スタートアップ助成は令和3年度に新設された助成制度です。2年目に入り、今回は令和4年度2回目の公募でしたが、申請件数が88件と第1回の203件から大きく減少しました。全体の傾向としては、学生等個人の申請の減少が目立ったこと、申請書に不備があるものの減少が見られました。本助成では、都内での事業を初めて企画・主催する新進の個人・団体によるトライアルの事業、過去数回の実績を経て企画内容やキャリアの拡充を図るステップアップの事業、さらに、個人として実力を認められている芸術家が団体を結成し、新たな企画やプロデュースに着手する事業など、積極的なチャレンジを行う事業が採択となっています。また、事業の目指すべき目的が明確であり、それを実際にどのように具体化するのかが示されており、実現にあたっての予算やスケジュールが適切に計画されているものが採択となっています。令和4年度第1回では令和3年度に不採択となった事業をブラッシュアップして再申請し、採択に至ったものが複数ありました。今回も同様に1度不採択となったものが再申請して採択に至ったものがあります。スタートアップ助成は年 4 回の公募がありますので、対象期間を確認の上、事業の具体性や実現性を明確にして再申請することも可能です。具体的に計画の練られた意欲的な申請に期待します。
《音楽分野》
音楽分野での採択件数は9件、採択率は37.5%という結果になりました。団体で採択となったのは、小編成オーケストラによる公演からアコースティックと電子音響とのミクスト音楽に焦点をあてた事業、シンフォニックジャズ、ヒップホップシーンからの発信、ピアノと朗読による音楽劇、古典の再解釈によるオリジナルオペラの上演等となっており、その内容は多様です。個人申請ではドラマーやコントラバス奏者による企画が採択に至っており、いずれも申請者自身のキャリアの飛躍を予感させる、音楽的挑戦性の高い事業内容となっています。団体・個人に関わらず、申請書類作成時に重要なのは、余すことなく事業の特徴や魅力を伝えることです。文章の記述においては、抽象的で曖昧な表現を避け、具体的且つリアリティの感じられる言葉を用いながら、事業企画にいたった経緯、事業を実施する目的や意義、プログラミング等の必然性を説明してください。
《演劇分野》
26件中9件の採択となり、採択率は34.6%と過去最高となりました。20代から30代の申請が6割を占めたほか、俳優が申請者となった事業が全体の 5 割を占めたのも特徴です。演劇分野で経験を積んだ申請者が経験を活かし、新たに作・演出に取り組むなど、キャリアの拡充やステップアップを目指す企画や、内容が具体的かつ目的・取組が明確で、丁寧に言語化されている事業が採択に至りました。出演者や事業内容に未定要素が多く、具体性に欠ける事業は採択に至りませんでした。主催者と申請者が異なっている事業や予算書の誤り、団体の実績が認められないものなど、書類不備の申請が数件ありました。提出前に再度、公募ガイドラインと申請書類の確認をお願いします。申請要件を満たしていれば、以前不採択となった申請者でも再申請が可能です。内容をよく検討し、具体的に計画を練ったチャレンジングな事業の再挑戦に期待いたします。
《舞踊分野》
前回よりも申請数が大幅に減少しましたが、具体性と実現性が高く実施の意義も明確に言及された申請が複数あり、7件中4件が採択となりました。ジャンルとしてはコンテンポラリーダンスが最も多く、他にストリートダンスとフラメンコの企画がありました。これまで舞踊分野において申請の多かった、ジャンル横断的な企画や、他分野とのコラボレーションといった内容の申請は少なく、純粋に「踊ること」を目的とする企画が多かったことが特徴として挙げられます。また、要件をまったく満たさない申請や書類不備の多い申請は今回は見られず、水準の高い申請の割合が高くなっています。採択された申請に共通することは、申請者・申請団体の目的・課題・挑戦したいことと、それを実現するための事業計画がきちんと示されており、その申請者・申請団体にとって実施する必然性が認められることです。
《美術・映像分野》
これまでで最も少ない申請数となりましたが、これまで同様に20代から30代の申請が3分の2を占めました。美術分野では一定の修練や過去の美術史等への批判的な再解釈を行う取り組みが採択されました。映像分野では、過去大多数を占めていた俳優発信の申請が減り、美術作家、アニメーション作家、映画監督、脚本家、衣装デザイナーなど多岐にわたる事業者より申請がありました。採択された事業では、美術分野では、十分な過去の実績を持ちつつチャレンジ性が明確な企画や、今やりたいことだけではなく先行世代の芸術的達成を考察するなど先人の業績や歴史を学び、批判的にとらえ、革新・更新する意思と能力(ポテンシャル)を示した申請者による事業が採択されました。映像分野では、作品制作のみならず公開イベント内容についても具体的に計画され、事業者が目指している将来へのステップアップへとつながることが見込める事業が採択される結果となりました。採択率は16.7%と過去最高の採択率となっています。
《伝統芸能分野》
今回は3件中2件の団体が採択となりました。このうち1件は、当助成の伝統芸能分野で初めての学生団体です。技術の習得に年月を要する伝統芸能では、学生が主体となって主催公演を企画すること自体が難しい状況です。次世代を担う若手には、目まぐるしく変化する時代の流れに飲み込まれることなく自分を舵取りする力を養うことも、これからさき求められていくことです。企画の内容がオーソドックスな形になったとしても、自分自身にとっての挑戦となる場合もありますので、臆することなく積極的に申請してください。
《複合分野》
今回、複合分野での申請は4件と少なく、採択に至った団体はありませんでした。どの団体も分野の枠に捉われず、分野横断型や新たな表現方法を作り出そうとしている独自性のあるものでしたが、公募要件を満たさない申請もみられました。申請の際は公募ガイドラインの確認をお願いします。