと思っている。

アートマネジメントにしてもNPOの運営にしても「今何が起こっているのか」ということに対してのアクションから生まれてくるものだと私自身は考えている。学生時代、報道やジャーナリズムに興味をもったこともあるものの現実はあまりに生々しく、教育業界を経て、今は元々学んでいたアートの現場に携わっている。最近はアートマネジメントに関わるようになった20年程前よりも増して、アートは社会や政治とつながっているものだと実感することが増えた。そのため、アートマネージャーは時代を感じ取り、表現の形は様々でも、アーティストと表現を通して社会に発信し、提示していくことが求められるものだと思っている。今、私が主に関わっているダンスのマネジメントに関わる人材不足問題は実はそのあたりも関係するのかもしれないが、それについては今後も考えていかないといけないところだろう。

ポストコロナの世界へダンスをつないでいくために

今、コロナ禍で、様々なアートやエンターテイメントが不要不急という言葉に振り回され、表現の場をどのように持つべきかを試行錯誤している。現状、今までのように劇場での上演をすることはとても困難を伴い、緊急事態宣言下ではなかなか思い切ったクリエイションが行えないところもある。それと同時に、アーティスト以上に仕事の場としての現場を奪われてしまっている裏を支えるスタッフたちも多数存在している。今回の公演は最悪の状況も想定して、客席も1席ずつ隣を空けての50%の販売、昼公演のマチネのみの設定をしていたため、行政からの要請である20時退館という条件下でもなんとか上演することができたが、俗に言う積極的な経済活動として公演を行う場合はこれでは立ちいかなかっただろう。リハーサルも通し稽古も可能な限り分散して本番まで走らせていたため、劇場入りしてようやくスタッフもキャストも顔を合わせることができ、公演の全貌を知ることとなった。こういう状態で公演当日を迎えるとは想像もしなかったし、これができたのはアーティストたちの力量と何度も公演を共に作ってきたスタッフチームとの信頼関係、そして劇場サイドの協力あってこそだったと思う。無事に幕が開き、幕が下りるという劇場で起こる日常に喜びを感じ、会場で久しぶりに迎える観客の姿に励まされ、画面越しでは感じられなかった心が動く瞬間を空間と共に共有した。パンデミックによる劇場を中心とした舞台芸術への影響はまだしばらくの間続くと思うが、映像やVRによる表現の可能性など、これまで届かなかった層と出会える可能性も出てきている。こんな時期だからこそ、今まで忙しさを理由に棚上げにしてきた様々なことに向き合ったり学んだりしながら、これからの舞台芸術が、そしてダンスがどのように広がっていけるのかを、色々な人たちとつながり、知恵を出し合いながら考えていきたいと思う。

平山 素子 振付 『King Kazu・ma』
出演:カズマ・グレン
撮影:大洞 博靖

坂田 守 振付 『体癖2021』
出演:岩渕 貞太、坂田 守
撮影:大洞 博靖


撮影:大洞 博靖

 


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